インタビュー

「AQUOS R5G」開発者インタビュー

シャープの5Gスマホ第1弾が登場、5Gにあわせた飛躍的な進化とは

 シャープが、5G(第5世代移動通信システム)に対応したAndroidスマートフォンとして各キャリア向けに開発した「AQUOS R5G」。NTTドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアの5G商用サービス開始に合わせて発売された。

 フラグシップモデルのAQUOS Rシリーズとして前世代の「R3」から、5Gにあわせて名前も連番ではなく「R5G」と5Gをダイレクトに表現した「AQUOS R5G」の魅力を担当者に伺った。

AQUOS R5G

 インタビューには、シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の小林繁氏、同事業部 商品企画部の田中陽平氏、小野直樹氏、中川伸久氏、同事業部 システム開発部の関文隆氏、田邊弘樹氏にお答えいただいた。

上段左から、パーソナル通信事業部 システム開発部の関文隆氏、同事業部 商品企画部の中川伸久氏、同事業部 システム開発部の田邊弘樹氏、同事業部 商品企画部の田中陽平氏、小野直樹氏

5G対応スマートフォンの最初のラインアップに合わせるべく開発

――「AQUOS R5G」は5G対応スマートフォンとして国内で最初のラインアップに登場しました。投入時期として最初に出すことを狙っていたのでしょうか。

小林氏
 実は最初から3月の投入を想定して開発を進めていたわけではないんです。途中でシフトチェンジが入って3月を目指すかたちになり、ものすごく突貫の開発で作り込みました。クアルコムさんをはじめ各所と密にやり取りを行い、各キャリアさんのスペックに合わせてなんとか間に合わせることができました。

――シフトチェンジというと、具体的にはどのようなものだったのでしょうか。

小林氏

小林氏
 やはり5Gというものは次の10年に向けた新しい規格なので、最初のスタートラインに立ちたかったという思いがありました。グローバルで5Gに取り組む列強が並んでいる中で、「5Gに取り組んでいるのはシャープ」という印象を世間にアピールしていくことが大切だと考えています。

 各キャリアさんが総務省から5Gの免許を取得する時から、シャープでも5Gのサービス開始時点で対応端末を投入したいと考え、商用サービス開始の3月に間に合わせるためにペースを上げてきました。

――やはり先頭は大切ですか。

小林氏
 各キャリアさんに免許が交付された段階からペースを上げていき、結果的にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に商品を投入できているのはシャープだけということになりました。

 AQUOSスマートフォンを選んでくださっているお客様は、買い換えるときにもシャープを選んで繰り返し使っていただける方が多いです。お客様に端末を届けるという意味ではいわば社会基盤になっていると考えています。この役割をしっかりと果たすことが、シャープとしても次の10年につながっていくことだと考えています。

――もし先頭に立てなかったら……といった危機感のようなものはあったのでしょうか。

小林氏
 5G対応のスマートフォンは全員が発売からすぐに購入されるわけではないので、先頭でなければ生き残れない、というわけではなかったですね。結果的には、「5Gの商品とはこういうものですよ」という1つの基準点を設けられたのではないかと考えています。

 具体的には使い勝手や性能など、5G対応スマートフォンとしてあるべきものを最初に皆さんに見ていただき、感じていただけたというのがAQUOSブランドそのものにおいても一番価値があったことだと思います。

――今回、senseシリーズで5G対応モデルを出さなかった理由はあったのでしょうか。

小林氏
 今senseシリーズをご利用していただいているお客様が、5Gモデルや最先端の体験を本当にすぐ必要としているかということなど、お客様の特性をよく考えて投入する必要があると考えているため、今回は投入しませんでした。senseシリーズを5G対応にする具体的なタイミングは未定ですが、遅くとも2021年度中にはすべてのAQUOSスマートフォンを5Gに対応する予定です。

8Kと5Gの組み合わせで新たな機会創出を目指す

――AQUOS R5Gのコンセプトについて教えてください。

小林氏
 社内で商品化を進める上で3つの読みがあり、これがほとんど的中したと考えています。まず1つとして5Gは予想以上に盛り上がるだろうという読みがありました。業界全体の動きや、基地局やチップセットのベンダーさん、鴻海のメンバーと会話をしていても、5Gに対する期待は両極端でしたが、実際の市場の反応は非常にポジティブな反応を示す方が多いように感じられました。

 そして5Gにつながるものとして8Kがあると考えています。シャープとしても8Kは盛り上げていこうとしている部分ではありますが、自社としての考えとは別に、動画の進化を考えたところ、8Kというのは必然であったと思います。

 AQUOS R2の頃には、動画をコミュニケーションに活用しているお客様が増えてきていると感じていました。まだ動画を日常的に撮影していないお客様に向けても、動画を撮影するという新たな動機を生み出したいという思いから、動画専用カメラを搭載し、動画主体の使い方を強烈に打ち出しました。

 5Gの時代になると動画はさらに撮影・共有されるようになるだろうと考え、AQUOS R5Gでは5Gと8Kを組み合わせた「8K+5Gエコシステム」のもと、フルHDの16倍に相当する8Kに対応する超広角カメラをAQUOSシリーズで初めて搭載しました。5Gの超高速通信があれば、8K動画のような大容量のデータでもストレスなく共有できるようになります。

パーソナル通信事業部 商品企画部 係長の小野直樹氏

小野氏
 今回注目の新機能として8Kで撮影した動画をスマートフォンで再生する際に、ヒトやイヌなどの被写体をズームアップして再生できる「8Kフォーカス再生」を用意しました。通常再生時は超広角8Kの臨場感を感じられ、フォーカス再生は被写体を大きく捉えた躍動感を感じられる2通りの鑑賞方法を用意しました。また、フォーカス再生で切り出した動画をフルHD動画として保存・共有できる機能もアップデートで提供予定です。

中川氏
 動画撮影ではズーム操作の難易度が静止画と比較して難しいです。静止画ではズーム操作後に撮影しますが、動画では撮影中にもズーム操作を行います。動画の難しさとしては、ズーム操作を動き続ける被写体に追われて撮影に集中できなかったり、手ブレが発生しやすかったり、画面内に大きく収めようとしてすぐにフレームアウトしてしまうということが考えられます。そこで、フォーカス再生では、AIが撮影された動画を解析し、ズームや追従を自動で行うようにしました。

フォーカス再生のデモ。AIが撮影された動画を解析し、被写体の動きに合わせてズームや追従する

「AIライブストーリー」もズームの活用とマルチフレームでさらに進化

パーソナル通信事業部 商品企画部 係長の中川伸久氏

中川氏
 また、撮影した動画をAIが15秒の短編動画に自動編集してくれる「AIライブストーリーPro」も採用しました。AQUOS R3で搭載した「AIライブストーリー」をさらに進化させ、今回もプロのクリエイターさんに協力をお願いし、新たなフレームやマルチフレームへの対応、ズームを活用したハイクオリティーな演出も取り入れました。動画を撮りっぱなしで終わらせないためにも、洗練されて人に見せたくなるような動画を作ってくれるように仕上げました。

小野氏
 ここで他社の8K動画撮影と大きく異なる点として、8K動画の撮影にズーム領域を利用するのではなく、8Kの解像感をしっかり残して撮影するため、広角カメラ側に8Kの専用のレンズ設計を採用しています。8Kと超広角は相性が悪く、一般的には画面の中心から離れていくにつれて被写体のコントラストが不正確になってしまい、解像感も落ちてしまいます。中心から離れた部分の解像感をしっかり残し、コントラストも補正するといった点でレンズの設計には苦労しました。

小林氏
 シャープには自社のグループ内でカメラユニットやレンズ設計を行っているという強みがあると考えています。AQUOS R5Gでは、8K動画にこだわってレンズを設計したので、実際に端末を手に取って、動画を撮影して体験していただきたいところです。

120Hz駆動ディスプレイの先駆者として、ディスプレイも5Gにふさわしいものに

パーソナル通信事業部 システム開発部の関文隆氏

関氏
 ディスプレイも5G時代にふさわしいものに進化させました。映像に限らず本格的な配信コンテンツが増加したことや、モバイルネットワーク環境が高速化することを踏まえて、AQUOS R5Gのディスプレイは「画質」「見やすさ」「省エネ」にこだわって動画視聴に最適なものに仕上げました。

 今回、AQUOSとしては初めて、周囲の環境にあわせてディスプレイの色温度を最適化する「スマートカラーマッチング」を搭載しています。周囲の明るさや色温度にあわせて、スマートフォン側で画質や色合いを最適化し、どんな環境でも同じ印象の見え方になるように調整します。

 また、環境に応じてバックライトを制御し、消費電力を削減する仕組みも取り入れました。従来のバックライトでは、暗いシーンでもバックライトの輝度は常に100%。従来のHDRを適用すると暗くなりすぎてしまったり、暗いシーンでは黒が浮いてしまうという弱点がありました。今回の省電力バックライトでは、表示している画像やコンテンツの種類によってバックライトの輝度を変化させ、同じ見た目で消費電力の削減を実現しました。

上段の端末が画面の輝度に応じてバックライトを制御している状態、下段は制御なしの状態

 AQUOS R3でおなじみだった、「Pro IGZO」ディスプレイや120Hz駆動の「ハイスピードIGZO」、画面の更新がないときは1Hz駆動に落とす「アイドリングストップ」は今回も健在です。

 Pro IGZOの120Hz駆動はただの120Hz駆動じゃないんです。IGZO液晶でしかできない機能として休止駆動があり、リフレッシュレートを画面に触った瞬間120Hzに上げ、静止画状態や触っていない状態では1Hzへ落としていくことで、滑らかさと省電力のベストなバランスが実現しました。

 最近では他社でも続々とディスプレイに高速駆動を採用してきていますが、高速駆動に関してはシャープは確実に第一人者です。高速駆動は4年以上前から取り組んでいるので、他社さんはなかなか追いついてこられないのではないかと思いますね。

パーソナル通信事業部 商品企画部 主任の田中陽平氏

田中氏
 有機ELを採用したAQUOSスマートフォンも出していますが、消費電力と120Hzの高速駆動の両立を考えてIGZO液晶を選択しました。ディスプレイに関していえば、開発を行う上でも最も議論を尽くした場所ともいえます。

独自放熱設計がさらに進化、純銅による新放熱構造を採用

パーソナル通信事業部 システム開発部 課長の田邊弘樹氏

田邊氏
 5G通信への対応により熱源が増えることから、放熱設計の重要度が高まりました。放熱用のブロックとシールドに新たに純銅を採用しました。特にSoCを覆う銅シールドはスマートフォンとしては初めて搭載し、SoCの温度はAQUOS R3と比較して20℃下げる効果が得られました。

 SoCは構造として部品面側(表面、液晶面側)から見て下からCPU、RAMを搭載しています。従来構造では冷却用の金属板はSoCのさらに上に設置していたため、CPUの熱を直上に逃がすには間のRAMがネックとなっていました。AQUOS R5Gでは基板の裏側(リアカバー側)にSoCを配置して、CPUの熱を裏側から銅ブロックを通して金属板に高速で伝導することで、金属板へ移動する熱量は2倍に改善しました。

 AQUOS zeroなどにも用いられている2つの充電ICで充電時の熱を低減するパラレル充電も引き続き搭載し、充電時の発熱はAQUOS R3と比較して約40%低減しました。

AQUOS R5Gの分解モデル。基板中央に銅シールドが確認できる

 ゲーム関連では、AQUOSスマートフォンとしては初めて、ハードウェアとソフトウェアをゲーム向けに最適化した「Snapdragon Elite Gaming」に対応しました。特にゲーム中のカクつきを抑える「Game Smoother」が効果的で、スムーズな動作と高速・高性能なレスポンスを体験できます。開発時も実際にゲームをプレイしてみて、カクつきが抑えられるようチューニングを行いました。

田中氏
 また、ゲーム用の専用メニュー「ゲーミング設定」では、新たに解像度を切り替えできるようになり、高精細表示を優先するか、軽快動作を優先するか、両方のバランスを取るかでパフォーマンス選べるようにしました。

ミリ波対応端末の導入については需要を考慮して投入

――最後に、ミリ波に対応するのは、やはり難しいものなのでしょうか。

小林氏
 技術的には可能です。ミリ波対応のスマートフォンを投入する時期は様子見しながらになるのではないでしょうか。スマートフォンがミリ波に対応するとなれば、お客様が結果的に端末代を多く負担する形になってしまいます。ミリ波への対応と電池持ちへの需要が逆転するタイミングがターニングポイントになるのではないかと考えています。シャープとしてスマートフォンのミリ波への対応はあえて「やらなかった」と言えますね。

――本日はありがとうございました。

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