法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

プレミアムに進化を遂げた「iPhone XS」「iPhone XS Max」

 9月11日に米国で発表され、21日から国内でも販売が開始された「iPhone XS」と「iPhone XS Max」。昨年のiPhone Xのデザインを継承しながら、新たに6.5インチのSuperRetinaディスプレイを搭載したモデルをラインナップに加え、A12 Bionicチップのニューラルエンジンにより、カメラを中心に大きく進化を遂げた。筆者も実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。

アップル「iPhone XS」、約143.6mm(高さ)×70.9mm(幅)×7.7mm(厚さ)、約177g(重量)、ゴールド(写真)、シルバー、スペースグレーをラインナップ
アップル「iPhone XS Max」、約157.5mm(高さ)×77.4mm(幅)×7.7mm(厚さ)、約208g(重量)、ゴールド(写真)、シルバー、スペースグレーをラインナップ

新世代へ突入したiPhone

 2007年に米国で初代モデルを発売して以来、着実に進化を遂げ、国内外のスマートフォン市場を切り開いてきたiPhone。国内では2008年にソフトバンクが「iPhone 3G」を独占的に取り扱いをスタートしたのを皮切りに、2011年にはau、2013年にはNTTドコモが取り扱うようになり、ここ数年はワイモバイルやUQモバイルなどのサブブランド、楽天モバイルやmineoなどのMVNO各社も旧機種を中心に販売を開始し、国内スマートフォンの半数近いシェアを獲得するに至っている。

 そんな人気のiPhoneだが、これまでに何度か大きくデザインや仕様を変更することで、世代を進めてきている。当初の「iPhone 3G」や「iPhone 3GS」は丸みを帯びた樹脂製背面パネルを採用したデザインだったが、2010年の「iPhone 4」では側面をメタルフレームで固めたソリッドなデザインに変更し、2012年の「iPhone 5」では背面と側面を一体化した形状に変更となった。2014年に発売された「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」では側面をラウンドさせた新デザインが採用され、「iPhone 6s」シリーズ、「iPhone 7」シリーズ、「iPhone 8」シリーズへと継承された。

 このデザインの流れを大きく変えることになったのは、昨年発表された「iPhone X」になる。アップルが「次の10年」を考えてデザインしたとするiPhone Xは、初代モデルから一貫して採用されてきた本体前面のホームボタンをなくし、ディスプレイ上部のノッチ(切り欠き)にTrueDepthカメラを内蔵するなど、従来のiPhoneとは異なる新しい方向性を指し示すものだった。当初、一部で違和感を指摘されてしまったノッチもその後に発表された各社のスマートフォンでも採用されたことで、結果的にこの一年のスマートフォンの新しいデザインのアクセントとして、完全に定着した格好だ。

 そして、今年はこのiPhone Xの流れを継承するデザインを採用した「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」の3機種が発表された。基本デザインはiPhone Xと同じながら、異なる3つのサイズのディスプレイを搭載し、幅広いユーザーのニーズに応えようとしている。ラインナップとしては、従来の「iPhone 7」シリーズと「iPhone 8」シリーズも併売されるが、iPhone 8シリーズまでのデザインの後継モデルは発表されなかったため、iPhone Xで採用された前面をディスプレイが覆うデザインがこれからのiPhoneの標準デザインになり、新世代のiPhoneへ進化を遂げたことになる。

 ちなみに、コンパクトなiPhone SEについても後継モデルを期待する声が多かったが、チップセットなどを変更すると、内部設計も一新する必要があるため、見送られたようだ。もし、ホームボタンを備えたコンパクトなモデルが好みなのであれば、UQモバイルやワイモバイルが販売するiPhone SE、主要3社及びアップル、一部のMVNOなどが販売するiPhone 7やiPhone 8を狙うしかなさそうだ。

 なお、今回発表された「iPhone XS」「iPhone XS Max」は、基本的にディスプレイサイズが異なるのみで、内部の仕様はほぼ同じとなっている。昨年の「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」の関係を継承していると考えれば、わかりやすいだろう。「iPhone XR」については「iPhone XS」と「iPhone XS Max」の中間的なサイズで、10月19日に予約が開始され、10月26日に発売が予定されている。

6.5インチと5.8インチの有機ELディスプレイを搭載

 まず、本体の外観から見てみよう。「iPhone XS」と「iPhone XS Max」は前述のように、いずれも昨年のiPhone Xの形状を継承しており、本体前面のほとんどをディスプレイが覆い、側面にはステンレスのフレーム、背面にはガラスという構造を採用している。

6.5インチSuperRetinaディスプレイを搭載した「iPhone XS Max」(左)、5.8インチSuperRetinaディスプレイを搭載した「iPhone XS」
背面のデザインや仕上げは「iPhone XS Max」(左)も「iPhone XS」もまったく同じ。サイズのみが異なる
左側面には着信/サイレントスイッチ、音量ボタンを備える
右側面にはサイドボタンを備える。長押しで電源は切れない。電源を切るときは、左側面の音量ボタンの上と電源ボタンを同時に押すか、[設定]アプリで[一般]-[システム終了]の順にタップする
ピンを挿して取り出すタイプのSIMカードトレイは、右側面に備えられる。デュアルSIMになった関係か、SIMカードを装着する向きが変更されている

 ボディカラーはゴールド、シルバー、スペースブラックの3色がラインナップされる。背面はiPhone X同様、ガラス仕上げになっており、光学コーティングと呼ばれる処理により、見る角度によって、光り方が変わる美しい仕上げとなっている。ステンレススチールのフレームはそれぞれのボディカラーに合わせ、光沢感のある物理蒸着仕上げを施している。

 ちなみに、アップルが販売するレザーカバーなどのアクセサリー類を装着した場合、実際に見えるのは本体下部のフレーム部分とカメラレンズ周りのみで、その他の部分はほぼカバーに覆われてしまうため、ボディカラーはほぼ見えない。iPhone 8シリーズ以前であれば、ディスプレイの上下と左右にホワイトやブラックのベゼル(額縁)があったが、iPhone XS MaxやiPhone Xは前面のほとんどをディスプレイが覆っているうえ、わずかなベゼルも黒くなっている。

 ボディのサイズについては、iPhone XSがiPhone Xとまったく同じ(重量のみ異なる)、iPhone XS MaxはiPhone 8 Plusなどとほぼ同じとなっている。iPhone XSは筆者自身も約1年近くiPhone Xを利用していたので、まったく違和感なく使うことができた。iPhone XS MaxはiPhone XSよりもひと回り大きいうえ、重量も200gを超えているため、人によってはちょっと扱いに慣れが必要かもしれない。しかし、iPhone 8 Plusと同じなので、同サイズの従来モデルのユーザーなら、スムーズに移行できそうだ。

iPhone 8(左)、iPhone X(中央)、iPhone XS(右)の3つは、ほとんどサイズが変わらない
iPhone 8 Plus(左)とiPhone XS Maxはほぼ同サイズだが、上下のベゼルがなくなった分だけ、画面も拡大している

 iPhone 7シリーズから続く防水防塵については、IP68対応となっているが、発表イベントのプレゼンテーションでも触れられていたように、単純に防水とするだけでなく、ビールやジュースなどが掛かった場合でも利用できるとしている。もちろん、実際にかかったときは水で洗い流し、水分をしっかりとふき取り、十分に乾かす必要があるが、日常生活で扱うことがある液体も考慮されている点は安心できる。

 ディスプレイはiPhone XSが5.8インチで2436×1125ドット表示、iPhone XS Maxが6.5インチで2688×1242ドット表示のSuperRetinaディスプレイ(有機ELディスプレイ)を搭載する。2機種で表示可能なサイズが異なるが、解像度は458ppiで統一されている。表示はiPhone Xのときと同様に、四隅はボディの丸みに合わせてラウンドさせ、ノッチ部分も隠さずにすべて利用しており、iPhone史上最大サイズとなったiPhone XS Maxではまさに手にディスプレイを持っているような感覚のサイズ感となっている。

 有機ELディスプレイはiPhone Xに続く搭載だが、100万対1の高コントラストに加え、周囲の環境に合わせて、ホワイトバランスを合わせた表示ができるなど、目に優しい表示にもこだわりを見せる。HDR10にも対応しており、NetflixやAmazonプライムで提供される対応作品を美しく表示できる。写真についてもダイナミックレンジが60%拡張されるため、古い写真でも違った印象で楽しめる。音響については従来モデルよりもステレオスピーカーが改善されており、映画なども臨場感のあるサウンドで楽しむことができる。

少し気になる横向きでのノッチ

 有機ELディスプレイの搭載やサウンドの強化などにより、映像コンテンツを楽しみやすくなった印象だが、実際に視聴してみると、少し気になる点もあった。これはアプリによって対応が異なるかもしれないが、横向きで映像コンテンツを表示したとき、ノッチ部分の処理の関係上、映像の左右両端が切り落とされてしまっているケースが見受けられた。ノッチ部分もそのまま表示しているため、映像の一部が欠けて見えてしまうことも気になるところだ。特に、iTunes Storeで販売されている映画の予告編などは、フル画面で表示されるため、映像の左右両端が切り落とされ、ノッチ部分も映像が欠けてしまう。

 同様のノッチがある他のスマートフォンでは、横向きに表示したとき、ノッチ部分をオフ(何も表示しない)にすることなどで、映像を欠けないように表示できるものもある。ノッチ部分をどう処理するのかはプラットフォームの仕様とアプリの対応次第だが、大画面になり、映像コンテンツを楽しみやすくなっただけに、余計に気になるケースが増えてくるかもしれない。

映像コンテンツを拡大表示に切り替えると、このようにノッチ部分まで表示されてしまう
ノッチ部分はどうしても映像が欠けてしまう。ノッチ部分の表示をオフにするモードも用意して欲しかったところだ。

 iPhone XS Maxの6.5インチという大画面は、映像コンテンツの視聴だけでなく、Webページの閲覧や地図の表示など、さまざまなアプリでメリットがある。たとえば、筆者のような世代のユーザーにとっては、そろそろ小さな文字が見えにくくなるが、大画面ディスプレイは見やすいうえ、表示モードを拡大に切り替えて、もっとも視認性のいい環境で利用することができる。

ホーム画面のデザインやレイアウトはiPhone Xのものを継承する

ニューラルエンジンを強化したA12 Bionic

 「iPhone XS」と「iPhone XS Max」は昨年のiPhone Xをベースに進化を遂げたモデルになるが、もっとも大きく変わったのはチップセットが最新の「A12 Bionic」になったことだ。iPhoneでは新モデルが発表される度、新しいチップセットを採用してきたが、アーキテクチャの進化もさることながら、今回はチップセットを製造するプロセスルールが7nmに進化したことが大きい。プロセスルールについては改めて説明するまでもないが、半導体を製造する工程のことで、より微細に製造できるようにすることで、より多くの集積が可能で、パフォーマンスや効率性の向上などが期待できる。

 従来のiPhone Xに搭載されていたA11 Bionicは11nmのプロセスルールで製造されており、現在の多くのスマートフォンも11nmのプロセスルールで製造されたチップセットを搭載している。A12 Bionicはスマートフォン向けのチップセットとしては初の7nmプロセスルールで製造されたものになる。ちなみに、7nmプロセスルールで製造するチップセットとしては、IFA 2018の基調講演でファーウェイが「Kirin 980」を発表しており、10月に発表される新製品に搭載することが明らかにされている。

 「iPhone XS」と「iPhone XS Max」に搭載されるA12 Bionicは、2つの性能コアと4つの効率コアから構成されており、求められる負荷によって、それぞれのタスクをコアに振分け、効率良く処理を進めるとしている。従来のA11 Bionicとの比較では性能コアが15%の高速化、効率コアが最大50%の消費電力を実現するほか、4コアのGPUが従来よりも最大50%、高速化しており、全体的なパフォーマンスを向上させている。

 そして、今回のA12 Bionicで注目されるのは、リアルタイムの機械学習などに効果を発揮するニューラルエンジンが大幅に強化されたことが挙げられる。ニューラルエンジンは従来のA11 Bionicにも組み込まれていたが、従来が毎秒6000億の演算処理が可能だったのに対し、A12 Bionicでは毎秒5兆もの演算処理を可能にする。ただ、ユーザーとしてはCPUやGPUなどと違い、ニューラルエンジンの効果が今ひとつつかみにくいところだが、大量の写真の判別やARのトラッキング、FaceIDの認識などが身近なメリットとして享受できるという。この他にもA12 Bionicには、深度エンジンを搭載したISP(画像信号プロセッサ)が組み込まれており、後述するカメラのポートレート撮影などに効果を発揮する。

背景のボケを活かしたポートレートが楽しめるカメラ

 iPhoneは2016年発表のiPhone 7 Plusで初めてデュアルカメラを搭載し、昨年はiPhone 8 PlusとiPhone Xを搭載してきた。デュアルカメラは各社がさまざまな手法で搭載しているが、iPhoneは広角カメラと望遠カメラという実用性を重視した構成を採用しており、今回の「iPhone XS」と「iPhone XS Max」でも背面に広角と望遠の2つのカメラを搭載する。

背面には12MPのイメージセンサーを採用したデュアルカメラを搭載。広角と望遠で構成される

 「iPhone XS」と「iPhone XS Max」に搭載されるカメラは、両機種とも共通で、12MPのイメージセンサーに、広角側はF値1.8、望遠側はF値2.4のレンズを組み合わせ、いずれも光学手ぶれ補正に対応する。広角側は従来が35mm換算で28mmだったのに対し、今回は26mmに変更され、よりワイドに撮影できる。望遠側は35mm換算で52mmとなっている。望遠カメラは広角カメラの2倍に相当し、デジタルズームと組み合わせることで最大10倍ズームを実現する。ちなみに、従来のiPhone XやiPhone 8 Plusも12MPのイメージセンサーを採用していたが、アップルによれば、今回の「iPhone XS」と「iPhone XS Max」に搭載される12MPカメラは新設計のもので、イメージセンサーのサイズや仕様などが異なり、光の取り込みも50%向上しているという。

 「iPhone XS」と「iPhone XS Max」のカメラが従来のiPhone Xとほぼ同等の仕様ながら、カメラ性能において、大きく進化したとアップルが謳う最大のポイントは、前述のA12 Bionicのニューラルエンジンの効果にあるという。従来のカメラの進化は主にセンサーやレンズ、画像処理エンジンなどによるものだったが、ここに機械学習という新しい手法が取り込まれることで、これまでのカメラの進化とは違った次元に進んだとしている。

 たとえば、明暗情報を幅広く記録できるHDRは従来から搭載されてきたが、「iPhone XS」と「iPhone XS Max」のスマートHDRでは明暗情報を幅広く捉えつつ、高速なセンサーや画像信号プロセッサなどの性能を活かすことで、細部までしっかりとぶれを抑えた写真を撮ることができる。

 そして、現在のスマートフォンのカメラのトレンドとして、欠かすことができなくなってきた「ボケ(Bokeh)」、つまり、背景のぼかしについても大幅に強化され、ライバル機種に戦える環境が整った印象だ。

 ポートレートモードでは被写体をくっきりと浮かび上がらせた美しい写真が撮影ができるだけでなく、撮影後に被写界深度を調整することで、ボケの利き具合を好みに合わせて変更できるなど、細かいところも工夫されている。ポートレートモードについては従来のiPhone Xでもサポートされていたが、より美しく自然で印象的な撮影を可能にしている。また、ビデオについても手ぶれ補正に対応するほか、HDR撮影やステレオでの録画などにも対応しており、従来モデルよりも一段とビデオを撮る楽しさが充実した印象だ。

室内でポートレートモードで撮影。モデル:るびぃ(ボンボンファミンプロダクション) ※リンク先は3024×4032ドットのオリジナル画像
ボケを利かせ、背景をぼかした映像も保存される ※リンク先は3024×4032ドットのオリジナル画像
薄暗いバーで撮影。ボトルが並ぶ後ろの棚も明るく撮影できている ※リンク先は3024×4032ドットのオリジナル画像
ポートレートモードで撮影しているため、同じ構図で背景をぼかした写真も保存される ※リンク先は3024×4032ドットのオリジナル画像

 TrueDepthカメラと呼ばれるフロントカメラ(インカメラ)については、7MPのイメージセンサーにF値2.2の広角レンズを組み合わせる。フロントカメラながら、手ぶれ補正にも対応しており、端末を持ち歩きながらのビデオの自撮りでも安定した撮影ができるなど、今どきのスマートフォンらしい進化も見せている。

TrueDepthカメラ(インカメラ)で自分撮り。背景もうまくぼけている ※リンク先は2316×3088ドットのオリジナル画像
iPhone Xに引き続き、ポートレートモードでは照明の効果を変更することが可能
ポートレートモードで撮影した写真を[写真]アプリで表示し、[編集]をタップすると、編集画面が表示される。画像の真下に表示されているスライダーを左右に動かすと、ボケの利き具合を調整できる

 このTrueDepthカメラを利用した機能として、iPhone Xに引き続き、Face IDが搭載される。iPhoneでは2013年のiPhone 5sで初めて搭載されて以来、昨年のiPhone 8シリーズまで、指紋認証センサーによるTouch IDが搭載されてきたが、今回を機に、生体認証はFace IDに移行することになる。一部では今後、発売が噂されている次期iPadにもFace IDが搭載されると噂されている。Face IDは単純な顔認識ではなく、ユーザーの顔を立体的に捉え、3万以上のドットを照射して認識するため、写真などによる成りすましが難しく、セキュアに使うことができる。筆者も一年近くiPhone XのFace IDを利用してきたが、認識が早く、暗いところでも認識できるなど、かなり使い勝手がいいと見ている。ロック解除以外にもApp StoreやiTunes Storeでのコンテンツ購入、Apple Pay利用時で利用できるほか、NTTドコモのMy docomoアクセス時の生体認証としても対応しており、かなり利用シーンは多い。

 ただ、Face IDにもいくつか弱点がある。たとえば、端末を縦向きに持ったときしか認証できないため、ベッドやソファなどに横向きに寝転がっているときは認証できなかったり、眼鏡や髪型の変更は認識できてもマスクを装着したときは認識できないなどの制限もある。

 また、今回の「iPhone XS」と「iPhone XS Max」、従来のiPhone Xは、Face IDのみをサポートしているため、端末が机の上に置かれているときはロック解除のために端末を持ち上げる必要があったり、Apple Pay利用時のFace IDの認証で何度か端末をのぞき込み直すことがあるなど、やや使い勝手の面で気になるシーンもいくつか見受けられた。Face IDはスマートフォンの生体認証として、もっとも理想的な手段であるものの、欲を言えば、もうひとつ手軽にロックが解除できる手段も残して欲しかった印象だ。

 さて、カメラで実際に撮影した印象についても少し補足しておこう。昨年のiPhone XはそれまでのiPhoneに比べ、かなりカメラ性能が向上した印象を持っていたが、その後、国内外で発売されたファーウェイやサムスンのフラッグシップモデルでは、iPhone Xとはまた違ったアプローチで大幅な進化を遂げ、わずか半年から一年の差ながら、iPhoneはライバル機種に対し、カメラ性能でややリードされてしまった印象を持っていた。今回の「iPhone XS」と「iPhone XS Max」は、試した期間が短かったが、ライバル機種と十分に戦えるレベルに進化してきたという印象だ。夜景や人物撮影では、一部のシーンで物足りなさが感じられたが、どちらが優れているか、美しいかというより、カメラとしての方向性の違いが写真に反映されてきたように見える。

 また、セールスポイントのひとつであるポートレート撮影は、撮影モードをポートレートに切り替えると、望遠側のカメラに切り替わるため、大きく画角が変わってしまい、もう一度、ポジションを取り直さないといけないなど、実用面での不満も残った。シーンがうまくハマれば、人物も風景も室内も美しく撮影できるが、ライバル機種のような独特の色合いや解像感などがあるわけではなく、どんなシーンでもソツなく撮れるカメラに仕上げられている。もっとも、そこがiPhoneのカメラらしいという見方もできるだろう。

最大の悩みどころは価格

 さて、「iPhone XS」と「iPhone XS Max」を評価するうえで、どうしても避けて通れないのは、やはり、その価格設定だろう。

 本誌の一連のニュース記事でもお伝えしたように、今回の「iPhone XS」と「iPhone XS Max」は、それぞれ64GB、256GB、512GBのモデルがラインナップされており、全機種が10万円を超えるという、かなり高い価格が設定されている。最も高いiPhone XS Maxの512GBは税別で16万4800円(Apple Storeでの価格)となっており、アップルのMacBookなどと変わらないレベルの価格となっている。これに一括払いの補償サービス「AppleCare+ for iPhone XS、iPhone XS Max」を付け、消費税込みで計算すると、ついに20万円を超えてしまう。

 多彩な機能を搭載し、新世代へと踏み出した「iPhone XS」と「iPhone XS Max」は、確かに魅力的な商品だが、スマートフォンに20万円前後という価格が果たして適切なのかどうかは判断が分かれるところだ。

 本来、スマートフォンはコミュニケーションやインターネット、カメラ、エンターテインメントなどを楽しむための情報ツールのひとつだ。さまざまな機能を搭載し、猛烈なスピードで進化してきたスマートフォンは、今やパソコンと変わらない、もしかすると、パソコン以上にハイパフォーマンスなデバイスになりつつあるが、それでも実際に我々ユーザーが利用する機能やサービスの内容を考えると、この価格設定はちょっと厳しいと言わざるを得ない。

 アップルは初期のiPhone、あるいはかつてのiPodやiMacなどの製品ジャンルにおいて、スペックで考えると、ライバル製品よりも確実に割安な印象を受けるアグレッシブな価格設定で市場を牽引していた。初期のiPhoneについては、その価格を見て、「iPhoneのビジネスモデルは携帯電話事業者とのレベニューシェア(利益分配)が前提ではないか」と勘違いした関係者がいたくらいの価格設定だったが、今やライバル製品を圧倒する高い価格設定で、市場を驚かせている。価格に見合う性能が凝縮されているのかもしれないが、一般消費者が利用する(購入する)うえでの値頃感が失われてしまった印象が強く、魅力的な製品だと思っていても手を出しにくいと感じているユーザーが存在するのも事実だ。

 さらに、国内のバイル市場では、auの「ピタットプラン」や「フラットプラン」、ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」や「ミニモンスター」のように、毎月割や月月割といった端末購入補助が受けられない料金プランが増え、ユーザーは月額割引などのサポートがない状態で端末を購入しなければならない状況になりつつある。そこに、全機種10万円を超えるという価格設定は、かなりインパクトが強く、SNSなどでは「値段を見て、諦めた」といった反応を見かけるようになってきた。もちろん、auの「アップグレードプログラムEX」やソフトバンクの「半額サポート for iPhone」を利用すれば、実質的に半額で購入することもできるが、それでも負担額はかなり大きい印象は否めない。

 こうした状況を鑑みると、予算的に「iPhone XS」と「iPhone XS Max」が厳しいと感じるユーザーは、10月26日発売の「iPhone XR」を狙うか、あるいは旧機種の「iPhone 8」や「iPhone 8 Plus」を検討するしかなさそうだ。ただ、「iPhone XS」と「iPhone XS Max」の新機能などを見ると、旧機種で我慢ができるかどうかは微妙だ。いずれにせよ、頭の痛い価格設定と言わざるを得ないだろう。

 「iPhone XS」と「iPhone XS Max」はすでに販売が開始されており、Apple Storeをはじめ、各携帯電話会社の系列店、家電量販店などにも展示されている。ぜひ一度、端末を手に取り、プレミアムに進化を遂げた新世代のiPhoneを体験して欲しい。

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法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。