【Mobile World Congress 2015】

5G要素技術の基礎研究が注目を集めるドコモブース

NTTドコモのブース

 NTTドコモはMobile World Congressにブースを出展し、同社が研究開発している通信の要素技術などを展示している。

 ブースでも特に注目を集めているのは、NTTドコモが2020年までにサービス開始を目指している次世代通信技術、5Gだ。現時点では規格の標準化は始まっておらず、世界中で5Gに使われる要素技術の研究や試験が行なわれている段階だが、NTTドコモでは積極的に研究開発に取り組んでいて、今回の展示ではそうした取り組みの内容を紹介している。

5Gの想定周波数と共同開発メーカー

 NTTドコモは複数の基地局メーカーと共同で、5Gに関するさまざまなテーマの研究開発をおこなっている。たとえばNECとは128個のアンテナ素子を使ったビームフォーミング、エリクソンとは新しい無線インターフェイスのコンセプトなどを研究している。NTTドコモは今回のMobile World Congressにあわせ、エリクソンと共同で行なっている屋外での電送実験において、最大4.58Gbpsの速度を実現できたことなどを発表している。

 また、NTTドコモはアルカテル・ルーセントや富士通、NEC、エリクソン、サムスン、ノキアネットワークスと共同で開発を進めていたが、今回、ファーウェイと三菱電機が新たにパートナーに加わったことも発表している。

 5Gは基本的に4Gとは互換性のない、新しい通信方式として開発が進められている。3GHz以上の新しい周波数帯域を使い、一方で800MHz帯や2GHz帯では従来のサービスを継続し、ちょうど現在の3Gと4Gのように、平行してサービスが提供されるイメージとなっている。

ドコモによる5Gのロードマップ
アルカテル・ルーセントとの研究
富士通との研究
NECとの研究
エリクソンとの研究
サムスンとの研究
三菱電機との研究
ノキアとの研究

 さらにNTTドコモのブースでは、コアネットワーク側のサーバーを仮想化(Network Functions Virtualisation、NFV)技術も展示されている。

 この技術は基地局~インターネットにつながるまでのコアネットワーク部分にあるサーバーを仮想化する技術。従来は専用のサーバーを用いていたが、仮想化技術を使うと、汎用製品を利用できるようになるため、コストの削減やスケーラビリティの向上につながるという。仮想化によって処理能力のオーバーヘッドが発生するが、それでも専用機器を使うのに比べ、コストを低減させられるという。

 コアネットワーク機器メーカーにとってはライバルともいえる技術だが、この仮想化技術にはコアネットワーク機器メーカーにとっても積極的に取り組んでいる分野で、今回のNTTドコモの取り組みもエリクソンや富士通、NECといったベンダーとの共同開発となっている。

EVSで伝送される音の周波数のイメージ

 技術の展示としては、VoLTE向けの音声コーデック「EVS」も展示されていた。現在のVoLTEは3Gの音声通話で使われているAMRの広帯域版を利用しているが、EVSはそれを置き換えるもので、同じビットレート(13kbps)でもより高い周波数帯域の音の伝送が可能となっている。通常の3Gの音声通話が100Hz~3.4kHz、広帯域AMRのVoLTEか50~7kHzの音を伝送できるのに対し、EVSでは50~14kHzまでを伝送する。

 実際に音のイメージをデモで体験することが可能な展示となっていた。試してみると、VoLTEでもかなり音質が向上することがわかるが、EVSではさらに音質が向上していることがはっきりと体感できた。EVSは標準化されたばかりの技術で、導入時期なども決まっていないが、早ければ来年ごろから実用化が始まる見込み。

 開発中のデバイスとしては、CEATECでも展示されていたSIMカードの機能を内蔵する小型機器「ポータブルSIM」や「YUBI NAVI」が展示されている。

ポータブルSIM

 ポータブルSIMはスマートフォンやタブレットとBluetoothで接続して利用するカード型の機器。スマートフォンやタブレット側はSIMカードを内蔵していなくても、Bluetooth経由でポータブルSIM内のSIM情報(契約者情報)を参照し、3Gや4Gのネットワークに接続できるようになる。

 たとえば個人で持ち歩いているポータブルSIMをレンタカーの車載通信機器で使ったり、会社のポータブルSIMを個人のスマートフォンと接続して会社の電話を受けられるようにする、といった用途が想定されている。

AndroidアプリでSIM情報の送受信ができる

 ポータブルSIM自体は昨年6月に公開されているが、今回のMWCにあわせて、ポータブルSIMのためのAndroidアプリも発表された。このアプリでは、ほかのポータブルSIMからSIM情報を受信したり、逆にSIM情報を送信したりする操作が、Androidのアプリ上で行なえるようになっている。このアプリは今夏より出荷されるクアルコム製のチップセットが内蔵する機能を使っているため、現行端末では利用できない。

 ブースでのデモでは、ベース機が不明なテスト端末が用いられていた。ポータブルSIMはまだ研究開発中の機器で、具体的な提供予定は決まっておらず、そもそも海外展開の可能性も低い製品ではあるが、来場者が積極的に質問をするなど、注目を集めている展示となっていた。

白根 雅彦