大震災に考えるこれからのケータイ&スマートフォン
3月11日、東北地方や茨城などを襲った東北地方太平洋沖地震。マグニチュード9.0という強大なエネルギーによる大地震は、東日本に甚大な被害を与えただけでなく、関東をはじめ、日本全国に大きな影響を与え、世界中にも強烈なインパクトを残した。被災地では多くの方が避難所で暮らしているうえ、原発というもう一つの不安も抱えている状況ではあるが、今回は大震災に際し、今一度、ケータイとスマートフォン、関連サービスをどう捉え、どのように使っていくのかなどについて、ユーザーの視点で考えてみよう。
■未曾有の被害を受けた通信インフラ
「ん? 揺れてるか?」「いつもより、長いぞ」「マズい、これはかなり大きいぞ」――筆者は都内のビルで書籍の校正刷りを見ていたとき、今回の地震に遭遇した。周囲に居た人たちと共に、ビルの扉を開けながら、揺れに耐えていたが、多くの人は机の下に身を隠すなど、今までの地震とは明らかな違いの揺れに、不安を覚えながら身構えていた。後日、震災時に高層ビルに居た知人によれば、フロアによっては立っていることも難しく、なかには連続する激しい揺れに気分を悪くして、倒れ込んでしまった人も居たという。震度5強を記録した東京23区で、この状況なのだから、震源に近い東北地方や茨城は、さらに厳しい状況であったことは察するに余りある。そして、沿岸部では地震に加え、気象観測史上でも想定されていなかったほど、大きな津波が襲い、人々の暮らす町や村をのみ込んでしまった。
まさに、「未曾有」という言葉でしか言い表せないほど、たいへん甚大な被害を受けてしまったが、我々のライフラインの一つである通信インフラも大きな被害を受けた。NTTグループはNTT東日本とNTTドコモの被災状況と復旧への取り組みについて、3月30日の会見で明らかにしたが、固定系では最大約150万回線が影響を受け、移動系サービスでは3月12日の時点で6720局に及ぶ基地局が停波したという。現在は固定系で93%、移動系で90%まで回復しており、4月下旬までには福島原発のエリア、山間部や道路トンネルなどの一部を除き、復旧にメドを付けたいとしている。
こうした通信インフラの地震による被災というと、ケーブルの切断や電柱の折損、電力設備の損傷などが思い浮かべられるが、NTTグループの会見で公開された資料を見ると、ケーブルを敷設していた橋梁や道路、線路の損壊による中継伝送路の切断、局舎などの通信建物の全壊や浸水など、今までの災害とは違った被害を受けている。特に、固定系では局舎そのもの、移動系ではアンテナを設置していた建物などが津波で流失しまうといったケースも起きている。
また、NTTグループ以外の各携帯電話事業者及び通信事業者も震災直後からWebページなどで被災状況や復旧状況を随時、公開している。これだけ広域かつ大きな震災であるため、各社とも完全復旧にはまだまだ程遠い状況だが、それでも日々、着実に復旧は進んでおり、最前線で作業を続ける人々をはじめ、各社の取り組みには本当に頭の下がる思いだ。
■地震が起きたとき、みなさんは?
ところで、地震が起きたとき、読者のみなさんはどこで何をしていただろうか。また、家族や友だち、オフィスとはどのように連絡を取り、さまざまな情報をどのようにキャッチし、そのとき、ケータイやスマートフォンをどう活用しただろうか。
たとえば、筆者の場合は前述のように、Impress Watchの入っているビルで書籍の校正刷りを見ていたが、地震が起き、一時、近くの公園に避難をした。同じインプレスグループ内の人々をはじめ、近隣のオフィスや住宅の人も避難していたが、かなり短い間隔で余震が続いていたこともあり、1時間弱程度は避難が続いた。
こうした状況になると、まず、誰もが家族や友だちなどに連絡を取るわけだが、東京ではすでにこの段階で各社とも発信規制が掛かっており、なかなか電話を掛けることができなかった。NTTドコモによれば、震災直後は平常時の約50倍のトラフィックが押し寄せたこともあり、東京でも90%の発信規制を掛けざるを得なかったという。ただ、通話がまったく使えなくなってしまったわけではなく、タイミング良く、発信できて、相手に着信できたケースもあった。たとえば、筆者は仕事柄、常に主要3事業者の端末を身に付けているが、今回は各社を順に試したところ、数十分後にソフトバンクで運良く発信することができ、神戸の実家にも無事を伝えることができた。普段であれば、どこの事業者が「つながる」「つながらない」といったことが話題になるが、さすがに今回のような広域に被害が及ぶ震災ともなると、発生直後の段階ではどこの事業者がつながるかはほとんど運に近いレベルと言えるのかもしれない。ただ、筆者の周囲では、マイクロセルを採用するウィルコムのPHS、サービスを開始したばかりで契約者数も少ないNTTドコモの「Xi(クロッシィ)」は、比較的つながりやすかったという声も聞かれた。
また、初期段階でのつながるか否かついては、発信先によっても差があるだろう。たとえば、東京は地震発生直後に発信規制が掛かったが、発信先も携帯電話ということになると、当然のことながら、混雑や規制の影響で着信しにくいことが容易に想像できる。しかし、相手が固定網であれば、多少なりともつながりやすかったはずだ。もっとも東北地方などのように、直接的な被災地となると、固定網もダメージを受けているため、まったくつながらないことも考えられる。
さらに、音声通話とパケット通信でもつながりやすさに差がある。前述のNTTグループの会見でも音声通話については発信制限を掛けたが、メールについては震災当時に配信の遅れがあったものの、その後はある程度、順調にメールが流れていたとしている。ちなみに、ここでいうところのメールはパケット通信によるiモードメール(spモードメール)などであり、SMSなどについては発信制限の対象となるため、送信できないケースが多い。
携帯電話のネットワークでは発信制限が掛けられたのに対し、東京などではブロードバンド回線がいつも通り、利用できていたため、今回はインターネット経由でコンタクトを取った人も多い。たとえば、無事であることを広く伝えるため、ブログやTwitterに投稿した人も居れば、SNSなどに書き込みをした例も見受けられた。もちろん、後述する災害用伝言板も役に立つわけだが、津波などで直接的な被害を受けた地域以外ではインターネットが安否確認や情報収集などに役立ったことは間違いない。
この部分だけにフォーカスし、「今回の震災で携帯電話はすぐに使えなくなったが、インターネットは利用できた」といった取り上げ方をする報道も一部に見受けられた。しかし、本来、比較するべき対象は、固定通信網と移動体通信網であって、その上で動いている(提供されている)のがインターネットという位置付けであり、やや不自然な印象も受けた。思い返せば、16年前の阪神・淡路大震災では固定通信網が大きなダメージを受けたのに対し、当時、ようやく普及の兆しが見えていた携帯電話は、被害が限定的で「携帯電話は災害にも強い」と持ち上げられていたのに、想定を大きく超える災害が襲い、一時的に発信制限が掛けられただけで、さも携帯電話サービスが使えないもののように報じてしまうのは、いかがなものだろうか。もちろん、実際には通信事業者によって、災害対策への備えや復旧のスピードも異なるわけで、ユーザーとしてもその部分はしっかりと見極めていく必要があるが、正しい状況を把握することなく、不安を煽るかのように報道するメディアには惑わされないようにすることも大切だ。
■役に立ったワンセグ、ラジオ、インターネット
さて、家族や友だちとの連絡や安否確認の次に必要とされたのは、やはり、情報収集であり、そこで役に立ったのが『ワンセグ』だ。ワンセグについては、今さら説明するまでもないが、基本的には地上デジタル放送と共通の電波を使い、ほぼ同じ内容の番組を放送している。そのため、放送波が届くエリアに居れば、番組を視聴でき、さまざまな情報を得ることができる。前述の避難先の公園ではワンセグを起動し、多くの人がテレビ番組を通じて、各地の被災状況などを確認していたが、ここで大きく差が出てしまったのがフィーチャーフォンとスマートフォンだ。
本誌読者のみなさんなら、よくご存知のように、現在、国内で販売されているフィーチャーフォンは、子ども向けなどの一部の機種を除き、ほぼ全機種にワンセグが搭載されている。一方、スマートフォンではシャープ、富士通東芝、NECカシオが開発した国産モデルはワンセグが搭載されているのに対し、アップルのiPhone、サムスンのGALAXY S及びGALAXY Tab、LGエレクトロニクスのOptimus chat、パンテックのIS06といったグローバルモデルにはワンセグが搭載されていない。ソニー・エリクソンのXperia及びXperia arcも後者の部類に入る。
ワンセグが搭載されていないスマートフォンがダメというわけではないが、やはり、今回のような災害時においては、広く情報を伝えることができるテレビ放送の効果は大きい。筆者の知人には、端末を購入後、今回の震災で、はじめてワンセグを起動し、外出中でもテレビが視聴できることのメリットがわかったと話す人もいた。また、東京では震災当日、多くの人が『帰宅難民』を経験したが、徒歩で移動中にワンセグで情報を得て、深夜に復旧した私鉄で帰宅できた人もいたそうだ。
ただ、ワンセグは言うまでもなく、基本的に日本の独自サービスでしかない。南米での日本方式の地上デジタル放送が採用され、将来的に海外向け端末に搭載される例が登場することも期待されているが、現時点でのグローバルモデルへのワンセグ搭載はなかなか実現が難しいかもしれない。同時に、仮にグローバルモデルに搭載されたとしてもその時点で日本独自仕様のモデルとなるため、将来的なアップデートに不安を覚えるユーザーも多いだろう。しかし、徐々にスマートフォンのプラットフォームが固まり、販売台数が急速に増えてきている現状を考えれば、グローバルモデルをベースにしながら、ワンセグを搭載したスマートフォンが検討できる時期なのかもしれない。
また、スマートフォンの周辺機器として、ワンセグを用意しておくという方法もありそうだ。たとえば、iPhoneでは、ワンセグを視聴できる周辺機器として、ソフトバンクモバイルの「TV&バッテリー」、バッファローの「ちょいテレi DH-ONE/IP」、BitBayの「eSegTV ワイアレスTV チューナー」などが販売されている。Android採用端末については、今のところ、こうした機器が販売されていないが、TV&バッテリーのようにWi-Fiで接続するという方法があるため、今後、同様の周辺機器が登場することを期待したい。
さらに、放送サービスとしては、ラジオも災害時には役立つ手段だ。災害時の非常持出袋に入れるべきモノのリストには、懐中電灯や水と並んで、必ずラジオが含まれている。AMラジオについては、2005年にNTTドコモが「RADIDEN」を販売したことがあるが、mova端末だったこともあり、後継モデルは登場していない。これに対し、FMラジオはauがFMラジオを聴くことができる「EZ・FM」サービスを提供しており、対応機種も最近でこそ、少なくなったものの、必ず数機種は現行モデルにラインアップしている。他事業者ではNTTドコモがかつてD904iなどで搭載した例があるが、フィーチャーフォンではほとんど搭載されていないのが実状だ。スマートフォンについては、FMラジオが周波数帯こそ、微妙に異なるものの、基本的なしくみは変わらないため、グローバルモデルにも搭載例が多い。最近のモデルでは、3月24日に発売されたNTTドコモのXperia arc SO-01C(ソニー・エリクソン)をはじめ、イー・モバイルのHTC Aria S31HT(HTC)、ソフトバンクのHTC Desire HD 001HT(HTC)、Libero 003Z(ZTE)などが搭載しており、古くはソフトバンク(ボーダフォン)のX02NK/705NK/804NK(ノキア)などもFMラジオを搭載していた。
ラジオと言えば、昨年来、サービスを提供している「radiko.jp」がiPhoneとAndroid向けにアプリを公開しており、インターネット経由でラジオを聴くことができる。radiko.jpは元々、放送免許などの兼ね合いもあり、配信エリアが限定されているが、今回の震災への緊急対応として、関西局が3月31日まで、関東局が4月11日まで、全国に開放されている。今回の震災のように、携帯電話のネットワークが利用できなかったり、利用が制限されているときでもWi-Fi経由で聴くことができるため、東北地方や茨城のような被災地でもブロードバンド環境が整備されていれば、利用することが可能だ。
さらに、auでは全国民放52局のFM放送を聴くことができる「LISMO WAVE」を提供している。今のところ、対応機種はフィーチャーフォンがT006のみ、スマートフォンはIS03、IS05、REGZA Phone IS04の3機種のみだが、今回の震災にあたり、「LISMO WAVE」東北地方太平洋沖地震支援サイトを開設し、パソコンやAndroid 2.2搭載スマートフォンで東北地方6県のFM局とTOKYO FMを聴けるようにしている。アクセスラインが携帯電話のネットワークに限られていると、利用が難しくなるが、FMラジオを搭載していない端末でもラジオから情報が得られるのは、安心できる要素のひとつだろう。
■携帯電話のネットワークをカバーするWi-Fi
ところで、アクセスラインと言えば、今回は公衆無線LANサービスをはじめとしたWi-Fiも広い地域で役に立っている。
たとえば、前述の地震直後の避難から数時間後、都市部の人たちは家路に着くわけだが、当日の報道でもあったように、東京近郊ではJR東日本をはじめとした主要交通機関がすべて停止したため、徒歩での帰宅を強いられ、多くの帰宅難民を生み出すことになった。幸い、筆者はクルマで市ヶ谷に来ていたため、同じ方向に帰る友だちを乗せ、クルマで移動できたが、それでも都内は過去に例のない帰宅ラッシュのため、大変な渋滞に巻き込まれてしまった。この移動中、いくつかのファストフード店の店頭などに人がたまり、何やらスマートフォンを使う光景を見かけたが、これは公衆無線LANサービスからインターネットにアクセスし、情報を収集したり、TwitterやSNSなどでメッセージをやり取りしていたと推察される。
ここ1~2年、各携帯電話事業者はスマートフォンやフィーチャーフォンにWi-Fiを搭載してきたが、その目的はどちらかと言えば、スマートフォンによって、爆発的に増えるトラフィックをWi-Fiによって、ブロードバンド回線に逃がすための手段という印象が強かった。これに対し、今回は携帯電話のネットワークのバックアップ的な存在として、うまく活用されている。震災発生後、公衆無線LANサービスなどを提供する各通信事業者は、被災地を中心にWi-Fiスポットを無料で開放しており、救出活動や被災地支援に携わる人々のアクセスラインとしても活用されている。ただ、この無料開放では接続に際しての面倒な手間を減らすため、暗号化キーなどは設定されておらず、ユーザーもある程度、リスクがあることを考慮して、使う必要がある。また、当然のことながら、被災地のWi-Fiスポットもかなり被害を受けているので、これを機に避難所のブロードバンド環境のサポートも兼ねつつ、被災地で利用できるWi-Fiスポットを各社が共同で整備できるようになれば、より有効だろう。
■利用が拡大しつつも課題の残る災害用伝言板
今回の大震災のように、大きな災害が起きたとき、各携帯電話事業者はその都度、災害用伝言板サービスを提供し、安否情報などを確認できるようにしている。今回も地震直後から災害用伝言板サービスが開始されたが、ここでもフィーチャーフォンとスマートフォンでの差が生まれてしまった。
まず、災害用伝言板サービスについては、本誌の「ケータイ用語の基礎知識 第507回:災害用伝言板サービス とは」で詳しく解説されているので、そちらを参照していただきたいが、基本的には被災した人が自分の安否情報を災害用伝言板サービスに登録し、家族や知人は登録した人の携帯電話番号を検索することで、その安否情報を知ることができるというしくみとなっている。いずれの災害用伝言板サービスも安否情報の登録については基本的に3Gネットワークからの接続が前提だが、これは第三者が勝手に安否情報を登録できないようにするため、経路がハッキリしている自社の携帯電話網からの接続のみを受け付けているためだ。
また、登録できる地域については、基本的に被災地からの登録のみとなっている。NTTドコモの場合、今回は青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県が登録できる。auは今回は全国を対象としている。ソフトバンクは元々、登録できる地域という制限を設けておらず、全国のユーザーから安否情報を登録できるようにしている。
使い方については、各社のWebページで案内されているが、Impress Watch Video「法林岳之のケータイしようぜ!」の「#134 How to ケータイ:災害用伝言板」でも開設しているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。
災害用伝言板サービスのフィーチャーフォンとスマートフォンの差というのは、サービス提供開始直後の対応状況が違っていたという点だ。災害用伝言板サービスに登録された安否情報の『閲覧』については、基本的にフィーチャーフォンでもスマートフォンでもパソコンでも同じように利用できる。しかし、安否情報の『登録』については当初、フィーチャーフォンのみが利用でき、スマートフォンについてはソフトバンクのみが対応するという状況だった。しかし、翌週の16日にはau、18日にはNTTドコモもスマートフォンからの安否情報の登録が可能になった。最終的に各社とも利用できるようになったので、それはそれで良しとするべきなのだろうが、昨年の秋冬モデルでNTTドコモもauもスマートフォンのラインアップを一気に拡充していたのだから、災害用伝言板サービスのような社会的な責任のあるサービスは、もう少し早く対応するべきではなかっただろうか。
逆に、サービス開始当初よりも進化している点もある。災害用伝言板サービスの提供が開始された当初は、各社が個別にサービスを運用していたため、検索したい相手がどこの携帯電話会社を契約しているのかを知っていなければ、検索できなかった。しかし、昨年2月に各社の災害用伝言板サービスは相互に情報を共有できるようになったため、現在では他事業者ユーザーの安否情報も確認することが可能だ。具体的には、iモードで災害用伝言板サービスにアクセスし、ソフトバンクユーザーの携帯電話番号を入れてもソフトバンクの災害用伝言板サービスに情報が登録されていれば、その旨が表示され、リンクをたどって、すぐに安否情報を確認することができる。
こうして少しずつ使い勝手も良くなり、安否の確認には役立つ災害用伝言板サービスだが、まだ認知度は十分とは言えない状況で、災害用伝言板サービスを知っていながら、まだ使ったことがない、今回はじめて利用したという人も多い。筆者も震災から数日後に同じ業界の知人の携帯電話番号をいくつか検索してみたが、登録していない関係者も意外に多く、ちょっと残念な印象を持った。
spモードで接続すれば、スマートフォンからも災害用伝言板サービスに安否情報を登録可能 | 相手の携帯電話番号を入力すれば、すぐに登録されたメッセージを確認できる |
また、ケータイやスマートフォンを普段から使っているユーザーにとっては、災害用伝言板サービスは決して難しいものではないが、やはり、シニア層やデジタル製品に強くないユーザーには、ハードルが高く感じられているのも事実だ。こういった人たちにも使ってもらえるように、携帯電話事業者や業界関連各社は取り組む必要があるが、ある程度、サービスを理解している我々のようなユーザーも積極的に使い方を伝えるような取り組みも必要だろう。前述のように、安否情報を登録できる地域は限られているケースもあるが、現時点でも災害用伝言板サービスは提供されているので、まずは自分の家族や両親、友だちなどといっしょに、どういう使い方をするのかを確認しておくことをおすすめしたい。筆者もつい最近、両親に使い方をレクチャーしたばかりだ。
ところで、今回の大震災では同じインターネットを使ったコミュニケーションツールとして、TwitterやSNSが広く活用され、情報伝達にも非常に役立っている。Googleが提供する「パーソンファインダー」や「避難所名簿共有サービス」、「YouTube 消息情報チャンネル」など、安否情報の確認にもインターネットが活用され、16年前の阪神・淡路大震災のときには考えられなかったほど、広く情報が流れるようになってきている。ただ、その一方で情報の伝達については誤報やデマなども多く、一部に混乱が見えてきているのも事実だ。特に、Twitterについては間違った情報が次々とリツイート(転載)されたり、多くのフォロワーを抱えるユーザーが誤った情報を拡散させてしまうケースが散見される。Twitterによる情報伝達やコミュニケーションが便利であることは確かだが、ユーザー側もきちんと情報を見分ける目を持つ必要があり、フォロワーの多いユーザーもこういうときだからこそ、節度を持った使い方をするべきだろう。
■改善が望まれる緊急地震速報
今回の大震災に際し、もう一つ注目を集めたのが緊急地震速報だ。緊急地震速報は気象庁が中心となって提供しているサービスで、地震発生時のP波(初期微動)を2カ所で捉え、その情報を基に、S波(主要動)の到達が推測されるエリアに対し、警告する速報を端末に配信するというものだ。P波とS波の間には若干のタイムラグがあるため、緊急地震速報を受信したら、すぐにでも机の下にもぐり込み、身を守ることができるわけだ。しかも携帯電話の場合、基地局の位置情報と連動するため、通知されるのは、S波の到達が予想されるエリアのみで、その他のエリアには何も通知されない。たとえば、福島県沖で地震が起きたとき、関東エリアの端末には緊急地震速報が配信されるが、関西や九州などの地域には配信されていないわけだ。緊急地震速報の詳細については、「ケータイ用語の基礎知識 第370回:緊急地震速報 とは」で解説されているので、そちらを参照していただきたい。
緊急地震速報は、地震の多い日本にとって、津波警報システムなどと同じように、重要なサービスであり、一人ひとりが端末を身に付けて持つ携帯電話への搭載は、非常に有効だ。ただ、すでにニュースなどで報じられているように、今回の東北地方太平洋沖地震以降に発生した45件の地震の内、概ね正しく発表できたのは15件に留まっている。気象庁では今後、観測手法の改善などに取り組んでいくという。
そして、もう一つ考えなければならないのが対応機種だ。携帯電話で緊急地震速報を受信できるのは対応端末に限られており、NTTドコモは2007年秋冬モデルの905iシリーズ及び2008年春モデル705iシリーズ以降、auも2008年春モデル以降のほとんどのフィーチャーフォンが対応しており、スマートフォンもIS02、IS03、REGZA Phone IS04、IS05が対応している。これに対し、ソフトバンクは対応端末が831N(NEC)のみで、他の端末はまったく対応していない。他社に比べ、サービス開始が遅れたなどの事情があることは理解できるが、それでも他社と比較して、これほどまでに対応機種が極端に少ないのは、ユーザーとしても不安なところだ。
スマートフォンへの搭載については、ワンセグ同様、独自の作り込みが必要になるため、日本仕様モデルとグローバルモデルで対応に大きな差が出てしまうが、auが日本仕様のスマートフォンにういて、すでに対応を済ませていることを考えれば、他社も同程度の対応をして欲しいところだ。NTTドコモでは先日の会見後、山田隆持社長がスマートフォンについても2011年秋冬モデルから順次、緊急地震速報に対応させていく方針を明らかにしている。
ワンセグは基本的にエンターテインメント機能であるため、搭載されていないことがあってもまだ我慢できるが、緊急地震速報は命に直接、関わる機能であるため、極力、搭載を検討して欲しいところだ。本誌の「けーたい お題部屋 緊急地震速報、スマートフォンにも必要?」の結果を見てもわかるように、ユーザーの意向はハッキリと出ている。筆者が震災後に都内のショップで聞いたところ、震災以降、緊急地震速報への問い合わせが急に増え、対応端末への機種変更や追加購入(2台持ち)をする人が出てきているそうだ。
auのIS03は緊急地震速報に対応。Cメールで速報が送られてくる | 表示されるメッセージはフィーチャーフォンと変わらない |
ちなみに、緊急地震速報と同様の通知ができるアプリとして、iPhone向けの「ゆれくるコール」やAndroid採用端末向けの「なまず速報」などが公開されているが、各携帯電話事業者が提供している緊急地震速報とは根本的に違い、緊急地震速報で受けた通知を通常のIPネットワークに送信しているに過ぎない。そのため、実際の緊急地震速報よりも遅延が発生する可能性があり、同報通信によるネットワークへの負荷も大きく、最悪の場合、まったく通知されないケースもあり得ることを理解しておきたい。こうしたアプリも災害対策の手段のひとつとしては有効だが、しくみがまったく違うものだということを覚えておいて欲しい。
また、これはユーザー向けというより、業界向け、あるいは海外の関係者に語るべきことだが、ここで取り上げてきたように、緊急地震速報や無料で視聴できるワンセグなど、今回の大震災では日本ならではのケータイやスマートフォンの活用が役立っている。今は業界としても復旧と復興へ向けて忙しいタイミングだが、できることなら、この大震災で得られた経験を世界に対して、きちんと発信していって欲しいところだ。たとえば、津波警報システムは同じく地震の多いアジア諸国にも少しずつ広がっているそうだが、緊急地震速報も同じように使われるようになれば、より多くの命が救われるはずだ。
■義援金や被災者支援など、ケータイができること
ケータイやスマートフォンは通話やメール、インターネットなどが利用できるコミュニケーションツールであり、個人にとって、もっとも身近なデジタルツールだ。それと同時に、利用には各携帯電話会社との契約が必要とされていることもあり、多くの人にとって、クレジットカードなどに次ぐ、もっとも身近な決済ツールでもある。その特徴を活かし、今回の大震災に対して、ケータイやスマートフォンを利用しての義援金募集も実施されている。取り組み方は携帯電話事業者によって、少しずつ異なるが、各社の公式メニュー内でコンテンツを購入したり、各ユーザーのポイントを募金できるようにするなど、より多くの人が被災者や被災地の支援に参加しやすいしくみを提供している。ソフトバンクのように、スマートフォン向けに募金アプリ「ソフトバンクかんたん募金」を提供する例もある。
また、3月22日から米オーランドで催されていた「CTIA Wireless 2011」では、震災で出展を取りやめたNTTドコモのブースに「We support CTIA member and exhibitor, NTT DoCoMo,Inc., and the people of Japan, during this time of historic hardship.」と書かれた横断幕が掲げられ、床には義援金を呼びかけるプレートが置かれていたそうだ。つまり、世界の携帯電話業界も今回の大震災に心を悼め、日本をサポートする姿勢を見せているわけだ。
この他にも携帯電話事業者や関係各社は、料金の支払い延期をはじめ、端末故障修理代金の割引、データ復旧サービスの無料化、USIMカードの再発行手数料の無料化など、さまざまな形で被災者や被災地をサポートしており、今後、復興が進む中で、我々ユーザーもいろいろな形で支援に協力できるシチュエーションが出てくるはずだ。関東近県については、計画停電や原発問題など、まだ気になる動きも多いが、むやみに不安になったり、自粛するのではなく、正しい情報を把握しながら、被災者や被災地を支え、もう一度、日本を元気にするべく、活動していく必要があるだろう。
また、同時に今回の大震災ではもっとも身近なデジタルツールであるケータイやスマートフォンが役に立ったが、それぞれに足りないこと、不十分なこともたくさん見つかった。たとえば、スマートフォンにはワンセグ搭載、緊急地震速報対応、バッテリー駆動時間などの課題があり、フィーチャーフォンもWi-Fi利用による3Gネットワークを利用しないインターネット接続、さまざまなインターネットサービスとの連携などが求められる。どちらが優れているか否かという議論ではなく、それぞれがお互いの利点を学び、ユーザーにとって、より便利で安心して利用できるツールへと進化を遂げて欲しい。もちろん、ハードウェアだけでなく、サービスやコンテンツも大震災の経験を活かし、今まで以上に人々に役立つ業界へと進歩して欲しいところだ。
2011/4/5 06:00