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KDDI株主総会、株主は楽天対策や長期ユーザー優遇に関心

“DDI創業者”が株主として質問する一幕も

 KDDIは、第34期の定時株主総会を開催した。総会には4月に新しく代表取締役社長に就任した高橋誠氏が登壇、業績の報告や取り組むべき課題を説明したほか、株主からの質問に応じた。高橋氏は社長就任後初めての株主総会となったが、経営陣として長く携わってきたからか、滞りなく会を進行し、波乱もなくすべての議案を可決して終了した。

株主総会に登壇したKDDI 代表取締役社長の高橋誠氏

 高橋氏は4月5日の社長就任会見で「通信とライフデザインの融合」という新たな戦略を発表、5月に開催した決算会見でもこの戦略を改めて解説していたほか、5月末には、高橋氏が仕掛ける「ワクワクの提案」の第1弾として、米Netflixと業務提携したデータ容量と動画サービスをセットにした料金プランを発表している。

 一方で、経営の面では、高橋氏の社長就任初年度となる2018年度は、すでに遂行している中期経営計画(3カ年)の最終年度にあたるため、既存の経営戦略を仕上げる年度という位置づけ。今回の株主総会においても、経営上の具体的な数値を含む新たな目標が公表されたわけではない。

 東京・品川で開催された株主総会では、これまで通り議案の採決の前に質疑応答の時間が設けられ、予め提出された書面での質問と、会場の株主からの質問に経営陣が答えた。本稿では、主に一般ユーザーに関連する内容について取り上げる。

コマース事業の在庫リスク

 書面での質問では、拡大を図っているコマース事業(物販事業)について、在庫リスクにどう対応しているか、またコマース事業で「世界の巨大企業」にどう対抗していくのかが聞かれた。

書面での質問
KDDI 取締役執行役員常務の村本伸一氏

 KDDI 取締役執行役員常務の村本伸一氏は、「Wowma!」はショッピングモール型で加盟店が在庫を手配するためKDDIに実物商品の在庫リスクはないとする一方、「au WALLET Market」は現在、注文の後に在庫を手配する仕組みで、大きな在庫リスクはないとするものの、すばやく商品を届けるため、今後は一部の商品について在庫をもつ必要が出てくるとの考えも示した。

 また大手への対抗策については、ビッグデータを活用した解析や、auのユーザーに対してポイントやクーポンでの施策を厚くしていくこと、au以外のユーザーにもメリットがあるような施策を検討していくとしている。

新たなキャリア「楽天」への対抗策

 新たに楽天が、2019年10月(予定)にMNOとして携帯電話事業を開始することについて、株主からは「(ユーザーが)安いほうのキャリアに移るのではないか。私の概算では、(auの料金プランは)あと3割は安くできる」と、料金プランについて対抗策が聞かれた。

 高橋氏は、楽天がすでにMVNOとして低い価格帯でサービスを提供していること、そうしたMVNO一般への流出を防ぐプランとして新しい「ピタットプラン」を位置づけていること、「(流出が)かなり抑止されている」と、MVNOなど“格安”への対策に効果を発揮していることを説明。その上で、「第4のキャリアとしての楽天には、しっかりと準備した上で対抗していきたい」とした。

長期ユーザーへの優遇施策

KDDI 代表取締役執行役員副社長の石川雄三氏

 auのユーザー歴が25年という株主からは、カスタマーセンターと店頭での案内に齟齬があり店舗を何度も訪れることになったという体験談のほか、長期ユーザー向けのプランが少ないと要望が挙がった。

 KDDI 代表取締役執行役員副社長の石川雄三氏は、カスタマーサービスセンターと店舗の情報連携に取り組んでおり、具体的な取り組みも実施しているものの、体制を改めて見直すことが約束された。

 長期ユーザー向けの施策については、石川氏は「au STAR」プログラムで長期ユーザー向けに毎月のポイントバックなどの特典を提供していることや、会員制サポートサービスの「auスマートサポート」などに言及。一方、「(サービスの存在が)伝わっていない、十分ではないということ」と振り返り、「重要な経営課題として取り組んでいく」とした。

ソラコム買収の成果

 ソラコムの買収の成果が聞かれると、高橋氏は「IoT分野で実績のあるベンチャーで、頼りにしている。数字で公表できるものはないが、利用実績のある企業は1万社を超えており、事業を拡大できるだろう。ソラコムの技術を(KDDI)本体に取り込むようなことも進めている」と、融合を図っている方針が示された。

「5年後のビジョン」、問うたのは……

 会場の株主からの質問では、(KDDIの母体である)「DDI創業者のひとり」と自らを紹介する人物が登場し、別室のプレスルーム内がざわつく一幕も。総会では、会場で質問に立つ株主の姿や氏名などの個人情報は、質問時の名乗りを含めて秘匿される(名乗るタイミングだけプレスルームへの音声もカットされる)ため、定かではないが、高橋氏がこの株主を見て「創業時からお世話になりました」と答えたこと、筆者が記憶している声に酷似していたことから、稲盛和夫氏とともにDDI(第二電電)を創業した千本倖生氏と思われる。

 この株主は、「孫正義氏率いる事業者やNTTドコモといったメガキャリアを相手に高い実績を出しており、高い評価に値する」と称賛。高橋氏が社長に就任する前、新規事業の開拓を手がけて成果を上げてきたことも「一株主として非常に大きな期待をしている」とした。その上で「これから5年後のKDDIの姿、5年後にどういったビジョンを持って引っ張っていこうと思っているのか」と問われた。

 高橋氏は「社長に就任して3カ月目で、今は次の中期経営計画を練っているところ。5年後というと、私からするとちょっと先だが」としながらも、「通信からシフトするのではなく、通信をアセット(資産)として、ライフデザイン事業に組み合わせると、他社がするライフデザイン事業よりも素晴らしいことができるのではないかと考えた」と、これまでに高橋氏が示している戦略の起点となった考えを説明。「5年後となると、5Gが本格化しており、いろんなものに通信が入る。これは次の(3カ年の)中期経営計画の中心になる」と回答した。

 通信業界の大物から問われた“5年後のビジョン”に対し、高橋氏が“中期経営計画はまだ”“5年後はちょっと先”などと生真面目に回答してしまった点は、株主にとっても残念だと思われるが、事業への評価などは、直接の大先輩からの思いがけないエールと言えそうだ。

※高橋誠氏の「高」は新字の「髙」