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「フルMVNO化」で“通信サービスの競争”を実現~IIJ佐々木氏が狙いを語る

 「フルMVNOになれば、通信サービスでの競争を実現できる」――4月14日に開催されたMVNO「IIJmio」のファンイベント「IIJmio meeting 15」にて、インターネットイニシアティブ(IIJ)の技術担当 佐々木太志氏が語った。

 IIJが、2017年度下期にNTTドコモ網の「フルMVNO」としてデータ通信サービスを商用提供すると、2017年1月に発表している。佐々木氏は、この取り組みの狙いをMVNO間での“横並び化”の解消にあると説明した。

「フルMVNO」とは

 携帯電話で提供される通信サービスは、無線基地局群やいくつかの機能を持つサーバーの集合体から構成される「コアネットワーク」を経由して、インターネットに接続している。

 現在、日本で展開しているMVNOは、「ライトMVNO」と呼ばれる形態。レイヤー2接続では、このコアネットワーク設備の出口部分につながる終端装置~インターネット側の設備のみを用意。終端装置を除くコアネットワーク側の設備はすべてMNO(大手キャリア)が運用している。

 「フルMVNO」は、このコアネットワーク設備のうちの一部を、MVNOが自前で運用する形態のことを言う。IIJとNTTドコモの合意は、「加入者管理設備(HSS/HLR)」をIIJが運用することに合意したものだ。

MVNOの横並び化をもたらした「卸標準プラン」の功罪

 MVNOに参入する事業者は急速に拡大を続け、2016年末時点では600社以上となっている。この市場拡大のきっかけとなったものが、2008年5月に導入された「卸標準プラン」というコンセプトだ。

 「卸標準プラン」は、総務省が策定する「MVNO事業化ガイドライン」に導入されたもの。回線を貸し出す大手キャリアに「標準的なケースを想定した料金その他の提供条件」を定めるように求めたものだ。

 それ以前は、MVNOと大手キャリアと接続料金の交渉は個別に行われており、資金力、技術力、運用ノウハウに劣るMVNOにとっては不利な交渉となっていた。卸標準プランの導入により、標準的な料金体系を明示することにより、あらかじめ交渉結果の見通しがつくようになった形だ。

 一方で、卸標準プランがもたらした弊害もある。それが“横並び化”だ。卸標準プランという目安が定められたことで、大手キャリアとMVNOの交渉はスムーズに進むようになったが、反面、その範囲外の交渉が難しくなってしまった。

 結果として、各MVNOが提供するサービス内容は、ほぼ同一なものになってしまう。例えば、「毎月○GB」といった容量制のデータプランや、インターネット経由でできるMNPの開通手続きなど、同時期に複数のMVNOが立て続けに提供することとなる。

 こうなってしまうと、通信サービスでの差別化は難しい。通信サービスでの差別化の場合、IIJやmineoのようなマルチキャリア展開やLINEモバイルやビッグローブのようなゼロ・レーティングによる差別化はあるが、シェア拡大の主軸は量販店カウンターや実店舗での展開、ポイント還元やキャッシュバック、CM戦略など通信サービス以外での競争に移行していく。

 こうした状況を打破するため、IIJはドコモとの交渉によってコアネットワーク設備の一部の運用権を獲得。「通信サービス」でより幅広い戦略を取れる余地を確保した。

ターゲットは「IoT」

 IIJがフルMVNO化で目指すのは、さまざまなモノがインターネットに接続する「IoT(モノのインターネット)」時代に向けた通信サービスの提供だ。

 フルMVNO化によって、今後IIJが自前で運用することになる「加入者管理設備(HLR/HSS)」は、SIMカードを管理するためのデータベース。物体としてのSIMカードや識別番号(IMSI)と電話番号との紐付けなどを制御するものだ。つまり、独自の形式のSIMカードを発行できるようになる。

 さまざまなモノに通信機能を持たせるIoT時代には、モバイル通信のSIMカードも形を変えていくことになる。例えば、ウェアラブル端末に組み込むマイクロチップ型のSIM、酷暑から極寒まで極限環境で使われる機器に入るタフネスなSIMなどだ。

 おもちゃなどに組み込まれるSIMでは、モノを購入した時点で通信サービスが利用可能となるなど契約を簡素化することもできる。手放す際には契約情報を初期化し、別のユーザーが同じSIMで別の契約を使うといった設定も可能だ。

 SIMカードの管理設備を自前で運用すれば、モノに搭載されるSIMカードを要望に柔軟に企画できるほか、開通時の設定を簡素化することもできる。今までドコモから貸与されていたSIMを独自に用意することで、在庫コストも低減できるという。

 なお、IIJではIoT向けに限らず、スマートフォン向けにも「フルMVNO」としての強みを生かしたサービスを検討していく方針。例えば、外国のMNOやMVNOと提携し、独自の国際データローミングSIMを提供することもできるようになるという。

 佐々木氏は、「卸標準プランには無いHLR/HSS開放をドコモとの2年に渡る交渉のすえ実現したのは、エポックメイキングなこと」とし、「独自運用により通信サービスでの競争が実現し、独自SIMでIoTでの挑戦ハードルを下げることができる」と総括した。

【お詫びと訂正 2017/04/17 11:41】
 初出時、HLR/HSSを「基地局設備」としていましたが、正確には「コアネットワーク」の設備となります。お詫びして訂正致します。