【WIRELESS JAPAN 2010】
ソフトバンク松本副社長、トラフィック対策の重要性を語る


ソフトバンクモバイル取締役副社長の松本徹三氏

 「WIRELESS JAPAN 2010」初日の14日、ソフトバンクモバイル取締役副社長の松本徹三氏が「モバイル通信情報サービスの将来像とソフトバンクの戦略」と題した講演を行った。スマートフォンの台頭などによって爆発的に増加するトラフィックを支えるためのWi-Fi活用、次世代通信規格「LTE」の導入方針などを語った。


偉大なる(!?)、日本型ケータイビジネス

 松本氏はまず、日本の携帯市場の特性を解説。通信事業者自身が端末開発やエンドユーザー向けサポートまでを一括して提供する垂直統合型サービスは、世界市場と比較しても非常に優れたビジネスモデルだと主張する。

 松本氏は「中でも特に重要になるのが端末。ユーザーは『この端末を買ったから、目的のサービスが受けられる』と納得してお金を払う。そのため、端末を開発していない欧米の通信事業者は、(端末開発で圧倒的優位を誇る)ノキアに利益をすべて持っていかれるのではないかと警戒している」と補足する。

 そして現在、アップルのiPhone、グーグル主導のAndroidが割って入ってきている実情がある。海外の通信事業者は以前にも増して「SIMカードを売るだけ、ネットワークを提供するだけの“土管屋”へと追い込まれるだけではないか」という危惧が強くなっていると、松本氏は解説する。

 一方で、通信だけの事業者には、ある意味で気楽さもあったという。「端末の設計をする必要がなければ、在庫管理もない。サービスの可用性も関係ない。ネットワークの建設だけしっかりやれば収入が入るという世界に安住していた」と批判。音声通話サービス中心の時代が終わり、データ通信の重要度が高まる現代には、通信事業者に求められるサービスもまた変化したと指摘する。

日本型の携帯電話サービスモデルは、世界と比較しても優秀だと主張

 “土管屋”への危機感に対抗しうるサービスを、世界で最初に実現したのはNTTドコモだと松本氏は評価する。「サービスとしてのiモードを立ち上げ、端末の高級化を(本来なら門外漢である)通信事業者が推し進めたにも関わらず、それを『囲い込みだ』と批判するのは大変失礼だ」と発言。「競争原理も十分確保できている」とし、ドコモへの敬意を示した。

 また、「通話できない」といったトラブルが発生しても、ネットワーク側のダウンか端末故障かに関わらず、ドコモショップなどの一本化された問い合わせ窓口ですべて対応している点も極めて重要だと松本氏は言及。エンドユーザーが得るメリットも大きく、「こういったシステムを『時代遅れだ』とか『間違っている』とか批判する人は、事の意味をまったくわかっていない」と強く反論。欧米の通信事業者も理想としているモデルであり、ソフトバンクもまた、ボーダフォンから日本国内サービスを2兆円で買収することによって、この魅力的なビジネスに参入したと強調する。

 一方、松本氏は「借金が大きすぎてインフラ投資が遅れているとのご批判をいただくが、それはちょっと当たっている」との反省も見せている。買収前、ボーダフォンの3G投資は欧米流で非常に緩やかだったため、買収を契機に、投資額を倍増。計画も前倒しで行ったが、日本市場においてはそれでも不十分だったと松本氏は振り返る。

 通話エリアのカバレッジ改善するには地道な努力が必要だと松本氏も認めており、改善にはなお時間を要する見込みだ。また、キャパシティー(通話・通信の容量)についても戦略的に取り組む姿勢を見せている。

広告、利用料に次ぐ新たな収益

ソフトバンクでは、データARPUが基本料・音声通話ARPUをすでに超えた

 ソフトバンクでは2008年の第4四半期、データARPUが基本料・音声通話ARPUを逆転した。当時としては世界的に例のない事態であり、同時に「音声通話による収入がいつまで続くのか」という危惧が顕在化。音声通話収入の落ち込みを、データ通信でいかに補うかが、通信業者にとっての大きな課題になったと松本氏は解説する。

 また、インターネットへのアクセスは、これまでパソコンによるものが中心だった。しかし、大手SNS「mixi」で携帯電話からの利用が増加している実例や、非PC系のネットワーク家電の普及などに言及。FTTHなどの固定網か、モバイルかを意識せずにサービスを使える「シームレス化」も求められるという。

 通信事業者にとっては、収入の多様化も大きな課題となる。PCのインターネットの世界ではこれまで広告が大きな位置を占めていた。対してモバイルの世界では、月々の基本料・利用料収入がほとんど。将来的にはこの2つを統合した上で、“仲介料”などを有望な収益源としてあげる。

収入源の多様化、中でもSNSには大きなチャンスがあると指摘

 「広告とは『この商品を買いたい』という気持ちをかき立てるためのもの。より一歩踏み込んで、その場で買ってもらうこともできるのではないか。携帯電話は位置情報も把握しているため、時間帯に応じて必要そうなものを提示したり、近隣の取扱店をナビゲーションすることも理論的にできる。やりようによっては、ケータイが最強のリテール(小売店)にだってなれる」(松本氏)

 さらに松本氏は、今後の大きなトピックとしてSNSの存在を挙げる。Googleは検索と広告を連動させることで消費動向に大きな影響を与え、収益を生み出した。だが、ソーシャルな関係を明確に築いた友人・知人らによる推薦、つぶやきは、広告を上回る影響を利用者に与えていると松本氏は説明する。「Googleがいま一番恐れているのは、Facebookだ」とも断言する。

 このほかにも注目すべきサービスとして、UstreamやTwitterを例に挙げた。中でも電子書籍については大きな期待を示す。「新聞はかさばるが、自分が読みたい部分はごくわずか。電子書籍なら不要な部分は無視することができるし、端末には双方向性もある。メディアとしては明らかに優れている」というのが松本氏の見解だ。

 加えて、iPadやKindleなどの登場によって端末そのものの使いやすさも向上。「電子書籍の便利さは長年さんざん言われてきたが、ようやく実現するだろう。3年のうちに、新聞、雑誌、書籍の関係性は変わるはずだ」と予測している。

解像度4倍でトラフィックも4倍~iPhone 4時代の対処法は?

今年3月には2Gサービスを終了。3Gへ完全移行し、さらなるトラフィック増に備える

 6月には、社会的にも大きな注目を集めたiPhone 4がソフトバンクから発売された。従来モデルと比較して画面解像度は4倍に向上、さらにマルチタスクに対応したことで、操作のバックグラウンドでも通信が行えるようになった。「製品としての魅力はさらに高まったが、その分トラフィックも画面解像度相当の4倍になるだろう。トラフィックはますます大変なことになる」とし、無線ネットワークの維持運用は新たな局面を迎えたと率直に明かす。

 トラフィックは今後も増加すると予測されており、次世代の通信規格「LTE(3.9G)」も、通信速度高速化の一方で、増え続ける需要に応えるだけのネットワーク容量を確保することが大きなポイントになっている。

 しかし、通信規格の移行には時間がかかるのが通例で、特に立ち上げ当初は端末や基地局設備の調達価格も割高になる傾向がある。そのため、ソフトバンクではLTEの早期導入には慎重で、2012年頃までは、現在の3Gの延長であるHSPA+で運用する計画だ。10MHz幅程度の周波数帯域であれば、LTEと比較しても遜色ない通信速度を確保できるという判断もあるという。LTEの導入は、関連機器の価格が落ち着くであろう2013年頃になるだろうと松本氏は語っている。

 ただし、これらの対策には限界もある。松本氏は「将来のデータトラフィックは現在の50倍とも100倍とも言われる。我々が数倍の投資をしても、地力のあるNTTドコモであっても、それだけの通信を3Gだけでは絶対に支えきれない」と、規格上の限界を強調する。

 当面のトラフィック対策となるのが、Wi-Fi接続によって有線インターネット網へ逃がす(オフロード)させる手段だ。ソフトバンクではWi-Fi対応携帯電話のリリースも進めており、全トラフィックの8~9割をオフロードさせるのが理想という。

 また携帯電話向けのマルチメディア放送も、この対策になるという。需要の高いコンテンツを同報配信し、端末側でキャッシュとして蓄積しておけば、オンデマンドの通信がそもそも発生しないという考え方だ。

 松本氏は「3G、有線接続のWi-Fi、放送が三位一体となって、飛躍的に拡大するトラフィックを支えていく。音声通話の料金が低下しても、経営の成り立つ状況を作っていかねば」と決意を示し、講演を締めくくった。


将来のネットワーク移行計画LTEの導入だけでなく、同報配信とキャッシュの併用、Wi-Fiを活かすことがトラフィック対策として重要になる


(森田 秀一)

2010/7/14/ 19:00