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サービス停止が続く「フリーWi-Fi」の現状とこれから

 屋外でネットに無料接続できる「フリーWi-Fi」が大きな曲がり角を迎えている。今回は、「フリーWi-Fi」の現状について取り上げてみたい。

携帯回線のオフロード手段として注目されるも減少続く「フリーWi-Fi」のスポット数

 「フリーWi-Fi」は、店舗の集客効果や訪日外国人への対応から2010年以降普及してきたが、そもそもは東日本大震災を契機に、携帯回線がひっ迫し、そのデータオフロード先として通信各社が整備を進めてきた。

 2011年当時、NTTドコモは公衆無線サービス「MZONE」に使う無線基地局(スポット)を1年以内に6800局から約3万局に、NTT東日本は5万局に増強。また、KDDIは公衆無線インフラ会社のワイヤ・アンド・ワイヤレスへの出資を足掛かりに10万局、ソフトバンクも10万局に増やすとそれぞれ表明するなど野心的だった。

 通信各社は独自のアクセスポイント設置に加え、例えばNTT東日本がセブン&アイ・ホールディングスと提携するなど、集客効果を目的に大規模チェーンがWi-Fiを導入するケースも相次いだ。

 しかし、関係者によれば、フリーWi-Fiのスポット数は2020年の20万局から2021年には16万局弱へと減少しているという。その背景には、2019年末からのコロナで訪日外国人観光客の数が激減したことでフリーWi-Fiのトラフィックが急減したこと、そして、フリーWi-Fiに対する通信各社の投資スタンスが携帯回線のエリア整備向上により、2015年頃をピークに消極的な姿勢へ転じたことなどがある。

影響大きかった「7SPOT」のサービス停止

 コロナ禍で訪日外国人の減少が続く中、2021年11月には都営バスの車内で利用できた「Toei Bus Free Wi-Fi」が、2022年6月には東京メトロの「Metro_Free_Wi-Fi」がそれぞれサービスを終了した。いずれも利用者減少に伴い提供事業者との契約更新を行わなかった。なお、東京メトロの場合、駅やホームでのサービスは継続し、車内でも「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」など一部サービスは維持されている。

 こうした公共交通機関でのフリーWi-Fiは、昨年開催された東京オリンピック・パラリンピックの開催を受けた対応という側面もあったと考えられるが、よりサービス停止のインパクトが大きかったのが、2022年3月にセブンイレブンやイトーヨーカドー、デニーズなどセブン&アイ・ホールディングスの「7SPOT」が終了したことだろう。同サービスは、全国1万5000店舗以上で提供されてきた。

 「7SPOT」は、店舗への集客効果を目的に2011年12月にサービス提供を開始し、セブンスポット会員へ登録すれば、1回最大60分、1日3回まで利用できた。当初は、ニンテンドーDS・3DS向けにレアなキャラクターやアイテムなど限定コンテンツが配信されたり、人気アイドルの壁紙が入手できるなど注目を集めた。

 コンビニ最大手の撤退は影響が大きく、2022年7月にはファミリーマートが全国約1万6000店で提供していたフリーWi-Fiサービス「Famima_Wi-Fi」を終了すると発表している。同サービスは、会員登録後、1回につき20分まで3回(1日)利用できる。なお、サービス終了後も、店頭ではNTTドコモの「d Wi-Fi」は利用できる。

 コンビニでのフリーWi-Fi提供については、それだけの利用を目的に駐車場が混雑しているなどのデメリットを指摘する声も聞かれ、決してポジティブな面だけではなかったようだ。

フリーWi-Fiのサービス停止例
出典:各社報道発表資料よりMCA作成

コロナ禍の新たな需要と社会インフラとしての役割に期待

コロナ禍で訪日外国人など暫くは需要回復が見込めないものの、コワーキングやワーケーションなど、働き方の変化に合わせたフリーWi-Fiの需要が新たに生まれている。また、最近相次いでいる携帯会社の通信トラブル時のオフロード回線や防災・防犯上の観点から地方自治体が導入するケースも出てきている。

改めてコロナ禍における社会インフラとしてのフリーWi-Fiの果たす役割について、議論していく時期に来ているのではないだろうか。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/