インタビュー

「ELUGA X P-02E」担当者インタビュー

「ELUGA X P-02E」担当者インタビュー

フルスペック、5インチスマホの秘密を探る

 1月30日に発売された、NTTドコモのパナソニック製Androidスマートフォン「ELUGA X P-02E」は、5インチフルHDディスプレイ、1320万画素CMOSカメラ、1.5GHz駆動のクアッドコアCPU、32GBストレージ、2GBメモリ、そして防水・防塵など、ドコモの2013年春モデルの中で、最も多くの機能をサポートした“全部入り”のハイエンドモデルだ。

 また、春モデルの5インチのフルHDディスプレイ搭載モデルでは、最も横幅が短く、持ちやすさを追求。パナソニック独自のホームアプリも片手で操作しやすくなるよう、配慮された設計が取り入れられ、片手利用の“ワンハンドユース”を強く意識した仕上がりだ。

 一方、前シーズンの2012年冬モデルにパナソニックのAndroidスマートフォンの姿はなく、2012年夏モデル以来の登場となった。半年ぶりにリリースされた「ELUGA X P-02E」は、パナソニックの精魂が込められた機種でもある。今回、「ELUGA X P-02E」の開発担当者で、プロジェクトマネージャーの富家渉氏、商品企画担当の渡辺和伸氏、機構設計担当の古川勝久氏、カメラ担当の池田昌央氏に話を聞いた。担当者からは、開発時の裏話や、「ELUGA X」に搭載されているオススメ機能などが語られた。

“言い訳しない機種”にしたかった

――「ELUGA X P-02E」は、春モデルのなかで最もサポートする機能が多い、全部入りの機種となりました。こうした性能にしようと考えた、その経緯から教えてください。

商品企画担当の渡辺氏

渡辺氏

 この機種の企画がスタートしたのは1年ちょっと前のことです。スマートフォンへの参入が遅れたパナソニックでは、スマートフォン市場でのブランドをまだ築くことができていません。ここはしっかりと最先端の機種をつくりあげる必要があると考えました。これは、販売の現場からさまざまな意見をいただいたことが影響しています。

――それは非対応の機能があると、ユーザーに選んでもらいにくい、ということでしょうか。

渡辺氏

 そうです。2012年のパナソニック製スマートフォンは、LTE非対応だったり、赤外線やワンセグなどの日本向け仕様に非対応だったりしていました。薄型でデザインに注力した機種も、当社としては自信を持っている機種でしたが、販売実績という面では苦労した部分がありました。2011年には価格を抑えた機種も投入しましたが、これも厳しい結果でした。こうした実績から、現在のスマートフォン市場は、「全部入りが当たり前。その上で特徴を打ち出す」という側面があり、そこに向けた機種を提供する必要がある、と考えたのです。

――これまでの実績と真っ正面から向き合って、ということですね。そうして完成した「ELUGA X P-02E」は、確かにこの春、最もハイスペックな機種に仕上がりましたね。

渡辺氏

 デバイスメーカーさんとの連携を強化して、「この時期にはこれが最先端」というデバイスを先行して採用したことが効を奏したのだと思います。ただ、開発途上には仕様変更・追加もあって、技術陣には頑張ってもらいました。デバイスも、ギリギリまで最新のものを搭載できるよう取り組んでいたのです。

富家氏

 難易度が高いことにもチャレンジしました。ドコモさんからも、その時点で欠けている部分に対して貴重な意見をいただき、「真の全部入り」を目指しました。

サイドキーは途中で追加

――途中で仕様を変更した部分、あるいは“欠けていた部分”とは、どういったことでしょうか?

富家氏

 大きな点としては「サイドキー」ですね。新たなキーの提案を考えていたのですがサイドキーに変更して利便性の向上を図ることになったのです。

――本当ですか? それはちょっと驚きです。パナソニックのスマートフォンでは、以前から“片手での利用”を重視していました。今回の「ELUGA X」のサイドキーも片手で持ったときに操作しやすい場所にありますから、最初から狙っていたのだと思っていました。サイドキーはそんな簡単に追加できるものなのでしょうか?

後から追加されたというサイドキー
メタルフレームとは干渉しない形でサイドキーを搭載

古川氏

 いえいえ、機構設計としては、サイドキーなしバージョンがほぼできあがっていた時点でのリクエストで、かなり大変でした(笑)。

――側面にキーが設けられるということは、筐体の剛性に影響するのではないかと思いますが。

機構設計担当の古川氏
メタルフレームで剛性を確保。ディスプレイも保護する

古川氏

 そうですよね。しかし今回はサイドキーが追加されても剛性には影響していません。「ELUGA X」の側面は、金属パーツを採用した「メタルフレーム構造」を採用しています。サイドキーは、メタルフレーム構造に影響しない形で追加しているのです。もちろん最初は追加しようとしても、到底入れるスペースはない、と思いました。押して操作するものですから、一定の面積が必要ですが、開発中には「必要な大きさを確保できないかもしれない」と弱音を吐いたこともありました(笑)。今振り返ると、同時に「サイドキーあり」と「サイドキーなし」、2つのモデルを同時に進めていたようなものです。

――メタルフレームはディスプレイの横に線が入っているように見えますね。

古川氏

 そうですね。側面を保護していますので、万が一落下した場合、メタルフレームがない場合と比べて格段にディスプレイが破損しにくくなっています。たとえばちょっと落下して、ディスプレイのガラスにほんのわずかなひび割れが入ると、そこからピキピキピキと全体に割れ目が走ることがあります。こうした事象はメタルフレームによって防ぎやすくなっています。

ハードとソフトで目指した「ワンハンド」

――横幅が狭く、手のひらに当たる背面は丸みを帯びた形状です。持ちやすさを追求し、片手での利用を強く意識したことが伝わってきます。

渡辺氏

 フルHDの5インチディスプレイ、そしてクアッドコアCPUというスペックは最初に決まっていた点です。その上で、パナソニックのスマートフォンとしての特徴をどうするか。今回は、持ちやすさを目指し、そのためにディスプレイは狭額縁を目指しました。メタルフレーム構造は狭額縁を実現するための仕組みです。もちろん今春モデルはフルHDの5インチがトレンドになると思っていましたが、その中でも68mmという横幅はトップに立てると自信を持っていました。そして、春モデルが発表され、実際に5インチディスプレイ搭載の春モデルで最も横幅が狭い機種となりました。

 あわせて片手で操作しやすいよう、ホームアプリなどのユーザーインターフェイスにも工夫しています。これまでも片手での利用、“ワンハンドユース”にこだわっていましたが、さらに進化させようとデザイナーや技術陣とさまざまな議論を重ねました。

プロジェクトマネージャーの富家氏

富家氏

 その中には、今回、ボツになったアイデアもあります。当社のホームアプリはアプリ一覧(ドロワー)が画面下半分だけに表示されるのですが、上方向にフリックすると、もう一段、ドロワーが広がる、というアイデアがあったのです。しかしドロワーを画面下半分にしていたのは、5インチという大画面でも片手で利用しやすくするためです。ここは変に欲張らずにいこう、ということでドロワーをさらに一段広くするというアイデアは採用しないことにしました。

――なるほど、画面の下半分に集約して片手で利用しやすくする、ということですか。ただ、初めてのフルHDディスプレイ搭載機種として、画面の広さを活用するという考え方もありそうです。

渡辺氏

 そこは確かに「せっかくの大画面をフルに使おう」という声はありました。しかし最初から一番重要視していた「片手での利用」というコンセプトには忠実に従い、シンプルな形にしておくことが、ユーザーへ一番伝わるのではないかと考えたのです。

――片手利用に向けたホームアプリのほか、もう1つのオリジナルホームアプリである「ケータイモード」は、従来型のフィーチャーフォンのメニューを再現していて、ユニークな操作メニューになっていますね。

渡辺氏

 「ケータイモード」もまた試行錯誤を重ね、ユーザー調査を何度も行って開発してきたアプリです。開発途上ではもっと多機能なものも検討しましたが、さきほど同じくシンプル志向に徹して、途中でばっさりと機能を削減していきました。

 フルスペックな「ELUGA X」に、フィーチャーフォン風メニューというのは、もしかしたら違和感を持ってしまわれるかもしれません。しかし、年齢を問わず、どの世代でもスマートフォンを利用したいという要望はあります。そうした方に向けた“スマートフォンの入口”の1つがケータイモードです。こうした機能をショップで紹介していただき、「ケータイモードがあるので買った」という声も寄せられています。

アプリ一覧を画面下半分に表示するパナソニック製のホームアプリ
フィーチャーフォンのメニューを踏襲した「ケータイモード」
ケータイモードでメニューキーを押すと、シートを切り替えられる

富家氏

 ちなみにケータイモードは、ホーム画面にアプリのショートカットやウィジェットを、ユーザーが貼り付けられません。その一方で、実は“複数のシート”を用意して選べるようにしています。シートを切り替えることでショートカットやウィジェットを切り替えるような形になっているのです。

渡辺氏

 ケータイモードでも、Androidですから最初はウィジェットやショートカットを貼れるようにするといった考えはありました。しかし、スマートフォンに慣れていない人にとって、知らないうちにウィジェットが移動してしまって、戻せなくなるなど、使いこなすのが難しいこともあります。ですから、あえてケータイモードでは、ウィジェットは貼り付けられないようにする、ということにしたのです。

カメラのUIとチューニング

――ハードも、操作メニューも片手での利用を強く意識したもの、ということですが、カメラアプリもまたそうした形になっているのですね。

カメラ担当の池田氏

池田氏

 そうです。従来機種のメニューについては、普段からデジタルカメラを使う人、逆にケータイで撮る人、どちらにとっても中途半端で「直観的ではない」という指摘をいただいていました。そこで今回はカメラの操作メニューを一新してシンプルな形にしています。

――UI以外では、従来から大きな変更はないのでしょうか。

池田氏

 いえ、画質は念入りにチューニングしています。というのも、液晶ディスプレイがフルHDと、より高精細になり、新方式の液晶ということで、当社の従来機種よりも視野角が広くなっており、色の再現性が向上しているのです。チューニングの結果、「ELUGA Xのカメラで捉え、ELUGA Xの画面に表示されている風景は、ユーザーの目で見ているものと同じ」になったと自負しています。できるだけ、ユーザー自身の目で捉えている風景と同じ明るさ、同じ色味になる形にチューニングしているのです。

――目で捉えたものと同じ風景、ですか。

シンプルな形にしたカメラのUI

池田氏

 はい。かつては現実の色よりも、“味付け”を濃くしている部分がありました。しかし、カメラセンサーの性能が向上し、ディスプレイも綺麗になってくると、濃い味付けのチューニングでは、綺麗な写真には見えなくなってしまいます。実は、「ELUGA X」も最初はその路線でチューニングをしていたのですが、これではちょっと違うと。

――では、いざ写真を撮る時に、これまでとの違いを感じられるような、わかりやすいポイントはありますか?

池田氏

 「顔」ですね。特に夜景をバックにしたポートレードでは、違いを実感していただきやすいです。また、リアルタイムでの暗部補正機能を強化しています。これまでの機種では、暗く潰れていた陰の部分は、明るく鮮やかに再現して、ダイナミックな風景の撮影も楽しんでいただけます。

――そのほか、ユーザー側で一工夫できるポイントはあったりするのでしょうか?

池田氏

 一部の操作メニューをカスタマイズすることで、より本格的なデジカメ風の操作にできます。カメラを起動してメニューボタンを押すと、「カメラ」「動画」「設定」「カスタマイズ」という4つのタブが表示されます。このうち、「カスタマイズ」を選ぶと撮影画面で上下フリック(上下のどちらかの方向で指をなぞる)、左右フリック、ショートカットの割当を変更できます。たとえば左右フリックは、初期設定でセピア、モノクロ、トイカメラ風などを選ぶ「マイカラー」という機能が割り当てられています。ここを「露出補正」にすると、デジタルカメラの操作感に近くなる、といった感じですね。

操作の割当をカスタマイズ
左右にフリックして露出補正を切り替えることも

――なるほど。今日はありがとうございました。

関口 聖