【Mobile World Congress 2013】

クアルコム、最新プロセッサやLTEの未来をデモンストレーション

 クアルコムブースでは、1月の「INTERNATIONAL CES」で発表されたプロセッサ「Snapdragon 800シリーズ」を使ったデモンストレーションなどが行われた。

 「Snapdragon 800シリーズ」は、現行の「Snapdragon S4 Pro」と比べ、75%の性能向上が図られている新型プロセッサ。2.3GHz駆動の「Krait 400」と呼ばれるクアッドコアを採用し、GPU「Adreno 330」によってグラフィックス能力も強化されている。

 音声関連のデモでは、iPhoneのSiriのように音声でスマートフォンが起動できるデモが披露された。マイク部分を常に起動した状態にしておくことで手を触れずに端末を起動可能だが、低消費電力で利用できるという。

 また、カメラを使ったものでは、16個のセンサーで同時撮影した16個の写真を処理して、タッチした部分にピントを合わせるデモが披露された。タッチした部分に焦点が合うよう奥行きを計算処理して画像を表示する。16枚の写真は同時に撮影したほぼ同じ写真ではあるものの、微妙なアングルの違いにより奥行きが計算できるという。

Hi, Snapdragonと声をかけると端末が起動する
16個のカメラを備えたタブレット

 このほか、4K2Kの映像をリアルタイムエンコードして配信するデモも行われた。映像を再生処理するだけでなく、配信処理までも「Snapdragon 800シリーズ」で行っているという。

 また、発表されたばかりのLTEチップ「RF360」も展示されていた。LTEは世界各国によって、採用する周波数が異なる。最新チップの「RF360」は、世界の全てのLTE周波数に対応し、サイズダウンも図られた。これにより、周波数毎にRFチップを選択する必要がなくなり、短期間での端末開発につながるという。

 複数のバンドを束ねる、いわゆるキャリアアグリゲーションのデモも展開されていた。周波数の異なるFDD方式のLTEを束ねることで、下り最大140Mbpsを実現するという。Sierra Wirelessとの共同でデモンストレーションが行われていた。

 LTEを放送として活用するLTE Broadcastのデモでは、放送と特定の相手への通信(Unicast)をシームレスに切り替えるデモが行われていた。例えばUnicastで個々に配信していた情報を、視聴者が増えてくれば放送に切り替えてられる。通信事業者はユーザーの利用動向をチェックしながらBroadcastとUnicastを相互に切り替えて最適な環境が提供できるという。

 「Ultra SON」と呼ばれる自立型ネットワークも展示されていた。フェムトセルやピコセルなど、スモールセルにおいて、屋内外に置かれた小さな基地局側が周囲の通信状況を計算して、干渉のないネットワークを自動的に構築するという。要するに、周りの通信に干渉しなければ強く電波を出力し、周りが電波強い場合は弱く出力するといったように、刻々と変化する通信環境に応じて自動的に“空気が読める”小さな基地局となる。

 LTE Advancedのデモでは、米サンディエゴと通信しながらデモが行われた。マクロセルとスモールセルの混在する環境をヘテロジニアス・ネットワーク(HETNET)などと呼ぶ。今回の展示は「Opportunistic HETNET」と呼ばれ、Opportunistic(日和見)しながら、もっとも効率的な通信環境が構築できるというものだ。

 マクロセル基地局とスモールセル基地局が互いに干渉しないのはもちろんのこと、マクロセル内にあるスモールセルを通信増強にも使える。ユーザーが移動している場合のリレーも基地局側が考えて最適な状態を維持する。サンディエゴで車移動するクアルコムスタッフと、VoLTEでの通信するデモが紹介された。

 LTE関連では、「LTE Direct」という技術も紹介されていた。これは、基地局を介さずに対応する端末を持つユーザー同士でコミュニケーションが図れるというものだ。たとえば、あるアプリをセットしたユーザー同士が500m以内に入ると、4秒ごとにパッシングしてユーザー同士が直接繋がって端末間通信できるという仕組みだ。

 Wi-Fi DirectのLTE版といったものだが、担当者はこの仕組みは携帯電話事業者がいい顔をしないと語る。ユーザー同士が直接繋がるようになれば、それだけ通信収入は得にくくなる。

 このためクアルコムでは、何らかの原因により通信設備が倒れた際の緊急手段として仕組みを紹介していた。災害などで周辺の基地局設備が通信不能になった場合に、基地局を介することなく500mの範囲内にいるユーザーに対して情報を送信できる。技術としては500m毎に中継していけば、将来的により遠くのユーザーともやりとりできるようになるという。

 このほか、スマートフォン向けの充電関連技術として、「Quick Charge」も紹介されていた。充電時間を短縮する技術で、現行バージョンの1.5では、通常の40%、充電効率が良い。今回展示されたのは最新の2.0で、75%充電は早くなる。担当者によれば、出力に対して減衰があるため、実際にスマートフォンが受け取れる電圧は非常に小さいという。このため、最初の出力を大きくすることでより多くを受け取れるようにしたという。

津田 啓夢