インタビュー

クラウドスマホ「Robin」の米Nextbit CEOに聞く

5G見据えた次世代スマホ、その開発思想は

 米Nextbitが開発した「Robin」(ロビン)は、“クラウドファースト”というコンセプトを掲げるAndroidスマートフォンだ。3万9980円(税抜)という価格で、5.2インチのフルHDディスプレイ、1300万画素カメラ、Snapdragon 808というハイエンドチップセットに、32GBのローカルストレージ、3GBのメモリと、そのスペックは現在のスマートフォンのなかでも高い性能を誇る。

 日本では、ソフトバンクの「+Style」を通じて販売が開始されているが、クラウドファーストというコンセプト、そして価格とスペックのバランスから、「+Style」での販売に先んじて、個人で入手して使う人がいるなど、最先端なユーザーから熱い視線を集める。

最初からクラウドを目指した

 今回、Nextbit創業者の一人で、現CEOのトム・モス氏にインタビューする機会を得た。モス氏はかつてグーグルに在籍してAndroidの開発に携わった。日本での留学経験もあり、日本語も堪能。6年前には、Android向けのセキュリティ技術会社を「3LM」を立ち上げると、翌2011年には3LMをモトローラに売却。日本ではKDDIとのビジネスも成立させた。

モス氏

 スマートフォンが成熟期を迎えて、技術的にワクワクすることが少なくなってきたなかで、ハードウェアだけではなくソフトウェアを組み合わせて次世代のスマートフォンを作り上げよう、ということでNextbitを設立したとモス氏。創業メンバーのなかには同じくグーグルで初期のAndroidの開発に携わった人物や、HTCでプロダクトデザインをリードした人物もいる。そこでNextbitでは「クラウド・ファースト」という思想に加えて、デザイン面でも魅力的かつオリジナリティあるものを目指して開発。製造はFoxconnに委託しており、アップルのiPhoneと同じラインで製造されているのだという。ちなみにFoxconnからの出資も得ており、立ち上げから間もない企業とはいえ、その将来性に大きな期待が寄せられている。

クラウドへのコピー

 「我々はスマートフォンが大好き。毎日一緒に持っていて、人生の一番近くにある。これまでのスマートフォンは、ちょっと人間さがないが、Robinはいわば“優しい性格”に仕上げた」とモス氏は説明。スマートフォンがユーザーを陰からアシストする、という思想のようで、クラウドファーストをうたうRobinでは、独自のアルゴリズムによって写真や動画、アプリの利用動向からプライオリティリストを作成し、利用頻度が低いものを自動的にクラウドへ移動させる。

 データ転送はWi-Fiでのみ動作し、たとえば写真はオリジナルをクラウドへ、サムネイル(縮小版)をローカルに保存しておく。ローカルストレージの32GBのうち、30GB未満の間は、クラウドにバックアップしておき、30GBを超えると不要なデータはローカルから削除されてクラウドだけになる。利用頻度が低くてもクラウドへ切り替えたくないデータやアプリは、あらかじめ指定しておけばローカルに保存され続ける。ゲームアプリがクラウドへ移り、ローカルに戻しても、過去のプレイデータを別途保存しているため続きから遊べるという。ローカルへ移動するかどうか判定のアルゴリズムは、Nextbit社内で開発されている。

 100GBというストレージ容量も十分なものだが、今後、ユーザーが扱う写真や動画がより高精細になって大容量になるとどうなるのか。モス氏は多くのユーザーにとって足りなくなれば、無料で追加する方針であり、ストレージを有料サービスにするつもりは全くない、と語る。

トム・モス氏一問一答

――「Robin」の開発においてクラウドファーストという考え方はすぐ決まったのですか?

モス氏
 はい、スマートフォン用のOS、たとえばiOSやAndroidは2005年ごろから開発が始まっていますが、クラウドはその後、本格的に利用されるようになった技術です。今、スマートフォン用のOSは、クラウドやAI、マシンラーニングといったテクロノジーが入っていないわけです。Nextbitではそうした技術を活かして、いろんな問題を解決しようと考えています。

――クラウドに加えてAI、マシンラーニングですか。たとえばどういった機能の改善が考えられますか?

モス氏
 マシンラーニングを使って端末を個々人にあわせたパフォーマンスにしていくことができます。たとえばバッテリーの持ちを改善するといったものです。それからCPUのクロックをコントロールしたり、よく使う機能やアプリはアクセスしやすい場所に置いたり目立つよりにしたり……といった形です。5年後のような将来には、サブスクリプションのサービスとして、たとえば、スマートフォンではとても処理できないような“重いゲーム”を楽しめるように、CPUやGPUを貸し出したりする、といったことはあり得ますが今はまだ早い。クラウドストレージは最初の一歩なのです。

――5G時代になれば、というところでしょうか。

モス氏
 そうですね。

――ユーザーが常に持ち運ぶからスマートフォンという特性を活かして、ユーザーの現在地や訪れた場所、個人的な属性、何を買ったといった情報を収集して、何らかのマーケティングに活用するといった考えはありますか?

モス氏
 いえ、そこまで利用することはありません。NextbitはEコマースなどに全く興味がありません。ただ、ユーザーの状況にあわせて仕事中であれば、このアプリは使える、プライベートなら……というようにスマートフォンとしての使い勝手の部分を改善したいですね。

――ユーザーの行動を操作面などの改善に活かしていくということですね。そういった情報はサードパーティのアプリでも利用できるようにしますか?

モス氏
 いえ、それはできません。それはグーグルさんなどが今後手がけるのかもしれませんが、そうしたところと直接競争する考えはありません。我々としては、どのデバイスを使っても、ユーザーにとっては自分のコンテンツが利用できるようにする、といったところですね。

――長期的にはAI、マシンラーニングを採り入れるとのことですが、短期的な取り組みはどうなりますか?

モス氏
 まずは「Robin」の進化ですね。2カ月後くらいを目処に、パソコンからクラウドストレージを参照できるWebクライアントを提供する予定です。この機能は米国のユーザーから多くの要望をいただいています。

 Nextbitのサイトにはコミュニティがあって、Robinファンが活発に投稿しています。そのポスト件数は2万件弱。そうした声にお応えしたいと思っているのです。これはこれまでの端末メーカーと違うところだと思っています。僕たちは直接お客さんと話しをしたい。世界各国でRobinの取り扱いが拡がっているのですが、どこでも(キャリアモデルではなく)SIMロックフリーモデルです。そうしている一番大きな要素はユーザーとの関係作りです。

――そういえば直近では、日本だけではなくインドでもRobinが発売されたとか。

モス氏
 インドでの販売台数はさほど大きなものになるとは思っていません(笑)。でも5年、10年と長期で考えるとインド市場は重要です。

 グローバルで見ると、当社のサイトからの販売で最も多いのは米国、ついで英国、そして日本です。その後、ドイツ、フランス、シンガポール、香港が続きます。

――最初の発売前には米Kickstarterでクラウドファンディングを実施したそうですが、これもファンを獲得することが目的ですか?

モス氏
 はい、発売前からコミュニティを作って関係を構築したかった。Nextbitは今、サンフランシスコに拠点を置き、フルタイム勤務のメンバーが35人、世界各地のスタッフで70人ほどという規模の企業です。我々と同じように、「今のスマホがつまらない」と思っている方にぜひとも手を取って欲しいですね。外観も注力しましたが、それだけではなくソフトウェアそのものが次世代。今のスマートフォンの次に向けた一歩です。ぜひ使って欲しいですね。

――ありがとうございました。

ひつじのキャラクターは、Androidのキャラクター(ドロイドくん)と同じデザイナーによるもの
このボディカラーは1000台ほどしか生産されていないという限定アイテム
SIMカードスロットのカバーがゴールド、という特別なアイテムも。こうしたものを用意してファンにアピールする

関口 聖