「N-07A」開発者インタビュー
毎日をスポーツにするケータイで運動する楽しさを
「毎日をスポーツにするケータイ」というキャッチフレーズでNECから登場したドコモのアークスライド端末第2弾は、アートディレクターの佐藤可士和氏の監修により、ビビッドなカラーで、デジタルストップウォッチのようなデザインを待受画面に持つ斬新な仕上がりの端末だ。スポーティな外観同様、その機能もウォーキングやランニングに対応するなど、かなりスポーツよりなものとなっている。
なぜこのような端末が誕生したのか、その背景やこだわりについて、NECのモバイルターミナル事業部 主任の森山祐助氏、同じく商品企画部の馬場治氏、デザイン事業本部 ソリューションデザイン部 チーフデザイナー 兼 第一プロダクトデザイン部 チーフデザイナーの加賀美努氏らに伺った。
■日々の当たり前の動作から運動への気づきに
――まず開発コンセプトを教えてください。
馬場治氏 |
馬場氏
今回の端末のコンセプトは「毎日をスポーツにするケータイ」ということで、「スポーツケータイ」ではなく「SPORTS EDITION」と位置づけております。
運動というとしっかりウォーキングやランニングする人、テニスやゴルフなどをする人などいろいろありますが、今回想定しているのは、どちらかというと、運動は控えめな方です。
運動の重要性は感じているけれど、さまざまな要因から運動する時間が取れないような方、バリバリスポーツをやっているわけではない方に向けて、毎日の通勤でかなりの距離を歩いているんだとか、エレベータや赤信号で慌てて走ってしまうとか、そういった日常の1シーンも、実はランニングであり、ウォーキングであり、運動なんですよと意識していただきたいんですね。
そういった毎日のちょっとした運動の中でもカロリーを消費したり、走った距離がしっかりあるんですよというものを意識して、それを楽しんでいただきたいという狙いがあります。そこで“スポーツのかっこよさ”を取り入れて、日常の何気ない動作も運動のひとつであり、それを通じて運動の楽しさに気づいてもらえるような端末を目指しました。
■アートディレクターの佐藤可士和氏が再び監修
――なるほど。ではデザインの特徴について教えてください。
馬場氏
やはりなんといっても最大の特徴は「SPORTS EDITION」を表現した快活なデザインですね。今回はN702iD、N703iDで非常に好評を得たアートディレクターの佐藤可士和さんに再び監修をお願いしました。
色展開はチェッカーフラッグ柄を全体にあしらった「CHECKER」、鮮やかな赤色が印象的な「VERMILION」、ビビッドな青の「CYAN」、そして「WHITE」の4色ですが、特にチェッカーフラッグというのは、ケータイではなかなかなかった柄かなと思います。
さらに、デジタルストップウォッチをイメージした端末がかっこいいんじゃないかということになりまして、中のコンテンツはフォントのデザインからしていただき、デジタルストップウォッチをイメージしたクールな内蔵コンテンツと色で、スポーティな世界観を表していただきました。
――チェッカーフラッグの柄を採用された理由は?
馬場氏
一見スポーツとチェッカーという部分に違和感を感じられるかもしれませんが、例えばモータースポーツのチェッカーフラッグからボードゲームまでスポーツアイコンとしてチェッカーはしっかり生きています。今回特に「スポーツ」という視点から可士和さんデザインの中で、もっともインパクトがあり、ケータイとの親和性の高い点ということでこのチェッカー柄が生まれました。
加賀美努氏 |
加賀美氏
私は見たときに「どうやって作るのかな」というのが先に立ちまして(笑)。実際携帯としてはかなり特殊なグラフィックでもあるし、これがホントにいいのかなという疑いもあったんですが、やってくうちにこれは絶対あるなと確信しました。可士和さんもよくおっしゃってましたが「スポーティ」ではないんです。本当の“ガチ”のスポーツじゃないスポーツということをかなりいろんなところで強調されていました。ファッショナブルなスポーツのイメージということで「チェッカーフラッグ」なんです。
――作り方に触れられてましたが、べた塗りと比べるとどうしてもチェッカーフラッグは作り方が難しそうだなと思います。
加賀美氏
確かにかなり特殊な印刷技術が必要でした。デザインアイデアを提示され、どうやって作るんだ? とみんなで悩みましたがが、タイミングよく、そのような印刷を可能とする技術にめぐり合うことができました。
実は、単純なチェッカー柄を精密でハイコントラストで印刷というのはかなりハードルが高いんです。要は通常の印刷では黒さが足りないんですね。さらに精密印刷を目指す技術陣の積極性がデザインを実現に導いたと言えるでしょう。
森山祐助氏 |
森山氏
ちなみにスクリーン周りも全部、待受画面と合わせています。外のプロダクトと中のコンテンツをぴっちり合わせるというのは僕の経験では初めてで(笑)。
――これはもう誤差は許されないですよね。待受画面で世界観を合わせるというのはよくありますが、ラインまで含めて柄も一体で合わせるというのはかつてない試みですね。
加賀美氏
はい。
――電池のフタと本体の合わせがピッタリです。FeliCaマークの部分もちょっとでも横にずれると厳しいですね。単純な柄だけに少しでもずれると一発で分かってしまいますが、突起などもデザインの一部なんですか?
加賀美氏
はい。突起もチェックの柄に合わせて位置を決めています。バッテリーをはずすときの目印もチェックのセンターに来るように、逆に柄のほうから決めています。
色にもかなりこだわりをもって取り組みました。前回の機種もそうだったんですが、可士和さんには印刷メーカーにまでお越しいただいて、実際色を最終的に決めるところに立ち会っていただきました。工場でのライン調色というんですが、そこでできあがったものに対して調整を加えていくという作業に参加していただいてます。
■アークスライドを継承しつつ、スポーツ関連のコンテンツをプラス
――並べてみると本当にN-04Aとよく似てるのですが、ハードウェア的にはどのような点が変わりましたか。
馬場氏
弊社ではN-04Aという商品で、初めてアークスライドという弧を描くようなスライドの形状を採用しました。その後継機種第2弾として投入したのがこの商品になります。
ハードウェア的に変わった点といえば、まず一つがキーですね。キーピッチをつめて、かまぼこ型にすることによって押しやすくしました。また、前の機種は裏面に段差があったんですが、そこをフラットにし、よりストイックでスッキリしたデザインに仕上げています。デバイスでいえば加速度センサーが載っています。その他、使いやすさを追求するための変更は行っています。
N-04Aで好評だったキーイルミネーションやタッチセンサーが7色に光るといったところは受け継いでいますし、安心してお使いいただけるように、パネルには強化ガラスを採用しました。
液晶は3.0インチのフルワイドVGA、カメラは3.2Mカメラ、iアプリオンラインや、iアプリタッチといったサービスにも対応しており、iコンシェルといったドコモさんの最新サービスにも対応しています。
――ソフトウェア的な大きな変化というのはスポーツ関連のコンテンツがプラスされたということでしょうか?
馬場氏
はい。「SPORTS EDITION」の世界観を実現するために、それに基づいたデザイン、そしてスポーツを楽しめる機能が搭載されているということが新しい点になります。
コンテンツとしては、佐藤可士和さんにフォントから作り込んでいただいた待受画面や、ちょっとした運動が楽しくなる「Enjoy Exercise」というアプリ、コナミスポーツクラブさん監修のiウィジェット、水口哲也さんという著名なゲームクリエイターの方に作ってもらったサウンドをお楽しみいただけます。
加速度センサーを搭載していますから、例えばワンセグを見ているときに画面を方向けるだけで全画面表示ができたり、撮った写真を見ているときに画面と撮影時の向きに合わせて最適なサイズで見られるといった使いやすさも強化しました。Bluetoothも新たにUDN、OPP、SPPのプロファイルに対応しています。
文字入力機能の「Mogic Engine」も時間連動予測を導入しました。朝に「おは」等入れると、候補として「おはよう」と出てくるなど、時間に連動した予測変換や、マイクロフィルに連携した予測変換が出るようになりました。携帯電話として一番使われている電話機能や、文字入力、メールの部分をしっかり強化した、スタンダードな使いやすさの部分も強化しました。
■「Enjoy Exercise」でモチベーションを維持
――「Enjoy Exercise」についてもう少し詳しく教えてください。
馬場氏
「Enjoy Exercise」は待受画面から直接起動できるアプリで、加速度センサーを使って歩数を検出し、お客様が登録してる自分の歩数とかけ算することで、距離を出していくというものです。そこから時間、歩数、ラップタイム、消費カロリー、脂肪燃焼量などが分かり、グラフ表示もできますので健康管理にも役立ちます。
ただ歩数計と言ってしまうと年配の方のものというイメージを抱かれる方もいらっしゃると思いますので、今回はそうじゃなくて、若い人にもちゃんと楽しんでもらえるものなんですよ、という部分を特に訴求したいと思いまして、名前は「Enjoy」という単語を頭につけた「Enjoy Exercise」にしました。
「Enjoy Exercise」には「WALK」と「RUN」と「SP-VIEW」(スペシャルビュー)という3つのモードがあります。毎日とくに運動したいと思ってるわけではない方でも、歩数計として使いたいという方向けが「WALK」です。単に駅まで歩いているだけでこれだけカロリー使ってるんだとか、実は毎日これだけ歩いていたんだ、それがどれだけの脂肪燃焼量や消費カロリーに相当するのかということが分かります。これは結構楽しいものです。待受画面とも連動しているので、歩数などをリアルタイムに確認できます。
一方で、しっかり走りたいという方のモードが「RUN」です。ポケットに入れて走るだけで、自分の今の平均速度や、ラップタイム、1kmごとのタイム、過去の履歴、距離、時間、消費カロリー等が、走ってるときに全て一つの画面で見られます。今日は何キロ走りたい、何カロリー使うまで走りたい、といった目標を立てていただければ、それを達成すれば表示やバイブでお知らせするといった機能もあります。
単なる数字やグラフだけでは飽きてしまう、どうしてもモチベーションが上がらないという方のために用意されたのが、運動成果を楽しく確認でき、もうチョットがんばろうかなと思わせてくれるコンテンツの「SP-VIEW」です。
日本の大都市圏のメジャーな路線区間を表示して、どこまで移動しているかが分かるBASICモードの「RAILWAY WALK」、毎日何グラム脂肪を燃焼できたかがブタのアイコンで分かるDIETモードの「脂肪燃焼グラフ」、歩いたことで削減できた二酸化炭素の量が分かるLOHASモードの「WALKでエコ」など、運動成果に応じて変化するFlash画像を用意していますので、やる気を刺激できると思います。
コナミスポーツクラブさんに提供いただいたiウィジェットも用意してます。コナミスポーツのサイトに会員登録し、端末で計測した歩数の情報をアップロードすることで、食事を含めた統合的な健康管理が可能になります。
――auが行っているサービスに「au Smart Sports」がありますが、どんな点が違うのでしょうか。
馬場氏
そこは企画を立てた段階からかなり意識していた部分ですね。auさんのサービスは、ある程度しっかり運動する方に、より便利な機能を提案して使っていただくというスタンスかなと考えています。我々は「毎日をスポーツにするケータイ」を意識しています。
私自身もそうなんですが、運動したいんだけど三日坊主で終わってしまうとか、運動したいんだけど忙しくてできないという方に、汗だくになってしっかりランニングするのもいいんだけど、そうじゃなくて「あなたが過ごしている毎日も運動なんですよ」と気づいてもらいたい。そういった立ち位置の違いがあると考えてます。
――GPSや防水機能が搭載されていないのはなぜでしょう。
馬場氏
やや繰り返しになってしまいますが、今回の端末は「毎日をスポーツにするケータイ」をコンセプトに、スポーツのかっこよさや、日常の中のスポーツというものが案外楽しいんですよというのをお伝えしたい機種ですので、防水仕様でGPSつけてというよりも、日常的な使いやすさやデザイン、サイズ感を優先して作り込んだという背景があります。
――なるほど。もしこれでスポーツにハマっちゃった人が出てきて、もっと運動したいと思ってきた場合には、御社もやはり防水機能や、GPS取り入れたモデル、また別の切り口の端末を企画される可能性はあるんでしょうか。
馬場氏
ユーザーさんの声を聞いて考えていきたいなと思っています。
――「SP-VIEW」の見せ方はかなり面白いと思うんですが、ここ部分も可士和さんが関わっていらっしゃるのですか?
森山氏
企画とデザインのベースをNECで考えた後、可士和さんを含めてブレストしながら完成させた感じになっていますね。
――「RAILWAY WALK」は自動的に移動先の地域の路線に変わるのでしょうか?
森山氏
位置情報とは連動していないのでご自分で選んでいただくことになります。現在7大都市、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡。7大都市の主要な路線に対応していまして、何線になるかは毎週変わる仕組みです。1週間でどこまで歩けるかというものですが、山手線一周が34kmなんですね。これが1週間で結構歩けちゃうんですよ。通勤やオフィス内を頻繁に動き回っている方なら回れる可能性高いですね。
――「RAILWAY WALK」鉄道ファンにもウケそうですね(笑)。このほかに継続して運動したくなるような仕掛けは用意されてますか?
森山氏
先ほども少し触れましたが、「SP-VIEW」には「BASIC」「DIET」「SPORTS」「LOHAS」という4つのモードがありまして、選択したモードによってコンテンツが変わってきます。
「DIET」ではその日の消費カロリーを食べ物に置き換えて「今日はケーキ1個分の消費カロリーだった」という感じで表現してますから、女性にも楽しめると思います。「SPORTS」では主要なシティマラソンうやアイアンマンレースなんかも楽しめますよ。
馬場氏
モードはその人の好みだとか運動の目的に応じて選んでいただければ。例えば「私はダイエットしたい」という方の場合、何キロ歩いたかはどうでもよくて、消費カロリーとか、どれくらい脂肪燃焼したんだという結果を知りたいでしょうから、そちらにフォーカスしています。
私自身がこういう機能を使っているときに長続きしない理由はなんなんだろうなと考えました。やはり歩行距離何キロ歩いただけだったらどうしても毎日は見なくなってしまうし、毎日見ないとモチベーションにつながらないので、じゃあ毎日見たくなる仕掛けが必要なんじゃないかというところからこういうものを企画した次第です。
――ちなみにこのデータは端末の中に保存されていると思うんですが、これだけ作り込んでしまうと次に機種変更したときに引き継ぎたいと言われそうな気もしますね。
馬場氏
過去1年分のデータは保存できますが、残念ながら持ち出すということはできません。ただ、コナミスポーツクラブさんのiウィジェットと連携して、コナミスポーツクラブさんのサイトに登録しておけば、次の機種でも同じような仕組みが入りますので、継続してご利用いただけると思います。
――開発過程で、佐藤可士和さんとのコラボレーションの影響というのはありましたか。
加賀美氏
私もクリエイティブスタジオの一員として、デザイン価値探求を担っていますが、改めて可士和さんの好奇心の深さと、製品から広告まで一貫した「SPORTS EDITION」を構築するプロデュース力に影響されました。
N-07Aをよく見てもらうと分かるんですが、面を緩くカーブさせて真ん中だけが高くなるようにしてるんです。それは平らな机の上に画面を下にして置いても音が聞こえるようにという目的で、画面を浮かせるための工夫ですね。
可士和さんのデザインはシンプルさや潔さと言われますが、ユーザー視点の心遣いが随所に散りばめられるからこそ、時代を超えたデザインの魅力となるのでしょう。考えさせられました。
N-04A(左)との比較 |
――ちなみにこの充電端子はシルバーになってますが、通常ゴールドじゃないですか。これもデザイン的な理由ですか?
加賀美氏
はい、そうです。ビビッドな色調を楽しんでいただくために、今回はシルバーを選びました。気づいていただき嬉しいです。
今のエピソードに代表されるように、本当に使いやすさとかデザインとして一番なのか、それをなくしたらどうなるのか、こうしたらいいんじゃないかと切磋琢磨しながら検証するいう作業が続きました。
――なるほど。それでは最後に読者に向けて、一言お願いします。
馬場氏
これまでお話しさせていただいた通り、デザインの細部にまでこだわっているので、使っていただけばいただくほどに愛着がわく端末に仕上がっていると自信を持ってます。
そしてやはり一番はスポーツのかっこよさ、楽しさを再発見して楽しんでいただけたら何よりだと思っています。その役目をこの端末が担えるなら、企画したものとしては本望です。ぜひ手に取ってお試しください。
――本日はありがとうございました。
2009/8/5 16:18