インタビュー
親の安心、子供の安全第一で“小学校の間ずっと使える”「キッズケータイ F-03J」
IoT機器との連携も実現、進化した子供用ケータイに迫る
2017年3月13日 12:15
2017年3月3日に、NTTドコモから「キッズケータイ F-03J」が発売された。子供に持たせる防犯ブザーの進化版のような位置付けの製品は、前モデルが他メーカーによる提供だったところ、今回は富士通が担当。同社が開発を手がけるのは、2009年に発売された「キッズケータイ F-05A」以来となる。
折りたたみ型携帯電話の形だった2009年当時から大きくコンセプトが変わった今回、単なる子供用のモバイルデバイスとしてだけでなく、IoTという昨今のトレンドにも沿った進化を果たしているようだ。そんなキッズケータイの開発に携わった富士通の担当者に、製品の詳細を伺った。
子供のハードな使い方にも「小学校の間ずっと使える」頑丈さを実現
――富士通としては久しぶりの「キッズケータイ」です。新しいF-03Jのコンセプトと、1つ前のキッズケータイと比べて変わった部分、変わらない部分など、教えていただけますか。
森田氏
あまり表立って訴求してはいませんが、「小学校の間、ずっと安心して使える」というのをコンセプトに考えていました。キッズケータイを使い始める時期は、小学校に入る前の幼稚園からの家庭もあれば、小学校6年生になって塾に通う時からという家庭もあり、ユーザーの年齢は幅広いんですね。それと、小学生の低学年の頃に買ってから、中学生になるまで使い続けるような家庭が多いことも調査でわかってきました。
そうやって長く使い続けられる製品なわけですが、子供って使い方が荒いですから、なくしたり、振り回して飛ばしたりもする。ですので、そういうハードな使い方にも耐えて「小学校の間安心して使える」のを今回のコンセプトと考えたわけです。
前機種と変わらない部分ですが、キッズケータイは安心・安全が第一ですので、そこは今も昔も変わりません。F-05Aの時にあった、安心して使えるようにする各種設定をまとめた「あんしんセット」が象徴的ですが、その思いを引き継いで今回も「あんしんセット」を用意しています。
松本氏
スペックは、大きく向上しています。電池容量を増やし、前モデルより通話・待受時間が延びました。無駄な部品を削減して、電池容量は増やしても端末全体としては軽くしているなど、パワーアップしているところが多数あります。
――最近の富士通製のスマートフォンや、らくらくフォン、らくらくスマートフォン4にはMIL規格に準拠という頑丈さの指標があります。キッズケータイはどういった耐久性能を備えているのでしょうか。
森田氏
キッズケータイもMIL規格の14項目に準拠しています。防水・防塵性能に関しても性能をアップさせ、独自に1.5mの高さからの落下試験も行なっています。
松本氏
従来行っている試験に加え、小学生が使うことを考慮して、ランドセルに取り付けて、振り回して落としたり、ランドセルと地面の間に挟まれたりしても壊れないか試し、問題ないことを確かめました。
塗装はげしない“すっぴん美人”を目指したデザイン
――ボディカラーは青、ピンク、黄色とポップなカラーリングですが、デザインコンセプトはどういったものになるでしょうか。
森口氏
「BLOOM COLOR」というコンセプトで、元気が子供の成長をイメージした発色の良いカラーを採用しています。
一般的には、小さい子供であるほど、色の識別の幅が狭くなる傾向にあると言われています。青だったら、わかりやすいはっきりした青が良いとか。そういった考え方に基き、今回はイエロー、ブルー、ピンクの3色としました。
ブルーは男の子にとっては抜群に人気の高い色で、ピンクもズバリ女の子向けの色です。イエローに関しては、ドコモのキッズケータイとしてのブランドカラーということで、今回のメインカラーとしています。
そのほかにも「色が剥げない」という特徴もうたっています。従来は、アクティブな使い方をしてぶつけると、表面の塗装の色がはげて下地の色が出てしまうんですね。傷が付いてくると、壊れるのではないかと不安に感じてしまうということもあり、今回はカラー塗装はせず、樹脂の素材と色をそのまま活かす作りにしています。そうすることで、長い間きれいなまま使っていただけるようになりました。
――子供の好きな色がずっと長続きすると。
森口氏
カラーリングの好みという点では、小学校の1年生と6年生というだけで志向性が全然違います。長い間使ってもらいたいから、男の子だったらもっとカッコいいとか、女の子だったら大人っぽい方がいいのかなとか考えましたが、初めてキッズケータイを手にする子供にとって受け入れやすいカラーが良いと考え、今回はわかりやすい色を採用しました。
ただし、塗装をせずに彩度の高い色を出すのは難しかったですね。技術的にいろいろなトライを重ねることで彩度の高い色を実現できました。
松本氏
塗装ってお化粧みたいなものなんですよね。キッズケータイについては樹脂そのものを活かすということで、いわば“すっぴん美人”を目指したのがポイントです。生地を活かした、すっぴんの状態できれいに仕上げたという。
――形状の方はいかがでしょうか。デザイナーとしてこだわった部分はありますか?
森口氏
触っていただくとわかるように、今回は“丸み”にすごくこだわってデザインしています。
というのも、小学生は成長とともに志向性が変わっていくという話がありましたが、身体の成長速度も早いんですよね。身長が伸びて、手の大きさもどんどん変わっていくわけです。そのなかでも手のひらに収まる形というのを目指して、上流から流れてきた“河原の石ころ”みたいな、つるっとした形を採用しました。
この形にたどり着くまでには、実際に子供に粘土を握ってもらって、その形を参考にしたりもしました。おかげで、画面以外にはフラットなところがどこにもなく、すぽんと手に収まる、安心して握れる形になったと思います。
見守り、帰宅通知などIoT的な機能が追加
――子供向けの製品は、子供が使うというだけではなく、親の安心感ともワンセットかと思います。今回Bluetoothを活用して子供が離れたことを親のスマートフォンに警告する「みまもりアラート」機能なども搭載されましたが、これも親の安心につながる機能ですね。
森田氏
最近は「見守り系」のIoT機器がいろいろ出てきていて、ビーコンを活用して見守るアイテムもあります。BluetoothやIoTについては世の中の流行というのもあって、そういうのも取り入れて、最新技術を活用したいという考えがありました。
でも元々の想いとしては、やはり安心・安全ですね。腕時計型の「ドコッチ 01」でもすでに「みまもりアラート」機能は提供されていますし、他キャリアの製品でも見守り系の機能はあります。
今までのキッズケータイでは、そこが対応できていませんでした。キッズケータイをIoT機器として捉えて、そういう機能や連携をやってみたいというのもありましたし、ドコモからも要望があって、一緒に議論しつつ進めていきました。
ただ、今回の「みまもりアラート」は、すごく苦労しましたね。子供が親から離れた時は、絶対に鳴らないといけない。扉1枚隔てて離れた時、扉といっても金属製もあれば木製のものもあり、どんな時でも鳴らないようにしないといけません。端末の持ち方や、体に密着しているかどうかによっても、鳴ったり鳴らなかったりしました。親側のスマートフォンの性能や仕様も影響するので、本当にいろいろなバリエーションでテストしました。そのおかげで、かなり精度高く連携できるようになっているはずです。
若山氏
少し付け加えると、Bluetoothを使った機能自体は、他の製品でも搭載されていますし、技術的には確立されている面はあります。ただ、小さい端末ですので、ポケットやランドセルの中に入れたりなど、いろいろな使い方が考えられます。そういうさまざまな使用パターンを十分に評価して動作検証していますので、安心してお使いいただけると思います。
また、今回は親側のスマートフォンで使う「親子のきずな」アプリも用意していますが、キッズケータイとBluetoothで接続し、親側から必要な設定の大部分を行えて、キッズケータイ側ですべき設定は減らしているのも特徴です。
――子供が帰宅した時に、親のスマートフォンにSMSで通知する「おかえり通知」という機能も新しく追加されました。
若山氏
これは、ドコモが提供する「Linking」サービスに対応した「Tomoru」という製品を玄関に置いて、連携させて使うものです。ドコモと密に議論しながら、今回のキッズケータイに搭載することができました。今後は他の機種でも使えるようになる可能性がありますし、弊社としてもこういったところは積極的に取り組んでいきたいと思っています。「Tomoru」は、ドコモショップやドコモのオンラインショップで購入できるようになる予定です。
――親が非常に安心できる端末という印象を受けますが、子供目線で欲しいと思える工夫をされているところはありますか。
森田氏
おっしゃる通り、親や保護者が安心できることの方が、どちらかというと優先度が高いのが実際です。子供に対するものとして、例えばゲームを入れることは可能ですし、会話文もたくさんパターンを増やせます。でもそうしないのは、子供が端末に夢中になってしまうのが問題だと考えているからです。子供は好奇心が旺盛なので、面白そうな機能が搭載されていると、ずっと夢中になってしまうのです。事故やトラブルにつながる恐れもあるので、なるべくそういうことはしたくない。
それを大前提としつつも、そうはいっても子供に「欲しい」と思ってもらえる工夫は、できる範囲でやらなければなりません。ですので、今回は壁紙や時計にキャラクターを取り入れたりとか、目を引いてもらえるような子供の好きな色にするなど、可能な限りの工夫を加えています。
子供の安全を第一に、新たな展開もにらむ
――スマートフォンでは、キャリアがアプリや広告を通じて歩きスマホ防止に取り組んでいます。キッズケータイでも同じような仕組みは可能そうでしょうか?
若山氏
今回はそこまで取り組んではいませんが、できる部分はあるとは思います。
森田氏
キッズケータイのような製品では、例えば誘拐事件の被害にあった際など、万が一の時に想定通りに動く、というのが全てにおいて優先されます。何か1つ機能を追加しようとした時にも、その機能のせいで問題が発生してしまうようだと、製品には追加できないことになってしまいます。
今回搭載しているBluetoothも、例えばオン・オフしやすいように、設定メニューの浅めの階層で切り替えられるようにする案もありました。ですが、子供が勝手に設定を変えてしまい、万一の時に発動しなくなることも考えられます。そういうものは保護者じゃないと設定できないエリアに移動させるなどして、全てにおいて安心・安全を優先して作っています。
ですから、歩きスマホ防止機能の件も、いろいろなケースで元々の機能を邪魔しないという確証が得られれば、我々としてはぜひ搭載したいなと思います。
――その他に新しい機能やこだわったところなどはありますか?
森口氏
端末全体を抗菌仕様としたところですね。今回は塗装で色は付けていないんですが、トップコート(表面処理)で抗菌処理を施しています。これも、安心・安全というテーマに沿ったものです。子供の持ち物はどんどん汚れていくものですが、それが気になるという意見が出ていて、そこを改善する1つのアイデアとして盛り込んだものです。
――ところで、最近では2020年の小学校のプログラミング授業必修化などが話題になることもあります。主に小学生が使うデバイスということで、キッズケータイにも教育に関わる何らかの機能を追加することは考えられるでしょうか。
森田氏
キッズケータイはあくまでも防犯ブザーの延長となるデバイスですので、これをそのまま教育用のデバイスに転用するのは難しいとは思います。ただおっしゃる通り、これを使っていろいろやりたいという保護者の方もいらっしゃいます。そういう方に安心・安全を担保しながら学習にも応用できるような端末を別に考えたいですね。
松本氏
そういう動きは広げていきたいところではありますよね。現在のキッズケータイの範ちゅうに止まらない新しい機能やデバイスを作った時に、それが受け入れられるかどうか、弊社も考えていかなければならないと思っています。
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。