インタビュー

「arrows We」が100万台超え! その理由とこれからをFCNTに聞く

売れ行き好調の「arrows We」開発メンバーに話を伺った

 2021年12月に発売されたFCNTのAndroidスマートフォン「arrows We」。2万円台という低価格でありながら、5Gに対応しているほか、従来のarrowsシリーズの指紋認証や高耐久、洗えるスマホといった基本性能をしっかり受け継いでおり、価格以上の価値を感じられる端末に仕上がっている。

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアで販売され、量販店などのPOSデータをベースにした「BCNランキング」ではAndroidスマートフォンの販売数量シェアでトップにつけるなど、実際の売上も好調のようだ。

 「みんなに、ぴったり 私たちのスマートフォン」を商品コンセプトとし、幅広いユーザー層にマッチする端末を目指してリリースされたこのarrows Weはどのようにして生まれたのか。また、今後のarrowsシリーズはどう進化していくのか。企画・開発などに携わった同社メンバーにインタビューした。

リモート主体のODM製造で、コロナ禍ならではの苦労

――さっそくですが、「arrows We」の開発において苦労したことはなんでしたか。

髙橋氏
 開発が具体的に始まったのは、2021年の4月、日本でコロナが猛威を振るい始めた第4波の頃でした。「arrows We」は国内で企画し、中国のメーカーで製造するODM開発の形で進めてきたものになりますので、コロナの影響を少なからず受けています。

 3年前にソフトバンクさん向けのarrows Uを開発した時もODMでしたが、その時は試作の立ち上げや量産の開始の際には都度現地の工場に行くことができたのが、今回はコロナ禍で渡航できず、国内にいる開発メンバーは一度も中国に行くことはありませんでした。

 3年前に比べるとビデオ会議などリモートでできる環境は整ったものの、スマートフォンという「モノ」を扱うこともあり、我々としては工場から上がったものをすぐにその場で目で見て判断したいと思うもので、それをできない難しさはありました。

 中国には当社の拠点もあり、当社メンバーも何人かいましたが、こちらで実物を見られるのが1週間後や10日後になったりして、向こうではOKと判断していたものが、届いたものを見たらちょっと違うな、というのがあったり。そういうタイムラグが出るところは今回苦労しましたね。

FCNT プロダクト&サービス事業部 開発グループ 主席部長 髙橋英樹氏

――タイムラグがあることで開発のスピード感が欠けてしまうと。

髙橋氏
 そうですね。工場で製造したものに仮に何らかの問題が出てきた場合、試作段階でなるべく早く見つけて、即設計や製造方法を修正するためのフィードバックをかける必要があります。

 以前のODMでも中国の工場に行ってその場でチェックし、フィードバックするという流れにしていましたし、それが理想ではあります。先ほど言ったように中国には当社メンバーのいる拠点もあって、ODMの工場で見ることもできるんですが、電気とか機構設計などの専門エンジニアではないので、全て正確に判断できるわけではないんです。

 そうすると日本に試作機が届いて初めて問題が見つかることもあります。フィードバック自体は電話なり、Web会議なり、メールなりでできますが、輸送時間も必要になりますし、しかもコロナの影響で通関で荷物が止まってしまうこともある。

 試作のたびに1週間、10日間かかってしまうと、やきもきするといいますか、もどかしい思いをすることが多かったですね。

 ただ、従来の国内製造のarrowsと比べて極端に大きな問題が起きたということはありませんでした。それこそ昔は、我々から見ると問題に感じるところが、中国の人にはそう感じてもらえないという意識のずれがありましたが、最近は中国メーカーも日本メーカーとの付き合いが増えて慣れたせいか、そういった意識のずれは少なくなってきています。

 我々にとってもODMによる製造は4~5機種目で、ノウハウもついてきましたし、従来に比べて試作段階での問題は減っている感じがしますね。

――ちなみになぜarrows WeはODM製造にしたのでしょうか。

髙橋氏
 多くのお客様に満足してもらえる性能・機能があり、お求めやすい価格で提供する。さらには3キャリア向けであることを踏まえ、国内工場で作るのと海外のODMで製造するのとでどちらが適切かを考えたときに、今回のarrows WeはODMにすべきと判断しました。

 ただ、今後ずっとローレンジの端末をODMでやっていくかというと、やはりその時はその時で端末の仕様や生産台数などに応じて、都度判断していくことになると考えています。

――FCNTでは、新しい機種については毎回新しいチャレンジをしているそうですが、今回のarrows Weの開発においては何が一番大きなチャレンジでしたか。

外谷氏
 この価格帯で、これだけの機能が入っていて、「みんなに、ぴったり」を実現しているところがまず、チャレンジだったと思います。

 また、arrowsの堅牢性、洗えるスマホ、といったこれまでのarrowsシリーズを踏襲する高品質・高信頼なハードウェアを作り上げるところにおいて、国内製造ではなくODMでやり切るという部分でのチャレンジも相当ありました。そのあたりが一番のチャレンジになっているのかなと思います。

髙橋氏
 それと、結果的にはリモートでもここまでやり切れるんだ、というところは、我々としても非常に自信につながるところだったかなと思います。意図してチャレンジしたことではないんですが(笑)。

外谷氏
 中国の現地にも部隊がありますから、フルリモートというわけではありませんでしたが、現地対応も含め、日本国内に留まらない物作りの可能性も模索していたところでした。

 今回それがうまくいきましたので、これからは製造手法の判断により幅をもたせることができるようにも思っています。

3キャリアで異なるカラー、仕様、アクセサリーの理由

――今回のarrows Weはボディカラーのラインアップが豊富です。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各キャリアで異なる色をラインアップしています。このカラー展開についてはどんな意図があるのでしょうか。

荒井氏
 ボディカラーについては、それぞれのキャリアとの議論を経て決定しています。1つはトレンドを見せるところ、もう1つは商品としては同じでも各キャリアでターゲットが違いますので、そこを見極めて決めました。

 たとえばNTTドコモ向けのarrows Weは、オンラインストアでの限定販売ということで特別感のある「レッド」にしました。

 KDDIは少しシニア寄りを意識して、上品な「ローズゴールド」にしています。

 ソフトバンクは若年層を狙っていきたいとのことで、若々しい鮮やかな「ターコイズ」にしています。

外谷氏
 基本的にはそういった特別なカラー以外のベースカラーを当社から提案して、キャリアごとに狙っていきたい顧客層などがありますので、議論を重ねながら、エクスクルーシブカラーとしてプラスアルファで考えていただいている、ということになります。

――NTTドコモはオンラインストア限定カラー、KDDI向けには独自のアクセサリー類、ソフトバンク向けはeSIM対応と、商品としての展開の仕方も変えていますが、これについてはいかがですか。

外谷氏
 NTTドコモはオンラインショップでの販売を強化していきたいということで、限定カラーを追加で投入する形になりました。

 KDDIはアクセサリー類の販売強化を考えていたこともありますが、3Gの停波が2022年3月31日に迫っていましたので、そのユーザーの巻き取り(移行)も意識しつつ、よりハイレイヤーのお客様にも使っていただきたいと。

 そのためにもオリジナリティのあるアクセサリーにしたいということで、担当者が企画した珍しいパターンなんですが、コロナ禍でテレビ電話する機会が増えたことから、縦置きして使える「手帳型スマホケース」を開発した、ということになります。

 ソフトバンクのeSIMに関しては、arrows We開発当時はソフトバンクさんがeSIMに対していち早くキャッチアップしたいということでしたので、対応することになりました。

 arrows Weという同じ商品ではありますが、展開の仕方についてはキャリアの意向に合わせながらやってきたことになります。

 今後は他のMNO、MVNOとも機会やタイミングが合えばarrows Weを展開していければと思っています。

FCNT プロダクト&サービス企画統括部 プリンシパルプロフェッショナル(アライアンス戦略担当)兼 営業戦略 兼 経営戦略担当 外谷一磨氏

――同じ商品ということで、たとえばeSIMを共通仕様にすることもできたのではないかと思いますが。

外谷氏
 eSIMへの対応はキャリアとしてさまざまな考え方があるだろうと思います。タイミングやターゲットを考えたとき、本当にお客様にとって必要なのかという観点はそれぞれの立場であるでしょう。

 ですので、arrows Weの開発のタイミングではそういう形になった、というふうにご理解いただければ。

――arrows Weの対応周波数は3キャリアそれぞれで異なります。このあたりの周波数対応に関するお考えをお聞かせください。

髙橋氏
 今のeSIMの話ではないですが、それこそキャリアのバンド全てをサポートする端末ができるのが理想ではあります。しかし、端末の位置付け、価格帯などを考えたとき、エンドユーザーが目的を達成できる中で、なるべく安価に提供したいんです。

 たとえばあるキャリアのSIMしか使わない人の端末に、使わないバンド対応が入っていると、どうしてもその分余計なコストが増え、最終的にお客様が手にするときの端末価格に影響します。そのためarrows Weはそれぞれのモデルで異なる対応周波数にしました。

外谷氏
 昨今、対応周波数の拡大が論議の的になっていることは認識していますし、その中でarrowsシリーズにおいてどう対応していくべきかは今まさに社内で検討しているところです。

 ただ、髙橋の話にあったように、単純にすべてのバンドに対応すればいいという話ではありません。コストだけでなく部品の実装にも影響があります。そこはユーザーの方々の声に真摯に耳を傾けながら判断すべきだと思っているので、市場を注視しながら考えていきたいと思います。

出荷台数は100万台超。売り上げ好調の要因は?

――arrows Weの売り上げはかなり好調のようです。御社が把握されているところでは、どれくらいのユーザーに使われているのでしょうか。

外谷氏
 我々からの出荷ベースで見ますと、2022年5月時点で100万台を超える規模になっています。arrowsという1つのブランドの中で、半年間で100万台出荷というのはかなりのハイペースです。

 我々の考える「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」に向けた戦略的な商材として位置付けてはいるものの、実際の売れ行きについては我々が想定する以上の部分もあり、非常にポジティブに捉えているところですね。

――そういったテーマを考えると、フィーチャーフォンからの乗り換えやスマートフォンが苦手な方をターゲットにした製品だと思いますが、実際の購入者の年齢層としてはいかがでしょうか。

荒井氏
 (富士通、FCNTの端末型番の)「F」というブランドの認知度で言うと、40~50代より少し上の方の認知度が高いようで、そういったお客様に多く受け入れていただいていると思っています。

 フィーチャーフォンからの乗り換えのお客様やスマートフォンからの買い換えのお客様については、キャリアによって多少割合の違いはあれど、年齢層としては全体的にバランスの取れている形になっていると思います。

――ズバリ、売れ行き好調の要因はどこにあるとお考えですか。

荒井氏
 比較的安価ではあるものの、お客様が求めているものをひと通りカバーしているからだと考えています。

 arrows Weは、実際に触れてみるとわかる通り、コストパフォーマンスの面で非常にバランス良く仕上がっています。

 携帯電話、スマートフォンの買い換えサイクルが徐々に長くなっていますが、そういったより長く使いたいというニーズに対して、電池の容量が十分にあり、arrowsらしい高い耐久性・堅牢性をもっていることをお客様にしっかりアピールできていて、しっかり受け入れられています。それが結果的に売れ行きに繋がっているのかなと。

外谷氏
 あとは商品の投入タイミングですね。非常に安価な中国メーカー製の5G対応端末も登場し始めていたのですが、日本のメーカーでその価格帯に戦略的に踏み込んでいったのは、おそらくarrows Weが初めてです。そういうタイミングの良さが受け入れられた理由の1つでもあると思います。

 また、「We」というサフィックス(編集部注:接尾辞、ここでは「arrows We」のネーミング末尾を指す)の統一を全キャリアで行ったのがarrowsでは初めてでもありました。

 これまでは各キャリアごとにサフィックスを変えていたところ、arrows Weは商品のデザインからブランドコンセプト、発信に至るまで、すべて統一した初めてのモデルなんです。これがお客様への認知という面で、非常にポジティブに伝わったのかなと考えています。

 さらにもう1つ、製品発表後のネット上での声に加えて、購入後のお客様の声もポジティブで、YouTubeなどのレビュー動画でも多く取り上げていただきました。そういった反響が他のお客様にも伝わり、販売数が伸びているのかなと思っています。

――サフィックスの統一がarrowsでは初めてだったとのことですが、そこにはどんな狙いがあったのでしょう。

外谷氏
 今回は「みんなに、ぴったり 私たちのスマートフォン」というブランドコンセプトがあり、誰にとっても自分ごとに思ってもらえるような商品にしたかったことから、コミュニケーションを統一させていただくために「We」というサフィックスにした、というのが基本にあります。

 もちろん各キャリアとの間できちんとすり合わせをして決めた話でもあります。

 我々のブランドに対する思いを大事に思っていただきつつ、新しい展開やより良い形を一緒に企画できましたし、こうした打ち出し方に対してはきちんとご理解いただいたうえでローンチさせていただきました。

――さきほどユーザーの声、SNSでの反響などが大きかったという話がありましたが、御社内ではどのように受け止めていますか。

荒井氏
 社員、役員も含め、自分たちの商品が市場でどう受け止められているかは、エゴサではないんですけれども(笑)、感度高く、皆でアンテナを張って確認しています。

 会議はもちろん日常の同僚との会話も含めて、そうした声を受けて次の商品をどうしようかという話につながっています。当然ながら、それ以外に定量的な調査もしていて、お客様の思いをキャッチアップし、次に繋げていけるようなスキームをきちんと組み立てています。

FCNT株式会社 プロダクト&サービス企画統括部 プリンシパル クリエイティブ プロフェッショナル 荒井厚介氏

髙橋氏
 ODM先の中国のメーカーの方でも、今回の日本での製品の評判が気になっているようです。Androidスマートフォンのなかではarrows Weが販売数上位になっていることを知り、彼らもかなり喜んでいますね。

外谷氏
 あとはレビューサイトも1つの指標にしています。

 特にエントリーモデルのような価格帯が低い製品は、購入後のユーザーの評価点が日本のお客様は非常に厳しくて、たとえば5点満点中3点前後だったりするんですね。しかしその中でarrows Weは4点を超えている。

 レビューの中身を見ても満足いただいているようで、そういったことが他のユーザーのポジティブな声や実際のセールスにも繋がっているように思うので、手応えを感じているところです。

――SNSや動画サイトなど、若年層が主に利用しているコンテンツでも反響があるようですが、そういったチャネルでのマーケティングについて今後の方針は?

外谷氏
 今のところarrows Weは年配の方も含めて安心してお買い求めいただけるということで、販売ターゲットの1つはそこにあると考えています。3Gユーザーの巻き取りに親和性があるお客様ですので、そこが今は注力している部分ではあります。ですので、そういった方々に向けたコミュニケーション、マーケティング戦略にはなっています。

 しかし、もう少し先を見たときには、「みんなに、ぴったり」というarrows Weのコンセプト通り、若年層の方にも受け入れていただきたいですし、より幅広い認知をとっていくべきと判断したときには、SNSを含めたコミュニケーションはより強化していきたいですね。

 たとえば若年層の方に対して、「スマホデビューするならarrows We」みたいに、考え方を少しずつシフトしていければ。

これからのarrowsの姿。ハイスペックなarrowsは?

――先ほどの話にあったように、中国メーカーからも安価な5Gスマートフォンが出ていますが、arrows Weにおいて安価な端末で5G対応にするということには、どのような戦略的な意味があったのでしょう。

外谷氏
 一番大きな戦略面で言うと、3Gの巻き取り(3Gユーザーを獲得するといった意味)ですね。ここはどのキャリアでも非常に大事な取り組みになってくるのだと思います。

 まずはLTEへのマイグレーション(移行)が考えられますが、LTEもいずれは5Gに切り替わることになります。ですから、今3Gをお使いのユーザーに対しては、5Gへ一足飛びのマイグレーションをarrows Weで体現できないか、提供価値として届けられないか、とも考えました。

 そういう点でも我々としてはチャレンジングな取り組みだったと思います。

――最近は半導体不足や円安など、いろいろな不安定要素が出てきています。2万円台という低価格で販売していく上で障壁になっているところはありませんか。

外谷氏
 かなり厳しい局面を迎えていると思っています。当社だけでなく業界全体、あるいは業界にかかわらずそうです。

 コロナは少し落ち着いた感もありますが、中国のロックダウンなどもあり、オペレーション面では日々苦慮しているところです。

 為替はもう毎日ドキドキしながら見ているのが正直なところですね。

 おかげさまでarrows Weのニーズはかなり高く、商品を切らしてはいけないと感じながら、部材の仕入も含め、かなり高度なオペレーションで対応しています。

 今回のarrows Weについては、商品としての完成度に加えて、お求めやすい価格であることがお客様に受け入れられている理由の1つだろうとも考えています。そのため、我々としてどこまで工夫しながら対応していけるか、日々考えているところです。

――その「高度なオペレーション」について、可能な範囲でもう少し教えていただけるとうれしいのですが。

外谷氏
 半導体はこの1年半ほどは供給難になっています。そんな中でarrows Weは出荷台数が多いですし、長く販売していくものになりますので、ベンダー各社とは部材供給について長期の目線で見ながら進めています。

 また、各キャリアにもいろいろなご協力をいただきながら対応しているところです。

――arrows Weはスペック的にはエントリーモデルですが、最近のarrowsシリーズにはハイエンドがありません。今後のミドルハイやハイエンドに向けた戦略についてはどのようにお考えですか。

荒井氏
 arrows Weのように幅広いお客様に受け入れていただけるラインは、今後も継続していきたいと考えています。日本ではDXがまだまだこれからですし、多くのお客様に新しいデジタル体験を届けていくところは、我々が日本のメーカーとして担っていきたい部分でもあります。

 一方で、お客様のニーズがスマートフォンの普及に伴って多様化していることもあり、市場の動向を踏まえつつ、我々がターゲティングしたお客様にとってのフラッグシップとは何か、ということを常に考えています。

 スマートフォンがもたらすユーザーの体験価値が何であるかを考えたとき、我々のarrowsで今後やっていきたいのは、ユーザー体験を一段アップデートすること、あるいはライフスタイルを提案することではないかと思っています。

 ユーザーの体験価値をどう作っていくのか、その意味である種カテゴリーの創造といいますか、今までのロー、ミドル、ハイという括りではない部分を我々が作っていきたいと思いながら、商品の企画に今取り組んでいるところです。

外谷氏
 Snapdragon 8系のチップセットを積めばハイエンドなのか、6や7だとミドルなのか、4だとローエンドなのか、と。もちろんそういう見方もあると思いますが、実際のところユーザーが得られる体験価値はチップセットだけに依存するわけではなく、端末トータルとしてどうか、だと思うんです。

 チップセットやメモリがスペックとして高くないものだったとしても、ユーザーの使い方によっては満足できる場合もあります。

 そのあたりのバランスはしっかり考えなければいけないですよね。何をもってハイエンドなのか、ミドルハイなのかが、今は少し難しくなってきたというか、わかりにくくなっています。コンセプトも含めもっと明確化した体験価値が必要で、ハイエンドやミドルハイといったような枠に収まらないところを考えていきたいですね。

ハードウェア、ソフトウェアの枠を越えた物作りを目指す

――arrows Weには「FASTウォレット」などの独自の新機能があります。今後のarrowsシリーズの新機能として考えている領域みたいなところが、もしありましたら教えてください。

荒井氏
 我々は日本のメーカーとして、日本にお住まいのお客様がどういった課題をお持ちなのか、というところに常にアンテナを張って、それに対する答えを提案したいと思っています。

 たとえばシニアをはじめとするスマートフォンに慣れていない方のデジタル化を促進するなど、なんらかの課題に対してスマートフォンを通じてソリューションを提供したいなと。

 最近は「FAST」というキーワードでいろいろな機能を提供していますが、お客様の生活をアップデートするようなものとして、どういうものがベストなのか、といった視点から企画開発を行なっているところです。

外谷氏
 たとえば我々メーカーとユーザーの方々が直接的につながる仕組みを、ユーザーにメリットのある形で作りたいとずっと考えていて、ついに2022年2月に「La Member's(ラ・メンバーズ)」というサービスをローンチしました。将来的にはユーザーの皆さんとのコミュニケーションを通じて声を拾い、商品の開発や機能アップにつなげようとしています。

 買い替えサイクルの長期化によって、1台のスマホを長く使っていただいているお客様のニーズに応えていきたいと考えての活動でもあります。買って終わり、売って終わりではない仕組みを作っていきたかったんですね。

 単純なハードウェアとかソフトウェアではないところで、ユーザーの生の声を聞いて改善していく。そういった仕組み作り、ビジネスの検討はこれからもいろいろと考えていきたいと思っています。

――社会的には、昨今はSDGsや環境保護などに関する取り組みが活発化しています。携帯業界でもパッケージのプラスチックを減らすような取り組みなどもしていると思いますが、御社としてはどんなアクションをされていますか。

荒井氏
 それらは避けては通れない課題だと捉えています。他メーカーもそうだと思いますが、当社の製品もかなり以前から外箱はコンパクトにしていますし、1つ1つ、今我々ができるベストソリューションは何かを確認しています。

 できるところからコツコツやっていくことが1つのポイントかなと。

外谷氏
 SDGsと環境問題は密接に関わってはいるものの、分けて語る必要があると思っています。

 まずSDGsについては、我々としては「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」に向けたプロダクト提供が挙げられます。プロダクトを提供した後も、それを使いこなしていただくために、シニアのお客様をサポートする意味で「らくらくコミュニティ」というSNSを展開し、すでに会員数250万人を超えています。

 また、キャリアと連携したスマホ教室も開いて、実際にお客様とお会いしてスマホの使い方をサポートしていますし、訪問型の「らくらくコンシェルジュ」というサービスも展開しています。

 いろいろな側面から、総合的にお客様のデジタル体験を後押しする事業として捉え、日本の高齢化社会に向けた取り組みを進めて、持続可能な社会作りに今後も貢献していきたいと考えています。

 環境問題については、メーカーとして頭の改造をしていかなければいけない局面に来ていると、非常に緊張感を持っているところです。環境への取り組みはこれからおそらく世界全体のスタンダードになっていきます。

 サステナビリティに対しては、我々だけではなくてキャリアや部品ベンダーさんも含め、業界全体で取り組んでいくことになると思います。

 日本に根ざした物作りのメーカーとして、SDGsや環境問題に対応しながら、次の商品に向けた企画、取り組みについて日々議論していますから、それに関連した発表が近い将来にできるといいなと考えています。

――ありがとうございました。