ケータイ用語の基礎知識

第755回:VoLTE国際ローミング とは

 VoLTEは、「第558回:VoLTE とは」で解説した通り、LTE通信を使って音声通話を実現しています。LTEは、遅延も少なく短時間に大量のデータを送受信できます。その上で音声データをやりとりする場合も余裕があり、高音質の通話もできます。

 今のところ、日本国内でVoLTEでの通話を体験できるのは、同じキャリアを利用し、なおかつVoLTE対応機種を手にするユーザーだけです。国外に目を転じると、LTE自体は、国際ローミングサービスが提供されています。日本のユーザーが海外のローミング対象エリアに行くと、現地でもLTEを利用できるわけです。ただ、かつてはこのようなエリアでもVoLTEは利用できませんでした。

 “海外のLTEエリアからのVoLTE”を可能にするのが、VoLTE国際ローミングです。VoLTE国際ローミングを利用すれば、発信側・着信側、あるいは双方の端末が海外にいても、高音質でクリアな音声で通話できます。呼び出し音が鳴るまでの時間もこれまでの国内通話と同様、スピーディーになるため海外でもストレスなく使えます。

 日本では、NTTドコモが2015年10月からVoLTE国際ローミングサービスを開始しています。海外の携帯電話事業者のエリアからでのVoLTE発着信が可能になりました。2016年5月現在、韓国のKT社のLTEサービスエリアが対象となっています。KTのVoLTEユーザーも、日本国内で、VoLTE国際ローミングを利用できます。

S8HRでVoLTE国際ローミングに対応

 携帯通信事業者の業界団体「GSMA」で標準化されたVoLTE国際ローミングの方式としては「LBO(Local Break Out)」、「S8HR」があります。ドコモのVoLTE用のパケット国際ローミングでは、「S8HR」のほうです。この方式はドコモが提案に関わった技術でもあります。

 S8HR(S8 Home Routed)という名称は、LTEのコアネットワークの上のデータの通り道である「S8リンク」を使って「ホーム網への経路設定(Home Routed)」を行うことから由来しています。ちなみにコアネットワークは、端末からすると基地局から先のネットワークのことだと思えばいいでしょう。国際ローミング利用中に、ユーザーの手にする端末が今、存在するネットワーク(つまり海外のネットワーク)のことを「在圏網」と呼びます。またユーザーがもともと契約している事業者のネットワークは「ホーム網」と呼ばれます。

 コアネットワーク内には、たとえば制御信号や実際の通話データといったデータが流れるルートがあります。そうしたルートで、主要なものには、「S1リンク」「S2リンク」といった名前が付いていています。たとえば、基地局からコアネットワーク内にある装置の「S-GW(サービングゲートウェイ)」「MME(モビリティマネジメントエンティティ)」をつなぐ流路には「S1リンク」という名前がついています。また、S-GWとP-GW間は「S5リンク」「S8リンク」があります。S5はGTPつまりGPRSパケットトンネリング、S8はPMIPv6(プロキシ モバイル IPv6)の流路です。

 LTEのネットワークでは、音声のデータは[基地局]-[S-GW]-[P-GW]-[IMS/PCRF]という装置を経由していきます、「S8HR」ではこの[S-GW]までを在圏網(海外のネットワーク)に任せ、[P-GW]以降はホーム網に繋いで処理します。ホーム側の設備を利用することで、在圏網側の負担は比較的小さくて済むと言えます。仕組みとしても、データ通信のほうのLTEローミングと似通っており、データローミング対応の設備があれば、VoLTEのローミングにも対応しやすいのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)