第495回:Gingerbread とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「Gingerbread」とは、スマートフォンやモバイルデバイス向けのソフトウェアプラットフォーム「Android」の新バージョンである、「Android 2.3」のコードネームです。

Gingerbread(Android 2.3)の画面。アイコンやメニューのデザイン変更、カラー化されよりビビッドなデザインとなった

 Androidは、米Googleが中心となって提供している、Linuxベースのオープンソースソフトウェアプラットフォームです。日本でも、Androidが搭載されたスマートフォンやタブレットなどが多く発売されています。

 Androidは、開発時にコードネームが付けられています。1.5はCupcake(カップケーキ)、1.6はDonut(ドーナツ)、2.0と 2.1はEclair(エクレア)、2.2はFroyo(フローズンヨーグルト)と、スイーツに由来するネーミングで、その頭文字はC、D、E……とアルファベット順になっています。12月6日(米国時間)に発表された、Android 2.3のコードネームは、クリスマスのお菓子として有名なジンジャーブレッドに由来し、「G」で始まる「Gingerbread」というコードネームが付けられているのです。

 Gingerbread(Android2.3)搭載デバイスとしては、まず、Googleの自社ブランドスマートフォン「Nexus S」が米国で2010年12月16日に、英国で20日以降に発売される予定になっています。

 いずれ、日本国内でもこのバージョンが搭載されたスマートフォンやモバイルデバイス、タブレットなどが発売されることになるでしょう。

ゲーム・マルチメディア機能の強化

 大きく分けて、Gingerbreadでの強化点は、性能・機能の強化とユーザーが利用するインターフェイスなどの変更との2つに分けられます。

 性能面の強化ということで最もインパクトのある変更はDalvikVMに「コンカレントGC」を採用したことでしょう。DalvikVMは、Android上でアプリケーションを動かすための環境ですが、これまでのバージョンでは、ある程度アプリケーションの使用や停止を繰り返した後で、VMの仕組み自体が一度全て止まってガベージコレクション、つまりメモリの整理を行っていました。

 VM自体が完全に止まってしまうということは、長ければ1~2秒ほど、アプリケーションなどは全く動かなくなってしまっていたわけで、ユーザーの体感的には非常にデバイスの動作が重くなったように感じられる原因となっていたのです。

 今回採用されたコンカレントGCとは、“同時の”という意味の英単語であるコンカレント(concurrent)が示す通り、平行動作が可能なガベージコレクションのことです。他のアプリケーションを動かしながらメモリの整理をします。メモリの内容の移動などを行うため、その間、若干の速度低下や利用CPU利用率の上昇が起きますが、これまでのように極端に反応が遅くなることはなくなります。

 この仕組みは、Android 2.2(Froyo)で採用されたジャストインタイムコンパイラ(JIT、アプリを実行時に一括してネイティブなプログラムに変換し、実行を高速化する仕組み)の採用と並んで、Android搭載端末の性能向上に貢献することでしょう。ちなみにGingerbreadでは、JITもさらに最適化が加えられています。

 性能面という意味では、加速度センサーなどの入力イベント、オーディオ、OpenGL ES、アセットへのダイレクトアクセスといったネイティブ処理、イベントをより高速に実行するようになる、といった改良も加えられています。

 機能面では、NFCへの対応、SIPの標準サポート、VP8・WebMコーデック、AACエンコーディング・AMRワイドバンドエンコーディング対応、マルチカメラアクセス対応などの機能が強化されています。

 NFCとは、近距離通信を意味する「Near Field Communication」の略で、非接触型識別技術と相互接続技術を組み合わせた無線通信規格のひとつです。ソニーとフィリップスが開発した短距離無線通信技術を基にしており、日本で非常にポピュラーな非接触ICカード「FeliCa」の上位規格となります。データを相手の機器へ与えるだけではなく、読み取ることも可能で、これによってNFCチップとアプリケーションがスマートフォンに搭載されれば、バリュー(電子マネーなど)やポイントなどのデータを貯めておくカードとして使えるほか、携帯電話と携帯電話でお互いを認識しあったり、携帯電話と他の家電を連携させたりすることもできるようになります。

 「VP8」は、Googleに買収されたOn2テクノロジー社が開発したビデオコーデックで、「WebM」はGoogleが開発したメディアコンテナ(ビデオデータなどを格納するフォーマット)です。WebMはロイヤリティーフリーなオープンな規格としてGoogleから提供されており、YouTubeの動画はいずれWebMに変換される、と発表されています。

 マルチカメラアクセス対応は、一度に複数のカメラへアクセスできる機能です。ソフトが対応すればビデオチャット中にアウトカメラで風景を、インカメラで自分の様子を同時に送信できるようになります。

よりビビッド・直観的なUIに

Gingerbreadの「アプリの管理」画面。現在、実行中アプリがどの程度メモリ、ストレージを使用しているのかひと目で把握できるようになった。

 Gingerbreadでは、ユーザーにとって操作感に大きく影響するユーザーインターフェイス面も改良されています。ぱっと見ただけでも変更されたことがわかります。ホーム画面で表示されるアイコンが変更され、画面のテーマカラーを設定することができ、ステータスバーやメニューなどのパーツが、カラフルにできるようになりました。

 また、いくつかの機能で加えられた改良として、たとえば「ワンタッチ 単語選択」という機能が搭載され、画面中の文字のコピー・貼り付けをより簡単に実行可能になりました。

 この機能は、画面中の文字をタッチパネルで押したままにするとクリップボードに単語がコピーできるという機能です。単語を押すとフリー選択モードとなり、ドラッグ操作でコピーする範囲を変更することもワンタッチで可能です。

 いくつかのメニューも改良されています。たとえば、「アプリの管理」コントロールへのショートカットが、ホームスクリーン&ランチャーのオプションメニューに追加され、アプリケーションの活動をチェックしたり、あるいは管理したりすることがより簡単になりました。アプリケーション管理では、現在動いているアプリケーションの一覧が表示され、アプリケーションがどれだけメモリとストレージを使用しているかがひとめでわかるようになっています。

 

(大和 哲)

2010/12/7 11:56