【MWC19 Barcelona】

楽天、仮想化クラウド技術をフル導入したLTEネットワークをアピール

楽天モバイルネットワークのアミン氏。直前までMWCオフィシャルのパネルディスカッションに参加していた

 今回のMWCには楽天が初出展し、2019年10月開始に向けて構築中のモバイルネットワークに関する展示を行っている。無線アクセスネットワーク(RAN)からコアネットワークまでを仮想化していることが特徴。

 世界初のクラウドネイティブネットワークとうたう同社の取り組みを、楽天モバイルネットワークのCTO、タレック・アミン氏が紹介した。

事業開始までに必要な10個の課題も8カ月でクリア済みとのこと

 携帯電話のネットワークは、さまざまな役割、レイヤーに分かれた機器で構成される。レガシーな作りのネットワークでは、役割ごとの機能に特化した専用機器が使われるが、楽天のネットワークは仮想化技術を使い、汎用のサーバー機器上でさまざまな役割を実行している。

 汎用機器であれば調達コストが下がり、機器の更新や増強、運用メンテナンスも容易になる。また、必要な機能が増えたときにも対応しやすい。こうした手法は通信事業者としては異例だが、楽天のようなIT会社にとっては慣れた手法であるとも言える。

 既存のネットワークがある事業者にとっては、仮想化されたネットワークに置き換える、あるいは混在させるには困難が伴うが、ゼロからネットワークを構築する楽天にとっては特別に難しい話ではない。

 また、5Gでは仮想化技術の普及が想定され、新規参入で4Gネットワークを構築するのであれば、予め仮想化しておいた方が効率も良いとされる。異例のクラウドネットワークを構築する楽天は、国際的にも注目を集めているという。

屋外アンテナユニット。RHとアンテナが一体になっている

 ブースには楽天モバイルネットワークが使うインフラ機器の実物が展示されている。

 屋外アンテナは楽天が独自にデザインしたものだという。アンテナ部は韓国のKMW製、RH部はノキア製だが、間にケーブルがない一体型とすることで、損失を減らしてカバレッジを増やし、工期やコストも改善できているという。

屋内スモールセルアンテナ

 屋内向けアンテナも楽天のオリジナルデザインで、クアルコムと共同で作られた。LTEに加えてWi-Fi通信機能も搭載しながら、家庭向けのWi-Fiアクセスポイントよりも安いというほどのコスト面での優位性がある。

仮想化RAN(左)と仮想化コア(右)

 アンテナ設備と仮想化RANサーバーはダークファイバーで結ばれる。汎用サーバーにインテルのハードウェアアクセラレーターを搭載したもので、近隣にある複数のアンテナをまとめて制御する。

 データセンターに設置される仮想化コアサーバーも展示。同じく汎用のサーバーが使われ、仮想化によってLTEに必要な信号処理を実現している。サーバー自体は楽天のEC事業で使っている物と同等で、同時に発注することによるコスト削減の効果もあるという。

 メモリ容量などの仕様が一部異なるため、実際に行われるかは不明だが、LTEネットワークサーバーと楽天市場サーバーで処理能力を融通しあったり、ネットワーク設備の更新で不要となったサーバーを楽天市場で使うといった運用も原理的には可能とのこと。

楽天デスティニー(右)など、ネットワーク運用コスト低減の仕組みが多数採り入れられている

 仮想化クラウド技術を多用するメリットは、運用効率を高め、少ない人数で運用可能になるところにある。運用効率化のアイデアの1つとして、音声コマンドで操作できるネットワーク運用支援AI「楽天デスティニー」が紹介された。

 このような機能によって、たとえば工事担当者や社長など、運用担当者以外がネットワーク状況に疑問を持ったとき、運用担当者が応対することなく情報の共有が可能になる。運用担当者に余計な負担を与えることなく、ネットワーク運用業務に集中できるとしている。

5Gのミリ波基地局

 さらに、開発中の5G小型基地局も紹介された。28GHz帯のミリ波の基地局で、既製品ではなくクアルコムと共同開発した楽天独自の設備。クアルコムが提供する最小クラスの5G無線ICを使い、安価に製造できる。

 同社は、6GHz未満の「sub-6」と、より高い周波数帯を使うミリ波帯の両方での5G展開を目指している。アミン氏は、「我々のネットワークは初日から5Gレディのネットワーク。我々が日本を5G先進国にする」とアピールした。

2月3日に実施したフィールドネットワークテストの様子など

 プレス向け説明会の最後に、アミン氏はこれらのLTEネットワークについて「すでに実現しているもの」と強調。2月には内部での試験運用も開始しているという。