【CES 2016】
カシオのタフネスAndroid Wear「WSD-F10」、その独自機能と開発秘話
(2016/1/8 19:50)
米ラスベガスで開催されている展示会「CES 2016」のカシオ計算機のブースは、CES会期前日に発表されたAndroid Wear「WSD-F10」をブースの前面に押し出す。
「WSD-F10」のプレスカンファレンスはすでにレポートしている(関連記事)が、商品企画を担当した新規事業開発部 企画管理室室長の坂田勝氏から直接レクチャーを受けつつ、試すことができた。
「WSD-F10」は腕時計型の製品だが、開発しているのはカシオの腕時計部門ではなく、新規事業開発部という新しいチームだ。新チームとはいえ、「G-SHOCK」など、カシオが持つ腕時計のノウハウはもちろん盛り込まれ、カシオ社内のさまざまな部署からの力を結集して開発を進めている。
カシオならではのこだわりのあるユーザーインターフェイス
「WSD-F10」の右側面には3つのボタンがある。カシオの腕時計としては少ないくらいだが、Android Wearとしてはやや多い。ほとんどのAndroid Wearはボタンがひとつで、3ボタン搭載モデルはあまり例がない。
中央のボタンが通常のAndroid Wearと同じホームボタン。上が「TOOL」、下が「APP」という独自のボタンだ。
TOOLボタンはWSD-F10が内蔵するコンパスや気圧計などを呼び出し、切り替えられる。何度も押して切り替える仕様は、G-SHOCKなどでは左下に配置されていたボタンに近い。坂田氏はこの配置について「左下にボタンを割り当てられなかったので、一番押しやすい右上にした」と説明する。左手に装着し、右手でつまむように持ったとき、指で力を入れやすい位置というわけだ。
このTOOLボタンでは複数の機能を切り替えていくが、ここで切り替わる機能を設定で減らすこともできる。たとえばトレッキングでは、潮位計のように、山間部では利用しない機能をオフにする。こうしたカスタマイズで、必要な情報にたどりつきやすくできる。
APPボタンでは、「WSD-F10」にインストールされているアプリのうち、ひとつを割り当て、すぐ起動できるようにするショートカットのボタンだ。標準搭載されているアプリだけでなく、あとからインストールしたアプリも割り当てられる。ちなみに坂田氏は気象レーダーアプリを割り当てて使っているとのことだ。
TOOL、APPといったAndroid Wearの標準から離れて追加したボタンについて坂田氏は、「やはり時計の発想がある。DNAを持っているというか、カシオの端末はこうあるべきだよね、という幹がある。使いやすいとか、さっと使える、ぱっと使えるという基本思想で考えると、ボタンには使いたい機能を割り当てられるように設計している」と説明する。
こうしたボタンの配置や大きさなどのデザインについては、カシオの時計部門のノウハウが活かされている。ボタンには滑り止めにもなる同心円状のミゾが付けられ、ボタンの周囲には何かにぶつけたときに不意に押されないようにするためのガードもついている。「デザイン的な良さと実用性は、時計で培ってきたノウハウを受け継いでいる」(坂田氏)という。
外装に見えるカシオらしさ
外装デザインについても、カシオらしいさまざまな作り込みがされている。たとえば裏面のパネルは「鍛造バック」と呼ばれる、カシオのハイエンドモデルとなる腕時計「OCEANUS」などで採用されているものだ。表面にヘアライン加工も施されている。
装着中には隠れる部分だが、「ここはカシオから見ると、逆にこだわらないといけない部分」(坂田氏)だという。装着中もちょっとした角度から薄く見える、あるいは装着時の肌触り、滑り、外したときの見た目などは、装飾品として培われてきた腕時計の価値観がある。Android Wearとはいえ、カシオの製品である以上、そうした腕時計の価値感を絶対に壊さないよう、徹底的に作り込んでいるという。
腕への装着感、ウォッチフェイス
腕に付けたときの感触についても、腕時計の開発チームの意見を取り入れ、ベルトの取り付け角などを調整。腕にフィットするような角度になっている。こうしたこだわりは、腕時計を長年手がけて膨大なノウハウ蓄積のあるカシオならではのものだ。
ウォッチフェイスのデザインにも腕時計側のデザイナーが関わっている。さらにカシオ内のユーザーインターフェイスデザインのメンバーも加わった。冒頭に記した通り、カシオのノウハウを結集している。
G-SHOCK風のウォッチフェイスでは、小窓に表示される情報は、本家G-SHOCKだと変更できない。だがAndroid Wearである「WSD-F10」ではタップすると情報を切り替えられる。
アナログ風デザインでも、本物のアナログ+デジタル腕時計だと、針の下に情報が隠れてしまうことがあるが、デジタルならばそれも防げる。「腕時計のデザイナーにとってやりたくてできなかったことが、今回、実現した」(坂田氏)というわけだ。
ほかにはない5気圧防水
スマートウォッチでも防水性能自体はは珍しくないが、それらはIPX水準だ。一方、「WSD-F10」は5気圧防水。一般的なスマートウォッチに比べて、より高い水圧にも耐える性能を有している。
この防水性を実現するための課題となったのが、マイクの実装方法。Android Wearにはマイクが必要とされるが、マイクは開口部を設けなければならない。5気圧防水を実現するには、水圧を押し返す機構が必要だった。このあたりは、公表できない独自機構を新たに開発した。
充電端子にも一工夫
もうひとつ、工夫したのは充電端子だ。WSD-F10は左側面の上に、独自の充電専用端子がある。たとえば裏蓋に充電端子をむき出しにして搭載することもできるが、肌に端子が触れてしまい、汗との接触も増える。カシオの長年の腕時計開発の経験から、背面を避け、側面に充電端子を配置することにした。
また非接触充電方式を採用する、というアイデアについては、磁界コイルを使うため、地磁気センサーが狂ってしまう。トレッキングなどでの利用もターゲットとする「WSD-F10」にとって地磁気センサーは必須。そのため非接触充電にはしなかったという。
ボタンのようにデザインされた専用充電端子。充電器側には磁石が内蔵され、「WSD-F10」へ自然に貼り付く。この充電時の様子は「自分をチャージするイメージ」(坂田氏)を意識しているという。
2層ディスプレイはまだないしょ
ディスプレイについては、まだ発売前の開発中ということもあり、その仕様について、あまり踏み込んだ話はできないとのこと。
現状、決まっている範囲では、「WSD-F10」のディスプレイは上にモノクロ液晶、下にカラー液晶を重ねた、独自の2層構造を採用した。Android Wearとしてはもちろん初めて、他の製品でも採用例を見ない特殊な構造だ。
Android Wearとして使うときにはカラー液晶ディスプレイで表示する。透過型カラー液晶で色彩豊かで明るい。その反面、バックライトを点灯しないと見えないので、消費電力が大きくなる。
しばらく操作しないままにすると「アンビエントモード」というバックライトの暗い状態に移行する。だが、このときもバックライトは点灯している。アンビエントモードの代わりに完全消灯するようにも設定できるが、今回触った実機の仕様では、アンビエントモード時にモノクロ液晶を表示させることはできないという。
「タイムピースモード」に切り替えると、カラー液晶は消灯し、モノクロ液晶による時刻と日付の表示だけになる。モノクロ液晶はバックライトがなくても見えるので、消費電力は小さい。Android Wearとしての機能は停止するが、タイムピースモードだと約1ヶ月間、電池が持つ。
通常モードとタイムピースモードの中間として、「シアターモード」というものも用意されている。これはAndroid Wearを起動したまま、モノクロ液晶表示に切り替えるものだ。現状の仕様では通知が来たときにも、表示は切り替わらず、バイブも震えない。ただしこうした仕様は開発段階のもので、今後、変更される可能性もある。
シアターモードではバックライトの消費電力がなくなるわけだが、それでもタイムピースモードほど長時間起動できない。というのも、Android Wearは常時マイクや各種センサを動かし、随時通信もしているため、ただ起動しているだけでもそれなりの電力を消費するからだ。ここは汎用性の高い、高機能プラットフォームを採用するデバイスの宿命というところだろう。
モノクロ液晶は消費電力が小さいだけでなく、明るい場所で見やすいという特徴もある。たとえば透過型のカラー液晶や有機ELは、真夏の昼間などで周囲が極端に明るいとき、視認性が極端に落ちるときがある。モノクロ液晶は環境光を反射させるタイプで、周囲が明るい方が見やすい。逆に暗い場所では見えにくい。
「WSD-F10」に採用されているモノクロ液晶は、太陽光に対して高反射な素材を使っているため、通常の腕時計に比べても、明るい屋外での視認性が向上している。
「WSD-F10」は3ボタンや5気圧防水、モノクロ液晶など、これまでのAndroid Wearにはない特徴を持った、非常にユニークなスマートウォッチだ。それを腕時計開発に膨大なノウハウ蓄積のあるカシオが作っているというのが、また魅力的な製品である。
トレッキングやサイクリング、フィッシングといったアウトドアアクティビティでの利用をターゲットとしているため、万人受けはしないかもしれないが、他にはないオリジナリティを発揮している。発売前ということもあり、完全には情報が公開されていない段階ということだが、アウトドアアクティビティ好きの人は、今後の動向をチェックしておきたい。