ケータイ用語の基礎知識
第699回:eMMC とは
(2015/3/11 12:19)
eMMCとは、組み込み用マルチメディアカードを意味する「embedded Multi Media Card」の略です。その名の通り、機器に組み込むために作られたストレージデバイスです。マルチメディアカードといえば、かつて、SDカードなどと同様に外付けの補助記憶媒体として「MMC」というカードが存在しましたが、「eMMC」は、MMCのインターフェイス規格を流用して作られました。
eMMCは、かつてのMMCと形状が大きく異なります。BGAと呼ばれる、平面の樹脂に小さいボール状の電極が100個や169個などとたくさん並んでいるパッケージになっています。取り外しが自由だったMMCと異なり、eMMCは一度、実装すると取り外しなどはほぼ不可能です。
低消費電力で小型であること、JEDEC(半導体技術協会)で規格が標準化されていること、SDカードが使える機器ならソフトウェアを少し変更する程度で対応できることなどからから2007年の規格化以降、人気が出始め、2015年現在ではスマートフォン、デジタルカメラ、音楽プレーヤー、デジタルテレビ、セットトップボックスなど非常に多くの製品に組み込まれているストレージです。Windows搭載のパソコンでも、Windows 8より、eMMCが起動デバイスとしてサポートされるようになったため、タブレットパソコンを中心にメインストレージとしてeMMCを使う機種が多く販売されるようになりました。
NANDフラッシュメモリとコントローラをセットに
eMMCは、パソコンなどで使われる半導体ストレージデバイス「SSD(Solid State Drive)」と同様に、NAND型のフラッシュメモリを搭載したデバイスです。その特徴として、サイズが非常にコンパクトであることと消費電力が低いことが挙げられます。
フラッシュメモリとは、不揮発性記憶素子、つまり一度電気を流してデータを書き込むと、意図的に消してしまわない限り、電気を流さなくても数年間はデータが消えないタイプのメモリです。
NAND型より先にNOR型というフラッシュメモリもあったのですが、NAND型の方が耐久性信頼性に劣るものの構造上安価に大容量化できるという特徴があるため、eMMCではこのNAND型が採用されています。NANDフラッシュメモリの読み書きを一から開発するのは手間がかかり、大変なのですが、eMMCでは、メモリを読み書きするための部品(コントローラ)がひとまとめになっています。こうした点もeMMCがよく使われるようになったことの理由の1つでしょう。
MMCと同じインターフェイスを用いるeMMCでは、機器を起動させるためのブートモードなどが新たに加わっているといった違いはあるものの、基本的にはほぼ同じような命令系が備わっています。
なお、eMMCのデータ転送速度は、かつては20MB/秒でしたが、200MB/秒のHS200モードなども用意されています。たとえばスマートフォンなどで用いられるチップセット「Snapdragon 801AC/805」で実装されている最新のeMMC 5.0規格では400MB/秒のHS400モードなどにも対応しています。
インターフェイスの仕様上、データ転送はSSDよりも遅いですが、ディスクを物理的に回転させて記憶させるハードディスクなどに比べると待ち時間もなくコンスタントに高速な読み書きができるストレージです。
ただ、eMMCは容量により形状が異なっているため、基板を一度設計すると、容易に容量を増やすことができません。eMMC搭載機種ではフラッシュメモリ容量のバリエーションが少ないのはそのためです。