第491回:AMOLED とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「AMOLED」とは、アクティブマトリクス式有機EL(Active Matrics Organic Light Emitting Diode)の略称で、その名の通り、有機ELを利用したディスプレイ装置の一種です。AM-OLEDと表記されることもあります。

 携帯電話のディスプレイでは、ソフトバンク向けの台湾HTC製スマートフォン「X06HT(HTC Desire)」や、ドコモ向けのサムスン製スマートフォン「GALAXY S」がAMOLEDの派生であるSuper AMOLEDを採用しています。なお、「X06HT」はその後、液晶ディスプレイを搭載した「X06HTII」へモデルチェンジしています。

有機ELディスプレイにアクティブマトリックスを採用

 「AMOLED」ディスプレイを液晶ディスプレイと比較した場合、そのメリットは、自ら発光し高コントラストで表示できるデバイスであること、また原理上、薄く省電力なデバイスを作ることが可能であることが挙げられます。

 AMOLEDに使われている有機ELは、有機化合物半導体に電荷を加えると発光する原理を利用したデバイスです。つまり、デバイス自らが光を放ちます。一方、液晶ディスプレイは、光をシャッターのように遮ることで画像を作るデバイスで、原理上大きく異なります。

 つまり、光を遮って画像を形成する液晶ディスプレイでは、液晶部分だけではなく、透過型液晶の場合は光を発するバックライトやサイドライト、反射型液晶であれば光を跳ね返す反射板を用意する必要があります。一方、有機ELディスプレイではそうした装置が必要ないため、より小型化するには有利なのです。

 また液晶の場合、見る角度によっては、意図せず光が遮られてしまうケースが存在します。これは一般的に、視点がディスプレイと水平になるにつれて、像が見えづらくなる「視野角の狭さ」となって現れます。一方、有機ELディスプレイは、自発光デバイスであるため、この問題が少なく、液晶よりも視野角の広いディスプレイを作りやすいデバイスであると言えます。

 今回紹介する「AMOLED」とは、有機ELディスプレイの中でも、ピクセルを形成する方式として、アクティブ駆動マトリックスを採用したものです。

 アクティブマトリックス方式とは、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの駆動方式の1つです。ディスプレイ上の各画素にアクティブ素子(スイッチング素子)を配置することで、選択した画素ごとに信号のオン、オフ制御を可能にする方式のことです。スイッチング素子としては、TFT液晶と同様、活性層に低温ポリシリコン(LTPS)やアモルファスシリコン(a-Si)を利用した薄膜トランジスタ(TFT)が使用されています。

GALAXY SはSuper AMOLEDというディスプレイを搭載する

 液晶ディスプレイで、パッシブマトリクス型のTN、STN液晶などとアクティブマトリクス型のTFT液晶があるように、有機ELにもアクティブマトリクス型が存在するわけで、TFTによってアクティブ素子を作るという点も似ています。ただし、液晶では電圧によって光を遮断する度合いが変わるのに対し、有機ELでの輝度は電流に比例するため、抵抗が少なく十分な電流を流せる回路を画素に対して構築しなければならないなど、製造上必要な技術が異なる点も存在しています。

 AMOLEDは、有機ELディスプレイの一種ですので、先に挙げたような有機ELディスプレイの特長を全て持っていて、それに加えて、アクティブマトリックス方式を採用したことによる特長も併せ持っています。アクティブマトリックス方式のメリットは、画像の精細さと、反応速度です。

 アクティブマトリックス方式の対語は、パッシブマトリックス、または単純マトリックス方式と言いますが、パッシブマトリックスこの方式では、縦/横の方向に張った導線の交差する部分の電圧差によって画素を光らせます。複数の画素を同じ導線で制御するため、隣の画素に電圧の影響を与えやすい構造になっています。一方、アクティブマトリクス方式では、画素ひとつひとつに、アクティブ素子としてトランジスタ回路が作られており、画像がにじむことがありません。

 またトランジスタの半導体スイッチ効果のため、単純マトリクスに比べて、画像のON/OFFの切り替えが非常にすばやくなります。つまり、動画やゲームなどを表示させても画像のブレが生じにくく、くっきりした動画像を再生できるわけです。

 ただ、AMOLEDは、有機ELディスプレイの弱点もそのまま併せ持っています。たとえば、自発光デバイスであるため、直射日光下では、見えにくくなる可能性があります。外部の光を利用して表示する反射液晶や、電気泳動方式を利用した電子ペーパーなどと比べると特に不利であるといえます。

 特にスマートフォンなどでは、ディスプレイ上に感圧センサーや、静電誘導センサーを画面上に配置する「タッチパネル」を利用することが多くなっています。こうした装置のため、さらに光を反射しやすくなったり映り込みが発生しやすくなったりする、というデメリットもあります。

 GALAXY Sで採用されている「Super AMOLED」は、色再現性の向上や、映り込みの問題に改良を加えたAMOLEDディスプレイです。タッチパネル層を薄くしたことで厚みを抑えるとともに、透過率や反射率を大きく改善し、太陽光の下などで画面が見にくくなるという現象を抑えています。

 



(大和 哲)

2010/11/2 12:55