【MWC19 Barcelona】
楽天、三木谷氏らが語るMNO戦略
「楽天のネットワークは携帯電話業界のアポロ計画」
2019年2月28日 00:43
「MWC19 Barcelona」の3日目にあたる2月27日(現地時間)に、楽天の会長兼社長の三木谷浩史氏が基調講演に登壇。10月に開始する楽天モバイルネットワークの概要を語った。
同社のネットワークは「すべてがソフトウェア化、バーチャル化され、1日目から5Gレディー」なところに特徴があり、汎用機器を使ってコストを抑えることが可能だとした。結果として、料金を安く抑えられるほか、クラウドサービスと融合することで「AIや翻訳サービスなどを提供できる」と自信をのぞかせた。
基調講演終了後には、三木谷氏に加え、楽天モバイルネットワークの代表取締役社長 山田善久氏と、同社でCTOを務めるタレック・アミン氏が日本の報道陣からの質問に答えた。主な一問一答は、次のとおりだ。
「携帯電話の民主化を進めていきたい」――三木谷氏が語る新サービスの姿
――昨年のMWCは参入表明直後で驚きがありましたが、今はどんなリアクションがあるのかを教えてください。
三木谷氏
衝撃が走ったというのが正しい表現なのではないでしょうか。誰もやったことがないような話で、携帯電話業界の“アポロ計画”とでも言えるのでしょうか。驚きとともに、我々の業界に何を意味するのかと考えたのだと思います。いわゆる携帯電話事業者の方々からは、国際的に使えるのかという問い合わせが多くきています。世界のかなり大きな携帯電話事業者の社長とも食事やミーティングをしましたが、「逆に勉強させてほしい、一緒にやらせてほしい」という声が非常に多かったですね。
――楽天の新春カンファレンス(楽天市場の出展者向けイベント)で、アップルのティム・クックCEOとお話をしたというエピソードを語られていましたが、どのようなお話をしたのでしょうか。iPhoneの導入はどう考えていますか。
三木谷氏
最初に会ったのはサンバレーのカンファレンスで、ダックポンドという池があり、そこに色々な人が集まっているときにこんなことをやろうと話したら、「Interesting(おもしろそうだね)」とだけ言われました。ティムは寡黙な人なので(笑)。
ただ、(楽天のネットワークは)クラウドプラットフォームということで、今まで携帯電話端末でしかできなかったことが、コアサイドのサーバーでできるようになります。抜本的なコスト削減もネットワークレイヤーでできるようになり、端末メーカーとしては意味合いが変わってくるのでしょう。非常に注目していただき、そのあとに会ったときには、「本当にちゃんと進んでいるんだ」と安心していただいたというか、そんな感じですね。
今、端末と通信の分離という話が出ていますが、我々としては、当然(iPhoneを)扱えればいいなと思っています。
――このネットワークを海外に売っていく計画はあるのでしょうか。
三木谷氏
一番いいアナロジー(比喩)ですが、AWSも、もともとアマゾンが社内用に作っていたクラウドシステムを外部に販売して、非常に大きなビジネスになりました。誰もやったことがないネットワークを作り、正常に動くだけでなく、さまざまな意味でアドバンテージがあるものができました。技術的にも、そんなに簡単ではないところをクリアできています。ただ、まずは日本で立ち上げることが最優先で、夏以降に海外展開については検討していきます。
――基地局設置の進捗はいかがですか。
三木谷氏
いくつかのフェーズがあり、たとえばサイト(用地)を決める、公道でOKをもらう、建築をするなど、それぞれにKPIを設けていますが、順調に進んでいます。
――低コストを売りにしていますが、これが消費者にどう跳ね返るのかを教えてください。どういった料金体系を検討しているのでしょうか。
三木谷氏
まず料金体系ですが、できるだけ皆さんに使っていただきやすい料金で、できるだけシンプルにしていきます。最後の最後まで検討しますが、我々で囲い込むというより、離れる(解約する)ときも自由度が高いものにしていきます。言い方は悪いかもしれませんが「携帯電話の民主化」、そういう方針で行きたいと思っています。
具体的な料金設定は対競合の話もあるので、いくらにしますとここでは言いづらい。ただ、シンプルに、何たらバンドルとか、何とか割ではなく、分かりやすいものにしようと思っています。
――MVNOの楽天モバイルはどうされていくのかでしょうか。MNO側に統合するプランがあれば教えてください。
三木谷氏
(移行させるプランは)今ちょうど練っているところで、近いうちに楽天モバイルから発表があります。当然、統合していく方向です。それを技術的にどうやるのかは、近いうちに発表できると思います。
――完全に仮想化したネットワークを使うと、料金以外のユーザーメリットはどのようなところに出るとお考えですか。
三木谷氏
色々なことができます。1つは容量的なもので、5Gになってくると、大量のトラフィックが出てきますが、コアネットワークの部分でも十分な通信スピードを確保できます。ネットワークの中に、IoTを中心とした新しいサービスを埋め込んでいくことも柔軟にできます。
たとえば、ボイス(音声通話)についても、基本的にデジタルでやっているので、リアルタイム翻訳サービスを入れたりなど、さまざまなサービスをプラグインで入れられるようになります。
――ネットワークを5G化したとき、高速、低遅延という特徴を生かせる楽天のサービスには何があるとお考えでしょうか。
三木谷氏
5Gでは、どれだけコンテンツやサービスがエンドユーザーに近いかが、極めて重要になってきます。我々の新しいアーキテクチャーには、4000のエッジがあるので、これに非常に向いている。我々自身がサービスを提供するパターンもありますし、レイテンシーをベースにしたキャッシュサービスや本人認証サービスなど、さまざまなことができるエコシステムを作っていきたいと思います。
たとえばですが、今はFeliCaを使った決済が非常に大きく、QR決済だと非常に時間がかかってしまいますが、そういったものも5Gだと変わってきます。ドローンも人間が離れたところで操作するようなことができるかもしれない。4Gだとレイテンシーがあって遅れてしまいましたが、5Gだとそれがリアルタイムで操作可能になります。
楽天モバイルネットワークとしては、固定回線はNTTの光を再販するビジネスモデルしかできませんでしたが、5Gがあれば高速なFWA(Fixed Wireless Access)的な展開もできるようになります。今、光を持っていないデメリットを、メリットに変えていきたいですね。
「真の5Gはスタンドアローン」――5G展開の語る山田社長とアミンCTO
――5Gにアップグレードする際には、NSA(ノンスタンドアローン=4Gと併存させ、通信制御は4G側で行う)を飛ばして、SA(スタンドアローン=5G単独で制御する規格)から入っていくのでしょうか。
アミン氏
真の5Gは、SAだと考えています。5Gのパフォーマンスとケイパビリティ(能力)を実現するためには、SAがマストです。ネットワークスライシングや、超低遅延を実現するためにも、SAが必要になります。
山田氏
基本はSAです。一瞬NSAを通ることもありますが、ソフトウェアアップデートでSAに対応できます。端末側が対応しているのかといった問題もありますが、SAに行こうと思えば、極めて簡単にいくことができます。
――現状では、基地局の設置数はいかがでしょうか。
山田氏
東名阪で10月のローンチ時に必要な基地局を、6月末ぐらいまでに置いていきますが、細かな数字は出していません。ただ、カバレッジとキャパシティを確保するのに十分な数です。当然総務省に出している数字もあるので、それはやっていきます。
――5Gの開設指針を出したと思いますが、設備投資計画を教えてください。
山田氏
タイミングがきたら、きちんと公表しますが、もともとの基地局やコアが5Gを前提に組まれているので、他社と比べると相当少ない金額になります。金額は改めて公表しますが、何分の1という感じです。
――地下鉄や地下街のエリア化はどうされていくのでしょうか。
山田氏
これは他社もそうですが、地下はJMCIA(移動通信基盤整備協会=業界では通称でトンネル協会とも呼ばれる)という共通の団体があります。地下鉄や地下街はスペースが限られているので、今までは3社、これからは4社でやっていきます。私どももJMCIAに入れていただき、主にそれでつながるようにしていきます。
――28GHz帯の基地局を展示していましたが、この周波数を取得したい意図があるのでしょうか。
アミン氏
我々は、28GHz帯はsub-6とのコンビネーションだと思っています。都市部においては、ミリ波が有効活用できます。400MHz幅もあるため、Gbpsクラスのデータ通信をサポートできるからです。そのため、sub-6でカバー率を補完しながら使うようになるでしょう。
追加でコメントすると、都市部は反射波もあるため、28GHz帯を有効活用できます。今回のMWCでもミリ波をサポートしたデバイスがたくさん展示されていましたが、そちらをメイン、28GHz帯の基地局を密に打っていくことでエリアを広げていきたいと考えています。
――クアルコムのチップを使って基地局を作りましたが、そのメリットを教えてください。外販予定はあるのでしょうか。
アミン氏
自分自身で設計したのは、5Gを低価格で提供したいという思いがあったからです。5Gも、最初の段階では価格が高い。高い基地局を買うのか、自分たちで作るのかという選択になりますが、クアルコムチップを使うことで、低価格な基地局を開発できました。それによって、5Gの投資を低く抑えることができます。
2つ目のご質問ですが、今、フォーカスしているのは日本です。ただ、ここに展示したのはソフトウェアとハードウェアを分離したアプローチをエコシステムとして広げていきたいという思いがあったからです。将来的には、他のオペレーターと話を進めながら広げていきたいですね。
――ネットワークの災害対策を教えてください。
山田氏
総務省から電波の割当を受け、国民の貴重な共有財産である電波を使わせていただいているわけで、社会的な責任として一番重要なところなので、ここは万全の対策を施します。他社と違うところは、新規参入なので、基地局が物理的なダメージを受けてしまった場合、工事会社との関係で「何かあったら優先してください」というのが通らない可能性がある。そのため、平時に多少のお金を払ってでも、契約ベースで復旧のための人員を確保してもらうことを考えています。
――東名阪以外ではauのネットワークになってしまいますが、そこで楽天らしい取り組みができるのはいつごろになりますか。スマートフォン以外の取り組みも教えてください。
山田氏
ネットワークの拡大については、相当なスピードで全国展開したいと考えています。KDDIさんにお願いするローミングは、あくまで過渡期のものです。おっしゃるように、自前でネットワークを持たないと、色々なことができません。ここは7年(2026年までの期限)とかいう話ではなく、かなり前倒しにしていきたいですね。
スマートフォン以外のところでは、クラウドベースのネットワークは柔軟性があります。自分たちで色々なサービスを展開するのはもちろんありますが、5Gの肝は私どもだけでなく、色々な事業者と連携するところにあります。クラウドだからこそ、色々なニーズに応えられることもあると思います。
アミン氏
メインは今のプラットフォームをしっかり作っていくことですが、将来的には、クラウドとエッジサービスを組み合わせて、新しいことをやりたいですね。エッジデータセンターにサーバーを置くことで、CDNなどのサービスを提供していける。エッジサーバーからAPIを提供し、ほかの方々がアプリケーションをホストしていけるようなサービスを作ることも、考えられます。