水の都ベネチアの洪水通知SMS

 KDDI総研 沖賢太郎
KDDI総研 調査1部 海外市場・政策G。海外のモバイルサービス動向を調査・分析。奇しくも9月にフィンランドへ出張することになった。携帯投げ大会が9月にずれ込んだ場合は「オリジナル」部門で参加し入賞を目指す。


 アドリア海に浮かぶ水の都ベネチア(イタリア)。この街には100を超える運河が張り巡らされており、そこをたくさんのゴンドラ(小船)がゆっくりと行き交う(ベネチア本島への車の進入は禁止されている)。ゴンドラが水面に作り出す緩やかな波紋は、ベネチアの太陽を浴びてキラキラと輝き、ゆったりとした美しい時間を織り成す。

ベネチアの街並み(筆者同僚撮影)ベネチアの運河(筆者同僚撮影)

 海に面した街だからこそ抱える問題もある。それは水位上昇による冠水被害である。大潮、気圧の変化等の条件が重なると「アクア・アルタ(Acqua Alta、高水の意)」と呼ばれる高潮がベネチア湾で起こる。この高潮が発生すると、海水がベネチアの街中まで入り込み、ひどいときには街の半分が冠水する。地球温暖化と共にこの冠水被害の頻度も増してきている。

 そんな中、ケータイが一役買っている。ベネチアでは水位上昇の兆候が現れると、市民と観光客のケータイに緊急速報がSMS配信されるようになっている。2008年から始まったこの無料公共サービスでは、水位上昇の36時間前よりSMS配信が開始され、以後定期的に通知が繰り返されるという仕組みになっている。また、いつ通常水位に戻るかについても合わせて情報発信されるため、市民の日常生活や観光客の観光計画のための便利なツールとなっている。

 しかし、さすがはラテンの国の人々である。冠水状態になっても長靴を履いてサン・マルコ広場(Piazza San Marco)に繰り出し、オープンカフェで水に浸った街の様子を楽しんでいる人もいる(営業している店も店である)(AFP通信)。

裏通りを流れる運河(筆者同僚撮影)サン・マルコ広場。洪水発生時にはこの広場も冠水することがある(筆者同僚撮影)

 地震の多い日本では同様のサービスとして「緊急地震速報」がおなじみである。また、つい先日アメリカでも、大手通信事業者4社(AT&T、Sprint、T-Mobile、Verizon Wireless)と政府が提携し、ニューヨークにおける緊急アラームSMSサービス(Personal Localized Alerts in New York City:PLAN)を導入する計画が発表されている(Cellular News)。

 あらゆるものの中で人々が最も肌身離さないケータイだからこそ、緊急事態の通知手段としても有効である。世界中のケータイに、各国の事情に合わせた緊急通知サービスが搭載される日はそう遠くないのではないだろうか。

2011/5/25 06:00