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携帯3社の「通信事業」「法人事業」「新領域」のセグメント決算と2021年度見込み

 携帯各社の2020年度決算が出揃った。政府による料金引き下げ要請などの影響で「通信事業」が伸び悩む一方で、「ソリューション」や金融やコマースなど「新領域」の成長がそれを補う形で3社とも 増収増益 を記録した。

 今回は、携帯3社の決算をもう一段掘り下げ、「通信事業」「法人事業」「新領域」の3つのセグメントについて整理していきたい。

1.全体の決算では3社とも増収増益

 2020年度通期決算は、NTTドコモの売上高が前年度比1.5%増の4兆7252億円、営業利益が同6.4%増の9132億円、KDDIの売上高が同1.4%増の5兆3126億円、営業利益が同1.2%増の1兆374億円、ソフトバンクの売上高が同7.1%増の5兆2055億円、営業利益が同6.5%増の9708億円といずれも 増収増益 を記録した。

グラフ:携帯3社の2020年度売上高(出典:MCA)
左からNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク
グラフ:携帯3社の2020年度営業利益(出典:MCA)
左からNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク

2.三社三様となった「通信事業」のスコア

 NTTドコモの「通信事業」は端末販売の減少やギガホ・ギガライトや新プランの影響によりわずかながら減収となる一方で、光通信が順調に寄与(+503億円)したことで 減収増益 を記録した。

 KDDIの「パーソナル」事業はモバイル通信料収入が増加したことで増収を確保したものの、減価償却費の増加やエネルギー事業粗利の減少などにより、営業利益が-1.0%の減益で 増収減益

 ソフトバンクの「コンシューマ」事業は、「SoftBank」ブランドの料金プラン割引施策や、「Y!mobile」「LINEモバイル」ブランドなどの契約数増加に伴い平均単価が減少したが、「Y!mobile」ブランドを中心にスマホ契約数が増加したことで、 増収増益 を確保した。

3.KDDIとソフトバンクの「法人事業」は増収増益

 KDDIの「ビジネスセグメント」は、端末販売収入は減少したが、モバイル通信料収入やソリューション収入の増加などにより対前年比+5.3%、営業利益は売上高の増加の影響などで同+11.9%の 増収増益 だった。

 ソフトバンクの「法人事業」は、テレワークなどによる需要の高まりに伴い、電話の契約数減少により同57億円(2.9%)減の1889億円だったが、スマホ契約数が増加したことで同303億円(11.0%)増の3054億円を確保。クラウドサービスやセキュリティなどのソリューション商材が16.6%増の1973億円となったことで、売上高は同+8.3%、セグメント利益は同+28.9%の 増収増益 だった。

 いずれもコロナ禍における働き方改革や5Gの本格普及を前に、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを強化していこうとしている。

 なお、NTTドコモは法人事業のデータ開示は行っていない。しかし同社は、今年5月からは法人向けの「ビジネスdアカウント」を活用した法人顧客のデジタル化を推進したり、一連のNTTによるNTTドコモ完全子会社化のなかで、来年にもNTTコミュニケーションズと合併したりするなど、法人事業強化が計画されている。

4.各社10%前後の伸びで成長する「新領域」

 NTTドコモの「スマートライフ領域」は、d払いやdカードなど金融・決済サービスとコンテンツ事業の「スマートライフ事業」とケータイ補償サービスなどの「その他の事業」の2つから構成されている。2020年度は営業収益で対前年比+8.8%、営業利益で同+29.7%の高い伸びを示した。dカード・d払いの取扱高の拡大を図るとともに、決済を起点とした顧客接点の強化や領域拡大を目指し、5月には三菱UFJ銀行とデジタル金融サービス提供に向けた提携を発表している。

 KDDIは、非通信の「ライフデザイン領域」を強化しているが、2020年度は売上高が同+9%の1兆3050億円、営業利益+同11.2%の1980億円の 増収増益 。なかでも、auじぶん銀行やauカブコム証券などの金融分野を統括するauフィナンシャルホールディングスが好調だとしている。

 ソフトバンクは、「ヤフー事業」の売上高は同+14.5%、セグメント利益は同+6.5%の伸びを示した。PayPayの流通取引総額が3.2兆円に拡大していることが初めて明らかになったが、それ以外にも、ZOZOの収益が今期フルに反映されたことによるコマース事業の拡大や、LINE子会社化も成長要因となった。

5.2021年度は料金値下げの影響本格化するも成長領域の強化で増収増益見込む

 2021年度の業績予想では、NTTドコモは営業収益が対前年比+1.3%の4兆7900億円、営業利益が対前年比+0.74%の9200億円を見込む。セグメント別ではahamoなど新料金プランの料金引き下げ影響本格化やMVNO向けのデータ卸、音声接続の値下げなどで通信事業の営業利益減少(-111億円減)を見込むが、法人やスマートライフ領域(営業収益で同+5.4%、営業利益で同+9.3%)を伸ばすことで、減少幅を最小限に抑制していきたいとしている。

 KDDIは売上高が同+0.7%の5兆3500億円、営業利益は同+1.2%の1兆500億円を見込んでいる。povoなど料金値下げの影響が600~700億円と想定するが、成長領域としている「ライフデザイン領域(売上高で同+14.9%、営業利益で同+26.3%)とビジネスセグメント(売上高で同+2.9%、営業利益で同+10.4%)の伸びでカバーすることで 増収増益 を維持していく。

 ソフトバンクは売上高を同+5.7%の5兆5000円、営業利益は+0.4%の9750億円を見込んでいる。営業利益がほぼ横ばいとなる理由は、料金引き下げの影響が本格化することで約700億円、そしてLINEとZホールディングスの経営統合に伴う無形資産の償却で約300億円の減益をそれぞれ見込んでいるためだ。営業利益のセグメント別では、「コンシューマ事業」で同-2.5%の6420億円を見込んでいるが、「法人事業」は同+18.8%増の1280億円と高い伸びを目指している。

 いずれにしても2021年度は「ahamo」「povo」「LINEMO」など低価格・大容量のオンライン専用プランの影響がフルに効いてくることで、各社700~1000億円の減収は避けられそうにない。これをネットワークや販売チャネルのコスト削減を図りながら、「法人事業」や金融など「新領域」を成長させることでカバーしていくこととなりそうだ。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/