ケータイ用語の基礎知識

第754回:QCI とは

LTEネットワーク内でのパケット制御に

 QCIは、QoS(Quality of Service)クラス識別子を意味する“QoS Class Identifier”から来ています。QoSとはサービス品質のことです。ネットワーク用語として、データの通信速度や応答速度がどの程度保証されるか、といったあたりに関わると思っていいでしょう。

 LTEを使ったネットワークのうち、ユーザーの送受信するデータが流れる流路は「ユーザープレイン」と呼ばれます。

LTEネットワークでのユーザーの送受信するデータの流路とPCRF。ユーザーデータは[端末]-[基地局(eNB)]-[S-GW]-[P-GW]-[IMS]と流れ、P-GWに接続した「ネットワークポリシーおよび課金ルールをつかさどる装置」であるPCRFからの指令でQoS制御を行う

 データが流れるルートの途中であるP-GWには「PCRF」という装置が接続されています。
 PCRFという名前は「ネットワークポリシーおよび課金ルール機能」を意味する“Policy and Charging Rules Function”から来ており、その名の通り、ネットワークポリシーや課金に関する装置です。この装置からの命令によってP-GW、S-GW、そしてその先の基地局はVoLTEの音声データや、LTE通信で送受信されるユーザーパケットデータに対して、パケット単位での制御を行っています。

 このとき「どのデータがどの程度の優先順位を持っているのか」を示す識別子がQCIです。

 QCIは、LTEの仕様をまとめている3GPPの文書「3GPP TS 23.203」で規定されています。そこでは「優先度」「帯域が保証される/されない」「遅延をどの程度許すか」「許されるデータ損失率」が設定されています。

QCI帯域保証優先順位想定遅延時間主な用途
1する2100ms音声通話(VoLTE)
2する4150ms音声通話(VoLTE)
3する350msリアルタイムゲームなど
4する5300msバッファ付きストリーミングビデオなど
65する0.775msMCPTT(ミッションクリティカルプッシュトゥートーク)など
66する2100ms通常のプッシュトゥートークなど
5しない1100msIMSシグナリング(VoLTEでの発呼など)
6しない6300msTCPペースの通信(メール、チャット、Web閲覧など)
7しない7100ms音声、ライブストリーミングビデオ、ゲームなど
8しない8300msTCPペースの通信(メール、チャット、Web閲覧など)
9しない9300msTCPペースの通信(メール、チャット、Web閲覧など)
※通常のデータ通信の優先度
69しない0.560msMCPTTの発呼など
70しない0.5200msミッションクリティカルデータ(用途は6,8,9と同様)

、LTEネットワークを使って、VoLTEでの通話を行う端末があるとしましょう。VoLTEサービスでの発呼はIMSシグナリングが利用されます。VoLTEのシグナリングに使われるパケットのQCIは「6」ですから、PCRFは、このパケットのQCIは「6」であることをデータ流路にあたる装置たちに伝えます。基地局は、「QCI=6」のルールに応じて、端末に対して帯域保証はしないものの遅延が少なくなるように優先的にこの通信を行います。P-GW、S-GWも同様のQoSコントロールをします。

 そして、シグナリングが終わり、VoLTEで通話が始まると、シグナリングとは異なり、通話中にプツプツを切れることがないように「帯域保証あり」かつ遅延時間の少ない100ms、または150msの「QCI=1」あるいは「QCI=2」での通信を行うのです。

 なお、どの通信のパケットにどのQCIを割り当てているかは通信事業者によります。
 表中に「主な用途」として記載している通り、VoLTEでの通話にはQCI=1、データ通信にはQCI=9というような割当てが典型的とされますが、各キャリアの裁量の部分です。PCRFには料金ルールも設定できますから、たとえば、同じVoLTEでも安い料金のプランでは遅延時間が大きく、高いプランでは遅延時間が小さいQCIを割り当てる、というようなこともできないことではないでしょう。

LTEネットワーク内では、VoLTEデータの優先順位は高い

 同じLTEを使った通話として、VoLTEのほかにも、OTT業者によるIP通話サービスなどがあります。たとえば、LINEやSkypeによる音声通話がそれにあたります。

 ところが、VoLTE品質の通話に比べると、そうしたIP通話サービスは品質に違いがあることがわかります。これは、その通話に使っている通信のビットレートが最も大きな要素ですが、それ以外にも、VoLTEの方はプツプツと途切れないのにIP通話サービスでは途切れ途切れになる、といったことがあります。これは、VoLTEとIP通話サービスでの通信のQCIの違い、QoSの違いが影響しています。

 VoLTEの音声通話のデータはLTE上をパケットデータとして流れていますが、「QCI=1」や「QCI=2」と優先順が高く、帯域保証のあるデータとして流れています。一方、LINEやSkypeなどのIP通話サービスは、帯域保証がなく、優先順位も低い、通常のパケットデータ通信の優先順位での通信を利用しています。

 つまり、もし同じタイミングで、VoLTEとIP電話のどちらかのデータしか流せない状況になるとVoLTEのほうが優先されます。その後、IP通話サービスのデータも通すわけですが、IP通話サービスの音声パケットは結果として相手に届く時間が遅延します。つまり、これを声に変換して相手に送ったときに遅れて聞こえるというようなことになります。結果としてVoLTEの方がスムースに会話でき、IP通話の方の音声は劣化するということが起きることになるわけです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)