【Mobile Asia Expo】
加藤新社長が解説、ドコモの戦略とは


19日にドコモの社長に就任したばかりの加藤氏。社長としては初の海外講演となる

 「Mobile Asia Expo」の2日目にあたる21日には、19日の株主総会を経て社長に就任したNTTドコモの加藤薫氏がキーノートセッションに登壇。「Mobile Innovation: What's the Future of Mobile?(モバイルの革新:モバイルの未来とは?)」というテーマに基づき、同社の戦略や実績に関するプレゼンテーションを行った。

 加藤氏は冒頭、2日前に社長になったエピソードを披露し、「スピード&チャレンジを掲げている」という自らの方針を解説。中でも強調したいのはスピードで、「モバイルコミュニケーションのビジネスを変革するためには決定的なこと」と語った。その上でドコモの“夢”として日常生活に即した新たな価値創造を行っていきたいと述べ、2020年の企業ビジョン「HEART」や2015年の中期ビジョン「スマートライフの実現に向けて」を紹介している。

スピード&チャレンジという新方針を解説。ドコモの使命や夢を語ったパケットARPUの比率が高い、現状を示した資料
夏モデルも紹介された。NFCが注目を集めるMobile Asia Expoの動向をにらみ、全機種おサイフケータイであることが強調されている2012年度に1300万台のスマートフォンを販売する計画を披露
LTEの普及に向けた計画を解説。高速化に向けたロードマップも紹介されたdメニューやdマーケットといったサービスが好評だと語られた
企業ビジョンの「HEART」に向けた取り組み2015年の中期ビジョン「スマートライフの実現に向けて」の概要
3つのクラウドからなる、「ドコモクラウド」の概念が解説された

 このビジョンを具現化するためのサービスの1つが、「ドコモクラウド」だ。既報のとおり、ドコモは「パーソナルクラウド」「ビジネスクラウド」「ネットワーククラウド」の3つを核にしたサービスを発表している。キーノートでは、加藤氏自らがこれらの概念や、「しゃべってコンシェル」「メール翻訳コンシェル」「通訳電話」を紹介。特に、「ネットワークにインテリジェントを付加した」というネットワーククラウドについては「キャリアにとって非常に重要」とした。その理由は、キャリア以外がクラウドを提供すると「デバイスが限られ、ネットワークは土管になってしまう」ためで、加藤氏はアップルの「Siri」とドコモのしゃべってコンシェルの違いを解説。「Siriよりもさらにいいサービスを、Androidで立ち上げた。開始以降、好評を博している」とし、クオリティの面でもiPhone以上であることを強調した。

ネットワークにインテリジェントを加える「ネットワーククラウド」「しゃべってコンシェル」の仕組み。すでに8000万アクセスを超えているという
秋に正式なサービスとして開始される「通訳電話」6月にスタートした「メール翻訳コンシェル」

 一方で、ドコモは新たな市場の創出も目標に掲げており、提携や買収を通じて事業領域を拡大している。対象ジャンルは8つで、その中から加藤氏は「メディア・コンテンツ事業」や「M2M事業」を「アグリゲーション・プラットフォーム事業」に言及。メディア・コンテンツとして「NOTTV」を、M2Mとして日産の電気自動車「リーフ」に搭載される通信モジュールや、「PlayStation Vita」用に作られたプリペイドプランを、アグリゲーション・プラットフォーム事業としてインドのタタドコモにおける取り組みなどを紹介している。

新たにチャレンジしていく8つの新規事業メディア・プラットフォーム事業の代表例としてNOTTVを紹介
「リーフ」に内蔵された通信モジュールや、PlayStation VitaのプリペイドプランはM2M事業に分類されるドコモが注力している海外でのコンテンツ・プラットフォーム事業
HTC ChinaのCEO、Ray Yam氏

 キーノートセッションは、ドコモの加藤氏のほかに、HTC ChinaのCEO、Ray Yam氏や、中国の通信機器ベンダーであるDatangのCTO、Chen Shanzhi氏も登壇。Yam氏はiPhoneのクローズドなエコシステムを批判しつつ、一方でAndroidをはじめとするスマートフォンはオープン性が高すぎることを指摘。HTCは後者に軸足を置きつつ、サービスやコンテンツに最適化したハードを提供し、“第3の道”を目指すことが語られた。またShanzhi氏はアジア・パシフィック地域の成長性の高さを示し、低コストで開発・製造を行える中国に優位性があると述べている。

iPhoneのクローズドなエコシステムは優れている半面、アップルが間違いをおかすと選択肢がなくなる危険性が指摘されたHTCの方針を端的に示したスライド。AndroidやWindows Phoneに軸足を置きつつ、ハードウェアメーカーとしてサービスやコンテンツを統合していく
DatangのCTO、Chen Shanzhi氏中国の可能性を述べつつ、「限られた周波数の利用効率がいい」というTD-LTEに対するDatangの取り組みを紹介

 各氏のプレゼンテーション後に、パネルディスカッションが行われた。この中で加藤氏はエコシステムについて言及。「ドコモはかつてiモードで閉じたエコシステムを作った。それは誇りに思っているが、今は日本だけアジアだけというのではなく、グローバルに進展していくことが重要」とし、Androidを主力として、ネットワークにインテリジェントを付加していく方針があらためて語られた。

パネルディスカッションでドコモのビジョンを語る加藤氏。なお、プレゼンテーションは英語だったが、パネルディスカッションは日本語で行われた。司会者の「なぜ通訳電話を使わないんだ?」というツッコミに対して、「今日はネットワークが機能していないので、(通訳電話と同じくらい)優秀な通訳を使う」と返し、会場の笑いを誘う一幕もあった

 




(石野 純也)

2012/6/21 18:38