DATAで見るケータイ業界

非通信事業への収益モデル転換を推進するなか、懸念される携帯会社の設備投資へのモチベーション

 携帯会社は、主力の「通信事業」が伸び悩む一方で、金融や法人事業など「非通信事業」へのシフトが鮮明になってきている。今回は、携帯会社が非通信を軸に成長モデルの再構築を目指す中、「通信事業」の設備投資減速の流れが加速していくのではないかという懸念について考察していきたい。

携帯各社は非通信事業の成長モデル転換を模索

 携帯大手3社の2021年度(2022年3月期)決算で、営業利益(3社合計で3兆1187億円)の中で「非通信事業」の割合は4割(1兆2356億円)を占めるまでに成長してきている。今後は更に拡大する方向で、NTTドコモでは“4年以内に売上の半分を個人向け携帯以外で”、ソフトバンクも将来は“3分の2を非通信で”稼ぐという成長モデルへの転換を目指している。

 一方、政府主導で押し進められた料金引き下げで一気に収益力を失った通信事業の影響は大きく、値下げの影響額はKDDIとソフトバンクでそれぞれ700〜800億円(2021年度)、ドコモは2019年度から3年間で2700億円に上った。

 最近では通信障害が頻発し、改めて社会インフラとしての通信の重要性が認識される一方で、通信事業の収益力低下が鮮明となるなか、携帯各社の通信インフラ投資意欲について、懸念する声も聞かれるようになってきている。

携帯各社の主な通信障害
出典:各社発表資料より独自作成

懸念される通信事業の設備投資へのモチベーション

 今期の携帯3社の設備投資額は、前年度比3%増の1兆8230億円と増加傾向にあるが、その大半はここ1~2年でピークを迎える。しかし、関係者によれば、楽天を含め携帯各社では、一部を除き早くも今年下半期から大幅な投資縮減に動くのではないかという警戒感が出ている。

 既に一部の現場では、動いている現場以外の発注分について、工事を中止するよう携帯会社から通達が出ているという。また、別の携帯会社では工事会社や取引会社へコストを一定の割合で削減するよう要請を出し、工事についても事実上ストップしている。そもそも業界では、総務省によるデジタル田園都市国家構想の5Gカバー率達成のため、5G基地局について新規ではなく既存周波数のNR化を優先してきたことも投資減速に影響を及ぼしている面がある。

 インフラシェアリングやローミングなど投資負担を軽減する取り組みが進むが、一部関係者の中には、「もはや通信インフラは競争力の源泉では無くなった」とする意見も聞かれる。通信事業への投資意欲をどのように維持していくべきか、5Gによる社会インフラという一段高い視野から注視していくべきではないだろうか。

「デジタル田園都市国家構想」で提示された5G基地局数の予測
出典:総務省データを独自作成

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」などクオリティの高いサービス提供を行う。