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「KDDIがスタートアップを応援」、IoT/データ/AIで200億円の投資ファンド

高橋社長「ワクワクの枠はまだ空いている」とアピール

 KDDIは、200億円規模の投資ファンド「KDDI Open Innovation Fund(KOIF/コイフ)3号」を通じて、IoTデバイスの管理プラットフォームを提供する英国企業、Resin.io(レジンドットアイオー)へ出資する。

KDDI高橋社長

 KOIF3号は、KDDIグループのソラコム、Supership、ARISE analyticsがそれぞれ関わるプログラムを用意。Resin.ioへの出資は、ソラコムがリードする投資プログラムを通じたものだ。KDDI単体ではなく、グループの存在が加わることに、KDDIの高橋誠代表取締役社長は、「KDDIの仲間に入った企業が、プロフェッショナル集団として、スタートアップを応援していく」とその特徴を語る。

ソラコムはIoT視点で投資

 KDDIではこれまで、グローバルブレイン社と協力して、50億円規模のKOIF1号/2号を運用し、さまざまな企業へ投資してきた。また2011年からは「KDDI∞Labo」として、起業から間もないスタートアップに向けた育成プログラムも手がけている。

 こうした中で新たに運用されるKOIF3号は、従来よりも大幅に運用額の規模が拡大されること、グローバルブレインに加えてKDDI傘下のグループ企業が投資先の選定に関与することが大きな特徴だ。高橋社長は「ワクワクの枠はまだ空いている」と語り、有望な投資先を積極的に求めていく姿勢を示す。

 KOIF3号の中で、投資先選定に関わる企業の1つであるソラコムは、MVNOとしてIoT向け通信サービスを提供するほか、センサーなどで取得したデータをクラウドへ送り、活用しやすくするなど、データの利活用を支援するソリューションを手がけるなど、IoTを軸にして事業を展開している。

 6月11日に発表されたKOIF3号投資先のResin.ioは、IoTデバイスを管理するためのプラットフォームであり、ソラコムがリードするプログラム「SORACOM IoT Fund Program」を通じて投資が行われる。

ソラコムの玉川氏
Resin.ioへ出資する

 IoTプラットフォームを手がけるソラコムだからこそ、自分たちのサービスとの相乗効果を期待できるResin.ioへ投資することにしたと語るのはソラコム代表取締役社長の玉川憲氏。同氏によれば、1カ月半ほどの期間で、米国にいるCTOの安川 健太氏が率いるチームがResin側とのコミュニケーションを踏まえて投資を決めたという。

 玉川氏は「ソラコムはスタートアップマインド。200億円の中で、IoT Fund Programでは50億円ほど運用できる。数値的な目標はないが、現在も投資候補として検討している企業はある」とも述べており、ソラコムならではの視点で、スタートアップへの投資を進めていく方針を示す。IoT Fund Programの投資額50億円という規模からは、ソラコムがKDDIグループに入って1年も経っていないことを踏まえれば、KDDIがKOIF3号に込めた想いが透けて見える。

DMPのSupership、AIのARISEも得意分野で

 ソラコムと同じく、KOIF3号には、Supershipの「DataMarketing Fund Program」やARISE analyticsの「AI Fund Program」が用意されている。

 2015年秋に誕生したSupershipは、設立当初から、DMP(データマネジメントプラットフォーム)を軸にする事業を進めており、森岡康一代表取締役社長は「DMP/CDPを強化してきたことが持ち味。アドテクノロジーの企業だと思われがちで、そう自負する部分もある。データの分析や解析ができるアナリストや、分析ソリューションを持つパートナーは常に探している。マーケティング以外の発見があれば興味も持つ。ライフステージや位置情報など、特徴のあるデータを保持しているところはパートナーシップを組みやすい」と説明する。

ARISEの家中社長

 ARISE Analyticsは、KDDIとアクセンチュアとの合弁会社であり、120名におよぶデータサイエンティストとAIによるデータ分析や、アクセンチュアから参画するコンサルティング、ビジネス開発を得意とするスタッフを抱える。データ分析に加えて、コンサルティングまで行うところが、Superishipとの違いであり、データはあってもビジネス化まで支援できるという特徴を打ち出す。KOIF3の投資プログラムでも、そうした視点から投資先を見つけていく考えだ。

「KDDIの本気は追い風がすごい」

 KDDIビジネスインキュベーション推進部長の江幡智宏氏は、今回、投資プログラムを担当するグループ3社には、それぞれはっきりと得意な領域があると説明。KDDIとしては、そうした領域に加えて、ヘルスケアやホーム、スポーツなどさまざまな領域で、ユーザーへ付加価値を提供していく考え。江幡氏は、さらに将来を見据えると、少子高齢化などの社会課題に対して通信事業を軸にしたさまざまな新規事業もあり得るとコメントし、幅広く展開することも視野に入れる。

江幡氏
Supershipの森岡氏

 Supershipの森岡氏は、そんなKDDIが本腰を入れて投資先のスタートアップと協力をすると「追い風がすごすぎて前に倒れることがないようにしてほしい。踏ん張れる会社とやりたい。大企業の力を使い倒す、“ハイブリッドスタートアップ”というワードを広めたい」と、KDDIへ支援を求めるスタートアップに必要な資質を指摘する。たとえば何らかのスマートフォン向けサービスを提供する企業であれば、auスマートパスなどで紹介されることで、一気にユーザーが増える可能性があり、その送客力を活かせる体制が必要ということになる。

 実際に昨夏、KDDIに買収されたソラコムの玉川社長は「高橋さん(KDDI社長)の考えもあって、買収した会社をいかにKDDIのビジネスに活かすか、というよりも、KDDIの力で買収先や支援先をどう伸ばすか、という考え方が強い。ソラコムにとっても追い風がガンと来るので、きちんと受け止められる組織へと変わってきている」と実感している様子。

 KOIF3号では、主に1件あたり5000万円~15億円程度の規模を想定。スタートアップへの支援をしては、発展時期にあたるシリーズAから、イグジットと呼ばれる段階に近い状態まで投資対象と見なしていく考え。実際に投資するかどうか、1カ月半~3カ月程度で判断していくとのことで、スピード感も特徴にしていく。