インタビュー

Netflixのピーターズ氏に聞く、KDDIとの提携で目指すものとは

SD画質で450kbps、25GBで100時間視聴できる

 29日、NetflixとKDDIが提携すると発表、今夏にもauの料金プランとNetflixの映像配信サービスがセットで提供されることになった。Netflixプロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏は「米国外で、料金プランとバンドル(付属)するのは初めての取り組み」と語る。

ピーターズ氏

――日本市場をどう見ていますか。KDDIとのパートナーシップはどういう意味を持つのでしょうか。

ピーターズ氏
 日本では、どんなコンテンツのニーズがあるのか、学習し、それにあわせたものを投入するなど、成長を実感しているところです。

 今回の提携で素晴らしい点は、Netflix会員にとって、よりコンテンツへのアクセスがシンプルになるということです。auユーザーであれば、加入すれば100時間分のデータ通信量がセットということもあって、すぐに楽しめます。

 25GBでは足りないのでは、と思われるかもしれません。そのあたりは3つの点があります。1つは4K HDRのような高画質・高品質なフォーマットに向けた技術の向上。2つめが効率の良いエンコーディング技術。3つめがバンドルするデータ通信量です。たとえばエンコーディング技術には、コーデック技術を進化させることで、より少ないデータ数で動画を配信できます。アニメが特に顕著なのですが、150kbpsでも、本当にいい画質と感じていただけます。

 今回のプランを作り上げる際、どれくらいのデータ通信量が適切か、非常に考慮しました。典型的で平均的なユーザーが、どれくらいデータ通信の残量を心配せず観られるのか。平均的なモバイルでの動画視聴を450kbpsで計算して、25GBだと月100時間分、自由にご覧いただけるという数字なのです。今回のプランは、本当に残量を心配せず楽しんでいただけます。それでも日本のユーザーから「まだ不足する」という声が多いのであればプランに変更を加えていきたいです。

――SD画質のユーザーはどれくらいのビットレートで利用するのでしょうか。

ピーターズ氏
 国によって通信品質が異なりますので、それぞれ違います。ある程度のインフラが整っていれば数百kbps程度になります。

――では日本のような高品質なネットワークでは、450kbpsは平均的で満足できるものという考えですか?

ピーターズ氏
 はい、大多数の会員の方にはこれで十分と感じてもらえる数値だと感じています。

より簡単に

――auユーザーの入会プロセスは、通常の会員登録と違うのでしょうか。

ピーターズ氏
 もちろん通常の会員登録も加入しやすい形は追求しています。ただ、auユーザーであれば、より効率よく、スピーディに加入できます。通常求めるクレジットカードの登録も必要ありません。

――今回の提携はNetflix側からKDDIへ打診したそうですが、その理由は?

ピーターズ氏
 ある程度、議論を続けていたのです。全ての側面でアプローチを持ち続けていたと思いますが、サインアップしやすいこと、より簡単に我々のサービスを楽しんでいただけることを考えていた中で、KDDIさんとは自然な一歩として、何か特別なことができないか考えたのです。そこでバンドルというアイデアが出てきたわけです。

KDDIの高橋社長と握手するピーターズ氏

――ソフトバンクとの関係は、どう評価されていますか。

ピーターズ氏
 まず申し上げたいのは、ソフトバンクさんとの関係は今後も継続するということです。日本でのサービス開始時からご一緒していて、ソフトバンクさんを通じてNetflixを知っていただくなど、素晴らしいパートナーです。ただ、もっと新しいことにチャレンジしたいと考えている中で、料金とのバンドルは我々にとっても新規性のある取り組みです。ユーザーにとっても使いやすい環境として提供できるということで、新たなパートナーシップになったのです。

米国ではT-mobileと連携

――キャリアとの提携で、成功事例はどのようなものがありますか。

ピーターズ氏
 実は、米国外で、携帯電話会社とバンドルで提供するのは初めてのことです。素晴らしいモデルになるので、世界中で取り組んでいきたいですね。

――米国でのT-mobileとの提携を通じて、Netflixが学んだことは?

ピーターズ氏
 いろいろな提携を通じて学んでいるのですが、やはりユーザーにとって何が簡単なのか、ということを学んでいます。より簡単であれば加入してくださったり作品を観てくれたりします。それはT-mobileとの提携であらためて実感したことの1つです。

 もう1つ、我々がキャリアをサポートできる、そうすべきということも学びました。北米の大手キャリアとの競争戦略上、T-mobileさんは「アンキャリア」と自らを打ち出しました。我々がパートナーになることで、そのスタンスを表現していけるわけです。

――T-mobileはどうして無制限プランで提供できているのでしょう。

ピーターズ氏
 携帯電話会社やISPなどは、核となるサービスがあるなかで、付加価値を提供するために新たなサービスを追加し、高いプランに興味を持ってもらおうとしています。同時にテクノロジーは常に進化していますよね。より多くのデータを低価格で配信できるようになってきています。T-mobileさんは、(データの無制限という)割安さをレバレッジ(てこ)にして、ユーザーにはNetflixを付加価値として打ち出しています。最終的に、さほどコストの差はないのでは? と思っています。

 かつてはEメールだけでも、モバイルサービスの付加価値たり得ました。しかしそういう付加価値はどんどん増えていきます。今後は動画のバンドルなどは当然の時代になっていくのでしょう。

Netflixの使われ方

――モバイルからの利用比率は?

ピーターズ氏
 会員の大多数が、モバイルと同時にテレビでも作品を観ています。ただ、デバイスによって見方が違います。Netflixとしては、どういうタイミングであればどういう視聴スタイルになるのか、掘り下げたいと思います。モバイル向けコンテンツは制作しませんが、たとえば10分、20分とちょっと時間があるというときにどういう形であれば一番観やすくなるのか、考えていきたいです。

――auとのプランでは、ベーシックプランが最初から利用できる形です。Netflixにはスタンダードプランとプレミアムプランもありますが、それぞれの利用率は?

ピーターズ氏
 具体的な数値はお伝えできませんが、3つのプランは、同じくらいの割合で利用されていますね。会員が何を求めているかによって選ばれているのでしょう。今回はT-mobileさんと同じようにベーシックプランをバンドルすることになり、もっと高いプランは少額の追加で選べるようにしています。今後は、自然と分散していくのではないかと見ています。

――Netflix自身の調査で、時間が経つにつれてモバイルよりもテレビのほうの視聴になるという話があります。日本でも同じ形になるのでしょうか。携帯電話会社であるKDDIとの提携が、モバイルからテレビに広がると期待していますか?

ピーターズ氏
 個人的には、日本でも似たような推移になるとではないかと思っています。市場によって特色があり、日本はモバイル環境で楽しむ人が多いであろうエリアだと思います。今回のプランでは、データ通信量での心配がないので、テレビでの利用もあるでしょうが、モバイルでも利用されると思います。

――Netflixにとって、「モバイルで心配なく使えるデータ量」はどれくらいをイメージしているのですか?

ピーターズ氏
 もちろんアンリミテッドがベストです(笑)。でも今回の25GBは平均的な画質で100時間分になります。心配なく使えるところで、良いスタート地点だと考えています。

――日本以外の国で、モバイルの利用が多い国はありますか?

ピーターズ氏
 たとえば韓国やフィリピン、北欧ですね。ただ、国によりますし、徐々に変化していくと思います。

――Netflixのアプリをいかに起動させるのか、どうコンテンツを選びやすくするのか、そのあたりでの工夫は?

ピーターズ氏
 その2つの疑問については、ある意味、同じお答えになります。利用をさまたげる壁は低くしたいと思っていますので、アプリを迅速に起動できるという点などは追求していきます。たとえばアプリを立ち上げるときに、何か報われるような感覚、興味をそそられる感覚は提供したいですね。

――最近のスマホアプリ版のリニューアルで、作品のプレビュー機能が導入されましたね。

ピーターズ氏
 テストを経て、ポジティブな反応がありましたのでプレビュー機能を導入することになりました。プレビュー機能は、まさに利用を促進するモチベーションとなる機能の良い例です。アプリを起動するときの楽しみ、起動したあとの楽しみになるわけです。映画やテレビの作品では予告編がありますよね。そういう仕掛けをアプリに盛り込もうとしました。プレビューを楽しんだ結果、今時間があるから観ようか、あるいは今夜観てみようか、という行動に繋がると思います。

夏に追加発表か

――今回のauとの提携は、独占的なものですか?

ピーターズ氏
 米国ではT-mobileが最初のバンドルパートナーです。従ってKDDIさんは世界で2番目のパートナーです。エクスクルーシブかどうかは、今夏のローンチの時にまたあらためてご案内したいです。

――ということは、J:COMとの関係も夏までは話せない?

ピーターズ氏
 J:COMとは、ディスカッションさせてもらっているのは事実です。でも、契約など発表できるものは特にありません。もう少しお待ちください。

スマートフォン、Android TVについて

――最近のスマートフォンは、4Kディスプレイを搭載するなど、映像をより楽しみやすいハードウェアのスペックになってきていると思います。これを機にしたプロモーションですとか、端末メーカーと組むといった考えはありますか?

ピーターズ氏
 我々の仕事としては、会員へ、最高のコンテンツを最高の画質、音質で提供するということがあります。会員、パートナーには、スマートフォンを含めた新しい形でのライブラリーを作ること、作品も最高のものであることをコミットしています。そこに自然な価値を見いだしています。

――ドコモテレビターミナルなど、Android TVの一部でNetflixが利用できないようですが、対応の考えは?

ピーターズ氏
 そのあたりは2つの面があります。まずAndroid TVについては、ジェネリックなプラットフォームとしてアプリを開発しています。ただ、Android TVのプラットフォームをメーカーさんが採用される中で、Netflixのアプリが利用できないケースもあります。ドコモさんについては、ドコモさん側からそういう議論をしようというアプローチをまだ受けていません。我々としてはぜひお話はしたいです。

――テレビのリモコンにNetflixボタンが搭載されたときには驚いたのですが、あらためてその経緯と成果を教えてください。

ピーターズ氏
 それも、会員が簡単にNetflixを使えるようにする、ということと繋がっていると思います。クリックしてすぐ使えるわけです。ご存じのようにソニー、東芝、シャープ、パナソニック、LGなど多くのメーカーさんと同じように取り組ませていただいています。これはユーザーにとって便利なものと説得できたからこそ実現できたと思います。

 メーカーさんごとに物語があります。つまりどのくらい自分たちのプロダクトに投資し、テクノロジーを進めようとしているのか、ストーリーを伝えられるわけです。

――昨年、日本ではスマートスピーカーが登場して話題になりました。日本市場においてNetflixの利用動向に何か影響を与えた部分はありますか?

ピーターズ氏
 動画とスピーカーということで、反響や影響はあまりなかったという認識です。ただ、最近はパートナーからよくいただくのが、ボイスコマンドへの対応です。作品の検索などを声で検索できるようにするというもので、今後、実験的に試していきたいですね。これもより簡単に使えるようにする、ということに繋がっていきます。

au独自の仕組みありえる?

――Netflixのライバルはどういうサービスですか?

ピーターズ氏
 携帯電話業界での競争は、たとえばKDDIの場合、他キャリアからユーザーを奪うことになるでしょう。いわばゼロサムゲームです。一方、映像配信サービス(VOD)は、自由な時間が少しある場合、ユーザーが楽しみたいときに、食事やテレビ鑑賞などの選択肢の中から選ばれることになります。

 そこでNetflixでは、競合他社にあえて焦点を当てない考え方をしています。我々が一番大切にしなければいけないのは、会員に価値のあるものを、バリューのあるものを届けられているか。観やすいか、観るに値する質の高いコンテンツかどうかというあたりです。「Netflixだけを使ってほしい」ということは全く考えていません。

――Netflixが、auユーザー向けに、先行してコンテンツを公開したり、独自コンテンツを制作したりすることはありえますか?

ピーターズ氏
 我々としては、日本と世界の会員みんなに満足してもらえるよう、幅広いプログラムを考えています。auのバンドルプランを通して新規加入してくださる方も、通常の形で加入する人も満足してもらえる形です。つまり、チャンネルごとに何か独占的なことをするよりも、幅広い方々に満足してもらえることのほうがより良いと考えています。

――KDDIと作品を共同制作し、日本から世界へ作品を届けるといった考えはあまり興味がないとのことでしたが、やはり優先度は高くないですか。

ピーターズ氏
 そうですね、今現在、そうした話はしていません。ただ、KDDIさんもさまざまな作品の製作委員会に参加しています。製作サイド同士として、そうした展開は考えられます。そのおりには、日本だけではなく世界へ届けると。

――ありがとうございました。