インタビュー

「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」開発者インタビュー

「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」開発者インタビュー

IGZOにより省電力性能も向上させたフラッグシップモデル

SH-02E

 今冬、シャープはドコモ向けに、フラッグシップモデルの「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」を投入した。SH-02Eは、プロセッサーやカメラなどのスペックが優れているだけでなく、モバイル向けにも優れた特性を持つ「IGZOディスプレイ」を世界で初めて搭載したスマートフォンでもある。

 今回はこのSH-02Eの魅力について、シャープの通信システム事業本部 パーソナル第一事業部 商品企画部 副参事の高木健次氏と同商品企画部の田中陽平氏に聞いた。

フラッグシップに求められる要素

――まずはSH-02Eの製品概要からお願いいたします。

田中氏
 夏モデルの「AQUOS PHONE ZETA SH-09D」の後継モデルになる、シャープのドコモ向けフラッグシップモデルで、「ZETA」の名前を冠しています。

 昨今のスマートフォンにおけるフラッグシップモデルには、主に2つの流れがあると考えています。1つは画面の大型化です。SH-09Dでは4.7インチでしたが、今回のSH-02Eは4.9インチに大型化しました。さらにIGZOディスプレイを搭載していますが、こちらについては後ほどご説明します。

 大画面化についてですが、スマートフォンにおいて画面は見やすさだけでなく、使いやすさにも関係します。タッチパネルですので、画面は見るだけではなく、操作するデバイスでもあります。画面はスマートフォンにおいて、非常に重要なインターフェイスデバイスですので、力を入れています。

 フラッグシップモデルにおけるもう1つの流れは、ハイスペック化と高機能化です。プロセッサーやカメラ、システムメモリーの性能や搭載量は右肩上がりに増え続けています。この点については、SH-02Eではシャープとしては初めて、クアルコムのクアッドコアプロセッサーを搭載しました。システムメモリーも2GBを搭載しています。カメラについては画素数を16.3メガピクセルまで向上させ、光学手ぶれ補正機能も搭載することで、カメラのハイスペック化の流れに乗せています。

 こうした流れに加えて、操作性へのニーズもあります。お客様の望まれる最高の機能を網羅し、快適に操作できること、これが国内のハイエンドモデルの流れだと考えています。また、さらにもう1つ、顕在しつつあるスマートフォンへのニーズとしては、電池の持ちというものがあります。しかし、顕在化しているのですが、ハイスペック化の流れもあり、電池の持ちに対するアプローチが十分にできていない状態でした。ハイスペック化により、高速なプロセッサーやLTE通信、大画面化などが前提となっていますが、それらは電池消費を増やす要因にもなっていて、電池の持ちというニーズに逆行しているという面があります。ここをどうにかしないと、次のステップには進めないかな、と考えました。

 ここで電池容量を大きくすると言う手段もありますが、それだけだと本体がただ大きくなってしまい、ユーザー満足度を下げてしまいます。この問題に対する解として、シャープではスマートフォンに新しい価値をもたらすべく、新しく開発したIGZOディスプレイを搭載しました。IGZOディスプレイを中心として、ハイスペックなプロセッサーとカメラ、大きな電池と省電力機能など、最先端の技術を盛り込み、ハイスペックとスタミナを両立させるスマートフォンとして完成させました。

IGZOの実力

消費電力比較モデル。液晶部分とバックライト部分のそれぞれの消費電力がわかる(単位は不定)

――IGZOディスプレイには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

高木氏
 IGZOとS-CGシリコン、CGシリコンのそれぞれの液晶を搭載したスマートフォンの消費電力を比較した実機モデルをこちらにご用意しました。ごらんのように、静止画表示時の消費電力が大幅に低減しています。IGZOディスプレイでは、静止画表示時、液晶の制御サイクルを最低1Hzにまで落とします。いわば液晶のアイドリングストップです。このIGZOディスプレィを採用したSH-02Eは、従来機(2011年冬のSH-01D)との比較において、連続静止画表示時間で約4.8倍、連続動画再生時間で約2.8倍を達成しております。

 また、画素当たりのトランジスタのサイズが小さいので、バックライトの透過率が従来の1.2倍となり、バックライトの消費電力(明るさ)を下げつつ、同じ明るさで表示することができています。

 このIGZOディスプレイを搭載したSH-02Eでは、典型的なお客様の使用状況を想定したシナリオだと、実利用時間で2日間を達しています。これに加えシャープ独自の「エコ技」機能により、実利用時間をさらに27%アップさせられます。

手書きメモアプリを搭載

 また、IGZOディスプレイは液晶の制御信号からのノイズを小さくできるので、静電容量式のタッチパネルセンサーの精度を向上させることが可能です。手書きメモアプリを搭載しているほか、イヤホンマイク端子に装着できる細さのミニタッチペンも試供品として同梱します。

――液晶の駆動サイクルを落とせるということですが、動画再生時に、その動画のフレームレートに合わせたりすることは可能なのでしょうか。

田中氏
 IGZOを含むSH-02Eの表示システムが、コンテンツに応じてフレームレートを自動的に調整しています。つまり、動画再生時はその動画のフレームレートにあわせて最適な駆動をしています。

――省電力のために手動で30フレームや10フレームなどに固定したりはできないのでしょうか。

田中氏
 検討としてはありましたが、フレームレートを落とすと、見栄えや操作感に影響を与えてしまい、それでは大事なものを見失ってしまうのでは、ということで搭載していません。

内蔵電池なので接点や筐体など余計な構造がなく、よりシンプルで薄い

――電池の容量も増えていますね。

田中氏
 IGZOディスプレイは省電力が特徴ではありますが、SH-02Eでは内蔵電池も改善しています。まずSH-09Dよりも容量を22%増やしました。今回、電池は内蔵式で取り外せないのですが、液晶・電池・基板の順番で重ねて実装しており、ご覧の通り、非常に大きな電池となっています。また、急速充電にも対応しています。

――電池を内蔵式にしているのは、やはり薄型化のためなのでしょうか?

高木氏
 そうですね。本体の薄型化と電池の大容量化の両立を狙いました。

――基板が一番裏側にあることはクアッドコアプロセッサーの発熱なども影響があるのでしょうか。

シャープの高木氏

高木氏
 そこはとくに関係ありません。気をつけなくてはいけないのは、基板が外側に近いことよりも、局部的に熱くなってしまうことですが、SH-02Eではボディ全体で徐々に熱を発散するように設計しています。プロセッサーについては負荷の少ない普通の処理ではフル回転させないようにも調整しています。

――カメラはどのように強化されたのでしょうか。

田中氏
 シャープのフラッグシップモデルというと、液晶とカメラが2大機能だと一般のお客さまにも認知していただいているので、ここは手を緩めるわけにはいきません。カメラについてはデジタルカメラレベルのものにこだわりました。デバイスとしては、暗い場所にも強い、1630万画素の裏面照射型センサーを搭載しています。

左がSH-02E、右がSH-09Dのカメラモジュール。厚みも増している

 実際のカメラモジュールをこちらに用意しています。モジュール自体のサイズは、SH-09Dに搭載していたものに比べると一回り大きいのですが、これは光学手ぶれ補正機能搭載によるものです。光学手ぶれ補正機能は、SH-01Dでも搭載しておりましたが、ユーザー様からの評価が大変高く、手ぶれ補正は電子式より光学式が良い、というお声をたくさんいただいていました。光学手ぶれ補正は非常に強力なので、ユーザー様に強く訴求していきたいポイントです。

 光学式手ぶれ補正に加え、電子式の手ぶれ補正も搭載しています。暗所において、ISO感度を上げることでシャッター速度の低下を防ぎます。さらに声でシャッターを切る「ボイスショット」という機能を搭載しています。これにより、シャッターを操作する瞬間に手ぶれを起こすことを防いでいます。

背面トントンで始まる音声操作

シャープの田中氏

――音声による操作機能も加わっています。

田中氏
 新しいUIへの取り組みとして、「音声」をキーワードとしました。SH-02Eでは、スリープ中でも、背中を「トントン」と叩くと音声コマンドの入力状態になります。電話がかかってきたときは、「もしもし」と答えれば出られるとか、カメラでは音声でシャッターを切ったり、ズーム操作ができるなど、音声操作を強化しています。

 どうして音声操作を強化したかというと、まずその理由の1つは、大画面化にあります。大画面になっても、狭額縁設計と角に丸みをもたせることで、片手でも握りやすくしていますが、それでもどうしても操作しにくい、という人が出てきてしまいます。そのような人のために、片手での操作を補助するものとして、音声で操作できるようにしました。

 ほかのスマートフォンの音声認識機能だと、ボタンを押したり、アプリを起動したりする必要がありますが、そうした操作も省こうと考えました。それが「背面トントン」です。これならば左右どちらの手でどのように持っているときでも操作できます。とくにこれからの季節、スキーなどで手袋をしていても、手袋をはずすことなく、音声だけで撮影までできます。

――スリープ中に「トントン」で起動できるのはちょっと不思議です。加速度センサーに常に通電されているのですか? そうなると消費電力的に不利なのでは。

高木氏
 今回、専用のセンサーを新たに作り、従来型の加速度センサーとは別に新たに低消費電力な専用のセンサーとして設けました。これを賢く制御することで、待受中に通電し続けられる省電力なものとするとともに、誤動作を低くすることに寄与しております。

――音声によってロック解除もできるようですが、これはどのような機能になるのでしょうか。

田中氏
 音声ロック解除用のパターンを登録します。登録した本人の声でないと解除できない仕様になっています。

――音声操作はドコモの「しゃべってコンシェル」に機能的に重複する部分があるのではないか、とも思いますが。

田中氏
 しゃべってコンシェルは情報検索から文字入力までできる便利なサービスです。こちらの音声操作からしゃべってコンシェルを起動することもできるので、うまく連携させてより快適に使っていただければと考えています。

クアッドコアCPU+2GBのメモリーでより快適に

――プロセッサーにはクアルコムのAPQ8064を搭載されていますが、こちらを採用した理由とは。

高木氏
 クアッドコアで低消費電力や小型化が進んでいるところ、あとはこれまでのMSM8960の開発リソースが活かせることなどから総合的に判断しました。

――システムメモリーが2GBになっていますが、こちらは使っていると差が出そうですね。

高木氏
 そうですね。これによりメモリー不足によるご不便をおかけするシーンは大幅に減ると思います。

田中氏
 システムメモリーはいくら積んでいる、という声をユーザーからいただくことがあるので、シビアに受け取り、容量を増やしました。
――このほかの機能は?

田中氏
 カタログにいろいろ書いていますが、クアッドコアのプロセッサーを活かすアプリケーションとして、モンスターハンターのアプリをプリインストールしています。Bluetooth 4.0に対応し、カシオ計算機のBluetooth Smart Ready対応G-SHOCKなどにも対応しています。Wi-Fiは今回、5GHz帯にも対応しました。

 また、通話用レシーバーは、スピーカーを搭載するのではなく、前面パネル全体が震えるダイレクトウェーブレシーバーを搭載しています。こちらに実機を用意していますが、前面のディスプレイの裏側に圧電アクチュエーターを搭載し、パネルごと振動させています。

写真では本体に透明なジャケットカバーを付けたまま卓上ホルダに載せている

――卓上ホルダにもちゃんと対応されていますね。

田中氏
 今回、同梱する卓上ホルダは、一部のサードパーティ製カバーをつけたままでも利用できるようにしました。これは、製品発売に先立ち、カバーのメーカーとお話をして、カバーを装着していてもはまるように、固定するツメ部分が開口しているようになっています。SH-02Eはストラップ穴がない構造なので、カバー側にストラップ穴をつけるようにしてもらったり、ケースメーカーと一緒に取り組みました。

――SH-02EはAndroid 4.0を搭載していますが、Android 4.1へのアップデートの予定は。

高木氏
 検討しているところです。

フィーチャーフォン「SH-03E」も用意

SH-03E。幅広い層をターゲットとし、4種のカラーが用意される

――今回、冬モデルとしてはフィーチャーフォンもラインナップされていますが、ドコモ向けでは2つだけと、いつものシャープのラインナップ感からすると若干少ないイメージもあります。次シーズンにたくさん、という感じなのでしょうか。

高木氏
 まだ言えることはありませんが、ご期待いただければと思います。また、シャープは秋モデルとしてAQUOS PHONE si SH-01Eもラインナップしています。SH-01Eはフラッグシップと変わらないスペックでコンパクトなものを、ということで企画しています。

――フィーチャーフォンのSH-03Eはどのようなモデルになるのでしょうか。

高木氏
 昨今のマーケットではハイエンドモデルのユーザーはスマートフォンに移行しています。そこで、通話を中心に使えるお求めやすい商品をご提供したいと考えました。また、スマートフォンとの2台持ちの方もまだいらっしゃると思うので、2台持ちにしてもおかしくない端末、と考えました。できるだけ幅広いユーザーに合うように企画しています。

 携帯電話といっても、操作感がもっさりしているとダメなので、CPUには1.2GHzの高性能なものを搭載しています。前衛モデルとなるSH-11Cは500MHzだったので、かなり速くなっています。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

白根 雅彦