法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

ドコモ「パケットパック海外オプション」担当者インタビュー

安心&シンプルな料金で「Roam like Home」を実現したい

 3月15日からNTTドコモが提供を開始した国際データローミングサービス「パケットパック海外オプション」。24時間で980円というシンプルな料金体系を採用し、従来の「海外パケ・ホーダイ」よりも手軽に利用できることを目指したサービスだ。すでに、本誌では速報レビューを掲載したが、今回はNTTドコモの担当者にパケットパック海外オプションの背景や状況などについて、話をうかがった。

2013年開始の「海外1dayパケ」がベース

 海外で携帯電話を利用する国際ローミングサービス。今や当たり前になった感もあるが、実は時代の移り変わりと共に、提供されるサービスの内容、ユーザーが必要とする利用シーンなども少しずつ変化してきている。

 たとえば、NTTドコモは第三世代携帯電話サービス「FOMA」のサービスとして、2003年6月にFOMA国際ローミングサービス「WORLD WING」の提供を開始した。当初は72の国と地域でのサービス開始の準備を進め、53の国と地域からサービスを開始している。ただし、当時のサービスはFOMAユーザーがFOMAカードを自分の端末から抜き、レンタルで提供されるGSM方式の専用端末に差し替えて利用するという内容だった。当初は音声通話のみに対応したサービスだったが、2004年12月には海外でも1台の端末でiモードが利用できるサービスも開始している。

 その後、2010年からは海外でのデータ通信の利用拡大のニーズに応え、1日あたり最大2980円で利用できる「海外パケ・ホーダイ」の提供を開始し、2013年12月からはより手軽に利用できる「海外1dayパケ」のサービスを開始している。そして、今年3月15日にサービスの提供を開始したのが「パケットパック海外オプション」だ。これまでの海外1dayパケの後継サービスという位置付けだが、サービス提供の背景や状況などについて、NTTドコモ 国際事業部国際技術担当 担当部長の久保田敦紀氏、NTTドコモ 国際事業部国際サービス戦略担当 担当部長の佐々木純一氏へのインタビューをお届けしよう。

海外1dayパケの利用、減少傾向になっていた

――NTTドコモはこれまで「海外パケ・ホーダイ」「海外1dayパケ」と国際データローミングサービスを提供してきましたが、今回の「パケットパック海外オプション」を提供することになった背景について、教えてください。

NTTドコモ 国際事業部国際技術担当 担当部長の久保田敦紀氏

久保田氏
 「海外1dayパケ」のサービスは2013年12月にサービスの提供を開始したのですが、データ通信量の上限が30MBで、料金は国と地域によって、980円、1280円、1580円の3種類が設定されていました。サービス開始前に仕様をいろいろ検討したのですが、当時は半数以上の方がケータイでしたので、30MBで十分だろうという判断でした。ところが、当初は海外1dayパケの契約者が増えていったのですが(「海外1dayパケ」は申し込みが必要)、途中で頭打ちになり、減少傾向になってしまったのです。

――なぜ、減る方向になってしまったのでしょうか?

久保田氏
 今はみなさんがスマートフォンをご利用になっているので、よくおわかりだと思いますが、スマートフォンって、海外で非常に役に立つわけです。地図を見たり、SNSで連絡を取り合ったりできます。ところが、30MBの容量ではとても足りず、結局、空港でWi-Fiルーターをレンタルされるケースが多かったようです。なかには国際ローミングで高額を請求されることが心配で、渡航先に着くと、電源を切ってしまう方もおられます。社内で聞いてみても同様で、やはり、Wi-Fiルーターをレンタルする人が多いようで、自社のサービスなのに社員に使われないことがある状況を少し残念に思ってましたね。やはり、せっかくスマートフォンは便利なツールなのですから、普段のスマートフォンをそのまま同じように海外で使ってもらいたいという思いもあり、パケットパック海外オプションの検討を開始したわけです。

グローバルの流れにあわせて

――auが2016年7月からサービスを開始した「世界データ定額」は意識されたのでしょうか?

久保田氏
 実は、auさんだけではなく、世界的に国際データローミングサービスで、そういう仕様のサービスを提供する傾向があります。「Roam like Home」といった言い方をしますが、簡単に言ってしまえば、自分が契約している国と地域、つまり、日本のユーザーなら日本ですね。ここに居るときと同じような感覚で、ローミングができるようにしようという考え方ですね。アメリカで言えば、VerizonやAT&Tも同様のプランを提供しています。

――国際ローミングでの世界的な流れでもあるわけですね。

久保田氏
 ただ、我々はすでに海外1dayパケを提供している状況でしたので、まず、国内で契約しているデータ容量から差し引くプランが本当にいいのか、「Roam like Home」という流れに乗っていいのかを見極めたいという考えもありました。その一環として、一部の国と地域を対象に、30MBの制限を超えても通信速度の制限を受けずに利用できるキャンペーン何度か実施したのですが、お客さまの反応も非常に良く、ちょうど一年くらい前に、この方向性で行きましょうという方針を立てました。

“ビルショック”を避ける

――なかなか情報が開示されないので、実態が今ひとつ見えない部分もありますが、実際、どれくらいの人が国際ローミングサービスを利用されているのでしょうか?

NTTドコモ 国際事業部国際サービス戦略担当 担当部長の佐々木純一氏

佐々木氏
 正確な数字はお答えできないのですが、実は先ほど、減る傾向にあるとお話ししたように、スマートフォンの普及により、海外での利用は下がる傾向にあります。かつては半分くらいのお客さんにご利用いただいていたのに、スマートフォンの普及が進むにつれ、利用率は下がってしまったという印象です。これは従来のケータイと違い、スマートフォンはデータ通信量が多いということが認識されていて、海外で利用すると、高額請求につながるのではないかと考えるお客さんが多いからだと推測しています。その点を考慮して、安心でシンプルで便利に使えるようなサービスにしたいということで、今回のパケットパック海外オプションを提供することになったわけです。

――今年2月、auが世界データ定額を韓国で無料で利用できるキャンペーンを実施した際、従来の利用率が2割程度だったところがようやく3割に近付いたと話してました。

久保田氏
 他社さんのことなので、あまりコメントはしづらいのですが、国際ローミングを提供してきた経緯が違うことも影響しているのかもしれません。我々はかなり古く、FOMAで言えば、905シリーズの頃から「世界ケータイ」と題して、国際ローミングを標準サービスとして提供していました。対地(利用できる国と地域)もその頃からかなりありました。当時はiモードが主流でしたが、iモードを海外で利用しても平均で7~8MB程度だったので、通話を別にして考えると、海外で使ってもそれほど高額にはなりませんでした。ですから、国際ローミングを使われる方も半分以上くらいはいらっしゃったわけです。一方、auさんはCDMA方式を採用されていたこともあり、国際ローミングが利用できるエリアが限られていて、元々、利用者の基盤が少し違っていたんだと思います。ただ、先ほどもお話ししたように、iモード端末、つまりフィーチャーフォンのときは半数以上の方にご利用いただけてましたが、スマートフォンはデータ通信量が多く、すぐに1日の限度額の2980円に貼り付いてしまうため、利用者が減ってきたというわけです。

――パケットパック海外オプションでは利用できる国と地域が205となっていて、他社よりも多いのですね。

佐々木氏
 そうですね。パケットパック海外オプションでは205の国と地域で利用できますが、ドコモのローミングを利用できる全対地数で言うと、221になります。これはドコモのお客さまの渡航先としては、99.9%をカバーしていることになります。残り16の国と地域が対象ではないのですが、これはアフリカの奥地や中東などの一部になります。

久保田氏
 ひとつ有名なところで言うと、実はモルジブがまだ対象になってないんです。ただ、ドコモのスマートフォンを持って、モルジブのような対象じゃない地域に行っても勝手に通信は始まらないように設定されています。データローミングをオンにした状態でも現地で通信をしようとすると、パケットパック海外オプションと同じようなポータルが表示されるのですが、画面が赤くなっていて、「ここは1パケット0.2円がかかりますが、本当に開始しますか?」という旨のメッセージが表示されます。先ほども話がありましたが、対地を205に拡大することで、基本的にはビルショック(高額請求に驚くこと)がないようにしつつ、対象外のところでもそういった形で通信を止め、きちんと画面上でガイドを出すことで、本当に必要な人だけが通信をできるように作られています。

佐々木氏
 今回のパケットパック海外オプションでは、対地が増えたということで、お客さまからもたいへん好評をいただいています。現在の205対地を超えて、さらに他の国と地域もサポートして、100%に近づけていきたいですね。そうすれば、パケットパック海外オプションに入っていただくだけで、ビルショックは起こらなくなるわけですから。

久保田氏
 ビルショックも10万円というレベルではなくて、実は1万円でも十分ショックなんですよね。海外パケ・ホーダイでも2980円で5日間の旅行になると、もう軽く1万円を超えてしまいますが、パケットパック海外オプションなら、数千円に抑えられます。ぜひ、多くのみなさんに加入していただいて、安心して、使っていただきたいですね。

入念な試験も

――パケットパック海外オプションの対地の携帯電話事業者との交渉は、スムーズに進んだのでしょうか?

佐々木氏
 この料金のために交渉というよりも元々、各携帯電話事業者と契約をしていますから、その範囲内で、どこまでを料金に含めるのかを決めるわけです。これはドコモが3G時代から国際ローミングサービスを提供していて、すでに世界中の携帯電話事業者とのつながりがあったので、サービス開始当初からこれだけの対地で利用できたわけです。

――まだサービスは開始したばかりですが、開始から一週間の反響や状況はどうなのでしょうか?

佐々木氏
 申し込みはおかげさまで順調に伸びています。海外1dayパケをスタートしたときと比べて、3倍くらいの申し込みをいただいています。大きな不具合などは起きていませんので、安心して、ご利用いただけます。

久保田氏
 すでにご利用いただいた方からは「簡単に使えた」という言葉もいただいています。実は、ケータイ Watchさんの記事で、アプリから操作したとき、ポータルサイトにアクセスできないというご指摘をいただいていましたが、この点はすぐに次の日に修正をしまして、すでに新しいバージョンのアプリが公開されています。

――それは良かったです。まだ今のところ、1カ所しか出かけていませんが、初日にもかかわらず、接続の部分については何もトラブルがなく、AndroidもiPhoneもスムーズに接続できました。

久保田氏
 我々は今回のサービス開始にあたり、事前にかなり試験をやりました。実は、こういった国際ローミングサービスでは相手の携帯電話事業者だけでなく、間に相互接続を担当するIPX事業者が存在するのですが、その組み合わせなども含めて、幅広く試験を重ねました。

――使い勝手の面もいろいろ工夫されてますよね。

久保田氏
 そうですね。海外1dayパケのときもできるだけシンプルに操作できるように作り込んみましたが、実はiPhoneが少し仕様が違っていて、電話アプリでUSSDコードという呪文みたいなものを発信する必要がありました。Androidはアプリが作れるのですが、iPhoneはそれができなかったのです。ある程度、リテラシーのある方ならいいのですが、やはり、ご年配のお客さまには「電話アプリで発信する」という操作がなかなか理解されない状況でした。その点、今回のパケットパック海外オプションは「ドコモ海外利用」のアプリか、ブラウザで利用開始の操作ができるので、はじめての方でもわかりやすいと思います。

日本と同じ感覚で

――パケットパック海外オプションを多くの人に利用して欲しいというお話がありましたが、具体的にどの程度の比率まで引き上げたいといった目標はありますか?

佐々木氏
 ひとつは先ほどのご説明したように、利用される方の比率が下がってきた傾向があるので、まずはこれを食い止めたいですね。特に、最近は若い方になかなか国際ローミングが使っていただけないんですよ。テレビなどでレンタルの海外用Wi-Fiルーターが宣伝されていることもあって、みなさん、そちらを検討されるようです。普段のスマートフォンをそのまま使える国際ローミングの良さ、パケットパック海外オプションの良さをしっかりとアピールして、存在感を出していきたいですね。

久保田氏
 かつて国際ローミングを気兼ねなく使うというと、やはり、法人のユーザーの方が中心でしたが、今は個人の方でもごく普通に海外でスマーフォンを使う時代です。そういう意味では国際ローミングをコモディティ化というか、国内に居るときと同じような感覚で使えるようにしていきたいですね。文字通り、「Roam like Home」になって欲しいと思ってます。

佐々木氏
 海外旅行を手配をされるとき、みなさん、飛行機、ホテルなどといっしょに、海外用のWi-Fiルーターを予約されるんですよね。今まで、我々は旅行に出かける直前の場所、つまり、空港にカウンターなどを設置して、使い方などをご案内していたのですが、やはり、これからはもう少し前の段階で、国際ローミングのメリットをご理解いただけるようにしていきたいと考えています。たとえば、旅行会社さんの説明会でいっしょに説明したりですとか、旅行のパンフレットに掲載させていただくといった方法が考えられます。

――その他に今回のサービスについての取り組みでアピールしたいところはありますか?

佐々木氏
 実は、パケットパック海外オプションで利用する[ドコモ海外利用]のアプリは、利用開始の操作や残り時間の確認といったサービスの操作だけでなく、海外で利用するときに役立つ「海外便利ツール」をアプリのメニュー内にまとめています。たとえば、この中にある「自動観光ルート案内」はニューヨークなどに出かけて、ちょっとした空き時間ができたとき、どこに行ったらいいのかを簡単に検索できます。

久保田氏
 これは実際にアプリで見ていただくといいのですが、この「自動観光ルート提案」はハワイ、グアム、ニューヨーク、香港、ソウル、台北の6カ所に対応していて、特に、若い女性の方などに人気の高いスポットを選んでいます。

佐々木氏
 こういったツールを提供し、みなさんの旅行をサポートしていくことで、より国際ローミングを便利に活用できるようにしていきたいと考えています。

久保田氏
 我々としては、このアプリを旅の準備から、旅の途中、たとえば、各国の入国カードの書き方などの役立つ情報、旅の後、たとえば、旅の思い出のシェアなど、旅全体をサポートするような形にしていきたいと考えています。

佐々木氏
 海外に行くときは「このアプリを使っておけば、大丈夫」というところまで持っていきたいですね。

――本日はありがとうございました。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。