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KDDIの業績から見える「通信とライフデザインの融合」とは

 10日、KDDIが2017年度の業績を発表した。この4月から同社社長に就任した高橋誠氏は、4月の社長就任会見でも語った「通信とライフデザインの融合」をあらためて紹介した。

KDDI高橋社長

au経済圏の売上高を初公開

 2015年ごろから、auライフデザイン戦略として、金融や電力など新たな領域へ進出してきたKDDI。高橋社長は、これまでの動きからKDDIが通信事業者からライフデザイン企業へ切り替えようとしている、という見方は誤解だと解説。あくまで通信事業は中心であり、ライフデザイン系のサービスを付加価値として提供していくという方針をあらためて紹介する。

KDDI DIGITAL GATEという新たな場を虎ノ門に設置する

 通信に加えて、ライフデザイン系サービスを利用してもらうことで、KDDIとしては総合的な収益で成長を目指す時代になると高橋氏。そこで今回初めて開示されたのが「au経済圏」の売上高。auの決済サービスなどを通じたもので、2016年度が4210億円、2017年度が5600億円と順調に成長しており、2018年度は7300億円になる予想が示され、高橋氏は「かなりボリュームが出てきた。大手ECサイトと比べても見劣りしない、大きな成果」と手応えを感じている様子。今後は単なる通販だけではなく、体験価値や“コト消費”を意識しているとのことで、「個人的にはウェット感を持たせたい」(高橋社長)と語る。ちなみにauかんたん決済やau WALLETによる決済の流通総額は、前期から約7000億円増加し、2017年度は1.89兆円となった。

 本業と言える通信領域では、たとえばauの契約数やMVNOの契約数をあわせた数は、前年度から約46万件増加した。その内訳は、au契約数が2469.1万件(2016年度は2514.2万件)、MVNOが177.8万件(同86.6万件)であり、auの契約が減少し、MVNOが増えているという形。auの契約数の減少幅は減少しているが、さらなる成長のためにも、ライフデザイン系サービスでの拡大を目指すことになる。

 こうした流れは、KDDIのみならず、国内の携帯電話会社が同じように目指している。たとえば国内最大手のNTTドコモは、今春、自社のポイントサービス会員をこれからの事業戦略の軸にする方針へ転換。既にドコモでは映像配信サービスや雑誌読み放題サービスを、ドコモ回線以外のユーザーでも利用できる形にしている。

 こうした流れに対して、KDDIの高橋社長は「パソコンやスマートフォンで利用できるマルチデバイス向けのIDを非常に早い時期から導入しており、マルチユース、マルチデバイスの基盤になっている。これをau回線のユーザーだけではないかと思われるかもしれない。ドコモさんは各種サービスに『d』と付けているが、僕らはオープンなサービスでauブランドを出さないほうがいいと考えている。たとえばECでは『Wowma!(ワウマ)』としており、ユーザは『Wow! ID』というオープンなIDを取得する形。これ以上は戦略めいたところなので、またゆっくりと……」と語り、KDDIなりの形で他キャリアユーザーを取り込む姿勢を示しつつ、今後の展開に含みを持たせた。

 KDDIでは、2018年度が現在の中期経営計画の最終年度にあたる。目標として営業利益の年平均成長率を7%にするという目標を掲げており、社長就任から間もない高橋社長は「完遂したい」と述べ、次期の中期経営計画の策定もさることながら、現在の目標を確実に達成することに意欲を見せた。

楽天の参入に「インフラ整備は責務」

 EC事業を主軸とする楽天が、携帯電話事業へ参入することが決まった今春。KDDIとしてはどう迎え撃つのか、高橋社長は「競争社が増えることで、心してかかりたい。だが、もともと(KDDIも)チャレンジャーであり、個人的にも競争論者」と意気込む。

 その上で楽天のインフラ整備方針には「6000億円は少ない投資額」と指摘する。付与された電波から、通信速度もある程度天井があることがわかる、とも解説。「競争者ならばインフラを整えていかなきゃいけない、責務だと思う」とも語る。

 一方で、ライフデザイン領域へ進出をはかるKDDIにとって、ECから通信へ進出する楽天の存在は「通信からライフデザインというのが正当化された」(高橋氏)と、社内の論議にも影響を与えている様子だ。

サイトブロッキング、「慎重に対応したい」

 漫画などの海賊版サイトの利用が増えたことで、4月、政府が法整備の前に、民間企業がそうしたサイトへのアクセスを遮断する、いわゆるサイトブロッキングにお墨付きを与える場面があった。政府の意向を受けて、NTTグループがサイトブロッキングを実施する方針を示す一方で、ソフトバンクは「対策は必要だが議論がある」と慎重に動いている。

 KDDIとしてはどうするのか、高橋社長は自身が過去、手がけた事業においてコンテンツに関わることが多かったことから「違法な配信は停めなければならない」と対策の重要性を強調する。ただし、サイトブロッキングの対象とされた3つのサイトが、現在、アクセスできないことや、立法前のサイトブロッキングでは憲法で保障された「通信の秘密」を侵害する懸念が指摘されることを踏まえ「慎重に対応したい」とコメント。これはNTTグループよりもソフトバンクとほぼ同じ立場と言え、国内大手3キャリアの動向が分かれる格好となった。

“ZTE問題”、KDDIには影響少なく

 米国政府が中国のZTEに対して制裁し、その結果、ZTE製の携帯電話やスマートフォンの供給に懸念が生じている。

 高橋社長は「Photo UやmamorinoなどZTE製端末があり苦慮している」とコメントしつつ、ZTE製スマートフォンは取り扱っていないことから「インパクトはなくほっとしている。mamorinoなどのアップデートは現在なく、大きな影響は特にない」と語った。

総務省の議論、影響は

 今春もまた、総務省で有識者会合が開催された。一時はUQ mobileのようなサブブランドが優遇されていないか、議論の俎上にも上がったが、高橋社長は「現在、総務省で、報告書を踏まえたガイドラインや要請が検討中と聞いている。それに沿って対応していく」と説明。

 また最近では、有識者会合や総務大臣からアップグレードプログラムEXのような仕組みに対して「4年縛り」と呼ぶ場面もあるが、これについて「(端末購入から)2年後に特典としてKDDI側で下取りするのか、中古店へ売るのか、選択できるような形にしている。この説明がわかりづらいという指摘もある。真摯に受け止めて対応していく」と述べていた。