インタビュー
HTC NIPPON 玉野社長に新端末の魅力と次の展開を聞く
「HTC 10」の次は“ハイスペックSIMフリー”?
2016年6月1日 21:40
6月1日、HTC NIPPONは記者向けに新製品「HTC 10 HTV32」を解説する発表会を実施した(※関連記事)。発表会後に同社代表取締役社長 玉野浩氏へのインタビューの機会を得たので、新端末の魅力やSIMフリー市場への展開、気になるVRデバイス「Vive」の今後についてお話を伺った。
グローバルモデルそのままに「HTCらしさ」へ回帰
――今回発表された「HTC 10」はグローバルでは発表済みのモデルですが、違いをお聞かせください。
玉野氏
今回の「HTC 10 HTV32」は、ハードウェアはグローバルモデルを踏襲しています。背面のロゴなどのデザインを除いて、筐体の材質やオーディオ、カメラ、無線設計などハードウェアの構造はすべてグローバル版と同じです。
大きな違いは、「試験」と「ソフトウェア」です。「試験」というのは、auのネットワークにきちんと最適化させたという意味です。グローバルでみても、LTEでこれだけ多くの周波数帯(バンド)を使っている国はありません。他の国では使わない周波数帯を利用不可にすることもありますが、日本では多くの周波数帯でテストを重ねています。
「ソフトウェア」では、KDDIが多くの分野で商流を広げるなかで、上位レイヤーの部分に繋がるサービスとして、auのアプリを多く搭載しています。ただし、Android OSレベルでのカスタマイズは、電話機能など、必要最小限にとどめています。
――グローバル版と同じハードウェアにしたことで、今まで注力されてきたおサイフケータイに非対応となるなど、デメリットもあると思います。
玉野氏
確かに、グローバル版と同じハードウェアを使うという判断は、おサイフケータイや防水など、結果として、日本で求められている機能を捨てることになりました。
その一方で、最近のHTCは「HTCらしさ」を失っている、という危機感がありました。HTCらしい部分に回帰しないといけない、と。その思いを込めて、まずはHTCファンが本当に喜ぶスマートフォンとして「HTC 10」を提供することになりました。
そうなりますと、日本向け機能の不足をカバーしてなおかつ有り余る魅力がなければならない。ボディのフルメタル化や、ガラスを一体化したユニボディ構造など、魅力的なハードウェアにするのはもちろんです。
加えて、Quick Charge 3.0の充電器やハイレゾ対応のイヤホンを同梱しています。グローバルで同じハードウェアで提供していることもあり、お買い得なハイスペック端末に仕上がっています。
カメラ、オーディオへのこだわり
――カメラ機能では「ウルトラセルフィー」をアピールされていますが、インカメラが最大のウリでしょうか。
玉野氏
今回はアウトカメラ、インカメラ両方に力を入れています。インカメラで求められている機能を突き詰めていったら、結果的にアウトカメラと同じように暗所撮影に強く進化した、ということです。
インカメラに光学式手ブレ補正を搭載したのは、使い方を考えたら必然のことで、手持ちで自分撮りする時に一番有効だからです。今回、手ブレ補正機構が小型化したこともあり、ようやく搭載できました。また、みんなで撮れるように画角を広くしています。
アウトカメラも、1200万画素でこれまでで最大のピクセルサイズ(1.55μm)のセンサーを搭載しています。これは、1世代前の高級コンデジに匹敵するレベルです。あくまでスマートフォンのカメラですから「一眼レフ並み」とまでは言えませんが、一眼レフカメラをお使いの方にもサブカメラとして十分満足いただける「高級コンデジ並み」のレベルに仕上がっています。
――今までもオーディオにこだわっていましたが、「HTC 10」ではどのようにアップデートされましたか?
玉野氏
私を含め、社内にオーディオマニアが多く、音にはこだわりを持っていました。実は、企画段階では高級ポータブルプレイヤーで採用されている「DAC」(Digital to Analog Converter)をそのまま搭載してしまおうという案がありました。
それはスペースの問題で実現できませんでしたが、その代わり、クアルコムのオーディオチップをベースに作りこみました。それが思いの他上手くいきまして、もう一押しと増幅アンプも設計しました。増幅アンプはイヤホン用とスピーカー用に2つ搭載していまして、同梱のイヤホンでも十分楽しめるようになっています。
オーディオのチューニングにもこだわっています。その中でも特に面白い機能が、「パーソナルオーディオプロファイル」です。人はひとりひとりそれぞれ音の聞こえ方が違います。この機能はその人にあった聞こえ方を調整してオーディオを楽しめるというものです。
また、内蔵のスピーカーは前面上部と底面に2個設置して、ステレオスピーカーとしています。上部のスピーカーは高帯域中心、下部は低帯域中心になるよう調整していまして、それが相まって広い帯域で綺麗なサウンドを再生します。
――USB 3.0のType-C端子を搭載されたのも、チャレンジングな取り組みですね。
玉野氏
microUSBの端末は多く、ケーブルも手に入りやすいのですが、過去には裏表を間違えて挿してしまって端子部分を壊してしまうという事例がありました。その点Type-Cならば、裏表を気にせず使えるため、安全な上に利便性が向上します。
ケーブルも家電量販店ではあまり見かけませんが、オンラインショップでは出回ってきています。現時点での採用機種は少ないですが、将来性を考えて、「今でしょ」と採用しました。
Type-C端子を採用することで、USB 3.0で高速に通信できるというメリットもあります。ちなみに、今回端末に同梱しているType-Cケーブルは、充電用とうたっていますが、USBの2.0相当の速度で通信できます。
――読者に向けて「HTC 10 HTV32」のここを見てほしいというポイントをお聞かせください。
玉野氏
まずはHTCのひとつの完成形とも言える「メタルボディ」の仕上げを手に取って見てください。マット仕上げと鏡面仕上げの組み合わせたフォルムにも相当な工程をかけていまして、これだけシャープに仕上げているメーカーは他にはないのではという仕上がりになっています。
見た目からは意外に思われるかもしれませんが、実際に持ってみると軽く仕上がっているのもわかると思います。今回ハイレゾ対応のイヤホンにチャージャーと、同梱品も充実していますので、実際に触ってみるとそのお買い得感が実感いただけると思います。
ミドルレンジ帯のハイスペック端末に意欲
――昨年「Desire」シリーズをSIMロックフリー端末として提供されましたが、オープンマーケットでは今後、どのように展開されますか。
玉野氏
「Desire」シリーズを投入した際には、販売しながらどのような市場規模になっているのか、どのような価格帯が動いているのかという動向を調査する意味がありました。
残念なことに、オープンマーケットで売れているのは1万円~2万円台の価格帯が主力で、この価格帯から少しでも上に触れると売れないという市場環境でした。弊社の「Desire」シリーズも、ラインナップの中ではスペックを抑えた方とはいえ、1万円~2万円台を少し外れる位の価格帯ですので、厳しい状況でした。
今は、価格はお買い求めやすいミドルレンジ帯で、しかし性能はハイスペックな端末を提供して、新しい市場を開けないかなと考えています。
――3万円台ですか?
玉野氏
そうですね。グローバルでも3万円台が激戦区になると思います。オープンマーケットの今後の展開にも、ご期待ください。
「HTC Vive」は近い将来、モバイル化も……
――HTCといえば最近は、パソコン用のVRヘッドセット「HTC Vive」でも注目されていますが、モバイル向けの展開も想定されていますか。
玉野氏
当然、モバイル化も念頭に置いています。時期は決まっていませんが、近い将来にはお知らせできると思います。「Vive」についてはまず、パソコン向けから提供を開始した経緯からお話しさせてください。
弊社はもともと尖った技術を突き詰めたいという社風がありまして、「Vive」は弊社のトップとValve(バルブ)社のトップが意気投合して提供した製品です。パソコンに接続して使うゲーミングデバイスということもあり、かなりハイスペックなものになっています。
なぜハイエンドゲームから始めたかというと、「ガッカリ体験」をしてほしくないからです。
例えば、スマートフォンで一時期「3D」が流行った時期がありました。しかし、体験してみるとコンテンツが少ない、思ったほど驚きがない、といった様子で、気づいたら忘れ去られていた。
しかし、VRは少し違います。ゲームでも、今までにない臨場感を体験できます。また、ゲームに限らず、工場で作業工程を案内したり、医療チームが手術をシミュレートしたりとさまざまな産業で応用されています。
弊社が「Vive」をまずはハイエンドゲーム向けに提供したのは、充実したゲーム環境で「ガッカリしない体験」をしてほしいからです。モバイル化する時には、「Vive」の特徴の「ルームスケールセンサー」はもちろん、コンテンツもパソコン向けのものを移植できるようなシステムを用意する予定です。ご期待ください。
――最近、携帯電話を作っていたメーカーが、ドローンやロボットなど、いろいろな分野に展開していますが、HTCは今後、どのような分野に進出しますか。
玉野氏
技術を追求する社風だけあって、私も知らないうちにいろいろな分野に手を出していたりしますが(笑)。ひとつには、ヘルスケア分野ではしっかり取り組んでいこうと考えています。
ヘルスケアといっても、歩数計の延長のようなものではなくて、アスリート向けのトレーニングに活用サービスです。昨年から、米国でスポーツ用品メーカーのアンダーアーマーと提携してサービスを展開しています。
腕につけるバンドや胸につける脈拍計など、アスリートの邪魔にならないようなセンサーが用意されています。トレーニング終了後にスマートフォンを介してトレーニングデータをアップロードするのですが、アップロード先はアンダーアーマーのプロ向けのサイトになっていて、コーチから適切なといったサービスです。東京オリンピックもありますし、日本での展開も考えていきたいというところです。
ひとつ言えるのは、今後、どのようなサービスを提供するにしても、サービスの核にはHTCの持つをモバイルを中心とした技術があるということです。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。