みんなのケータイ

ニューヨークの最先端モバイルオーダーシステムを体験してみた

 1月15日から開催されている全米小売協会(NRF)の展示会取材で米ニューヨークに来ている。2020年1月以来、3年ぶりの訪問となったニューヨークだが、コロナ禍においても現地のビジネスは動いており、新しい業態の店舗が出現しつつある。そんな最新テクノロジーに対応する形でコロナ禍にオープンしたばかりの2つの店舗をモバイル端末で利用してみた。

ニューヨークの街をスマートフォン片手に移動する

Amazon Goと合体した新業態「Starbucks Pickup」

 コロナ禍で出現したスターバックス(Starbucks)の新業態で、現在はここニューヨークのみに店舗展開されているのが「Starbucks Pickup」だ。その最大の特徴は「受取専門」の店舗という点で、一般的なStarbucks店舗にあるような注文用カウンターはない。Starbucksアプリを使って事前に注文と決済を終わらせておき、それを受け取るための店舗という位置付けだ。

タイムズスクエアにあるStarbucks Pickupの店舗にやってきた。New York Times本社ビルの1階にあたる

 ただニューヨークのStarbucks Pickupはそれのみならず、「Amazon Go」が併設されているという特徴も持っている。Amazon Goの詳細についてはこちらの記事を参照してほしいが、いわゆる「レジなし店舗」であり、事前にクレジットカードなどの決済情報を登録しておき、あとは店内の商品を取るとシステムが自動的にそれを認識し、退店した時点で手にした商品の会計が行われるという仕組みだ。前述のようにStarbucks Pickupでは追加のスナックや軽食の注文が行えないため、それをAmazon Goのシステムで補完するという関係になっている。

Starbucks Pickup+Amazon Goの店内の様子

 利用の仕方は簡単で、Starbucksアプリを開いて「Order」から受取先店舗を指定し、注文と決済を開始するだけだ。5分くらいで準備ができると判断して、目的の店舗まで徒歩でそれくらいの場所からオーダーを送って移動を開始した。店舗の1つはタイムズスクエアの近くにあるもので(40th St&8th Ave)、場所的にはポートオーソリティの道路向かい、New York Times本社ビルの1階にあたる。

 入店して名前を告げると商品を受け取れ、さらに店内で飲食をしたければ、そのままAmazon Goのコーナーに進入できる。

アプリを提示しつつ、名前を伝えて商品を受け取る。なお、実は間違った商品を受け取って飲んでしまい、事情を説明して再度作り直してもらったことは内緒

 Amazon Goの入り口には「Amazon One」という生体認証のゲートがあり、筆者の場合はすでにシアトルで情報を登録済みなのでそのまま通過する。

店内の喫茶スペース兼Amazon GoのエリアにはAmazon Oneの認証ゲートを使って進入

 店内奥にはテーブルや椅子があり、棚の商品を手にとって“そのまま飲み食い”が可能。「会計前に商品に手をつけてはいけない」という一般的な感性を持つ日本人には抵抗があるが、店内は普通に満席で賑わっていた。

Amazon Goと店内の喫茶スペース(ラウンジ)の様子。通常のAmazon Goと違ってドリンクと軽食に特化している
ティーラテにヨーグルトを組み合わせてみた。退店ゲートはラウンジの外にあるため、これを食べている時点ではヨーグルトの会計は行われていない

ニューヨーク市内の移動もスマホで

 2店舗目を体験するためにタイムズスクエアからイーストビレッジまで移動する必要があるが、現在ニューヨーク市では地下鉄やバスの乗車システムに「OMNY」という仕組みが全面採用されており、クレジットカードの“タッチ”決済またはApple Pay / Google Payの仕組みで乗車が可能だ。

 従来のMetroCardは現在も利用可能だが、いちいち残高チャージしたり、“擦る”ときの失敗も多い磁気カードに比べれば、手持ちのカードをそのまま使えるOMNYを利用した方が日本からの訪問客には便利だろう。

ニューヨークの地下鉄はカードの”タッチ”で乗車する

“人体接触皆無”をうたう中華料理チェーン

 2つめの店舗は「No Human Interaction」を掲げるレストランチェーンだ。「Brooklyn Dumpling Shop」は現在ニューヨーク圏に3店舗をオープンしており、近い将来に20店舗以上の出店計画を発表している。

ニューヨークのイーストビレッジにある「Brooklyn Dumpling Shop」の店舗

 「Dumpling(餃子)」という単語からも分かるように中華惣菜を主に扱っており、その最大の特徴は店員の作業エリアと顧客のいるエリアが完全に隔離されており、注文や商品の受け渡しなどでの直接接触が一切ない点にある。商品の受け渡しは巨大なロッカーを通して行われ、バーコードを読み取らせたり、商品登録時に提示した名前を入力すると、該当するロッカーが個別に開く仕組みだ。

店内の様子。ガラスを通じて厨房の様子を観察できるが、顧客は店員と接触せず、KIOSK端末を操作するのみ
店内には受け取り用のロッカーがあるのみ。商品は後ろから補充され、保温機能もあるので時間が多少経過しても温かいまま受け取れる

 注文方法は店内で専用のKIOSK端末を操作するか、あるいはオンライン経由で決済も含めて行うかのいずれか。後者の場合、店舗での受け取りのほか、DoorDashやUber Eatsのデリバリーも指定できる。注文時に商品の仕上がり時間の目安が出ているので、その時間に来店すれば、前述の方法で受け取れるという流れだ。

Brooklyn Dumpling Shopのサイト。ここで注文する。なお、米国IPでないとサイト自体からアクセスが弾かれるので、アメリカ放題を利用して現地で試してみようというユーザーは注意
注文を確定して会計に進む
名前やメールアドレスなどの最小限の情報を登録して決済を行う。チップもここで支払う
決済完了のメッセージ。受取時間の目安が表示される。この内容は先ほど登録したメールアドレスにも送付される
時間がきたら商品を受け取る。店内注文の場合はバーコードを提示、オンライン注文の場合は登録した名前を入力する
商品が補充されたロッカー番号が指定されて扉が自動的に開く。商品を取り出すと自動的に扉が閉まるので放置でいい
オンライン注文の場合、商品は持ち帰り用の袋に入った状態で提供される。ロッカーの保温機能で温かい状態のまま保持されている
あとは料理をいただくだけ。興味を持った方はぜひ試してほしい

 こういったレストランの仕組みは「Automat」と呼ばれており、古くは19世紀末にドイツで誕生し、20世紀前半にはニューヨークに到来して大ブームを起こしたが、ライフスタイルが郊外型に変化するにつれて自然と廃れていった。最近ではオランダのアムステルダムにある「FEBO」と呼ばれるコロッケや軽食を販売する店舗などで細々と生き残っていたが、コロナ禍を経てニューヨークの街に100年ぶりに再び復活したことでちょっとした話題となった。古の最先端レストランの仕組みがスマートフォンを通じて現代に蘇ったというのも非常に興味深い。