インタビュー

PayPay対応「Samsung Wallet」が2月25日スタート、キーパーソンに聞く

 サムスン電子は、2月14日より最新スマートフォン「Galaxy S25」シリーズを発売。また2月27日には「Galaxy A25 5G」も発売する予定だ。

サムスン電子でSamsung Walletを担当している鈴木氏(中央)、山﨑氏(右)、小川氏(左)

 そして、Galaxy S25シリーズの発売に合わせ、これまで日本ではサービスを展開していなかったサムスン独自のウォレットサービス「Samsung Wallet」を日本にも投入し、2月25日にサービスを開始することとなった。

 なぜ、このタイミングで日本にSamsung Walletを投入することになったのか、また今後日本でSamsung Walletをどう成長させたいのか。日本サムスンでSamsung Walletを担当している、MX事業本部 営業革新Team GTM Group長の鈴木祐介氏、同課長の山崎慶子氏、Mobile Solution Labディレクター、Digital Wallet Part長の小川拓也氏に提供の狙いや開発の経緯を聞いた。

日本でのSamsung Wallet投入が今になった理由

――Samsung Walletのグローバル的な戦略はどういった位置づけですか。また、日本ではどういった戦略で、またなぜこのタイミングで投入することになったのでしょう。

鈴木氏
 グローバル全体でSamsung Walletを広げていこうという戦略があります。これはSamsung Wallet単体でビジネスとして考えているのではなくて、Samsung Walletを使っていただくことでGalaxyの利便性を向上させ、利用者を増やし、Galaxyの世界を広げていくためのツールのひとつとして活用しています。

 日本での導入については、以前から導入の話はあったのですが、グローバルと日本の決済慣習の違いもあって進めづらい物がありました。ただ、Galaxy S25が日本で2月に発売されるにあたって、Galaxyのユーザー体験を向上させるためのひとつの付加価値としてSamsung Walletを(Galaxy S25と)同じタイミングで導入しようということになり、この1年で一気に進めてきました。

Galaxy S25の登場に合わせて日本で導入されることになったSamsung Wallet

――Samsung Walletの日本投入を決めたことに関して、なにかきっかけみたいなものはありましたか。

鈴木氏
 非接触の決済サービスに関しては、グローバルではNFC Type-A/B(いわゆるクレジットカードのタッチ決済)が主流ですが、日本ではFeliCa基盤のサービスが非常に大きな市場です。

 そういった環境の違いから日本ではSamsung Walletの導入に足踏みをしていましたが、日本でも近年NFC Type-A/Bが広がっていますので、その追い風に乗ってやるのがいいと思ったのがひとつのきっかけです。

 もちろん、日本ではFeliCaが主要サービスですから、FeliCaなしと考えているわけではありません。今回は、FeliCaへの対応を待っていると大事なタイミングを逃すと考えてType-A/Bからのスタートとなりましたが、FeliCaについてもぜひとも今後導入の検討を積極的に進めていきたいと思っています。

サムスン電子ジャパン MX事業本部 営業革新Team GTM Group長の鈴木祐介氏

――日本でのSamsung Walletへの対応の取り組みはいつ頃スタートしたのですか。また、Samsung Walletの日本でのスタートをGalaxy S25の発売に合わせた理由は何だったのでしょうか?

山﨑氏
 日本は大きな経済市場ですしキャッシュレス化も進んでいる市場です。また、我々の端末販売においても重要な市場です。ですから、我々の主要サービスもしっかり対応しなければいけないというところから、2023年夏頃にSamsung Walletの対応がスタートしました。

鈴木氏
 メガバンク系や大手流通系など、様々なイシュア(カード発行会社)様とお話しをさせていただく中で、この時期ならいけそうというタイミングと、Galaxy S25の発売に合わせて始めたいというタイミングが、偶然にもいい具合に合致したというのはあります。

 また、サービスをアピールするには、製品の発売のような大きなイベントを活用するのが最適と考えていますので、今回はGalaxy S25の発売に合わせる形となりました。

サムスン電子ジャパン MX事業本部 営業革新Team GTM Group課長の山崎慶子氏

対応決済サービスの獲得について

――日本でのスタート時点では、クレジットカードの対応がオリコのカードのみとなっていますが、それはなぜでしょうか?

鈴木氏
それは、スタートに間に合ったのがオリコ様だっただけです。イシュア様にはそれぞれ都合がありますから、タイミングにはどうしても差が出てきてしまいますが、順次対応作業を進めていただいております。

スタート時点では、クレジットカードはオリコカードから対応が始まる

――イシュアに対応してもらうにはどういった苦労がありましたか?

鈴木氏
 最初に言われたのは、「すでにApple WalletやGoogleウォレットがある中で、Samsung Wallet必要ですか?」というものでした。そこで、グローバルでのSamsung Walletの状況や今後の日本での展開プランや、我々がこれから5年先、10年先に向けて、どれだけSamsung Walletユーザーを獲得できると考えているのか、といったことを丁寧に説明することで、少しずつ理解をいただいていったという感じです。

山崎氏
 Android端末にはGoogleウォレットがある中でなぜ、というところはやはり強く問われました。そういった中、我々の端末に最適化されたUI/UXであるというところや、グローバルではGalaxyの中ではSamsung Walletを使っているユーザーが多いといったところを丁寧に説明しました。しかし、Samsung Walletへの対応は工数や時間のかかる開発になりますので、時間という部分ではかなり苦労しました。

小川氏
 各社様の開発サポートという点では、各社様のシステムが複雑ということもあって、我々が実際に開発のサポートをするとしても、あまりお力になれないという状況でした。ですから、スペックの説明であったり、すでに先行しているウォレットとの違いなどを明確に説明するという形で開発のサポートを行いました。

サムスン電子ジャパン Mobile Solution Labディレクター、Digital Wallet Part長の小川拓也氏

――日本のSamsung Walletでは、コード決済のPayPayに対応していますが、そちらはどういった経緯で対応することになったのでしょう?

鈴木氏
 日本で様々な決済サービスがある中で、FeliCa基盤のサービスは非常に魅力的ですから、導入したいという考えがありましたし、NFC Type-A/Bのタッチ決済はグローバルで広く使われているものですから、そちらも導入したいと考えました。

 そういった中、コード決済が広く普及しているのは日本を含めて5カ国ぐらいと限られていまして、Samsung Walletでコード決済に対応しているのは中国とインドのみですし、ぜひ日本でもSamsung Walletサービス開始のタイミングでコード決済にも対応したいと考えました。

 その考えでPayPayはじめ各コード決済ブランドと交渉を重ねていく中で、直接影響があったはわかりませんが、ソフトバンクが10年ぶりにGalaxy再参入というところも手伝って、PayPayにいち早く対応してもらえることになりました。

 もちろん、PayPay側からSamsung Walletに入る意味について強く問われましたが、そこは何度も交渉を重ねて実現できました。

――PayPay対応で苦労した部分はありますか。

小川氏
 PayPayについては、Samsung WalletからPayPayアプリを呼び出す、ディープリンクという方式を採用しています。これは、交渉を重ねる中で最適な方法がこれだった、という形です。

 実装に関して技術的な苦労はそれほどありませんでした。ただ、クレジットカードなどと並べて違和感のないUI/UXを実現するにはどうすればいいのか、配置するボタンや機能の優先順位をどう付けるのか、といった部分はかなり議論しました。

コード決済のPayPay対応は、Samsung WalletからPayPayアプリを呼び出すディープリンク方式で実現

日本でどのようにSamsung Walletを広めていくのか

――現在、AndroidスマホではGoogleウォレットが広く利用されていますが、そういった中、日本でSamsung Walletを導入するのはどういった戦略があるのでしょうか?

鈴木氏
 サムスンはスマートフォンメーカーでもあり、Samsung Walletのようなサービスを提供する会社です。そして、スマートフォンの開発部隊とサービスの開発部隊は密接に関わっています。ですから、お客様の声を受けて、それに合わせた改善をスピーディに実現できます。

 こういったスピード感のある対応は、スマートフォンメーカーだからこそできるものですし、なかなか真似のできない部分だと思います。そして、Galaxyをお使いの方には、ぜひSamsung Walletをお使いいただいて、その使いやすさやGalaxyの世界観を体験していただきたいと考えて取り組んでいます。

――ユーザーは、Googleウォレットに対するSamsung Walletの明確な優位点がないとなかなか使ってもらえない可能性もあると思いますが、その優位点はどういったところにあるとお考えですか?

山﨑氏
 やはり、直感的に操作できるUI/UXを搭載しているという点です。画面をスワイプアップするだけでSamsung Walletを開いたり、左右のスライドでサービスの詳細を確認したりと、直感的に使えるという部分は大きな優位点と考えています。ウォレットを使ったことがある方なら経験があると思いますが、いくらホーム画面にショートカットを置いて簡単にウォレットを起動できるようにしていても、その店舗で利用できる決済やポイントなどを探すのはかなり面倒で手間取ります。しかしSamsung Walletでは簡単に起動して直感的操作できますので、使いやすさはGoogleウォレットと大きな差があると考えています。

 また、Googleウォレットは全てのAndroid端末に対応できるような汎用的なメニュー構造となっていますが、Samsung WalletはGalaxyに最適化したUI/UXに作り込んでいます。スレート型の端末はもちろんですが、折りたたみ型の端末でも、折りたたんだ状態のカバーディスプレイ側で同じように操作できます。

 これは、端末とサービスの双方を手がけていることの強みです。Galaxy端末に最適化した操作性や見せ方というところは、実際に使っていただけると扱いやすさを実感していただけると思います。

Samsung Walletは、指1本で簡単に開いて、直感的に操作性できる部分が優位点とアピール

――グローバルでは、Samsung Walletはどの程度使われているのでしょうか。また日本ではどの程度の端末で利用できるのでしょうか。

山﨑氏
 グローバル全体では、Samsung Walletが利用できる端末は約4億台あります。その中で、約1億人の方にSamsung Walletを使っていただいています。

 日本では、まずGalaxy S25で2月25日にスタートします。ただ、それ以前に発売されたGalaxyを使われているユーザー様も多くいらっしゃいます。なるべく多くのユーザー様にSamsung Walletを使っていただきたいですから、2021年以降に発売されて、かつOSがAndroid 14以降になっているGalaxy端末であれば、2月28日からダウンロードで順次対応できるように準備しています。

――想定しているSamsung Walletのユーザー層はどういったところですか。

鈴木氏
 おそらく、まずは30~40歳代を中心に広まっていくのかなと思います。ただGakaxy端末も含めて将来的には若年層にも幅広く使っていただけるように認知拡大を図っていきたいと思っています。そういうこともあって、コード決済のPayPayに対応いただけたのはありがたいことだと思っています。

――Samsung Walletの利用促進について、どういった取り組みを行われるお考えでしょうか?

鈴木氏
 まずは我々独自のサービス開始キャンペーンや、パートナーと協力してパートナーごとのキャンペーンを展開する、といったものを検討しています。

 例えば、我々のWebサイトや公式SNSで告知したり、Galaxy端末にプッシュ配信で認知を広める、パートナーごとにポイントを配布する、といったことを考えています。

 また、Galaxy HarajukuやGalaxy Studio Osakaを活用したアピール、端末を販売する通信事業者のショップで告知動画を流すなどして認知を拡大したいと思います。

 また、我々のSIMフリー端末には、基本Googleウォレットは入っていません。Galaxy S25とGalaxy A25にはSamsung Walletのアイコンが入っていて、そのアイコンをタップするとストアからSamsung Walletがダウンロードされるようになっていますので、その点でもアピールできる形です。

――今後の日本でのSamsung Walletの拡張の方針を教えてください。

鈴木氏
 ここ1~2年は主力のサービスであるクレジット/デビットカード決済やコード決済などに力を入れて広げていこうと思っています。中長期的には、交通系カードやマイナンバーカード、デジタルカーキなどへの対応も進めていきたいと思っています。
 対応デバイスに関しては、当初はスマートフォンを優先して対応していきます。Galaxy Watchについては決まっていることはありませんが、すでに対応を進めている国もありますし、スマートフォンを追いかける形で今後対応を検討していきたいと考えています。

――ありがとうございました。