第516回:FlashLinq とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「FlashLinq」は、米国の通信技術企業であるクアルコムにより開発された、P2P技術活用の近距離無線通信技術です。

 P2P通信の“P2P”とは、「同僚(対等の者)から同僚へ」を意味する英文Peer to Peerを略したもので、その名前のとおり、中継サーバーなどを介さず、端末同士が自分の通信範囲内にある対応機器を見つけ、データをやり取りする通信方式のことです。

 携帯電話の通話やデータ通信は、遠く離れた者同士のやり取りを可能にする一方、実際にはそれほど遠くない場所から通信していることもよくあります。たとえば、ビルの上下階や、自宅から数十m程度の家族間の会話などです。こういった場合、わざわざ遠く離れた基地局にアクセスして、交換機やパケット網を通すより、端末間で直接通信できれば、リソースの節約になります。携帯電話事業者とからすると、ごく近距離の通信であれば、通常の携帯電話向けのインフラから、端末間通信を活用することで、通信回線の渋滞を避けることができる、ということになります。

 また、通信インフラが止まってしまっても、端末同士で通信ができることはP2P通信のメリットの1つです。普段、インフラが止まるということは考えにくいことです。しかし、先の東日本大震災のような非常時では、輻輳を避けるために通信規制が実施され電話が通じにくくなったりしますし、基地局などの施設・設備が被災して使えなくなることがあり得ます。また人為的な物としては、エジプトで大規模なデモが発生した際には、当局によって、携帯電話網が遮断され、使えなくなりました。しかしFlashLinqのようなP2P通信を利用すれば、このような状況でも、端末同士で通信できます。

 ただし、「FlashLinq」は、現在開発中の技術です。これまでに、スペインのバルセロナで開催された展示会「Mobile World Congress」で端末を使ったデモが披露されました。実際の市街地では、今後韓国内で、クアルコムと地元の携帯電話事業者であるSK Telecomによって、この仕組みを利用した実証実験を行うと発表されています。

 「FlashLinq」の用途としては、デジタルサイネージなどのM2M(Machine to Machine)通信なども想定されています。

通信範囲は最大1km

 「FlashLinq」は、通信方式として同期(synchronous)TDD OFDMA方式を利用しており、その通信距離は最大で1kmです。この通信範囲内に通信可能なデバイスがあれば、直接通信を行います。1kmの範囲内では最大数千台のデバイスを同時に認識でき、それぞれ機器同士が通信できます。

 端末間での通信にかかる遅延時間は数十msとされ、近くにいる人とは、ほぼリアルタイムでコミュニケーションできる、とされています。

 P2P通信を行うFlashLinqですが、他にもP2P通信を利用する通信としては、先日ご紹介したWi-Fiアライアンス提唱の「Wi-Fi Direct」などが発表されています。

 Wi-Fi DirectとFlashLinqとの違いは、FlashLinqが電波を管理している当局への申請、登録、届出が必要なライセンス周波数帯を利用している点です。一方、Wi-Fi Directは、Wi-Fiで使われている2.4GHzで申請届出が不要な周波数帯を利用しています。

 Wi-Fiが利用している周波数帯は手軽でよいのですが、手軽な分、Wi-Fi以外の機器にもよく使われる周波数帯であり、衝突や干渉が起こる可能性も踏まえて利用しなければなりません。

 その点、当局へ届けて申請、免許などが必要とはなって手間はかかりますが、FlashLinqでは、違法無線局がない限り、電波干渉の可能性が格段に低いですから、安定した無線通信が可能となるわけです。

 



(大和 哲)

2011/5/24 11:53