法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「大きく、変わります。」と宣言したau 2016 SUMMER COLLECTION

 5月31日、auは2016年夏商戦へ向けた発表会「au 2016 SUMMER COLLECTION」を開催し、スマートフォンなど、7機種に加え、長期契約者向けの優遇施策や新会員制プログラム「au STAR」を発表した。

 田中孝司社長自ら、この夏、auが「大きく、変わります」と書面によるメッセージを配布するなど、これまでの取り組みを一新し、顧客重視の姿勢を打ち出してきた。すでに発表会の詳細は本誌の速報記事が掲載されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは発表内容の捉え方とそれぞれの製品及びサービスの印象などについて、解説しよう。

一人ひとりのニーズに応える

 現在、国内ではNTTドコモ、au、ソフトバンクが携帯電話事業者としてサービスを提供し、最近は各社から回線を借り受けたMVNO各社が増え、注目を集めている。携帯電話事業者にしろ、MVNO各社にしろ、いずれも企業にはそれぞれのイメージがある。よく関係者の間でも「□□って、○○社らしいよね」といった言い回しで表現するが、読者のみなさんはauに対して、どんなイメージを持っているだろうか。

 auのサービスを提供するKDDIは、2000年にDDI(第二電電)、KDD、IDO(日本移動通信)が合併してできた会社であり、2005年にはツーカーグループ各社を子会社化したため、ユーザーによって、元々、契約していた携帯電話事業者が違い、それぞれに持つ印象が異なるかもしれない。KDDIは今年3月、この30年間を振り返る「おもいでタイムライン」というコンテンツを公開しており、5月26日からは追加で「auケータイ図鑑」も公開されたが、これらのコンテンツを見ながら振り返ってみると、auはいろいろな形で新しい技術やサービス、トレンドを取り込んできたことが思い出される。

 たとえば、初の電子コンパス搭載GPSケータイ「C3003P」ではナビゲーションを実現したり、CDMA1X Ev-Do対応端末「W11H」「W11K」では初のパケット定額制プランの「EZフラット」を提供。着うたなどの音楽配信サービスに取り組み、「INFOBAR」や「talby」といったau Design Projectでケータイのデザインの可能性を示したりと、端末や料金、サービスだけでなく、ユーザーが楽しむモノとしての価値に対しても数多くの話題を提供してきた。スマートフォン時代に入っても初めてワンセグなどの日本仕様を取り込んだ「IS01」や「IS03」を発売し、「Android au」を合い言葉に掲げ、当時、iPhone独占でリードしていたソフトバンクに対抗するなど、積極的に取り組んできた印象が強い。

 そんなauが今回の「au 2016 SUMMER COLLECTION」と題した発表会において、「この夏、auは大きく、変わります。」と宣言してきた。発表会では田中孝司社長自らの署名を印刷した宣言書のようなものまで配布されるという力の入れようで、今までとは少し違った取り組みのように見える。田中社長曰く、auがこうした宣言をしたのは、「ユーザー 一人ひとりのニーズが違い、それをしっかりと理解して、ユーザーに期待を超える体験価値を提供していきたい」としている。この取り組みのために、新たにCXO(お客様体験価値改革プロジェクト統括責任者)として、菅隆志執行役員を任命し、本社及び全国の支社・支店スタッフによるauのカスタマージャーニーを総点検することに取り組んでいるという。ユーザーがスマートフォンに興味を持つ段階、そしてスマートフォンを購入したとき、スマートフォンを使い始めたとき、スマートフォンの利用中など、それぞれの段階において、ユーザーがどのような疑問を持ったり、期待を抱いたり、使っていくうえでの課題を感じていたりといったことをauがきちんと理解しながら、カスタマージャーニーを磨き上げていくという。田中社長が冒頭の説明で、「お客さまの気持ちを最重視して、すべてを改革」と締めくくった文言に、その決意の強さがうかがえる。

 今回の宣言が実際にどのように活かされていくのかは、我々ユーザーがauの今後の施策などを見ながら判断していくことになるが、こうした宣言が打ち出されてきた背景には、いくつかの事情がありそうだ。ひとつは携帯電話業界がスマートフォンの普及の頭打ちなどで、市場的にひとつの曲り角を迎えつつある一方、今後、au……というより、KDDIがさまざまな分野に事業を拡大し、ユーザーの生活を支える企業として成長するには、もっとユーザーにしっかりと歩み寄り、ユーザーから頼られる存在になっていかなければならないという思いもあるようだ。

 同時に、もうひとつ付け加えるなら、筆者はau自身に内なる課題があると見ている。auは前述のように、新しいことへの取り組みに熱心である一方、業界関係者の間では「長続きしない」「発表したままで、フォローがない」「全体的に危機感がない」といった手厳しい評価が聞かれることがある。たとえば、新サービスを打ち出したものの、その後の展開がアピールされなかったり、他社が強力な新サービスなどを発表したのに対抗策がなかったりといった具合いだ。ユーザー目線のみで見ていると、今ひとつわかりにくいかもしれないが、従来から「お客様満足度の向上」を強く打ち出していたNTTドコモに比べ、auは今ひとつユーザーに寄り添ってない印象が見え隠れしている。つまり、今回のauの「大きく、変わります。」宣言は、ユーザーに対しての宣言であると同時に、auに携わるKDDI及び関係各社という、内部に対する意識改革を促す宣言という意味合いも含んでいるわけだ。今後、auがどのように変わっていくのかをユーザーもさまざまな面でじっくりと見極めていく必要がありそうだ。

夏モデル第一弾として、10機種を投入

 今回の発表では夏商戦向けのモデルとして、スマートフォンの新機種が4機種、すでに発表済みのモデルが2機種、カラー追加となるモデルが1機種、タブレット、Androidフィーチャーフォン、モバイルWi-Fiルーターが各1機種ずつで、合計10機種を投入することが発表された。今年の夏モデルについては、すでにNTTドコモが5月11日に発表会を開催し、ソフトバンクは同じ11日に3機種を発表しながら、発表会そのものを見送っている。

 これに対し、auは先行発売されたモデルやカラー追加のモデルがあるとは言え、10機種とかなりラインアップを充実させてきた格好だ。この点について、田中社長は「機種数が少なくなると、ユーザーが端末に気持ちを合わせてもらわないといけなくなる。頑張って、ラインアップを揃えていきたい」と話していたが、これまでauはラインアップを絞り込む印象があっただけに、ちょっと意外な印象だ。フラッグシップモデルの年間サイクル化を打ち出したNTTドコモとは、対称的なアプローチという見方もできる。

 夏モデルで新たに搭載される技術的な仕様については、すでに発売されているGalaxy S7 edge SCV33、発表済みのXperia X Performance SOV33でも明らかにされているが、2.1GHz帯のFDD-LTEの1波と2.5GHz帯のWiMAX 2+(TD-LTE)の2波を同時に利用する3CC CAによる受信時最大370Mbpsの高速通信が可能になることが挙げられる。スマートフォンの対応機種は前述の2機種に加え、HTC 10 HTV32、AQUOS SERIE SHV34の計4機種で、これにモバイルWi-FiルーターのSpeed Wi-Fi NEXT HWD34が加わる。当初、利用できる場所は東京・渋谷駅周辺に限定されるが、大阪・梅田駅周辺、愛知・名古屋駅周辺、山手線主要駅周辺などへ順次、拡大していく予定だという。これまでキャリアアグリゲーションは基本的にLTE(FDD-LTE)の周波数帯域を束ねる形で高速化が進められてきたが、FDD-LTEとTD-LTEの周波数帯域を組み合わせたキャリアアグリゲーションが商用サービスでも提供されたことで、今後は3CC CA対応か否かで、利用環境の快適性に差が付いてくることになる。ちなみに、NTTドコモもすで6月からFDD-LTEとTD-LTEを組み合わせた3CC CAによるPREMIUM 4Gのサービスの提供を開始している。この他の部分については、NTTドコモの「スグ電」や「おすすめ使い方ヒント」のような独自の共通仕様も実装されておらず、それぞれの機種の個性を活かしたラインアップとなっている。

 メーカー別では発売済みのモデルも含め、シャープが3機種ともっとも多く、次いでスマートフォンとタブレットを1機種ずつ供給するLGエレクトロニクス、その他はサムスン、ソニーモバイル、京セラ、HTC、ファーウェイが各1機種ずつで構成されている。スペック的に見ると、Galaxy S7 edge SCV33、Xperia X Performance SOV33、AQUOS SERIE SHV34、HTC 10 HTV32がハイエンド、Qua phone PXがミッドハイ、AQUOS U SHV35とTORQUE G02がミッドレンジという位置付けになる。

会員制プログラム「au STAR」を発表

 さて、今回の発表でauは「大きく、変わります。」宣言を掲げたが、それを象徴する最初の取り組みとなるのが会員制プログラム「au STAR」だ。同様の会員制サービスはNTTドコモも「ドコモプレミアクラブ」として、長く提供してきているが、au STARでは大きく分けて、3つの項目から構成される。

 まず、「au STARパスポート」はauショップでの来店日時を優先予約できるサービスで、待ち時間なく、手続きができるように取り組んでいく。ユーザーが店舗に出向くのは基本的に購入や契約の手続き変更などに限られているが、auとしては、au WALLET Marketも展開しており、もう少しスムーズなオペレーションができるように、体制を整えていきたいという考えのようだ。

 2つめの「au STARロイヤル」は、auの利用年数に応じて、データ定額料金1000円(税抜き)ごとに、WALLETポイントを毎月最大100ポイント、付与するというプログラムで、後述する「長期優待データギフト」と併用することが可能だ。たとえば、10年以上、auを利用しているユーザーがデータ定額5GBを契約しているときは、毎月240ポイント(auスマートバリューありの場合)がWALLETポイントとして付与される。対象となるプランもデータ定額だけでなく、LTEフラットやジュニアスマートフォンプラン、シニアスマートフォンプラン、4G LTEケータイ(Androidスマートフォン)向けのデータ定額なども含まれており、総じてユーザーがメリットを享受できるように構成されている。

 3つめはau STARギフト。au STARプログラムに会員登録したユーザー全員に提供される特典となっている。具体的には、後述する国際ローミング時のパケット定額サービス「世界データ定額」の1日分(24時間)の利用料(980円)の無料提供、3カ月に1作品、エンターテインメントコンテンツを無料で1作品視聴という内容だ。世界データ定額の1日無料プレゼントは、海外渡航の多いユーザーにはうれしいだろうが、日本人の海外旅行はあまり多くないとも言われており、メリットを享受できるユーザーは限定的だ。後者のエンターテインメントコンテンツ1作品無料視聴は、ビデオパスなどを契約するユーザーには魅力的である一方、まだスマートフォンでの映像コンテンツサービスを体験していないユーザー向けにはどれだけアピールできるかが未知数だ。さらに、誰でも割の2年契約を更新したユーザー向けに、ギフト券3000円分が送られるが、これもユーザー自身が6カ月以内に専用サイトから申し込む必要があるとされており、特典を得るために、ユーザーがどれだけの手間がかかるのかが今ひとつ見えにくい印象だ。

 これらのサービスの内、au STARパスポートとau STARギフトは8月から、au STARロイヤルは11月から提供が開始されるので、ユーザーがメリットを享受できるのはもう少し先になる。

 また、会員制プログラム「au STAR」とは別に、従来から長期ユーザー向けに提供している「長期優待データギフト」も拡充される。契約期間の区分が「4年以上」「7年以上」「10年以上」になり、対象となるデータ定額サービスにLTEフラットが加えられ、継続利用をしていれば、早い段階でデータ通信量が増量されるようになる。すでにスマートフォンなどで、ある程度、データ通信量を多く消費しているユーザーにとっては歓迎すべき施策だが、これもライトユーザー向けには今ひとつメリットがなく、もう少し工夫が必要な印象も残る。

 そして、新サービスとして、今年8月から提供されるのが「世界データ定額」だ。これまでauでは「GLOBAL PASSPORT」という名称で国際ローミングサービスを提供し、データ通信については「海外ダブル定額」として、1日あたり最大2980円で利用できるサービスを提供してきた。ただ、数日間の海外旅行で1万円を超える負担になってしまったり、海外渡航者向けのレンタルのモバイルWi-Fiルーターなどに比べると、かなり割高な印象は否めなかった。今回の「世界データ定額」は対象が32の国と地域に限られているが、24時間単位で980円で利用でき、データ通信量は国内利用分からカウントするというしくみを採用している。利用開始は「世界データ定額」アプリやブラウザの専用サイトでの操作を起点とし、利用状況もこれらのアプリや専用サイトで確認できるという。ユーザーとしては国内利用時と同じペースで利用しても追加料金は1日あたり980円で済むため、実際の使用状況がある程度、感覚的につかみやすいプランと言えそうだ。もちろん、料金的には渡航先でプリペイドSIMカードを購入した方が割安になるケースが多いだろうが、実際の手間やリスクなどを考えると、ストレスなく、手軽に使える「世界データ定額」の方が幅広いユーザーに受け入れられそうだ。

スマートフォンを中心に10機種をラインアップ

 さて、ここからは夏モデルとして発表された全10機種について、個別に説明しよう。各機種の詳しい内容については本誌の速報記事を参照していただきたいが、すでに販売が開始されているモデルがある一方、開発中のモデルもあったため、ここでの評価は最終的な製品と差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、一部の機種はNTTドコモ向けと基本的に共通なので、そちらの記事も合わせて、参照していただきたい。

Qua phone PX(LGエレクトロニクス)

Qua phone PX

 auのオリジナルブランドのモデルとして展開される「Qua」シリーズの最新モデル。製造はisaiシリーズなどを手がけてきたLGエレクトロニクスが担当する。ネーミングの「PX」は「P」がアルファベットの16番目で2016年モデルであることを、「X」は夏モデルであることをそれぞれ表わしており、冬モデルのときは「Z」を割り当てる予定だという。5.2インチのフルHD液晶ディスプレイに、Qualcomm製Snapdragon 430 MSM8937を搭載し、3000mAhの大容量バッテリーを内蔵しながら、薄さ約7.5mmのスリムボディに抑えられている。全体的に見て、あまりクセのないデザインで、背面は指紋などが目立たない仕上げとなっている。

 特徴的なのはカメラで、メインは1610万画素、内側のサブカメラが800万画素となっており、多彩なカメラ機能で定評のあった「isai vivid」でも採用されていた撮影機能を継承している。ボリュームキーの下側2回でカメラをすぐに起動したり、マニュアルモードに切り替えて、ISO感度や露出などを変更しながら、好みの写真を撮影することもできる。自分撮りについてもサブカメラに向かって、手を握ると撮影できる「ジェスチャーショット」、ディスプレイを発光させて、明るく撮影できる「フロントカメラサブフラッシュ」などの機能も搭載される。価格的にもリーズナブルになるとされており、この夏のお買い得な一台として、期待できそうだ。

HTC 10 HTV32(HTC)

HTC 10 HTV32

 HTCがグローバル向けに発表した「HTC 10」を日本向けに展開されるモデル。これまでau向けに供給されてきたHTC製端末は、他のグローバル市場向けに展開するメーカーの製品と同じように、おサイフケータイやワンセグなどの日本仕様が実装されていたが、今回のモデルはハードウェア的な仕様変更をほとんど行なっておらず、グローバル市場向けの製品をベースに、対応する周波数帯域の調整や背面カバーのロゴ追加などの変更を加えたのみで、日本向けに販売されることになる。ただ、他のauスマートフォンと同じように、auの独自アプリはプリインストールされた状態で出荷される。ボディは従来のHTC製端末同様、美しい背面の仕上げが特徴的で、グローバル向けモデルにはなかったカメリアレッドがラインアップされる。注目すべき点としてはメインカメラとサブカメラの両方が光学手ブレ補正に対応し、F1.8の明るいレンズに高速なレーザーオートフォーカスを組み合わせ、暗いところでも美しい写真を撮影できるようにしている。音楽もハイレゾ音源の再生を楽しめるようにハイレゾ対応イヤホンを同梱するほか、ユーザーとイヤホンに合わせたチューニングが可能な「パーソナルオーディオプロファイル」も搭載される。本体には3000mAhの大容量バッテリーが搭載されているが、Quick Charge3.0に対応しており、約90分で満充電が可能になるACアダプタとケーブルが同梱される。ちなみに、底面の外部接続端子はUSB Type-Cが採用されているので、付属ケーブル以外を利用するときは変換アダプタが必要になる。グローバル向けモデルをほぼそのまま導入するという取り組みは、これまでのauのAndroidスマートフォンにはなかったもので、ユーザーの反響が期待される。

AQUOS SERIE SHV34(シャープ)

AQUOS SERIE SHV34

 120Hz駆動のなめらかな表示が可能な「ハイスピードIGZO」を搭載したモデル。シャープはこれまで各携帯電話事業者向けに個別のモデルを供給してきたが、今夏から主要3事業者向けにほぼ同じ仕様のモデルを供給することになった。すでに発表済みのNTTドコモの「AQUOS ZETA SH-04H」とソフトバンクの「AQUOS Xx3」と同じモデルという位置付けだが、au向けのAQUOS SERIE SHV34は側面の指紋センサーがなく、代わりに眼の特徴点を利用した「見るだけ認証」が搭載される。これまでのAQUOS SERIEシリーズは他事業者向けの同じシャープ製端末に比べ、画面サイズがひと回り小さいモデルが展開されてきたが、今回は共通仕様のため、約5.3インチのフルHD液晶を搭載しており、ボディもスタンダードなデザインに変更されたことで、幅広いユーザーに受け入れられるモデルに仕上げられた印象だ。カメラは2260万画素のCMOSイメージセンサーを採用し、従来モデルに引き続き、リコーの画質認証プログラム「GR Certified」も取得している。最近のシャープ製スマートフォンは暗いところでも人間の見た目以上に明るく撮影できると評価されていたが、その特徴は今回のモデルにも受け継がれている。オリジナルの機能としては、画面を自動的にスクロールさせる「スクロールオート」、手首をひねって、ひとつ前のアプリにキリかられる「ツイストマジック」などが搭載される。時間帯によって、眼が疲れない画面表示に切り替える「リラックスビュー」、従来のエコ技を進化させて、さらなる長時間駆動を可能にする「長エネスイッチ」、ヘルスケアにも対応した「エモパー4.0」など、ユーザービリティに配慮した機能も搭載されている。デザインを一新したが、内容的には従来モデルをしっかりと進化させており、多彩な機能を存分に活用したいユーザー向けのモデルと言えそうだ。

AQUOS U SHV35(シャープ)

AQUOS U SHV35

 上位モデルであるAQUOS SERIE SHV34の機能を継承しながら、スタンダードなスペックにすることで、リーズナブルな価格帯での販売を狙ったモデル。約5.0インチのHD表示が可能なIGZOディスプレイを搭載し、CPUはSnapdragon 617 MSM8952、RAM 2GB、ROM 16GBで構成するなど、上位モデルに比べると、スペックは抑えられているが、その分、電力消費は低くなるため、3010mAhの大容量バッテリーは最大限に活かすことができる。ハードウェアでは同じIGZOディスプレイであるものの、なめらか表示が可能なハイスピードIGZOには対応しておらず、カメラもメインが1310万画素、サブが500万画素と昨年モデル相当に抑えられており、光学手ブレ補正にも対応していない。しかし、今夏のモデルで新たに搭載された新機能として、こだわり撮影が楽しめる「おすすめプラス」、花火を自動的に撮影できる多彩な撮影モード、美肌補正、手鏡モードなどは同じように搭載されており、存分に撮影を楽しむことができる。この他にも「ツイストマジック」や「リラックスオート」などにも対応しており、全体的に見て、かなりお買い得感の高いモデルに仕上げられている印象だ。

Galaxy S7 edge SCV33(サムスン電子)

Galaxy S7 edge SCV33

 すでに5月19日から販売が開始されているGalaxyシリーズのフラッグシップモデル。すでに、本誌の連載でレビュー記事を掲載済みなので、詳細はそちらをご覧いただきたい。

Xperia X Performance SOV33(ソニーモバイル)

Xperia X Performance SOV33

 今年2月のMWC 2016で発表されたフラッグシップモデルをベースに、ワンセグやおサイフケータイなどの日本仕様を搭載した日本向けモデル。従来のXperia Zシリーズに代わり、Xperia第2章に位置付けられる新シリーズで、ボディは背面にメタル素材を採用し、周囲をわずかにラウンドさせた形状に仕上げるなど、全体的に従来のXperia Zシリーズよりもやさしいデザインにまとめられた印象。背面についてはNTTドコモ向けモデルの解説でも触れたように、グローバル向けモデルが1枚の金属製パネルで構成されているのに対し、日本向けモデルは電波強度を確保するため、背面の下の部分が樹脂製に変更されている。また、おサイフケータイ利用時にタッチするFeliCaのロゴマークも前面にシールで貼られるようになるなど、今までとかなりイメージが異なる印象だ。注目すべきは2300万画素のカメラで、ソニーのデジタルカメラ「αシリーズ」の動体検出エンジンを活かした「先読みオートフォーカス」に対応するなど、強化が図られている。安定した動作のために、自動的にストレージやメモリーを整理するスマートクリーナーを搭載するなど、ユーザビリティに配慮した構成が注目される。

Qua tab PX(LGエレクトロニクス)

Qua tab PX

 auのオリジナルブランド「Qua」シリーズのタブレットの最新モデル。これまで「Qua」シリーズのタブレットとしては、第一弾に京セラ製「Qua tab 01」、第二弾でファーウェイ製「Qua tab 02」が展開されており、今回のモデルが第三弾になる。ネーミングの「PX」はQua phone PX同様、「P」が2016年モデル、「X」が夏モデルであることを表わしている。8インチのWUXGA対応IPS液晶ディスプレイを搭載したモデルで、4800mAhを大容量バッテリーを内蔵する。auスマートフォンと連携する「auシェアリンク」の機能が標準で搭載されており、auスマートフォンでの通知をQua tab PXで受信することなどが可能。Qua phone PXとの組み合わせではQua tab PXのディスプレイ上に、Qua phone PXをそのまま再現する「スマホ画面リンク」が利用できたり、ブラウザで表示中の画面をもう一方の端末で継続して表示できる「つづき見クイック」などの機能も実装される。少し変わったところとしては、本体側面に備えられた「Qボタン」で、ボタンを押すと、ブルーライトを軽減した「リーダーモード」への切り替えができる。タブレットでWebページや電子書籍などを読みたいユーザーにとっては、有効な機能だ。この他にもQua tab PXとQua phone PXを組み合わせて利用したとき、写真アプリの「au Gallery」を端末間で同期させるなどの機能も搭載される。はじめてタブレットを持つユーザーにも安心して楽しめる一台と言えそうだ。

AQUOS K SHF33(シャープ)

AQUOS K SHF33

 Androidプラットフォームをベースにして開発されたフィーチャーフォン。2015年2月に発売された初代モデル「AQUOS K SHF31」、VoLTEに対応した「AQUOS K SHF32」に続く第三弾モデルとなる。従来モデル同様、Androidプラットフォームを採用しながら、自動通信やアプリ追加などを制限することで、従来のフィーチャーフォンと変わらない使い勝手を実現している。4G LTEやau VoLTE、Wi-Fiなど、通信機能を充実させることで、スマートフォンにはない利便性を実現する。今回のモデルでは1310万画素カメラを搭載し、「フレーミングアドバイザー」や「NightCatch」など、シャープ製スマートフォンで培われてきた機能を継承するほか、新たに「エモパー」も搭載し、自宅で端末を閉じて、机に置いたときなどに話しかけてくる動作を実現する。天気予報やニュース、急上昇キーワードなどの情報も教えてくれるが、Androidフィーチャーフォンであることを考慮し、スマートフォンに比べると、データ量を抑え、通信量を制限しているという。防水防じん耐衝撃にも対応するなど、次世代フィーチャーフォンとして、もっとも完成された一台として仕上げられている印象だ。

Speed Wi-Fi NEXT HWD34(ファーウェイ)

Speed Wi-Fi NEXT HWD34

 au 4G LTE(FDD-LTE)とWiMAX 2+(TD-LTE)の3CC CAに対応したモバイルWi-Fiルーター。受信時最大370Mbpsを可能にする国内最速クラスのモデル。2.4インチのタッチパネル対応ディスプレイを備え、SSIDやパスワード、データ通信量の確認、本体設定の変更などを本体のみで操作できる。NFCを使った簡易登録にも対応しており、Android/iOS対応の専用アプリで遠隔操作も可能。3000mAhの大容量バッテリーを搭載しており、急速充電(QC2.0)にも対応する。Wi-FiはIEEE802.11a/b/g/n/ac準拠で2.4/5GHz両対応しており、最大10台までの同時接続が可能。スマートフォン向けの専用アプリは有効かもしれないが、本来、モバイルWi-Fiルーターはパソコンなどと組み合わせて利用するものであることを考慮すると、ブラウザで設定ページが表示できるとは言え、WindowsやMac OS Xで動作する専用ツールなども提供して欲しいところ。受信時最大370Mbpsを利用できるエリアは限られているが、その他のエリアでも十分に高速な通信が利用可能であり、将来的な展開を見越して購入できる一台と言えそうだ。

auは本当に「大きく、変わります。」を実現できるか?

 主要3社に加え、MVNO各社が争うモバイル業界。昨年の総務省の携帯電話料金タスクフォースからの流れもあり、市場的には大きく変革する時期を迎えようとしている。NTTドコモはフラッグシップモデルの「年間サイクル化」、ソフトバンクはラインアップの絞り込みと発表会の見送りなどもそれぞれの会社としての事情を表わした動きという印象だったが、今回のauの「大きく、変わります。」宣言も同じように、au自身の内部的な事情を踏まえた宣言だったという印象だ。

 こうした顧客重視の姿勢はNTTドコモが山田隆持前社長の時代に積極的にアピールしていたことをよく覚えているが、その姿勢は加藤薰社長時代に受け継がれ、おそらく吉澤和弘次期社長の時代にも活かされていくはずだ。一方、auはどうだろうか。今回の宣言はユーザーとしてもポジティブなものとして受け止めたいところだが、過去のauの取り組みを振り返ってみると、営業施策に振り回され、あまりユーザーにフレンドリーでなかった印象が強い。たとえば、今でもよく覚えているのがケータイ時代の卓上ホルダーの扱いで、元々、auが「防水端末にはキャップの開閉を減らすため、卓上ホルダーが必要」とアピールしていたのに、販売店に卓上ホルダーの在庫を抱えさせたくないという判断からか、途中から卓上ホルダーをオプションで提供することをやめたといったことがあった。実際に商品化する段階の判断がどうだったのかは知る由もないが、わずか数年の間で方針を変更してしまった感は否めず、個人的にもauの姿勢にかなりの違和感を覚えた。この他にも本稿で触れたように、サービスを開始しながら、後々のフォローがなかったり、他社の施策に積極的に対抗しようという動きも見られないことが多かった。auは端末の機能や料金、サービスなど、さまざまな面において、いち早く新しいこと、面白いことに取り組んできた印象を持っていただけに、非常に残念に感じていたのも事実だ。

 もちろん、こうした印象はあくまでも筆者自身が感じたものであり、まさに「一人ひとり」のユーザーによって、auに対して、感じることには違いがあるはずだ。そういった違いを本当にきちんと把握し、ユーザーから「au、変わったね」という明確な反応が聞こえてくるほどの変化を期待したいところだ。そのためにはau自らが宣言通りに変わっていくことが大前提だが、我々ユーザーも「もっと○○して!」「他社は△△ができるんだけど?」といった要望をしっかりと伝え、auもそういった声に真摯に耳を傾けるような流れを作り出して欲しいところだ。

 今回発表された端末の内、すでに一部のモデルは販売が開始されており、その他のモデルも順次、販売が開始される見込みであり、auショップや各地の直営店などで、デモ機も展示される予定だ。本誌では今後、各機種の開発者インタビューやレビュー記事などが掲載される予定なので、これらもぜひ参照しつつ、自分に合ったお気に入りの一台を見つけていただきたい。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。