スマートフォンのラインアップ強化、ドコモの春商戦追加モデル

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 7」「できるポケット Xperiaをスマートに使いこなす 基本&活用ワザ150」「できるポケット+ GALAXY S」「できるポケット iPhone 4をスマートに使いこなす基本&活用ワザ200」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。Impress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


発表会で「Optimus Pad」をアピールするNTTドコモの山田社長

 2月24日、NTTドコモは春商戦へ向けた新モデルとして、スマートフォン2機種とタブレット端末1機種を発表した。昨年来、NTTドコモはスマートフォンのラインアップを強化し、着実に販売を伸ばしているが、個性的かつ強力な3機種を追加することにより、さらにスマートフォンへの移行を拡大しようという構えだ。発表会の内容については、すでに本誌の詳細なレポート記事が掲載されているが、ここでは筆者が見た発表会の印象や各製品の捉え方などについて、レポートしよう。

年度内のスマートフォン販売250万台達成へ

 ここ数年、国内の携帯電話市場は契約数こそ、わずかに伸びているものの、端末の販売については縮小傾向にある。なかでも2007年に導入された分離プランの影響がかなり大きいが、昨年に入り、各社から相次いでスマートフォンが登場したことにより、市場はにわかに活気づき、店頭は一時の勢いを取り戻そうとしている。それまでもiPhoneをはじめ、スマートフォンは販売されてきたが、新製品の登場に伴い、フィーチャーフォンから移行しやすい環境が整ってきたこともあり、昨年の年末商戦ではスマートフォンが販売ランキングの上位を占めるほど、高い人気ぶりを示している。

 こうしたスマートフォン市場への対応については、国内の主要3社は少しずつ違った取り組みをしてきた印象だ。たとえば、ソフトバンクはご存知の通り、iPhoneを軸に据えながら、昨年末からはAndroid端末についてもラインアップを拡充しつつある。スマートフォンに出遅れたと言われたauもIS01投入時から着実に準備を進め、2010年秋冬モデルで発表したスマートフォン4機種に合わせ、同社の独自サービスをスマートフォンに展開しつつ、「IS03」の大ヒットに結びつけている。

 これに対し、最大シェアを持つNTTドコモは、スマートフォンへのシフトを緩やかに進めつつあったが、昨年4月のソニー・エリクソン製スマートフォン「XPERIA」を皮切りに、昨年10月にサムスン製「GALAXY S」「GALAXY Tab」、2010年秋冬モデルではシャープ製「LYNX 3D SH-03C」、富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製「REGZA Phone T-01C」、LGエレクトロニクス製「Optimus chat L-04C」、Research In Motion(RIM)製「BlackBerry Curve 9300」を相次いで発表し、一気にラインアップを揃えている。

GALAXY Sには新色も
発表されたのはスマートフォン2モデル、タブレット1モデル

 なかでもGALAXY Sは、グローバル市場で100万台を超える販売実績を記録している勢いを日本市場でも活かし、今までのサムスン製端末にはなかった大ヒットを記録している。サービス面では最大の懸案事項だったiモードのメールアドレスを利用できるできる「spモード」をスタートし、おサイフケータイについても自社で提供するiDをはじめ、対応サービスを徐々に増やしつつある。

 当初、NTTドコモでは2010年度(2010年4月~2011年3月)にスマートフォンで100万台を販売するという目標を掲げていたが、好調な販売を反映して上方修正をくり返し、今年1月の会見ではついに「250万台を達成したい」と、さらに目標を一段と高く設定し直している。同社のスマートフォンの好調ぶりがうかがえる話だが、裏を返せば、再三に渡って、同社自身の予想が外れてしまうほど、急速な市場の拡大だったとも言えるわけだ。

 こうした動きを受け、今回は2011年春商戦向け新モデルとして、スマートフォン2機種とタブレット端末1機種が発表された。これらをラインアップに加えることにより、今年度の目標として、再々設定したスマートフォン販売250万台達成を後押ししようというわけだ。ここ数年、各商戦期向けの新モデル発表は少しずつまとめられるようになり、春商戦向けの発表も2007年の703iシリーズを最後に見送られてきたが、今回はスマートフォンの新機種をいち早く投入したいという思いからか、久しぶりにこの時期に発表が行われることになった。

 個々の機種については後述するが、数こそ、3機種と多くないものの、いずれもエポックメイクなモデルであり、これらの製品がこの時期に国内市場向けに登場するのは非常に意義深い。たとえば、メーカー別では国内メーカーの代表格であるNECカシオ、国内とグローバル市場の双方のアドバンテージを活かすソニー・エリクソン、そして、グローバル市場で力を発揮するLGエレクトロニクスという『三社三様』という構成だ。

 端末もそれぞれの特徴を活かし、NECカシオは国内メーカーらしい実装技術を発揮した超薄型モデル、ソニー・エリクソンはグローバル市場でも評価されるデザイン性と国内のノウハウを活かしたハードウェア構成、LGエレクトロニクスはAndroid 3.0(Honeycomb)のリードメーカーらしく、最新プラットフォームをいち早く日本市場に投入することを実現している。時間軸という視点では、昨年来、「NやPのスマートフォンはいつ?」と言われていた声についに応えた「MEDIAS N-04C」、今年1月にグローバル市場向けに発表されたモデルを世界でもっとも早く日本向けに販売する「XPERIA arc」、最新プラットフォームの公開から数週間で日本市場向け製品の発表にこぎ着けるというスピード感を実現した「Optimus Pad L-06C」といった具合いに、それぞれに意味のあるタイミングで今回の製品を発表することになった。



 ただ、ひとつ気になることは、NTTドコモの山田隆持社長が発表会のプレゼンテーションにおいて、MEDIAS N-04Cの防水対応モデル、XPERIA arc SO-01Cのおサイフケータイ対応モデルを検討しているとコメントしたことだ。おそらく、リップサービスとして、述べたのだろうが、せっかく期待の新機種が発表されたタイミングで、いきなり次期モデルの具体的な内容について言及してしまうのは、自らの発表に水を差すことになってしまわないだろうか。

 サービス面については、spモードの機能拡張による「Androidマーケットでのコンテンツ決済サービス」、スマートフォンの電話帳データを保存できる「電話帳バックアップ」、基地局データを活用した「位置情報提供」が発表され、料金プランでは「定額データプラン契約時のspモード契約対応」、コンテンツではフィーチャーフォンでも好調な「BeeTV」のスマートフォン対応、ユーザビリティでは新モデル3機種に取扱説明書のアプリケーション「eトリセツ」の提供が明らかにされている。

 これらの内、まず、「電話帳バックアップ」に少し触れておきたい。NTTドコモの契約者ですでにスマートフォンに移行したり、二台持ちの契約で電話帳データを移行した人なら体験済みだが、実はNTTドコモの場合、フィーチャーフォンからmicroSDカード経由などで電話帳データを取り込むと、登録先として「docomoアカウント」と「Googleアカウント」を選ぶことができる。Gmailの連絡先と同期することを考え、Googleアカウントに登録するユーザーが多いようだが、今回の電話帳バックアップはdocomoアカウントに登録した連絡先のみを対象としており、Googleアカウントに登録した連絡先はバックアップされない。しかもdocomoアカウントに登録したデータは、今のところ、NTTドコモがフィーチャーフォン向けに提供する「ドコモケータイdatalink」などに対応しておらず、基本的に端末上でしか編集することができない。

 対するGoogleアカウントに登録した連絡先は、Gmailなどでパソコンから編集することが可能だ。Androidの仕様上の制限も関係しているようだが、NTTドコモは端末ラインアップを急速にスマートフォンへのシフトしているものの、サービス仕様についてはまだまだフィーチャーフォンを引きずっている印象もあり、すでにスマートフォンに移行したユーザーも移行を検討中のユーザーも各サービスの内容について、よくチェックする必要がありそうだ。

個性的かつ強力なスマートフォン&タブレット端末

 さて、ここからはいつものように、発表会後に行われたタッチ&トライコーナーで試用した実機の印象や各モデルの捉え方などについて、紹介しよう。ただし、いずれも開発中の製品であるため、実際に発売される製品とは差異があるかもしれない点はご理解いただきたい。また、各機種の仕様などについては、本誌レポート記事を参照して欲しい。

MEDIAS N-04C(NECカシオモバイルコミュニケーションズ)

 世界最薄7.7mm、超軽量105gを達成したスマートフォンだ。フィーチャーフォンで高い人気を得たμシリーズのノウハウを活かし、圧倒的に薄く、軽量なスマートフォンを開発することに成功した。実際に手に持った印象も非常に薄く、スマートフォンを手にしていると言うより、メタリックなプレートを持つという印象に近い。これだけのサイズ感でありながら、おサイフケータイ、赤外線通信、ワンセグという日本のケータイユーザーに欠かせない機能をしっかりとサポートしているあたりは見事だ。Android 2.2を搭載したパフォーマンスも十分で、NEC初のスマートフォンでありながら、国内はもちろん、グローバル市場にも十分通用するトップクラスのスマートフォンに仕上がったといっても差し支えないだろう。

 昨年、「NやPのスマートフォンは出ないの?」という声が数多く聞かれたが、昨年のメーカー発表会で『チラ見せ』をしていたように、NECカシオとしては開発そのものは早くから進めていたようだ。個人的な推測に過ぎないが、実はタイミング的に考えて、当初は2011年夏モデルあたりをターゲット開発を進めていて、市場の動向を見て、前倒ししてきたのではないだろうか。そうなると、ユーザーとしては十分な台数が供給されるかどうかが気になるところだが、関係者によれば、年度内に数十万台のオーダーに対応できるように体制を整えているという。

 気になる点があるとすれば、前述の山田社長による防水モデル登場が示唆された点だろう。防水対応になって、どういうスペックになるのか、厚みがどれくらい増すのか、デザインが変わるのかなどはわからないが、今以上に薄くなることはおそらく考えにくいので、スリム&軽量の路線を重視するのであれば、今回のモデルを狙う方が確実と言えそうだ。

XPERIA arc SO-01C(ソニー・エリクソン)

 今年1月に催された「2011 International CES」で発表されたソニー・エリクソンのXPERIAシリーズの最新モデル。グローバル市場向けでは「Mobile World Congress 2011」(MWC 2011)で「XPERIA Play」「XPERIA neo」「XPERIA Pro」も発表されたが、フラッグシップモデルは「XPERIA arc」という位置付けに変わりない。2011 International CESで発表された段階で、すでに日本語メニューなども存在したため、日本市場向けが登場したことはごく自然な流れだが、それでもいち早く日本市場向けに販売されるのは、ユーザーとしてもうれしいところだ。

 従来のXPERIAと比較して、ボディは10.9mmとスリムになり、背面から側面にかけての形状も緩やかな曲線の構成により、手にフィットするデザインに仕上げられている。ディスプレイはガラス面と液晶ディスプレイ面を密着させ、深いブラックを追求した4.2インチの液晶ディスプレイを搭載。実際の見た印象も他機種と比べ、はっきりと差がわかるレベルだ。映像についてもモバイルブラビアエンジンにより、鮮やかに表示することができる。カメラはソニー製裏面照射型CMOSセンサー「Exmor R for mobile」による810万画素カメラを搭載し、フィーチャーフォンやデジタルカメラでおなじみの顔認識エンジン、シーン自動検出などの機能を搭載する。

 意外に面白そうなのがHDMI出力で、薄型テレビのHDMI端子に接続することにより、XPERIA arcに表示している内容をほぼミラーリングする形で、テレビに映し出すことができる。グローバル向けモデルではボディカラーとして、Midnight BlueとMisty Silverがラインアップされていたが、今回は新たにSakura Pinkが加えられている。春商戦向けという意味合いもあるが、実はこのカラーはアジア地区限定のボディカラーとのことで、海外で利用するときにもちょっと目立つ存在になるかもしれない。

 ところで、XPERIA arcについてもMEDIAS同様、山田社長から次期モデルへの言及があったが、XPERIA arcがこれから登場しようかというタイミングにおいて、山田社長の発言はユーザーとしてもあまり素直に喜べないような内容という気もする。

Optimus Pad L-06C(LGエレクトロニクス)

 MWC 2011で発表されたAndroid 3.0(Honeycomb)搭載のタブレット端末だ。タブレット端末としては、7インチや10インチクラスの製品が国内外に登場しているが、Optimus Padはその中間に位置する8.9インチの大画面ディスプレイを搭載する。サイズ感はなかなか写真や映像だけではつかみにくいが、A5サイズをわずかにワイドにした程度と捉えてもらえれば、わかりやすい。

 Android 3.0(Honeycomb)については、MWC 2011の記事でも触れているように、従来のAndroid 2.xとはまったく違い、デスクトップにさまざまなウィジェットやショートカットを貼り付け、複数のデスクトップを切り替えながら利用するというユーザーインターフェイスを採用する。Android 2.xが『面切り替え』のようなユーザーインターフェイスだとすると、Android 3.0(Honeycomb)はウィジェットとデスクトップ表示に面切り替えを組み合わせたパソコンに近いユーザーインターフェイスという印象だ。

 パフォーマンスについては、NVIDIA製のデュアルコアプロセッサ「Tegra2」を搭載しており、申し分のないレベルだ。バッテリー消費については未知数だが、少なくともタッチ&トライコーナーで記者たちが酷使している範囲で、バッテリーが急激に減るというほどの印象はなかった。ただ、発熱については背面が少し暖かくなる印象で、別売のカバーなどを装着して利用するのがおすすめだ。

 プラットフォーム以外の部分でOptimus Padが特徴的なのは、背面に2つの500万画素カメラを搭載し、3Dムービーの撮影に対応している点だ。撮影した3DムービーはHDMI端子で3D対応薄型テレビに出力することで、3D映像として楽しむことができる。ただ、この機能については現段階であまり積極的にアピールされていないようだ。

 製品の発売時期については、前述の2機種はすでに発売日が確定しているものの、Optimus Padは今のところ、3月下旬とアナウンスされているのみだ。グローバル市場向けでも発表されたばかりの製品なので、仕方ないところだが、関係者の話によれば、LGエレクトロニクスやNTTドコモの作業による部分だけでなく、プラットフォームであるAndroid 3.0(Honeycomb)の最終版が公開されたばかりであることが大きく影響しているようだ。いずれにせよ、新しいタブレット端末として、非常に注目すべき一台だろう。

スマートフォン&タブレット端末をさらに加速させるには

 昨年来のスマートフォンとタブレット端末を中心とした市場のにぎわいは、一時の携帯電話市場の冷え込みを一気に吹き飛ばすほどの勢いを持つ。今回のNTTドコモの3機種の発表は、まさにこうした市場動向をいち早く捉え、幅広いユーザーにスマートフォンやタブレット端末を使ってもらえるように、ラインアップを取り揃えたという印象だ。しかも冒頭で触れたように、それぞれの3機種が非常に特徴的な意味合いとポジションを持ち、なおかつタイミングの面でもユーザーからの注目をしっかり集めるキャラクターを持ち合わせている。

 よくNTTドコモの幅広いラインアップを見て、「デパート」「百貨店」などと呼ぶこともあるが、幅広いラインアップでありながら、それぞれにしっかりとした個性を持たせたラインアップ構成になっているあたりはさすがだ。今回の3機種で言えば、ワンセグなどのケータイ的機能を重視するユーザーやかつてのμシリーズのような薄型モデルを求めるユーザーを意識した「MEDIAS N-04C」、デザイン性やグローバル市場との関連性を重視したいユーザーのニーズにも応える「XPERIA arc SO-01C」、タブレット端末の新しいプラットフォームの可能性に期待するユーザーとジャストサイズのタブレット端末を求めるユーザーを考えた「Optimus Pad L-06C」といった具合いだ。

 ただ、2010~2011冬春モデルのレポートでも触れたように、NTTドコモは端末というハードウェアの充実が早い割に、サービス面の拡充が今ひとつ遅い気がする。特に、iコンシェルやiチャネルといったサービスがまだ登場していないのは、auのサービス面の充実ぶりから見ると、今ひとつと言わざるを得ない。また、年末商戦にスマートフォンを購入したユーザーには、今までのフィーチャーフォンと大きく違う使い勝手などに、かなり戸惑う声が数多く聞かれたが、こうした声にもしっかりと答えていかなければ、スマートフォン&タブレット端末への移行を加速させても十分な結果が得られない可能性がある。今回発表された「位置情報の提供」や「eトリセツ」などはこれらを意識した取り組みなのだろうが、もっと多面的に取り組まなければ、大きなしっぺ返しを食らうことになるかもしれない。

 今回発表された端末は、前述のように、3月から順次、販売が開始される予定だが、早ければ、ドコモショップや各社のイベントなどでも実機のデモンストレーションが行なわれる見込みだ。今後、本誌に掲載される開発者インタビューやレビュー記事を参考にしながら、読者のみなさんも新しいスマートフォン&タブレット端末のお気に入りを見つけていただきたい。

 



(法林岳之)

2011/3/1 06:00