Xperia ray 開発者インタビュー

フィーチャーフォンからの移行を狙うコンパクトモデル


 NTTドコモから発売される「Xperia ray SO-03C」は、日本市場の女性をターゲットにしたカラーバリエーションやサイズ感が特徴の、ソニー・エリクソン製のAndroidスマートフォン。グローバルモデルとしても展開されるこのモデルがどのようにして企画され、開発されたのか。

 ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズで商品企画を担当した田中氏、同社 R&Dマネジャーの坂本氏、同社にてデザインを担当した鈴木氏に話を伺った。

 

サイズやデザインを重視しながら高機能

左から鈴木氏、田中氏、坂本氏

――まず、「Xperia ray」の位置付けを教えていただけますか?

田中氏
 ソニー・エリクソンとして大きく3つのラインナップがあります。まず、Xperia arcやacroなど最新OSや機能を搭載して素早く市場に投入していくフラッグシップで、次にXperia neo(海外向け)やrayなど、手に馴染みやすいサイズのカテゴリーです。これは、最新技術を入れながらも、手に馴染みやすいサイズ感を両立させていくラインナップです。このほか、例えば防水モデルのXperia activeといった、ターゲットユーザーをよりフォーカスした端末がラインナップされるカテゴリーがあります。日本国内ではこれまで、XperiaやXperia arc、acroなどのフラッグシップを投入することで、ソニー・エリクソンらしさをアピールできたと思います。

 今回のXperia rayは、今後スマートフォンが普及期に入っていく中で、フィーチャーフォンでもサイズ感やデザインを重視したモデルを使っていた人が選びやすいスマートフォン、という観点でドコモさんと合意し、提供することになりました。

 機能はXperia arcと遜色なく入れることができ、最新技術はもれなく入れているのがポイントです。手に馴染むコンパクトさを追求するため、ディスプレイのサイズだけは、端末のサイズ重視で選定しています。

 サイズでこだわったポイントは、フィーチャーフォンで“(使いやすい)神の数字”と言われていた幅51~52mmをターゲットにした点です。今回は53mmという端末の幅に入れられる最大サイズのディスプレイとして、3.3インチのディスプレイを採用しています。手にしてもらうと、フィーチャーフォンのように手に収まる感じが体感していただけると思います。

 ディスプレイの品質については、Xperia arcを踏襲し、クリアブラックパネル、モバイルブラビアエンジンを搭載していますし、カメラはXperia arcなどと同じ裏面照射型CMOS採用のカメラモジュールを搭載しました。HDMIの出力端子は、サイズ重視のために省略しています。

坂本氏

坂本氏
 ディスプレイは、従来モデルより最大輝度を向上させ、小さくても見やすさに配慮しました。また、本体が小型でタッチセンサーのキーは押しづらいと思われるかもしれませんが、センサーのパターン、コントロールICともに新規に開発して、使いやすくなっていると思います。

――機能面でarcなどを踏襲しつつ、ディスプレイは小型化、最大輝度は向上ということで、電池の持ちはどうなっているのでしょうか。

坂本氏
 液晶の消費電力は小さくしたかったのですが、Xperia arcなどと解像度は同じということもあり、液晶の駆動にかかる電力は同じです。回路やソフトウェアの工夫で、実質的に利用できる時間はXperia arc、acroなどと比較して向上しています。

――グローバルモデルのラインナップとしては、小型の端末がほかにも発表されていますが、今回Xperia rayが選ばれたポイントはどのあたりでしょうか。

田中氏
 我々だけでなく、ドコモさんとの協議の中で決めていることですが、日本市場は、デザインに対する期待度が特に高く、サイズやデザインを重視しながら高機能を好まれるユーザーが多いことが、フィーチャーフォンの時代から顕著なデータとして出ていました。そうした中、ソニー・エリクソンのラインナップの中でそのようなユーザー層に最も合致し、ドコモさんに採用されたのがこのモデルでした。

――Xperia rayのターゲット層は、グローバルと日本市場で異なったりするのでしょうか?

田中氏
 フィーチャーフォンのユーザーをターゲットにしているという意味では共通です。各国のキャリアとの協議の中でターゲットユーザーは微妙に変わってきますが、ドコモさんに関しては若年層、特に女性をターゲットにしたいという意向だったので、グローバルでは4色をラインナップしているボディカラーから、より女性にアプローチできる3色が選ばれています。

――Xperia arcと同等の機能ということですが、小型化されたボディに搭載するにあたって、苦労された点はありますか?

坂本氏
 電池はXperia arcと同じ容量ですが、電池部分以外の体積は、Xperia arcと比べて30%以上、削減しています。小型化は小さな要素の積み重ねなのですが、メイン基板を小型化し、部品の配置も一からやり直し、高さ方向(厚み)についてもどこに部品を配置するのが最適か、やり直しています。

Xperia arc(左)とXperia ray(右)の内部

 

――開発は日本で行ったのでしょうか?

坂本氏
 ハードウェアは基本的に日本で開発していますね。そのほかの細かな部分も、デザインを担当した鈴木のチームとすり合わせを行い、詰めていきました。

鈴木氏
 フィーチャーフォンのユーザーを狙うといったターゲットは決まっていましたし、本体の厚みの目標もあったので、イメージのモックを製作し、平行してどれぐらいのサイズに機能を収められるのか、進めて行きました。

田中氏
 サイズと機能のトレードオフの部分で最後まで課題だったのはフロントカメラの搭載ですね。Xperia arc、acroにも搭載されていないフロントカメラをこの端末に搭載することは難しかったようですが、企画の立場としては製品のコンセプト的に譲りたくはなく、結局どうやって搭載したのか、謎ですね(笑)。

――Xperia rayでフィーチャーフォンからの乗り換えを狙うということは、これまでのXperiaよりもさらに大きな(カジュアルな)ユーザー層を狙うということだと思います。今後、ソニー・エリクソンとして、そういった端末に軸足を移していくことはあるのでしょうか?

田中氏

田中氏
 日本でXperia rayが狙うユーザー層は、数としてはフィーチャーフォンが大半を占めてきた層だと思います。一方、スマートフォンをすでに持っているユーザー層の中で常に最新技術を求めるユーザーがいるのも事実なので、(ソニー・エリクソン全体として)そのすべてを包含する製品ラインナップを組まなければならないとなると、最新技術・OSを搭載しトレンドを追従していく、結果的にはXperia arc/acroのような端末もフラッグシップとして継続して存在することになると思います。

 ただ、国によっては、機能以外のサイズやデザインにおいてユーザーのニーズにフィットしている端末を、メイン端末として販売していくことも、キャリアと戦略を組めればあると思います。

 いろんなユーザーがいますので、ユーザーの選択肢を最大限に広げるというのが、大事なポイントだと思っています。

 

ピンクとゴールドは日本市場を意識

――デザインでこだわった部分や苦労した点は?

鈴木氏

鈴木氏
 初代のXperia(SO-01B)から続いてきた持ちやすいというポイントは守りたいと考えていました。サイズを小さくするので、Xperia arcの背面のような大胆なカーブは引けない。フラットな中でどう見せるかという部分で、側面は平行四辺形のような形とし、パーティングライン(分割線)を斜めに引き、背面側パーツのラウンド量を変えることで持ちやすさに配慮しました。

田中氏
 背面のカバーの色のうち、ピンクとゴールドは日本市場を意識して調整しました。もともと日本市場への投入を視野に入れて開発し、カラーも検討してきました。ゴールドであれば、例えば中東ではもう少し派手な金キラな色が好まれますが、日本のフィーチャーフォンのラインナップとして店頭で見られるような、柔らかいゴールドを選びました。

鈴木氏
 日本だけではなく、グローバル全体でみても受け入れられる色にしていますし、スマートフォンでは珍しい色になっていると思います。

側面の分割線は斜めになっている。写真の上側(液晶側)がアルミ製のパーツPinkとGoldは日本市場を意識して調整された

 

――ほかに、Xperia arcからの進化ポイントはありますか?

坂本氏
 小さいので当たり前ですが、約100gという軽さもこだわったポイントで、10g単位の差ですが、それでも持った感じは大きく変わりますね。

田中氏
 薄さは9.4mmで、小さくて軽く、持ちやすいのがポイントです。

鈴木氏
 2010年から共通の、デザインのベースとなっている「Human Curvature」(人間的な曲線)というデザイン言語があり、それを取り入れていますので、サイズが違っていても、ソニー・エリクソンらしさみたいなところは出ているのかなと思います。スマートフォンは高機能化し、画面サイズも大きくなっていますが、逆にサイズを小さくすることで、先進性みたいなものを入れていけるのかなと。

――ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信には非対応ですね。

田中氏
 今それらの機能が必要な人には、Xperia acroがありますので、Xperia rayではこの機種ならではコンパクトさ、軽さなどを優先しました。もちろん、市場のニーズがあればこのサイズの端末での対応も応えていきたいという考えはあります。

――フロントカメラはこれまでのXperiaシリーズに無いポイントですが、主な目的は何でしょうか?

田中氏
 フィーチャーフォンでは、回転2軸のヒンジで自分撮りをするユーザーも多いと思うのですが、その使い勝手をスマートフォンでも継承するために、フロントカメラを搭載しました。もちろん、将来的なビデオ通話用ということも視野に入れています。

坂本氏
 メインカメラからの切り換えが早く、鏡の代わりにも使えるのではないでしょうか。

――外観にメタルフレームが採用されています。

鈴木氏
 今回、内部にシャーシのような部分にステンレスのフレームを採用し、小型化と剛性の確保を両立しました。外観(側面の液晶側)にもアルミパーツを用いています。

坂本
 これもXperia arcで採用していない手法という意味では、進化ポイントかもしれません。薄型化と軽量化に貢献していますね。

――メタルパーツを使用すると、電波の感度などに悪影響はありませんか?

坂本氏
 初期の段階では、電波に影響があるというシミュレーション結果が出ていたので、形状を工夫し、最終的には全く問題ないレベルになっています。デザインとの兼ね合いもあって、設計として難しかった部分です。

――ソフトウェア面で工夫された点はありますか?

田中氏
 液晶ディスプレイが小さいということで、キーを押しづらいという印象を持たれるかもしれませんが、文字入力時のデフォルトのキー配列を12キーの画面にすることで、ひとつひとつのタイル(キー)の大きいものが、最初に選ばれているようにしました。

 フィーチャーフォンからの乗り換えを意識し、簡単に電話をかけたり、通話履歴をみられるウィジェットを新しく搭載しています。簡単にSMSや通話をすることができ、今までの携帯電話の動作で同じようなことが行えるようになっています。

――これらはXperia ray専用でしょうか?

田中氏
 ウィジェットなどはXperia rayをターゲットに開発していますが、コンセプトが合えば、他のXperiaにも次のソフトウェアアップデートのタイミングで導入していく方針です。

 

女性に焦点、フィーチャーフォンと同程度の男女比が目標

――女性がターゲット、という点がコンセプトのひとつですが、目標などはありますか?

田中氏
 今までのXperiaでは、女性の構成比が低いのですが、一方でフィーチャーフォンでは、おしなべて男女比は半々でした。例えば、あるスマートフォンにおいて、フィーチャーフォンと同程度の男女比になったとしたら、今までにない女性の割合だと思うので、そこをひとつの指針としたいですね。

 Xperiaではノーマルなホワイトとブラック、Xperia arcでは日本向けのピンクを、Xperia acroでは鮮やかなブルー(Aqua)を発売しました。この特徴的なカラーはそれぞれの端末のカラー構成比でいい割合になってきており、スマートフォンを購入するユーザーにもカラーバリエーションに対する需要が高まっていると見ています。今回、こだわったカラー3色の展開で、そうしたユーザーの心をつかめればと思っています。

 例えばフィーチャーフォンでは、ゴールドなら6割が女性、ピンクを選んだユーザーなら8割が女性といった数字になります。Xperia rayのピンク、ゴールド、ホワイトというカラーラインナップであれば、自ずと女性の構成比が上がるのではないかと思います。ゴールドは色味によっても異なりますが、今回は女性をターゲットにした色にしています。

――ほかに、こだわりのポイントなどがあれば。

田中氏
 日本では、片手で電車のつり革につかまって操作するシーンも多いと思うのですが、画面が大きくなって端まで指が届きにくいとか、そういうちょっと使いにくい点を改善できているのがXperia rayだと思います。Xperia rayなら片手で端まで指が届きますから。

コンパクトなサイズは女性の手でも画面の端まで指が届きやすく、ボタンの押しやすさにも配慮されている

 

坂本氏
 「戻る」「メニュー」ボタンはタッチセンサーになっているのですが、指が届きやすく、無理なく押せる配置にしています。あと、女性をターゲットにしている点はありますが、男女ともにおすすめできますので、ぜひ手にとって試していただきたいです(笑)。

田中氏
 デザイン、高機能、サイズと、すべてに自信がある端末なので、この点を重視するユーザーには男女問わず、触れていただきたいですね。

――本日はありがとうございました。

 




(太田 亮三)

2011/8/22 13:01