ケータイ用語の基礎知識

第655回:HD Voice とは

 HD Voiceとは、次世代の通話品質のことで、その名前の通り、端末や回線がHD Voiceに対応することで、従来の携帯電話や固定電話よりも高品質で、さらに自然な音声通話が可能になります。“高精細な音声”を意味する英語「High Difinition Voice」の略です。

高精細での通話を可能に

 従来の携帯電話、スマートフォンでは、通話の際、伝える対象の音を200Hz~3300Hzまでの幅しか対象にしていません。HD Voiceは、別名「ワイドバンド・オーディオ」とも呼ばれており、50Hz~7000Hzまでカバーしています。これまでよりもずっと低い音、あるいは高い音まで対象としているわけです。

 人間の声は、一般に最も低い音で100Hz程度、最も高い音で14000Hz程度まで出ているるとされています。50~7000HzというHD Voiceの品質は、人同士の通話であれば十分、音質を保ったまま通話できる範囲まで広がったと言えるでしょう。ちなみに、より低音域をカバーしたことで、通話音質がこれまでよりもよりナチュラルな音になりますし、高音域をカバーしたことで会話内容をより理解しやすくなる効果があると期待されています。

 サンプリングレートも従来の電話では8000Hzでしたが、HD Voiceでは、その倍の16000Hzとなります。つまり、1秒あたりに音を拾う回数が倍に増えています。より自然な音を電話で伝えることができるようになるのです。

 将来的に、携帯電話の回線、および端末がHDVoiceに対応すれば、通話はこれまでよりぐっと聞き取りやすくなることでしょう。

VoLTE対応にあわせて導入か

 海外での実績を見ると、音声通話がVoLTEが導入される際、あわせてHD Voiceも利用できるようにするケースが多いようです。

 VoLTEとは、この連載の第558回「VoLTEとは」で解説したように、LTE上での音声通話を実現する技術のことです。LTEでは、これまでの携帯電話の通話機能で利用している回線交換網がなく、全ての通信をパケット網を使って処理しています。そのため、LTE対応も携帯電話、スマートフォンで音声通話をする場合は、自動的に3Gネットワークに切り替えて、従来の回線交換網を経由しています。この技術は、「CSフォールバック(Circuit Switched Fall Back、回線交換フォールバック)」と呼ばれていますが、その発展系として、音声通話をLTE網のパケット通信で実現するのがVoLTEというわけです。

 HD Voiceでの通話には、端末と回線、両方での対応が必要です。端末側としてはアップルのiPhone 5/5s/5c、サムスンのGALAXY S4/SIIIなどは、すでにHD Voiceへ対応しています。

 国内ではまだ提供されていませんが、携帯電話事業者の国際団体であるGSMアソシエーションによれば、2014年1月時点で、すでに世界66カ国において、HD Voiceに対応している事業者が存在するそうです。

 先に述べたように、多くの事業者の場合、VoLTEが使用可能になった際に対応するケースが多いのですが、中には2G/3Gの回線交換方式でHD Voiceに対応した事業者もあります。

 もちろんVoLTEになっても、これまでの通話品質と同等の品質にしておくこともできるのですが、他社との競争を考えて、海外の多くの事業者はHD Voice対応になっているようです。

 現在は、HD Voice対応キャリアの回線同士でのみ、HD Voiceによるの通話はできませんが、いずれは、固定電話などともHD Voice品質での通話ができる時代がくるとの期待もあります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)