石野純也の「スマホとお金」

「iPad Pro」と「iPad Air」実機レビュー、性能と価格で考えるその魅力とは

 5月15日に、M4を搭載した「iPad Pro」と、M2を搭載した「iPad Air」が発売になります。前者のiPad Proは製品名の区分にも用いられているM4や、有機ELを2枚に重ねて輝度を高めた「タンデムOLED」の採用が特徴。後者のiPad Airは、22年のiPad Proに近い性能を持ちながらも、価格を抑え、さらに同シリーズとして初の13インチ版を発売するのがトピックです。

アップルは、5月15日にiPad Pro(左)とiPad Air(右)を発売する

 発売に先立ち、この2モデルを実際に使ってみることができました。ここでは、その体験に基づきながら、性能と価格のバランスについて考察していきます。

デザインもスペックも最高峰に仕上げたiPad Pro

 製品に機能性を求めるガジェット好きが気になるのは、やはりiPad Proではないでしょうか。アップルは、これまでもiPad Proに先進機能を盛り込んできており、その一部がiPad Airに搭載され、さらに時間を経てスタンダードなiPadに落ちてくる流れになっています。今回試した13インチiPad Pro(M4)も、そんな期待にこたえるモデルです。

iPad Proは、ディスプレイやデザインなどまでフルモデルチェンジ。Magic Keyboardを装着した際のたたずまいは、まるでPCのようだ

 これまでの12.9インチiPadは、機能性が高い一方で、重量がかさみ、携帯性には少々難がありました。13インチiPad Pro(M4)では、その課題が解決されています。ディスプレイに有機ELを採用したことで、一目で分かる薄型端末にブラッシュアップされており、スタイリッシュさがマシマシに。重量も100g強、軽くなっているため、ギリギリですが片手で持っても手がプルプルしなくなりました。

ギリギリながら片手で持てる重量感になった
5.1mmと非常に薄くてスタイリッシュだ

 一見の価値があるのが、そのディスプレイでしょう。液晶から有機ELになったことで、黒の締まりがグッと上がり、発光している部分とのコントラストがよりはっきりしたことで、ぱっと見で美しいと思える映像が出力されるようになりました。もちろん、処理能力は申し分なし。Macにも未搭載のM4で、動画編集や画像編集などもしっかりこなせます。

黒がギュッと締まって見え、明るい部分とのコントラストが際立つ
ディスプレイベゼルとの境界線が非常に分かりづらいほどの黒さだ

 もう、みんなiPad Proを買っておけばOKと太鼓判を押したいところですが、残念ながら各々予算には限りがあります。特に今回のiPad Proは、昨今の円安ドル高を反映する形で、価格が大きく上がってしまいました。元々iPad Proにあった128GB版がなくなり、さらにドル建てでの価格も上がっているうえに、円安のトリプルパンチに見舞われた格好です。

 13インチ版の最低価格は20万4800円。モバイルデータ通信をつけた「Wi-Fi+Cellular」に至っては、25万4800円にもなります。11インチ版にすると負担感は抑えられるものの、こちらもWi-Fiモデルの最低価格は16万8800円と決して安いモデルではありません。良くも悪くもタブレットはPCよりも安いものというイメージを覆す価格設定ですが、さすがに20万円となると万人受けするのは難しいでしょう。

13インチ版は最小構成が20万4800円。Wi-Fi+Cellularにしただけで、25万円を超えてしまう

 しかも、Apple Pencil ProやMagic Keyboardを使おうとすると、さらに価格が上乗せになります。手書きを楽しみたい人や、キーボード入力したい人に、これらのアクセサリーは必須アイテム。サードパーティ製で代替することは可能ですが、やはりアップルが一貫して手掛けているだけに、使い勝手は考え抜かれています。

 Apple PencilやMagic Keyboardは、複数年、異なるiPadで使い回せるのが通例になっていましたが、今回のiPad Proは、過去のアクセサリーと互換性がありません。定番になっていたApple Pencil(第2世代)や、これまでのMagic Keyboardが利用できないというわけです。

iPad Proの登場に合わせて、Apple PencilやMagic Keyboardも刷新された

 そのため、iPad Proフル活用しようとすると、iPad本体とApple Pencil Pro、Magic Keyboardの“三点セット”が必要になってきます。3つ合わせた13インチiPad Pro(M4)の価格は、Wi-Fi版の256GBでも30万400円。昨今の高額化するハイエンドスマホのさらに上を行く価格で、購入には清水の舞台から飛び降りる覚悟が必要になってきます。ちなみに、おそるおそる最上位構成のWi-Fi+Cellular、かつ2TB版を確認してみたところ、その価格は50万円を超えてしまいました……。

アップルの本命はiPad Airか、相対的にコスパは高い

 とは言え、その価値に見合っていると思った人が買えばいいだけの話で、高いだけで批判するつもりはありません。Apple Storeでサクッと買えてしまうので、広くあまねく普及を目指しているように見えてしまうかもしれませんが、アップルもiPad Proは、“本気のプロ向け”と位置づけている節があります。

 逆に、同時に発表されたiPad Airはよりすそ野の広いタブレット。こちらは、チップセットに22年のiPad Proと同じM2を採用しながらも、11インチ版であれば価格は9万8800円から。あくまでWi-Fi版、128GBという最小構成だけではありますが、10万円を下回っている価格設定には安心感すらあります。ドルとの価格比がiPad Proより安めに設定されており、アップル的にも売れ筋になると予測し、頑張って値付けしたことがうかがえます。

iPad Airは、11インチ版の最小構成が10万円を下回る

 また、iPad Airであれば、Magic Keyboardはこれまでのものを流用することが可能。あくまでも買い替えユーザー限定の話にはなるものの、過去のiPad ProやiPad AirでMagic Keyboardを使用していた場合、このコストを度外視できます。Apple PencilのApple Pencil Proへの買い替えは必要になりますが、三点セット買いをしないで済むぶん、負担感は軽いと言えそうです。

 Proではないとは言え、その性能は十分高いと言えるでしょう。チップセットの処理能力は、21年に発売され、筆者も絶賛使用中の11インチiPad Pro(第3世代)を上回っていることが確認できました。実のところ、M1搭載の第4世代でも処理能力に不満を感じたことは少ないため、それ以上のiPad Airであればスペックとしては申し分がありません。

『Geekbench 6』で計測したCPUスコア
こちらは、筆者所有の11インチiPad Pro(第3世代)。M1搭載のため、今ではiPad Airより処理能力が低くなってしまった格好だ

 iPad Proと比べると、さすがに黒の表示が明るく見えてしまうところはありますが、これはあくまで比較の上での話。色域はP3に対応していますし、第4世代までの11インチiPad Proを使っていたユーザーには、違いが分からないはずです。ただし、リフレッシュレートを最大120Hzに上げるProMotionには非対応。それを意識する場面は非常に少ないものの、アプリライブラリを呼び出す際のガタつきはやや気になったことは明記しておきたいところです。

Apple Pencil Proが使えてカメラも横位置センターに

 高さや幅といったスペックは、ほぼ22年に発売されたiPad Proと同じ。今回チェックした11インチ版に関しては、11インチiPad Pro(第4世代)比で厚みが0.2mmほど増しているものの、目をつぶれる範囲と言えるでしょう。普段11インチiPad Pro(第3世代)を使っている筆者でも、スペックシートを確認しなければ違いが分からなかったレベルですから。

厚さは6.1mm。5mm台ではないものの、厚すぎるといった印象はない

 そんなiPad Airも、Apple Pencilに充電するポートの方式が変わり、Apple Pencil Proに対応しています。書き味そのものはこれまでのApple Pencilと変わらず、ガラスに書く特有の滑りはある一方で、追従性が高く、アナログのペンを使っているのに近い感覚で扱えます。筆者は主に校正など文字を書くことが中心で、イラストはラフ程度のものしか描きませんが(描けませんが)、これまでと同等のため、イラストも十分扱えると思います。

Apple Pencil Proに対応。逆に、既存のApple Pencil(第2世代)は利用できない

 Apple PencilがProになって便利なのは、やはりスクイーズという新機能。何が出てくるかはアプリによって異なるようですが、例えば標準アプリの「メモ」や「フリーボード」の場合、ペンを切り替えるツールが表示されます。通常、こうしたツールは画面の上下どちらかにまとめられており、切り替え時にいったんApple Pencilを大きく動かす必要があります。これが思考の妨げになることも。スクイーズを使えばギュッと握ってすぐ近くに出るため、それが緩和されます。

スクイーズで、ツールパレットを呼び出せる

 もう1ついいのが、フロントカメラの位置が変わったこと。すでにiPad(第10世代)では取り入れられている仕様ですが、横位置で置いた際にカメラが中央に来るため、位置取りがしやすくなります。iPadは、そのスピーカーやマイク性能の高さから、ビデオ会議に利用することも多い端末ですが、そのシーンでの使い勝手がより上がった格好です。

カメラは、長辺側のベゼルに。ビデオ会議などがしやすくなっている

 生体認証はトップボタンと一体になったTouch ID。キーボードを使う際に腕を伸ばして指を当てなければならないのがやや面倒ですが、タッチ前提でタブレットとして使う際には、こちらの方がロックの解除や認証がしやすい印象があります。Face IDとの比較では一長一短。上位モデルのiPad Proには両方を載せてほしい気もしますが、そうなるとさらに価格が……といった問題もありそうなのでこれ以上はやめておきます(笑)。

生体認証は引き続きTouch ID。トップボタンに統合されている

 ほぼProなiPad Airですが、スピーカーが数が少なく、やや音の広がりが薄かったり、ユーザー自身で分かりづらいところでは、マイクの数やクオリティにも差分があります。とは言え、それらを必要としない人がいるのも事実。取捨選択をしつつ、コストの最適化を図ったのがiPad Airと言えそうです。手が出せないというほど高価ではなく、必要十分以上の機能が備わっているだけに、実機を使ってみて、人気モデルになりそうな予感がしました。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya