ワクワク感でユーザーを刺激するauのWiMAXモデル&タブレット

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット Xperiaをスマートに使いこなす 基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S」「できるポケット iPhone 4をスマートに使いこなす基本&活用ワザ200」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


端末を手にするKDDIの田中社長

 2月28日、KDDIは4月上旬発売の新モデルとして、初のWiMAX対応スマートフォンとWi-Fi対応のタブレット端末を発表した。昨年のIS03以降、スマートフォンの販売が好調なauだが、WiMAXという新しい武器を持つスマートフォンと、Android 3.0採用タブレットをラインアップに加えることにより、さらに拡大しようという構えだ。発表会の内容については、本誌に詳細なレポート記事が掲載されているが、ここでは筆者が見た発表会の印象やそれぞれの製品の捉え方などについて、レポートしよう。

auが抱えてきた問題

 今さら説明するまでもないが、ケータイは電波を利用して、通話や通信といったサービスを提供する。この際に使用される電波は、各携帯電話事業者が免許を受けることで、決められた周波数帯に対して電波を発する(吹く)ことができる。利用する周波数帯の違いによって、電波の建物への浸透度や回り込み特性が異なるといったことがよく話題になるが、周波数についてはもうひとつ気にすべき点がある。それは、日本と海外で利用される周波数帯の違いだ。我々が普段利用しているケータイは、3Gが標準化されたとき、基本的に周波数帯として2GHz帯を利用する仕様となっているが、国と地域によってはこの他の周波数帯も利用されている。たとえば、NTTドコモのFOMAプラスエリアは800MHz帯を利用しており、海外では1.9GHz帯を利用する3Gサービスなども存在する。

 auの場合、3Gサービスとして、CDMA2000 1X方式によるサービスを開始したとき、それまでcdmaOneサービスを展開してきた関係もあり、800MHz帯を中心にサービスを提供し、2GHz帯については補完的に利用してきた経緯がある。そのため、auは3Gサービスにおけるエリア展開の早さや、つながりやすさというメリットを提供できたが、その一方で、同じCDMA方式でも、海外で800MHz帯のサービスを提供する携帯電話事業者とは、上り方向と下り方向で利用する周波数帯が異なるという制約を抱えたままになってしまっていた。その結果、海外で販売されている端末をそのまま、日本のau向けにローカライズして販売するといったことが難しい状況となっていた。ある海外メーカーの担当者は「CDMA端末はいくらでも作れるけど、auさんのCDMAは仕様が違うから難しい」とこぼしていたが、そうした難しさのひとつが周波数帯域の違いにあったわけだ。

 こうした状況に対し、2005年から総務省が800MHz帯の周波数再編をスタートさせており、これは2012年7月24日までに完了する予定となっている。この800MHz帯の周波数再編が完了することにより、auは世界標準と同じ800MHz帯でのサービス提供が可能になり、端末なども海外で販売されている製品を日本向けにローカライズしやすくなる。

 ただ、周波数再編は既存の携帯電話サービスを継続的に提供しながら移行するため、ユーザーには周波数再編完了までに、旧800MHz帯に対応した端末を順次、新800MHz帯対応の端末に買い替えてもらわなければならない。現在、auショップに行くと、「CDMA 1Xなどのサービス終了に伴い、一部の機種が利用できなくなります」といった告知がなされ、対象機種を使用しているユーザーに対してはダイレクトメールも送付されているのはそのためだ。ここ数年間に販売された端末は新800MHz帯と旧800MHz帯の両対応の端末が販売されており、エリアについても新800MHz帯がこれまでと同様に利用できるよう、順次整備が進められている。ユーザーが意識することはほとんどないが、携帯電話事業者にとっては数年を掛けての大がかりなプロジェクトとなっているわけだ。

 今回、auから発表されたWiMAX対応スマートフォン「htc EVO WiMAX ISW11HT」は、米Sprintで販売されているHTC製の端末を日本向けにローカライズしたもので、周波数帯については海外と共通の「新800MHz帯」と2GHz帯に対応する。内容的にはWiMAX対応のスマートフォンであることが最大の注目点だが、別の視点から見れば、auもNTTドコモやソフトバンクと同じように、グローバル市場で展開されている端末を、日本市場に(これまでより簡単に)導入できるようになったという意味合いも持つ。

 ただ、注意しなければならないのは、現時点において、auのエリア展開は新800MHz帯への切り替えが完了しているわけではなく、2012年7月までは旧800MHz帯との並行運用であり、旧800MHz帯のみでカバーされているエリアでは3Gネットワークを利用した通話も通信も利用できないことになる。auとしてはこうしたリスクを抱えてでもいち早く魅力的なスマートフォンを投入したかったということだろう。

 一方、今回のような形でグローバル端末の投入が実現できたということは、1月の「2011 International CES」や2月の「Mobile World Congress 2011」で発表された各社のCDMA版スマートフォンがau向けに登場することが十分に考えられるうえ、1月に米Verizonで販売が開始された「CDMA版iPhone」も国内向け投入の可能性が否定できなくなったという見方もできる。

 また、auでは今回のWiMAX対応スマートフォン「htc EVO WiMAX ISW11HT」に合わせ、「+WiMAX」というオプションサービスを追加したほか、Wi-Fi及びUSB接続でのテザリングも可能にしている。パケット通信料については、ISフラットなどのパケット定額サービスの月額利用料に加え、+WiMAXを月額525円で利用できるようにしている。auの回線のほかに、モバイルデータ通信用として、UQコミュニケーションズなどのWiMAXサービスを契約していたユーザーは、回線が1つにまとめることが可能なうえ、月額基本使用料も節約できることになる。WiMAXは通信速度も十分すぎるほどに高速で、現在はエリアもかなり拡大しており、モバイルユーザーにとっては料金体系も含め、かなり魅力的な選択肢が加わったと言えそうだ。さらに、auが新たにこうした料金体系を用意してきたということは、今後、同社のスマートフォンやフィーチャーフォンに、WiMAX対応の製品がいくつか登場することを示唆しているのかもしれない。

WiMAXのエリアは主要都市で充実していることをアピールしたテザリングも便利な機能のひとつ

 

荒削りながらもとても魅力的なスマートフォン&タブレット端末

 さて、ここからはいつものように、発表会後に行なわれたタッチ&トライコーナーで試用した実機の印象や、各モデルの捉え方などについて紹介しよう。ただし、いずれも開発中の製品であるため、実際に発売される製品と違いがあるかもしれない点は、ご理解いただきたい。また、各機種の仕様などについては、本誌レポート記事を参照して欲しい。

・htc EVO WiMAX ISW11HT(HTC)

 4.3インチの大画面ディスプレイを搭載したWiMAX対応スマートフォン。サイズ的にはソフトバンク向けに供給されている「Desire HD 001HT」とほぼ同じだが、ディスプレイは若干、下方に配置されているため、片手で持ったとき、筆者の手でも対角位置にあるアイコンを何とか親指でタッチできる。ただ、IS03やREGZA Phone IS04と比較しても、ボディサイズは大きい部類に入る。重量も170gと、スマートフォンの中ではややヘビー級だ。

 ディスプレイ下にはタッチセンサーによる「ホーム」「メニュー」「バック」「検索」ボタンが備えられており、画面最下段のHTC Senseのメニューバーと一体化した操作環境を実現している。ただ、使い始めは少し慣れが必要かもしれない。

 インターネット接続については、WiMAXで接続してしまえば、非常に高速かつ快適で、サクサク使うことができる。利用する地域にもよるだろうが、普段は外出先でWiMAX、自宅やオフィスでWi-Fi、つながらないときだけ3Gという構成で使えそうだ。

 auの独自サービスについては、Skype au、jibeなどを利用できる半面、家族間無料メールで利用するCメールが受信のみで、EZwebのEメールも非対応となっている。ただ、発売時にほぼ同様の制限があったパンテックのSiriusα IS06はすでに対応を済ませており、おそらくISW11HTも数カ月以内に対応してくるものと予想される。当面、家族宛のメールはGmailなどで送信し、返事をCメールで受け取り、友だち宛はSkype auをうまく活用する、というのも手だ。

 少し他のスマートフォンと仕様が異なるのは、au ICカードに対応しておらず、端末本体に契約者情報を書き込む仕様となっている。そのため、他のau端末とau ICカードを差し替えながら利用するといった使い方はできないほか、国際ローミングも非対応となっている。他のauのスマートフォンやフィーチャーフォンと違い、周波数帯や対応サービスなど、利用上の制限はあるが、WiMAX対応によるスマートフォンとしての高速な通信、Wi-Fi/USBでのテザリングはかなり大きな魅力と言えそうだ。

ISW11HT

 

・MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M(モトローラ・モビリティ)

 Android 3.0(Honeycomb/ハニカム)を採用したWi-Fi対応のタブレット端末だ。通信機能はWi-Fi(とBluetooth)に限定されており、3G通信機能は搭載していない。1月の「CES」で発表されたモデルをベースにしており、1280×800ドット表示が可能な10.1インチディスプレイを搭載する。

 Android 3.0の使い勝手については、「MWC」のレポートや2月24日に発表されたNTTドコモ向けのLGエレクトロニクス製「Optimus Pad」の記事でも触れたように、Android 2.xとはまったくの別物で、複数のウィジェットを配したデスクトップを切り替えながら利用するユーザーインターフェイスを採用する。

 パフォーマンスについては、NVIDIA製デュアルコアプロセッサ「Tegra2」の効果もあってか、高解像度の表示にもかかわらず、ストレスなく、快適に使うことができる。全体的な動作も、MWCのMotorolaブースで見たときよりも一段とキビキビと動いている印象だ。本体底面にはmicroUSBポートとmicroHDMIポートを備えており、Bluetoothキーボードを接続できるため、HDMIポートを備えたディスプレイやテレビにXOOMをHDMIケーブルで接続し、Bluetoothキーボードから文字入力をするといった使い方もできる。

 ディスプレイサイズが10.1インチと大きいため、重量も700gとなっており、長時間、片手で抱えて操作し続けるのはちょっと疲れそうだが、アクセサリー類が充実しているうえ、約510分の連続使用(YouTube再生)ができるなど、幅広いシチュエーションで活用できそうだ。

XOOMAndroid 3.0のホーム画面。使い勝手は既存のAndroidとは別物だ

 

グローバル市場との関わりを拡げるau

 昨年、auはIS03の投入により、スマートフォンへの出遅れを取り戻すと各方面で報じられた。ただ、冒頭でも触れたように、auはNTTドコモやソフトバンクと違い、周波数帯の制限や通信方式の違いなどにより、海外の製品をローカライズして容易に日本市場へ投入することが難しい状況にあった。しかし、国際標準に近い新800MHz帯への完全移行を約1年5カ月後に控えた今、auとして、いよいよグローバル市場との関わりを拡げようとしている印象だ。IS03発表時にはインターネットで広く利用されているSkypeとの提携により「Skype au」の提供を開始し、今回の発表ではHTCとMotorolaというグローバル市場でしっかりとしたプレゼンスを持つメーカーの製品を扱うことになったことは、まさにそれを象徴的に表わしていると言っても差し支えないだろう。

 HTCについては、日本市場で比較的、古くから製品を投入してきたメーカーであり、世界トップクラスのスマートフォンメーカーであることは周知の通りだが、残念ながら、日本市場においては十分な結果を残せていない。しかし、今回のauのように、ユーザーの利用シーンをしっかりと捉えられる携帯電話事業者との組み合わせでは、今までと違った展開が見えてくるかもしれない。

 モトローラについては、過去に「RAZR」などのヒットモデルを日本市場でも展開してきたが、今回は1月のCESで発表されたモデルをいち早く日本語化し、au向けに供給できる体制を整えるなど、今までに比べてかなり積極的な印象を受ける。今回発表されたモデルは早期の投入を重視したためか、Wi-Fiモデルのみが提供されることになったようだが、ある程度体制が整ってくれば、意外に早いタイミングで3Gを搭載したスマートフォンやタブレット端末を投入してくるかもしれない。CESでも評価の高かったハイスペックなスマートフォン「ATRIX 4G」などが2012年に控えているLTEサービス開始時などに投入されれば、かなり面白い展開になりそうだ。

 今回は、HTCとモトローラというグローバル市場で事業を展開する端末メーカー2社だったが、昨年、田中孝司社長に交代したことでKDDIとしてのスタンスにも変化の兆しが見えつつあるので、今後はもっと幅広い企業との提携や連携が実現することになるのかもしれない。

 今回発表された端末は、4月以降に順次、販売が開始される予定だ。3月1日からは東京・原宿の「KDDIデザイニングスタジオ」、愛知・名古屋の「au NAGOYA」で展示が開始されるので、春休みなどで近くに出向く人は実機をチェックしてみるのも楽しそうだ。本誌に掲載される開発者インタビューやレビュー記事なども参考にしながら、次期スマートフォン&タブレット端末を検討してみてほしい。

 



(法林岳之)

2011/3/2 13:02