インタビュー

「Galaxy Note8」開発者インタビュー

目指すは生産性と創造性を追求するユーザーのための最強のスマホ

 サムスン電子が8月にグローバル発表したスマートフォンのフラッグシップモデル「Galaxy Note8」は、9月15日より各地域で販売が開始され、日本での発売にも期待が寄せられている。

 本誌では、サムスン電子の本社がある水原市において同社 グローバル商品企画グループ Senior Professionalのソ・ジン(Jin Seo)氏にグループインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えする。

サムスン電子 グローバル商品企画グループ Senior Professionalのソ・ジン(Jin Seo)氏

商品企画担当者が語るGalaxy Note8の特徴

ソ・ジン氏
 まず最初にGalaxy Note8の特徴について説明させてください。

 Galaxy Note8を企画する際には、基本的にNoteシリーズのユーザーの特性に集中しました。Noteを使うユーザーはどんな人で、どのような機能を使っているのか、どのようなスペックを求めているのかなどを研究して、Note8の主な機能をつかむことになりました。

 まず、Note8では大画面の経験をお客様に与えようとしています。ファブレットの市場を開いた初めての製品ですので、今回も大画面を訴求しました。Note8では「See More, Scroll Less」というコンセプトを採用し、インフィニティディスプレイでより多く見て、スクロールを少なくし、さまざまな情報を取り入れるというコンセプトを採用しました。スペックとしては6.3インチのクアッドHD、Super AMOLEDを採用し、S8と同じインフィニティディスプレイを採用しました。

 Note8での大画面の経験で強調しているのは「Do More」です。Noteを使っているユーザーを研究したところ、マルチウィンドウを使っている人が多かったので、それをさらに強化するために、「App Pair」という新たな機能を追加することにしました。App Pairは、エッジ部分のアイコンをタップすることで、ユーザーが普段よく使っているアプリを2つマルチウィンドウで同時に起動させる機能です。

 実際に車に乗るとき、多くの人はナビゲーションとミュージックのアプリを使っていると予想されますが、このような場合、App Pairという機能を使ってナビゲーションとミュージックのアプリを同時に起動することで利便性を高められます。このほかにも、よく使っているアプリを組み合わせて使うことができます。例えば、YouTubeで動画を見ながらウェブブラウジングを楽しむ方は、YouTubeのアプリとブラウザアプリを組み合わせて同時に立ち上げることもできます。

 次にNoteシリーズの差別化のポイントでもあるS Penについてご紹介させていきただきます。今回のNote8ではS Penの筆圧を4096段階にし、防水や防塵に対応させ、ハードウェア的にも多くの改善を果たすことができました。

 S Penをあまり使っていない人にも日常的に使ってもらうために、新たに「Live Message」という機能を搭載しました。今回は友達や知人とのメッセージのやりとりやインスタントメッセージのやりとりを行う際に、テキストだけでなく、S Penを使って自分が書いた文字を取り込んでアニメーション効果を持たせてメッセージを送ることが可能になります。ギャラリーの写真や画像の上にメッセージなどを書き込むことで、感性を豊かに気持ちを伝えることが可能になりました。Live MessageはGIFフォーマットを使用しているので、互換性の心配もなく、ほとんどのSNSで共有でき、多くの方が使用できることがポイントになるかと思います。実際、私はNote8を手にしてから友達とチャットをする時にLive Messageを使って、自分だけの面白い表現や絵文字として活用しています。

 2つ目に私たちが注力したのは「Screen off Memo」という機能です。Noteを使っているユーザーを調査したとき、ほとんどの方が自分が考えたことをすぐにメモして、Samsung Noteから呼び出す形で使っていることがわかりました。これをさらに使いやすくするために、機能を強化する必要があると判断しました。以前は1ページだけでしたが、今回は最大100ページまでメモできるように改善しました。また、ピンを付けることで確認したいときに画面を点灯させずに確認できるように機能を改善しました。ピンを付けて固定されるのではなく、書き換えることもできるようにしています。

 以前のNoteシリーズでもS Penを使った翻訳機能を搭載していましたが、Note8ではこれも改善しています。従来は単語の翻訳だけでしたが、今回は文章の翻訳にも対応し、日本語にも対応しました。翻訳だけでなく文章内に含まれている貨幣の単位などを皆さんが慣れている基準にあわせて変換できるような機能も盛り込んでいます。

 S Penでは思いついたアイデアや会議の議事録をメモしたり、Live Messageで会話することも可能になっていますが、弊社ではS Penの使い道は絵を描くということにあると考えています。Note8では「PENUP」を使ってカラーリングの機能を盛り込んでいますが、これを使ってさまざまな絵を描くことが可能になります。

 次にNote8で弊社として初めて搭載したデュアルカメラについてご紹介させていただきます。Note8では背面のデュアルカメラで2倍の光学ズームとデュアルOISという仕様となり、手ブレの無いズーム機能を実現しています。

 デュアルカメラを使って「Live Focus」という新しい機能を追加しました。2つのカメラを使ってオブジェクトと背景を分離することで、オブジェクトの方をより目立つようにし、背景の方をぼかす処理をすることで、より美しい写真に仕上げることが可能になります。ボケの強度は、プレビューの時にも、写真を撮った後にも、自由自在に調整できます。人に集中したLive Focus機能を使って写真を撮っても、背景が素晴らしいところではデュアルキャプチャーの機能を利用して背景も一緒に撮ることになるので、一度に2つの写真を撮ることが可能になっています。

 その他、継続的に取り組んでいるところとしては、6GBのRAM、10nmのプロセッサー、GigabitのLTEを採用し、最高のパフォーマンスを提供します。以前からも提供していて市場でもいい反響をいただいている生体認証機能も搭載しています。具体的には虹彩認証、指紋認証、顔認証の3つがあります。S8でも紹介させていただきましたが、Samsung DeXにも対応しており、場所によらず最高のプロダクティビティを実現しています。Gear VRやGear 360など、さまざまなデバイスとも一緒に使えます。やはりユーザーに好評だった防水や防塵、ワイヤレスチャージ、microSDカードスロット、オーディオについても同じ機能を提供します。

 カラーはグローバルで4色展開する予定です。Midnight Black、Orchid Grey、Deepsea Blue、Maple Goldの4色です。

Galaxy Note8

Noteユーザーはプロダクティビティとクリエイティビティを求める

――過去に不幸なことがありましたが、今回のNote8で電流を増やすQucikChargeに対応せず、USB PDのように電圧を上げて安全性を高める方式だけを採用する方法も採れたと思うのですが、そうしないでQuickChargeを採用された理由はどこにあるのでしょうか。

ソ・ジン氏
 バッテリーの安全性を高めるためにアルゴリズムを入れて、「8ポイント・バッテリー安全性検査」という安全性の強化試験を行うことで改善に努めています。実際にS8も発売し、ある程度時間も経っておりますし、同じような事故が無いということは、弊社としてはバッテリーの検査やアルゴリズムがきちんと機能していて、安全に市場に提供できていると自信を持っています。今回のNote8もグローバルで発売して2週間ほど経過していますが、全く問題ありませんので、ご心配なくご利用いただけます。

8ポイント・バッテリー安全性検査

――S8+が出たことでNoteを大画面のスマホとして購入する人が減り、ペンを使いたいユーザーがNote8を選ぶということになると思うのですが、ユーザー数の変化は予測していますか。

ソ・ジン氏
 大画面というところはS8+と同じですが、弊社としてはS8+の大画面を求めるユーザーと、Noteのユーザーが求めるものには差があると考えています。主な差はNoteのユーザーはプロダクティビティ(生産性)とクリエイティビティ(創造性)に重点を置くところです。App Pairでプロダクティブの機能を強化し、デュアルカメラやS Penでユーザーのクリエイティブなニーズを満たせるように取り組みました。

――Noteでより大きな画面を採用するということは検討されなかったのでしょうか。

ソ・ジン氏
 今回のNoteはスマートフォンという特性を諦めることができなかったということもあります。具体的には、大画面だけでなく、片手でスマートフォンを握った時に使いやすいようにしました。バッテリーの容量や、その他のトレードオフになりそうなものを考えて、バランスがとれるように今回のような仕様になりました。

――Note8がペン利用を前提にした端末として、S8と同じ縦長のアスペクト比はNoteとして最適なものなのでしょうか。

ソ・ジン氏
 Noteのユーザー体験を向上させるために他の比率にすることも検討しましたが、Note8はやはりスマートフォンなので、片手で持ったときの持ちやすさも大事なので、18.5:9の比率を維持することにしました。その代わり、平面区間の書きやすさを向上させるために、S8+に比べてディスプレイを大きくしました。Noteとしての使い勝手と持ちやすさのバランスをとったということです。

――グローバルでは4色展開ですが、ホワイトやレッドがありません。グローバルではあまり人気が無いのでしょうか。

ソ・ジン氏
 弊社でカラーを選ぶときには、社内やユーザーのリサーチを行って、モデル別に最適な色を導入することになっていますが、Note8もそのような過程で4色を導入することに決まりました。地域によってニーズがある場合にはピンクを発売したこともあります。

――Note8は195gと少し重い印象です。もう少し軽くしようという考え方は無かったのでしょうか。

ソ・ジン氏
 画面が大きくなり、実装する部品が多くなったことで重量が増加するのは致し方ないのですが、できるだけ軽いスマートフォンにしようと持続的に取り組んでいます。

これからもS Penを改善させていく

――S PenはNote7から変わっていないと思うのですが、その部分のイノベーションが必要無かったのか、あるいはNote7の部材をそのまま使おうということがあったのでしょうか。

ソ・ジン氏
 Note7のペンをリサイクルしようというつもりは全くありません。ペンは端末の色に合わせていますので、Note7で使用しているペンをそのまま流用しているわけではありません。ちゃんと端末のデザインカラーに合わせて新しく作っています。

 Note7のS Penですでにハードウェア的に多くの改善がなされていたものだったので、Note8でもこれを継続することが合っていると判断しました。これからもイノベーションを止めるということでなく、ユーザーが実際のペンのような書き心地を体験できるようにするために持続的に改善に向けて努力していくつもりです。

――ペンを抜かないとペンが使えないという仕様ですが、内蔵以外のペンを使えるようにはしないのでしょうか。

ソ・ジン氏
 実は設定で外部のペンを使えるようになっています。それをオンにすると、消費電力への影響があるので、デフォルトではオフにしてあります。

――モンブラン、ステッドラー以外とのペンでのコラボは今後ありそうでしょうか。

ソ・ジン氏
 Note8においては検討中の会社はありませんが、これから協力できるようなパートナーがあれば、その意志はあります。

最強のスマホカメラを目指して

――今回のデュアルカメラ搭載はトレンドをキャッチアップしたという印象があるのですが、他社のデュアルカメラと比べての優位性はどこにあるのでしょうか。

ソ・ジン氏
 Note8のデュアルカメラの場合、広角レンズ、望遠レンズの2つのレンズを使って深度を把握できるようにしたので、オブジェクトと背景を分離し、より美しい写真の撮影が可能になりました。それから、光学ズームを利用して、きれいにズームして写真を撮れるというように、2つのユーザー体験に集中しました。

 F1.7という明るいレンズを採用しているので、暗いところでもきれいに撮影できます。広角レンズだけでなく、望遠レンズにも手ブレ補正(OIS)機能を搭載しているので、手ブレせずに撮影できます。Live Focusではプレビュー画面で背景のぼかしの調整もできるので、より表現豊かな写真の撮影が可能になりました。Live Focusだけでなく、背景もワイドに撮影できるので、2つともきれいに撮影できるというのが特徴と言えます。

――このタイミングでデュアルカメラを搭載した理由というと。

ソ・ジン氏
 GalaxyのカメラはS7の時から低照度の性能を改善したり、デュアルピクセルなどの革新的な技術で画質を大幅に改善してきました。しかし、ユーザーにはズームや人物が目立つような写真を写したいというニーズがあることが分かりました。そこでNote8でデュアルカメラを搭載することにしました。

――インカメラの強化については、次のS9のためのネタとして取ってあるのでしょうか。

ソ・ジン氏
 Note8では確かに背面のカメラでズームの画質の向上やLive Focusという新しい経験を提供しています。インカメラの改善を検討しなかったわけではありません。S8で好評だったライブステッカーの機能をソフトウェア的に追加改善を行いました。

待たれるSamsung Dexの日本投入

――Note8とSamsung DeXの組み合わせで新しいアイデアは何かありませんか。

ソ・ジン氏
 Note8ではサードパーティとも協力してアプリの最適化を行っています。会議アプリなどではDeXモードで最適化することで、DeX Stationから抜き差ししてもシームレスに会議を行えるように改善しています。S8とNote8でDeXに機能差を設けるようなことはしていませんが、今後は検討していきたいと思います。

――DeX Stationの販売地域が限定されており、日本で買えないのですが。

ソ・ジン氏
 そこは販売をするかどうかいろいろな角度で検討しているところです。Galaxy Studioなどでは試験的にデモをしてアピールしながらユーザーの反響を見ているところです。その上で発売するかどうかを決めて行こうと考えています。

――Galaxyシリーズにおける指紋認証の位置づけは今後どうなるのでしょうか。ディスプレイに一体化するという技術も出てきているようですが。

ソ・ジン氏
 Note8ではS8に比べ、フラッシュやセンサーの位置を変えたり、間隔を調整したりして、指紋認証の使い勝手の改善を行いました。それでも不便だという意見もいただいておりますので、位置の調整やディスプレイでも認証できるようなイノベーションなど、弊社でも絶え間なく努力しています。

――iPhone Xの顔認証機能では、複合的にセキュリティを担保しようとしています。一般的な生体認証は単一のセンサーの反応での認証になっているが、サムスンとしてはそのあたりをどう見ているのでしょうか。

ソ・ジン氏
 弊社としては独自のSamsung KNOXというセキュリティソリューションを設けており、単純なセキュリティ体制ではなく、複合的なレイヤーとして設計させています。これによってユーザーの情報を保護しています。複合的な認証に関しては検討を続けていきます。

――iPhone Xのような精度が高いとされる顔認証方式の採用についてはいかがでしょうか。

ソ・ジン氏
 弊社の顔認証とアップルさんの顔認証では方式が異なり、まず用途が異なります。弊社はどちらかというと利便性を重視したもので、セキュリティという面では虹彩や指紋を訴求しています。そこは考え方の違いです。弊社の製品で言えば、セキュリティのレベルは虹彩、指紋、顔認証の順に高くなっています。金融機関などでは虹彩や指紋が使われています。

 どのメーカーもセキュリティを高くしようという考え方は同じだと思いますので、だんだん進化していくのではないかと思います。

――ありがとうございました。