【2014 INTERNATIONAL CES】

スマートウェア、スマートフォン戦略を語るソニーモバイル黒住氏

 ソニーは、CESに合わせてスマートフォンに関連した3つの発表を行った。こうした製品や発表の企画を率いているのが、ソニーモバイルでUX商品企画統括部長兼クリエイティブディレクターを務める黒住吉郎氏。同氏が製品のコンセプトや狙いを語った。

CESでの発表の狙いを語ったソニーモバイルの黒住氏

 モバイル関連の中で1つ目に発表されたのが、「Core」やそれを装着して利用する「SmartBand」といったウェアラブル製品。スマートウェアはソニーの提唱する新しい概念で、「新しい領域に入っていきたい」(黒住氏)というソニーのチャレンジでもある。では、なぜソニーがスマートフォンの周辺領域であるウェアラブルに取り組むのか。黒住氏は「商品と人との距離」を挙げ、次のように語っている。

 「本当はお客様の喜んだ顔や驚いた顔が見たかったのに、技術ばかりを追い続けると、『距離が遠い』と思われてしまう。もちろん、技術的に追い続けなければいけないものはあるし、それはやらなければいけない。携帯電話は、24時間身に着けている商品で、ほかにそういうものはない唯一のもの。ただ、エレクトロニクスを中心としたメンバーからすると、スマートフォンだけが正しい形ではない」

「Core」と「SmartBand」。センサーはCore側に入っており、SmartBandはCoreを入れる器という位置づけだ
SmartBandはホワイトとブラックも展開

 こうした人との距離感を縮めるため、Coreは搭載する機能を絞り込み、コンパクトなサイズを実現した。中心となる機能は加速度センサーだけと、ハードウェアとしては非常にシンプルな構成になっている。これを使ってやろうとしているのが、ライフログだ。一方で、健康管理に用いるライフログツールは「Fitbit」や「UP」をはじめとして、各社からさまざまな製品がすでに発売済みだ。黒住氏によると、既存の製品との大きな違いは、「エンターテインメント」になるという。Coreの詳細は2月に開催されるMobile World Congressで発表される予定だが、黒住氏はそのヒントとなる考え方を次のように説明した。

 「加速度センサーで何をするのかは、みんなで議論した。たとえば、加速度センサーがあれば揺れを検知できるので、それで音楽プレイヤーをコントロールすることもできる。叩いてコントロールするだけでなく、スマートフォン側にはどんどんログが貯まっていく」

 また、Coreにはボタンも搭載され、「自分が『いいね!』と感じた瞬間を残すことができる」(同)。こうした特徴をまとめて、黒住氏はCoreを「ライフ系、エンタメ系、ソーシャル系の3つを組み合わせたもの」と語る。

黒住氏は、Coreは人間の感覚を広げる「つけ爪」のようなものだと語る

 CESでは、Xperia Z1の小型版で、日本の「Xperia Z1 f」のグローバル版にあたる「Xperia Z1 Compact」も発表された。「プレミアムなデザインを持ち、しかも防水で、その中に絶対的に強いカメラを持つ。それが今のXperia Zシリーズ。それをそのままコンパクトにできないかとチャレンジした」というのが、このモデルのコンセプトだ。先に挙げた「人との距離を縮めたい」という思いも、このサイズ感につながったという。

Xperia Z1と同等のカメラ機能を持つコンパクトモデル「Xperia Z1 Compact」

 スマートフォンとして発表したもう1つの製品が、米キャリアのT-Mobileに向けた「Xperia Z1S」だ。ソニーモバイルは「アメリカでの存在感がなかった」(同)というが、昨年、T-MobileからXperia Zが発売されてから、徐々にではあるが認知もされ始めているという。アメリカ市場にあわせた形で、周囲のメタルフレームをプラスチックに変えるなどのカスタマイズも行っている。

T-Mobile向けにカスタマイズが施された「Xperia Z1S」。T-Mobileのロゴは背面に配置されている

ソニーモバイル黒住氏 グループインタビュー

 発表や新製品の狙いを語ったあと、黒住氏は報道陣からの質問に答えた。主な一問一答は次のとおりとなる。

――グローバルモデルと米国モデルを変えた理由はどこにあるのか。

黒住氏
 アメリカは単純に言うと、バンド数が多い。また、ネットワークの差も大きい。都市部はよくなっているが、日本のように人口が密集していないので、郊外に行くと電波環境が極端に悪くなることもある。それに対して、ドロップアウトしないようにするのも、オペレーターの務め。グローバルモデルと同じRF(無線通信)を使うと、無理が出てしまうというのが現実的な回答になる。

――価格を下げることを狙ったのか。

 価格を落とすためにプラスチックにしたわけでは、絶対にない。調査をすると分かるが、特にアメリカではユーザーからも手に持った当たりのよさが求められる。我々は、たとえば200ドルのゾーンがあれば、その中でもプレミアム、より高いところの商品を持っておきたい。もちろん、プレミアムにはそれなりの価値もなければいけない。そういったところは、カメラであったり、ソフトウェアで出していく。T-Mobileが我々に期待しているのも、そういうところだ。

――アメリカに本腰を入れるにあたって、T-Mobileでいいのか。

 T-Mobileでいいというより、今はT-Mobileとやっているということ。歴史的な話をすると、最初はAT&Tと一緒にやり、今の店頭には当時の端末が残っていることもある。Verizonに関しては、Xperia Playを出させていただいたし、今後も機会があれば一緒にやっていきたい。今の段階ではT-Mobile向けの商品だが、その後のことは様子を見ながら。これは日本でも同じで、今はドコモとauの機種を出している。その中で、Z1 fはドコモに対してのエクスクルーシブ(≒独占供給)だが、auにもauだけのモデルがある。

――中国に対する取り組みも同様か。

 同時にやっていくつもりだ。ただ、アメリカよりもオペレーターとのパートナーシップは進んでいるところもある。たとえば、「Xperia sp」をチャイナモバイルに向けて開発した。チャイナモバイルは独特のLTE(TD-LTEのこと)を持っていて、その戦略に沿った商品を提供した。また、チャイナユニコムとも一緒にやっているほか、ディストリビューター経由でも販売をしている。一方で、中国はアメリカよりも市場としては難しいのかもしれないが、しっかりとしたプロポジションを持てば市場が広がるということは、数字としても出始めている。

――CoreはXperia限定なのか、もっと広くこれ単体で売っていくものなのか。

 Xperiaに限定したものではなく、Androidのエコシステムに向けてBluetooth Low Energyを使っている。Android 4.3以上であれば、他社の端末でも使うことができる。もちろん、アプリをダウンロードしたりする必要はあるが、そこはオープン。ニーズがあれば、やらないという判断はない。

 一方でビジネスモデルとしてはどうなのか。我々が考えているのは、これ自体がお金になるというよりも、これを起点にしてハード的なもの、ソフト的なもの、両方でエコシステムが構築できればいいということ。広い意味では、Xperiaもそのエコシステムの中の1つ。コアがあるので、ハードは他社でも簡単に作ることができるし、アプリやサービスでもエコシステムが作れる。

 ビジネスコラボレーションも否定せずに考えていきたい。ただし、アクセサリーは数字の読みが難しい。たとえば、オペレーターのショップに置いたり、AV系の販売チャネルに置いたりするだけなら数字が読める。一方で、ソリューション型になったり、他社とのコラボレーションが始まると一気に数も変わる。もちろん、数百万、数千万というスケールは目指している。

――CoreのユーザーがXperiaを使うメリットは何かあるのか。

 ライフログアプリが最初から入っていることはメリットの1つ。開発もXperiaがベースになっているので、エンターテインメントアプリとの連動で、“ならでは”はどんどん出てくる。

――ライフログをビッグデータとして活用することは。

 それはない。データを持つことが目的ではないし、データも持って何かをやりたい人とは、フェアにやっていきたい。

――Firefox OSやWindows Phoneなど、第3のOSにはどのように取り組んでいるのか。

 Firefox OSについては、将来の商品化を目指して技術検討を進めている。そのステータスは変わっていない。Firefox OSはオペレーターからの需要があるのはもちろん、色々な技術を学べる。Webテクノロジーに関して、Firefox OSが持っているものは強い。技術検討をすることで、Androidに対しても波及効果がある。どの商品がいつ出るのかを言うことはできないが、継続的に検討は続けている。

 Windowsに関しては、そもそもXperiaの1号機はWidnows Mobileだった。マイクロソフトとの関係はあるし、Windows Mobileから撤退した後も情報交換は続けている。Firefoxと同じで、技術的なことは知っていないと立ち位置が分からなくなるからだ。商品化については、今はその段階ではない。今はAndroidに注力する。ただし、Windows Phoneも、オペレーターの需要があることは確かだ。

石野 純也