インタビュー

KDDIに聞く

KDDIに聞く

LTEを地下鉄でも展開、カバー率に表れない取り組みとは

 KDDIは「4G LTE」としてLTEエリアの拡充を進めているが、その中でも注目されるのが地下鉄への取り組みだ。この1年で各キャリアが本格化させている地下鉄の駅間トンネルのエリア化だが、KDDIは、LTEサービスの開始と時期が重なったこともあり、3G+LTEでのエリア化を前提として進めている。これは「4G LTE」を開始するにあたって戦略的に進めてきた施策だという。KDDIの担当者に、LTEと地下鉄の取り組みについて聞いた。

 取材には、KDDI コンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス戦略部 LTE推進グループリーダー 課長の佐々木秀則氏、KDDI 建設本部 auエリア統括部 計画推進グループ 課長補佐の桑山直樹氏の2名に応じていただいた。

KDDI コンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス戦略部 LTE推進グループリーダー 課長の佐々木秀則氏(左)、KDDI 建設本部 auエリア統括部 計画推進グループ 課長補佐の桑山直樹氏(右)

地下鉄は4キャリアの共同設備でエリア化を推進

 地下鉄の駅構内は現在までに3Gでひとまずエリア化が完了しているものの、「駅間」のトンネルのエリア化が急速に進んでいるのは、2011年末からで、ここ1年ほどの話だ。

 地下鉄における携帯電話のエリア化にあたっては、地下特有の事情も影響している。というのも、地下鉄の駅構内およびトンネル内は、地上のようなオープンエリアではなく、多くは移動通信基盤整備協会などが管理している閉鎖的なエリアだからだ。地下鉄として公共の空間ではあるが、エリア構築においては屋内と同様の扱いになっており、地上と違って対策を講じなければ電波はまったく入らない。地下ということで、エリア化にあたっては地上の基地局から回線を引き込む特別な工事を行う必要があるほか、各キャリアが独自にアンテナを設置することも事実上できないため、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・アクセスの4キャリアが共同で、アンテナなどの共同設備を設置しエリア化を進めている。

 2011年末から本格化している地下鉄の「駅間」のエリア化のニュースが、いずれも4キャリア共同のニュースリリースとなっているのも、移動通信基盤整備協会と共に各キャリアが共同で設備を構築しているためだ。このため、駅間のトンネル内のエリア化のスケジュールは、各キャリアが自由にコントロールできるものではないという。

 では駅間のトンネルのエリア化が最近になって本格化したのは何故なのか。さまざまな事情が考えられるが、KDDI 建設本部の桑山氏は「一番の要因は地下鉄の中で、数時間しか作業ができないこと」と指摘する。かなり長い期間、駅間のエリア化で準備してきたとのことで、各キャリアの方針をすり合わせるといった調整も時間が必要だったというが、実際の作業においては、トンネル内での事前調査を含め、共同設備のために作業を行えるのは、地下鉄が運行していない夜間の数時間に限られるという。こうした特異な事情もトンネル内のエリア化が遅れた要因のひとつになっているようだ。

au、駅間は基本的に3G+LTEでエリア化

KDDI コンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス戦略部 LTE推進グループリーダー 課長の佐々木秀則氏

 地下鉄の駅間のエリア化という話題に絞れば、4キャリアともに環境は同じということになるが、KDDIとしての特徴はどこになるのか。KDDI コンシューマ事業企画本部の佐々木氏は、「LTEの当初からの計画として、地下鉄のエリア化を戦略的に進めてきた」と語る。LTEでは最後発となったKDDIだが、「屋内でもシームレスに使いたいと、ユーザーが求めている」とし、実際にユーザーにアンケート調査を行っても、高速通信を利用したいエリアとして自宅の次に多いのが、地下鉄の駅や駅間のトンネル内だとする。

 共同設備としてトンネル内などに設置されるのはアンテナが主体で、そのアンテナに対し、各キャリアが用意した設備を接続し、実際に電波が送信されるようになる。このため、3Gのエリアにするか、LTEのエリアにするかは各キャリアに委ねられている状況だ。KDDIでは、現在本格化している駅間のトンネル内のエリア化については、原則的に3G+LTEで構築していく方針。また、地下鉄の駅構内は、すでにすべての駅が3Gでエリア化されているが、2012年内にはほぼすべてLTE化する予定という。

駅構内の3Gも順次LTE化

 地下鉄路線の駅構内については、すでに3Gでエリア化が完了しているが、KDDIでは地下鉄駅構内についてもLTE化を進めている。地下鉄の駅構内のLTE化の割合は、2012年末の時点で関東が99%、北海道が100%、東北が88%、名古屋が98%、関西が81%、福岡が100%、全国でみると94%になる予定。さらに2013年3月末になると、関東、北海道、東北、福岡が100%、名古屋が98%、関西が96%、全国でみると99%と、さらに拡大する。

 地下鉄の駅間の単純なエリア化については、前述のように4キャリア共同の取り組みとなるが、2012年12月末時点で全国の約47%、関東では約57%がカバーされる予定。2013年3月末時点になると、関東の地下鉄の駅間は90%弱がエリカとしてカバーされる見込みとなっている。

地下鉄の「4G LTE」、Android、iOSでエリアの差は無し

KDDI 建設本部 auエリア統括部 計画推進グループ 課長補佐の桑山直樹氏

 KDDIは「4G LTE」としてサービスを提供しているが、実際にはAndroid端末が対応する1.5GHz帯、800MHz帯、iPhoneなどが対応する2GHz帯の、3つの周波数帯で提供されている。佐々木氏によれば、地下鉄のエリアは800MHz帯、2GHz帯の2つの周波数で提供するとのことで、提供開始日に多少のズレはあるものの、地下鉄に限ればAndroid、iOSでエリアの差は無いという。

 複数種類の周波数で提供されるとなると、周波数特性により電波強度など品質の差が気になるが、共同設備のアンテナや設置場所は、一般的に直進性が強い(不利な)周波数帯でも問題なくエリア化できるよう設計されているとのことで、エリア化されたがほとんど電波が入らないというケースは少ないと想定されている。地下ということもあり、地上のようにほかの電波が干渉するといった外的要因が少なく、環境としては安定しているとのこと。

 通信速度については、共同設備として構築されたアンテナのほとんどは3Gの時代に検討されたもので、高速通信の実現に必要なMIMOに対応していないという。このため、アンテナ設備がMIMO化されると、KDDIにおいてはLTEを下り最大37.5Mbpsで提供できるとする。今後はアンテナのMIMO化を、各キャリアと連携して検討・推進していきたいという。

 共同設備に接続する、KDDIが設置している各種の装置については、地上側の設備と変わらないパフォーマンスを実現するものとのことで、収容人数が劣るといったことはないという。こうしたことから、地上から地下鉄駅構内、駅間のトンネルに至るまで、地上と同じようにシームレスに利用できるとする。

地下街、一部区間が“地下にある”路線もLTEに

 地下鉄での取り組みは、屋内施設などと同様に人口カバー率や実人口カバー率といった、従来の切り口でのエリア(%)には含まれない。地下は周囲から電波が入らないので、「やるかやらないか、0か1かの世界。我々の独自戦略として進めてきた」(佐々木氏)という。地下鉄とは異なるが、地下街も同様に、人口カバー率には影響しない屋内の枠組みの取り組み。KDDIでは、3G対応済みの全国80カ所の地下街についても、LTE化を進めていくとしている。

 なお、ニュースリリースなどでエリア化が発表されるのは、例えば関東では都営地下鉄や東京メトロなどの地下鉄の路線で、進捗率などもこうした地下鉄の路線を対象にしている。一方、都市部では、地上の路線でも、一部の駅や駅間が地下にある路線がいくつか存在する。関東ではモノレールや、小田急線、田園都市線の一部区間など、いくつかが該当する。KDDIではこうした通常の路線の地下にある駅やトンネルに加えて、JR四ツ谷駅近くの御所トンネルなど地上にあるトンネルも含めて、一般的な地下鉄同様に、移動通信基盤整備協会などと連携してエリア化とLTE化を進めていく方針。

太田 亮三