第442回:木材圧縮成型加工 とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


軟質木材を加工、有効活用する技術

 木材にはさまざまな種類があり、またそれぞれに特徴があるため、それぞれ適する箇所で使われています。

 おおざっぱな分け方としては、木材はその素材の硬さによって、硬質木材、軟質木材という区別があります。

 硬質木材では、たとえばインドネシアやマレーシアなどで産出される「ウリン」が非常に硬質な木材とされ、別名「ボルネオ鉄木(ボルネオアイアンウッド)」とも呼ばれるほどです。水にも強く、腐りにくいという特徴があるため、現地では水上家屋の土台や、船着場のデッキなどにも使われています。最近は日本国内にも輸入され、ウッドデッキなどに使用されているようです。

 昔から日本でよく利用されている杉やヒノキ(檜)といった木材は、住宅建築などの際に柱材や板材として利用されています。ただ、杉やヒノキなどの針葉樹材は、表面に傷がつきやすく、曲げる力やまっすぐ切ろうする力(剪断力)に対する強度が小さいため、耐久性が求められるフローリングや家具などに利用されることはあまりありませんでした。

 特に、国内の杉やヒノキを育てる際には、間引きによって若くして切られる間伐材が多く生産されます。間伐材は細く(径が小さい)、また年輪幅が広く柔らかいので、あまり使われていませんでしたが、最近では、柔らかい木材を密度を高くする「圧密化」を行うことで、表面を硬くして、摩耗にも強くし、変形しない材質にすることができるようになってきました。その結果、硬質木材の代わりとして使ったり、そもそも木材が使われていなかった分野に進出する動きが出てきています。

NTTドコモの試作機「TOUCH WOOD」

 たとえばエレクトロニクス製品などには木材はほとんど使われてきませんでした。しかし、携帯電話では、2009年10月に開催されたIT・エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN 2009」で、NTTドコモがヒノキの間伐材を使った試作機「TOUCH WOOD」を出展しました。このほか、2006年9月にケルンで開催された展示会「Photokina 2006」では、やはりヒノキの外装を採用したコンパクトデジカメが試作品として参考展示されたこともあります。

 この2つは、どちらもオリンパスの木材の三次元圧縮加工技術を利用したヒノキの間伐材を利用しています。圧縮加工によって、柔らかいヒノキの間伐材を、ポリカーボネードやABS樹脂の約2倍という表面硬度をもった整形パーツに加工し、デジタルグッズの外装に利用しているのです。

木材の細胞の隙間を縮め、高密度化・硬質化する

 木材の圧縮成型技術とは、木材に熱や圧力をかけることで、密度を高め硬質化させることができる技術です。

 木の中身を顕微鏡などで拡大して見てみると、枝や葉に水分をいきわたらせたりするために、中空のセル構造体になっていることがわかります。圧縮成型では、細胞の隙間部分を小さく押し縮めることで、全体のサイズは小さくなるものの、密度を高めて木材を硬くできるのです。

 木は、特にその繊維とは垂直方向、つまり年輪と年輪の方向が縮まる方向には比較的簡単に圧縮させることができ、以前から利用されてきました。

圧縮成型技術の概念図。木材は顕微鏡などで拡大してみると、細胞壁と空孔からなるセル構造になっていることがわかる。木材圧縮成型は、木材の空孔を押し縮めて密度を高め、硬質化できる

 木材を圧縮加工する方法にはいくつかあり、たとえば、水蒸気や、ロールプレス機などを使って行う方法もあります。高度な方法としては、木材をマイクロ波照射で加熱してから、圧縮し、金属枠や金型で拘束した状態で高圧水蒸気により形状固定する、というような方法もあります。金型を使った方法は、材質をある程度形状を好きなように変えることができることが特徴です。

 今回、試作機ケータイ「TOUCH WOOD」で利用された、オリンパスの木材三次元圧縮加工技術は、金型を使って目的の形に加工できる圧縮技術です。

 展示会などで明らかにされた資料によれば、この方法では、木材を立体的に削って「ブランク材」としてから、成型金型にはさみ、高圧高温の水蒸気で木材をやわらかくして三次元方向からの圧縮をかけます。そして、形が戻らないように圧縮状態のまま固定し、最後に熱を加えることで表面を硬くし、つやを出します。

 三次元方向から圧縮することで、加工前には比重0.4~0.5、つまり水の半分程度の重さだった木材(同じ量の場合)が、比重1.0を超える程度と、2.5倍の重さまで重くなります。これによって携帯電話の筐体に適用できるほどの薄さと、硬度を実現しています。

 金型には、デジタルカメラや顕微鏡、内視鏡のレンズに使われる非球面ガラスレンズの加工技術に利用している面精度の高い金型技術を利用し、圧縮成形後に研磨しなくても自然な光沢を出す素材を作り出すことを可能にしたということです。

 このような技術を利用することで、これまで金属やプラスチックで作られてきた携帯電話やデジタルカメラ、パソコンなどの製品でも木材が利用されることになるかもしれません。柔らかい間伐材の用途を広げるという意味でも、注目の技術と言えるでしょう。

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(大和 哲)

2009/10/27 12:13