石野純也の「スマホとお金」

21日に登場するドコモ「エコノミーMVNO」3社目のLIBMOは何が特徴? その差別化ポイントを徹底解説

 ドコモは、3社目のエコノミーMVNOとして静岡に拠点を構えるLIBMOを追加します。

 21年に子会社のNTTレゾナント(当時はNTTコミュニケーションズ)が運営するOCN モバイル ONEがエコノミーMVNOとして参画したのを皮切りに、同年12月にはフリービット傘下のTONEモバイルがエコノミーMVNOとしての展開をスタート。TONEモバイルは、その後端末の取り次ぎ販売に踏み切るなど、ドコモショップで販売ができる強みを生かした取り組みを強化しています。

エコノミーMVNOに、21日からLIBMOが加わる

 大きな枠組みとしては、 ドコモ自身が用意できていない低容量、低料金のプランをMVNOが担い、代わりにドコモショップでの販売を行うというのがエコノミーMVNOの特徴です。 dポイント加盟店になることも必須条件で、いずれのMVNOもエコノミーMVNO参画後に、毎月の料金に対してdポイントが付与されるようになりました。dポイントの会員基盤を生かしつつ、ドコモから流出するユーザーをゆるやかに引き留めておくための施策とも言えるでしょう。

ゴーゴープランを中心に音声通話定額を訴求するLIBMO

 とは言え、3社目ともなると、他のエコノミーMVNOとの差別化が難しくなってきます。低容量、低料金という軸が決まっているため、単に料金を安くするだけだと、エコノミーMVNO同士での食い合いが起こってしまうからです。同じドコモショップ内で、似たようなデータ容量の安い料金プランが販売されていても、なかなか選ぶことができません。ショップスタッフも、どれをお勧めすべきか困ってしまうはずです。

 このような中、 LIBMOは他のMVNOがあまり強く打ち出していない“音声通話”を全面的に訴求してきました。 LIBMOは、2月に500MBのデータ通信と音声通話定額をセットにした「ゴーゴープラン」を開始しましたが、エコノミーMVNOで主に展開するのも、このプランです。セットになる音声通話定額は、5分、10分、時間無制限の3つ。それぞれ、「5分かけ放題セット」「10分かけ放題セット」「かけ放題マックスセット」と呼ばれており、正規の料金は1100円、1320円、1980円になります。

2月に導入されたゴーゴープラン。500MBのでデータ容量に、3種類の音声通話定額をセットにした内容で、セットになっているぶん料金が安い

 一方で、LIBMO自体は、音声通話中心のMVNOというわけではなく、一般的なMVNOに近い形態の料金プランも用意しています。それが、「なっとくプラン」です。 なっとくプランは、3GB、8GB、20GB、30GBの4つに分かれていますが、エコノミーMVNOでは下2つの3GBと8GBを展開します。 料金は3GBが980円、8GBが1518円です。このなっとくプランにも、オプションとして音声通話定額をつけることが可能。5分かけ放題は550円、10分かけ放題は770円、かけ放題マックスは1430円です。

3GBから30GBのなっとくプランが同社の主力。エコノミーMVNOでは、3GBと8GBを展開する
なっとくプランに、各音声通話定額をオプションとしてつけることも可能だ

 この音声通話定額には、割引を適用できます。21日から始まる「かけほ割」がそれで、5分かけ放題の場合110円、10分かけ放題の場合220円が1年間割り引かれます。 割引適用後の料金は、それぞれ440円と550円です。 また、かけほ割をゴーゴープランにも適用され、5分かけ放題セットが990円、10分かけ放題セットが1100円まで下がります。1年間限定ですが、割引額に大小つけられているため、5分と10分のかけ放題の差額がわずか110円になるのは魅力。より長時間通話できる安心感を取り、10分かけ放題を選ぶユーザーが多くなりそうです。

ドコモショップで契約すると、1年間、5分かけ放題が110円、10分かけ放題が220円割り引かれる

  注意点として挙げておきたいのが、当初はSIMカードやスマホを店頭で受け取れないということ。 SIMカードのみでも、ドコモショップ店頭での開通ができません。そのため、初期設定サポートを受けたいときには、いったんドコモショップで申し込んだあと、自宅でSIMカードや端末を受け取り、再度ドコモショップを訪問する必要があります。準備ができ次第、店頭開通を開始するとしていますが、この点は少々残念です。

エコノミーMVNO内での差別化も、通話重視にお勧めの仕上がりに

 エコノミーMVNOに加わっている他の2社と比較すると、LIBMOが音声通話重視であることがよく分かります。近い料金プランを展開しているのは、NTTレゾナントのOCN モバイル ONE。同社も、エコノミーMVNO参画に合わせて、500MBの超低容量プランを料金プランに加えています。こちらの料金は、550円。音声通話は月に10分まで無料になります。ただし、10分は1カ月の合計。足が出たぶんは30秒ごとに11円の料金が発生します。

OCN モバイル ONEの500MB/月コースは、550円の料金に月10分までの音声通話が含まれる

 OCN モバイル ONEにも「かけ放題オプション」はありますが、もっとも安価なのは「10分かけ放題」の935円。500MBプランと合算すると、料金は1485円になります。LIBMOであれば、5分かけ放題セットが1100円、かけほ割適用時は990円で利用可能。10分かけ放題でも、ゴーゴープランなら1320円(かけほ割適用で1年間1100円)で、OCN モバイル ONEよりも割安と言えるでしょう。

かけ放題オプションも提供しているが、合算時の料金はLIBMOより割高に

 その反面、LIBMOのゴーゴープランは、音声通話定額とのセットが前提で、500MBプラン単体では契約ができません。音声通話の分数が一定の範囲に収まるのであれば、OCN モバイル ONEの方がお得になります。損益分岐点は次のとおり。OCN モバイル ONEは10分まで無料で、その後、30秒ごとに11円料金が上がっていきます。追加で10分、計20分通話したとすると、料金は770円です。さらに10分通話すると、料金は990円まで上がり、かけほ割を適用したLIBMOの5分かけ放題セットと同額になります。かけほ割終了後の5分かけ放題セットと金額で並ぶのは、計35分通話した場合になります。

かけほ割を加味しない場合の損益分岐点は35分。これより通話分数が少なければ、OCN モバイル ONEの方が安くなる

 この35分を多いと見るか、少ないと見るかはその人がどれだけ音声通話をするかにもよりますが、少し長電話すると、すぐに超えてしまう時間であることは確かです。1日1分強と考えると、通話の頻度が高いユーザーには足りない可能性があります。そのため、同じ500MBプランではありますが、音声通話を重視するのであれば、うたい文句どおりLIBMOを選んだ方が安くなると言えそうです。

 次に、TONEモバイルですが、こちらは基本料金が1100円で、データ容量は動画などを除けば使い放題。音声通話料は30秒11円です。5分間の音声通話定額はオプションとして、770円で提供されています。仮に、5分間の音声通話定額をつけると、料金は1870円に。同社は子どもやシニアをターゲットにしており、見守りサービスもセットで訴求しているため、低容量で長時間の音声通話を求めると、どうしても割高になります。こうした点を見ても、LIBMOは既存のエコノミーMVNOときちんと差別化ができていると言えそうです。

TONEモバイルは、見守りサービスとセットになったMVNOという位置づけ。音声通話中心の使い方にはあまり向いていない

中継電話サービスやオートプレフィックスで値下げを実現、その仕組みとは

  音声通話の料金を各社が値下げしている背景には、「オートプレフィックス」の導入があります。 元々、MVNOは大手キャリアに対抗するため、中継電話と呼ばれるサービスを用いて料金を値下げしていました。中継電話とは、発信元のキャリアと着信元のキャリアの間に入る事業者が提供するサービスのこと。発信元、着信元双方に請求する接続料を安価に抑えることで、エンドユーザーの料金を割安に設定しているのが特徴です。

 中継電話の仕組みを分かりやすく解説しているのが、IIJがユーザーミーティングの「IIJmio meeting 31」で披露した資料。大手キャリアの設備を迂回し、着信元のキャリアの交換機に接続していることが図から読み取れます。この経路を迂回するために必要なのが、プレフィックスと呼ばれる番号。このプレフィックスが、どの中継電話事業者を経由するかを示しています。「みおフォンダイヤル」など、MVNOの提供しているアプリは、プレフィックス番号を自動でつけるためのものです。

IIJmio meeting 31で説明されていた中継電話サービスの仕組み。キャリア同士の間に中継電話事業者を挟むことで、低料金を実現している

 ただ、スマホ標準の電話アプリとは別のアプリから発信しなければならず、かけ間違えて電話代金が高くなってしまうトラブルもありました。着信は標準の電話アプリに残るため、通知をタップして折り返すと、中継電話にならないというわけです。電話をするためのアプリが2つあるのも、スマホに慣れていないユーザーにとっては煩雑に見えます。こうした難点を解消するために導入されたのが、オートプレフィックスです。

 これは、簡単に言えば大手キャリア側の設備で自動的にプレフィックスの番号を付与する仕組みのこと。どのMVNOを契約しているかを交換機側で識別して、自動的に中継電話業者につなぐようにしています。端末側ではなく、ネットワーク側で自動的にプレフィックスを付与するため、ユーザーはアプリを入れる必要がなくなりました。エコノミーMVNO各社が、標準的な通話料を30秒11円としているのは、そのためです。

ドコモが総務省の有識者会議に提出した資料。交換機側でプレフィックスの番号を付与する仕組みだ。音声接続とも呼ぶ

 通話料がある程度下がり、ユーザーが増えれば、音声通話定額を提供するリスクも下がります。こうした事情もあり、MVNO各社が音声通話定額を提供できるようになりました。LIBMOが音声通話定額の安さを訴求しているように、データ通信だけでなく、通話も差別化の要素になりつつあります。音声通話というと、スマホ以前の携帯電話時代をほうふつとさせますが、枠組みは少々異なります。まさに古くて新しい競争と言えるかもしれません。

 なお、すべてのMVNOがオートプレフィクスによって音声通話料を値下げしているわけではありません。例えば日本通信は、ドコモとの協議が不調に終わったあと、総務大臣裁定を勝ち取り、音声卸の値下げに成功。ユーザー向けの料金を下げるとともに、音声通話定額を提供しています。同社がMVNEとして回線を貸す、HISモバイルなども、仕組みは同様。中継電話事業者を使うより、シンプルな方法で値下げを実現しています。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya