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Netflixが変えるモバイル向け動画配信の世界
“ギガ”の消費を気にせずに楽しめる時代がすぐそこに
2018年9月25日 21:44
加速する動画配信のモバイルシフト
ソフトバンクと組んで2015年9月に日本市場に参入した同社だが、2018年8月よりKDDIと組んでバンドルプランの「au フラットプラン 25 Netflix パック」をスタート。この間、米国においては“アンキャリア”を掲げる携帯電話事業者T-Mobileとともにバンドルプランを提供し、ユーザーとの接点を拡大している。
2007年1月9日のiPhoneの発表から1週間後の1月15日にパソコン向けのサービスとして営業を開始したNetflixだが、Product InnovationのDirector、Cameron Johnson氏は「当時は携帯電話で動画ストリーミングを楽しむような世の中になるとは想像できなかった」と振り返る。
インターネットを利用する主要なデバイスが、パソコンから携帯電話・スマートフォンといったモバイル機器にシフトしていく中、同社のユーザーの利用環境も急速にモバイルシフトしてきた。
Device Partner Engagement担当Vice PresidentのScott Mirer氏によれば、今や最初にサインアップ(加入)する機器を見ると、最も多いのがスマートフォンで、グローバルでは41%、日本においては54%に達している。
半年後に主に視聴している機器はテレビが64%で最も多くなり、日本でも44%とテレビが最も利用されているが、スマートフォンの利用率はグローバルの13%に対し、日本は28%と高い傾向が見られ、日本をはじめとするアジア諸国はモバイルシフトが進んでいるという。
こうした環境変化に対応する形で、同社ではスマートフォン向けの施策を強化している。
エンコードの最適化と最新コーデックの採用で効率アップ
モバイル環境での動画視聴で最も大きな壁となるのが、通信時に発生するデータ容量だ。ユーザーはそれに伴って発生する通信料金に怯えながら暮らしており、Netflixがモバイルシフトを加速させる上でも、こうした心配をいかに払拭するかが課題になった。
そこで同社では、映像のクオリティを維持しながら、可能な限りデータ容量を小さくする努力を行ってきた。同社では、アニメやドキュメンタリー、アクションムービーなど、コンテンツの内容によって圧縮方法を変える「Per-title encoding」を2015年に導入。さらに、2018年からは1コマごとに最適化を行う「Per-shot encoding」を導入。これにVP9という最新のコーデックを組み合わせることで、従来、750kbpsは必要と言われていた動画配信サービスを、270kbpsという環境下でもクオリティを維持しながら提供できる状態に持ってきた。
Video AlgorithmsのDirector、Anne Aaron氏は、こうした技術革新について、「つまり、4GBのプランでも毎月26時間Netflixを視聴できるということ」と言い換える。近い将来には、AV1コーデックの採用で、4GBで33時間の視聴を可能にすることも視野に入っているという。
同氏は、AV1を使って207kbpsで動画をストリーミング再生するデモも披露。日本では多くのMVNOが通信容量を使い切った後の制限速度や通信容量を消費しない低速モードを200kbpsに設定しているが、その状態でも動画のストリーミングが行えるということになる。
Content Delivery担当のVice President、Ken Florance氏によれば、Netflixではさらに、世界各国にAWSを活用したOpen Connectサーバーを配置し、ユーザーになるべく近い場所からデータを配信する工夫を行うことで、快適な視聴を可能にしている。
意外と知られていないダウンロード機能
同社が最近行ったもう一つの工夫は、ダウンロード機能の強化だ。
Netflixアプリのダウンロード機能は、通信料がかかるモバイル回線ではなく、Wi-Fi環境下で見たいコンテンツをダウンロードしておくことで、ストリーミング時に発生する通信料を不要とし、オフラインでも視聴できるというもの。
ユーザーにとってはうまく活用したい機能のはずだが、Consumer Insight担当のVice President、Adrien Lanusse氏によれば、ユーザーにアンケートを取ったところ、60%がダウンロード機能を「使ったことが無い」と回答し、そのうち48%が「機能の存在を知らない」と回答したという。一方で、ダウンロード機能を知らないと回答したユーザーの80%が「ぜひ使いたい」と回答しており、この機能の改善と認知向上がモバイルでの利便性向上に直結するという結論に至った。
そこで導入されたのが「Smart Downloads」という機能。従来はコンテンツを1つずつ手動でダウンロードしていく必要があったが、新機能では機能をONにし、あるエピソードをダウンロードすると、次のエピソードをWi-Fi環境にぶら下がっている時に自動的にダウンロードしてくれる。見終わったエピソードは自動的に削除されるため、端末のストレージを圧迫することもない。
Smart DownloadsはAndroid向けのアプリで利用できるようになったばかりで、今後数カ月でiOS向けのアプリでも利用できるようになる見込み。通勤途中にNetflixでシリーズもののドラマやアニメを視聴したいというユーザーには便利な機能だ。
レコメンドがNetflixの真骨頂
Netflixの特徴とも言える「レコメンド機能」も、しっかりとスマートフォン向けに最適化されている。
「膨大なコンテンツを普通に置いただけではカオスになる。それを整理して、ユーザーごとに興味がありそうなものを見つけ出してきてあげるのが我々の仕事」と語るのは、Product担当のVice President、Todd Yellin氏だ。
こうした信念の下、個々のユーザーの視聴履歴や同じ嗜好を持つ他のユーザーの視聴傾向を分析することで、サービスを使えば使うほど自分に合ったコンテンツをレコメンドできるように常に研究開発を行っているという。
同社のサービスでは、スマートフォンに限らず、同じコンテンツでも複数のサムネイル画像を持っており、アクセスするユーザーによって出し分ける工夫を行っているが、Yellin氏は、「スマートフォンの場合、大画面のテレビと異なり、小さな画面をいかに有効に活用するかが鍵になる」とした上で、サムネイル画像とトレイラー(予告動画)の重要性を強調する。
2018年にアプリに追加された新機能の「Coming Soon」もその工夫の一つ。今後2週間に配信されるコンテンツをトレイラーの形で紹介し、Remind Meボタンを押しておくことで、配信開始を通知してくれるとうものだ。Johnson氏によれば、この機能を実装してからは、トレイラーを見るために頻繁にアプリを起動するユーザーが増えているという。
同機能はiOS版のアプリで先行導入されており、年内にAndroid版のアプリにも実装される予定だ。前述のSmart DownloadsはAndroid、Coming SoonはiOSが先行する形で開発が進められたが、プラットフォームを分けて開発・テストすることで、短期間での導入を可能にする狙いがあるのだとか。
キャリアとのWin-Winを実現
こうしてモバイルシフトを進めるNetflixだが、日本市場をどう捉えているのだろうか。日本での事業展開を担うBusiness DevelopmentのDirector、Richard Yamamoto氏は、スタートしたばかりの「au フラットプラン 25 Netflix パック」について、「出だしとしてはいい結果が出ている」と語る。
一方で同氏は、同プランのローンチ発表の翌日に、ソフトバンクが“動画SNS放題”をうたう新料金プラン「ウルトラギガモンスター+」を発表したものの、Netflixがその対象になっていないことにも触れ、「お声がけはいただいている。やらない理由はなく、タイミング次第」と述べた。残るドコモとはまだ何もパートナーシップを結んでいないが、こちらについても「やっていきたい」としている。
実際のところ、本稿でご紹介したように、“データ容量食いの動画”という状況も技術革新により大きく改善している。一昔前なら、通信事業者が整備したネットワークにタダ乗りするOTTの代表格として敬遠されていた動画配信サービスだが、近年、どのキャリアがどの動画配信サービスと協業するかが話題に上るようになったのは大きな変化だろう。
この先、通信では5Gの導入が予定され、映像では4K/8Kの時代が到来する。そうした大きな流れの中でNetflixが技術力を背景にどんな仕掛けを用意していくのか、今後も注目していきたい。