石野純也の「スマホとお金」
iPhoneアプリを配信する「App Store」の価格設定ルールが改定、新たな価格体系を読み解く
2022年12月22日 00:15
App Storeにおける価格設定ルールが、12月6日に改定されました。現在は、月額課金で提供されているサブスクリプションサービスだけが対象ですが、2023年春には、買い切りのアプリやアプリ内課金も含めて、すべてのアプリにこの価格テーブルが適用されるようになります。
従来の価格体系とは異なり、ディベロッパー側の柔軟性が大きく高まるルールになっているため、アプリやアプリ内のアイテムの価格が大きく変わる可能性がありそうです。
では、具体的にはどのような価格体系が採用されるのでしょうか。ここでは、新旧の価格設定を比較しながら、その違いの中身や今後のアプリ市場に与えるインパクトを読み解いていきます。
価格設定を変更できるのはディベロッパーですが、支払う側のユーザーも金銭的な影響を受けます。23年春の価格改定に備え、仕組みを理解しておくようにしましょう。
Tierごとにざっくり決められている現行の価格体系
App Storeで販売されているアプリの価格は、ディベロッパーが1円単位で自由に決められるわけではありません。アップルが定める価格テーブルがあり、「Tier(ティア)」ごとに価格が定められていました。
サブスクリプション以外のアプリは、現在もこの仕組みです。たとえば、Tier 1を選ぶと160円、Tier 2を選ぶと320円といった具合で価格が変わります。160円と320円の間の価格をつけることはできません。
Tier 1からTier 3までは160円ずつ上がっていく形ですが、Tier 4はTier 3より170円アップの金額。逆に、Tier 5はTier 4より150円ほど高く、ティア間の価格差は一律にはなっていません。このTierが0円のTier 0を含め、全部で88段階用意されています。また、この88段階に収まらない金額をつけたいときのために、「Alternate Tier」と呼ばれる設定も用意されています。
こちらは「A」「B」と「1」から「5」までの全7種類。ただし、日本での現行価格は「A」「B」「1」がすべて同じ160円。また、そのほかのAlternate Tierも通常の価格テーブルにあるTierと同額になっているため、日本にアプリを展開するディベロッパーや日本のユーザーには、意味がほぼありません。こうした仕組みを採用するメリットのひとつは、価格設定の容易さです。市場動向や競合の状況に鑑みて細かな金額まで考える必要がなく、Tierを選択するだけで済むからです。
Tierを選ぶだけで価格が自動的に決定されるため、複数の国や地域でアプリを展開している場合、為替レートの計算をしてひとつひとつ価格設定していく手間も省けます。たとえば、Tier 1を選ぶと、日本では160円ですが、米国では米国、欧州では欧州の価格テーブルにのっとり、0.99ドルや1.19ユーロという価格が適用されます。こうした仕組みがあり、為替レートを反映されるため、定期的に価格テーブルの中身を見直していました。
10月5日の価格改定は、急速に進んだ円安ドル高の相場を反映させるためのもの。元々、Tier 1は120円、Tier 2は250円といった価格が設定されていましたが、それを160円、320円に引き上げています。Tier設定をそのままにしていると、ユーザーにとって値上げになってしまいます。一方で、必ずしも値上げに直結するとは限らず、Tierを引き下げたり、アプリ内で提供する価値を高めたりする可能性があることは、以前、本連載でも指摘しています。
12月6日に新価格体系がスタート、サブスク以外の対応は23年春から
12月6日に、この価格体系が抜本的に見直されました。現時点では、サブスクリプションのアプリだけが新テーブルに対応。買い切りアプリやアプリ内課金は上記のような体系のままと、2つの価格テーブルが併存しています。後者も、23年春には新しい価格体系に移行する予定。これによって、アプリの価格により“多様性”が生まれることが期待できます。
新しい価格テーブルは、最低価格ごとに「Price steps」が定められています。最低価格は50円、100円、400円、800円、4800円、9800円、4万8800円。50円の場合のPrice stepは10円に設定されています。これが意味するのは、最低価格50円を選択した場合、10円ごとの価格設定が可能ということ。このPrice stepが有効なのは、2000円までつまり、50円、60円、70円、80円といった形で、2000円まで10円刻みで価格を設定することができることです。
最低価格100円のPrice stepを選択した場合は、上限1万5000円まで、100円刻みで料金が上がっていきます。先に述べたとおり、2000円までは50円から10円刻みで料金を設定できるため、実質的には2000円から1万5000円までが、100円刻みになると言えるでしょう。2000円以上は10の位は動かせず、2100円、2200円、2300円といった形で料金が決まっていくということです。同様に、400円以上、4万9800円以下の場合は500円というPrice stepが設定されています。
以降、800円以上9万9800円の場合が1000円、4800円以上15万8800円以下の場合が5000円、9800円以上80万円以下の場合が1万円、4万8800円以上160万円の場合が5万円と、最低価格に応じてPrice stepが上がっていきます。こうしたPrice stepに加えて、980円や990円といった価格を設定しやすいよう、「Supported conventions」という価格テーブルも用意されています。
併存している旧価格帯との違いとして大きいのは、価格設定の柔軟性です。アップルが「計900のプライスポイント」と説明しているとおり、従来の価格テーブルでは実現できなかった価格を設定できます。これまで不可能だった180円なり、240円なりの、Tierになかった価格をつけることが可能になります。一方で、Price stepが設定しているため、1円単位で端数が生じるような価格をつけることはできません。完全にディベロッパーの自由になったわけではなく、柔軟性が増したと言えるでしょう。
アプリ内課金の値下げは実現するか? 日本市場特化のアプリには期待も
もうひとつ、アプリ市場に影響を与えそうなのが、最低価格の違いです。旧価格テーブルでは、無料アプリの次がTier 1になっていたため、現状のレートでは最低でも160円の価格をつける必要がありました。ディベロッパーがもっと安くてもいいと考えていても、160円未満に値下げすることができなかったのです。これに対し、新しい価格体系を適用すると、50円のアプリを販売することも可能になります。開発コスト的に160円までは必要なかったディベロッパーが、値下げに踏み切る可能性もあります。
また、日本市場にとっては、23年中に所在地価格の設定が可能になることも大きな変化と言えます。この機能を使うと、たとえば日本円で150円と設定しておけば、常に日本円では150円で価格が固定されます。これまでの価格テーブルは、アップルがTierごとの金額を改定すると、自動的にアプリの価格が変動していました。10月の料金体系改定のようなことがあると、値上げの影響がユーザーに直撃します。所在地価格の設定によって、日本市場に特化したアプリは、価格の自動的な変動を避けることが可能になったというわけです。
日本に関しては、10月の価格改定でアプリ内通貨を購入する際の価格が最低160円に上がりました。これに伴い、付与されるアプリ内通貨を増やすなどの措置で、実質的な価値を据え置く動きが目立ちました。たとえば、「LINE」はLINEコインを120円から160円に値上げしましたが、付与されるコイン数を50コインから70コインに調整。「ウマ娘」も120円でジュエル50個だったところを、160円で60個に変更しました。
こうしたアプリに関しては、新しい価格テーブルが採用されれば、より価格体系が多様化する可能性もあります。120円のメニューが復活したり、Price stepごとに細かくアプリ内通貨を購入できるようになったりと、さまざまな対応が考えられます。アプリ内通貨で電子書籍などのコンテンツを購入するといった仕組みの場合、ピッタリの金額を払えるようになる可能性もあります。
ただし、海外に拠点を構えるディベロッパーのアプリがどうなるかは、未知数です。為替レートが変わらなければ、日本円でだけ価格を調整するメリットがあまりないからです。実際、10月の価格改定の影響を受け、円の価格をそのまま値上げしてしまうアプリも多数見受けられました。為替レートが変わらなければ、こうしたアプリの価格はそのままになる可能性があります。ディベロッパーがどういった対応を取るかによりますが、何らかの動きはあると見ていいでしょう。