ケータイ用語の基礎知識

第979回:アプリの追跡を拒否できる、ATTとは

アプリにユーザーの行動を追跡させる? させない? それがATT。

 ATTは、英語で「アプリケーションのトラッキングの透明性」を意味する“App Tracking Transparency”の略から来ています。その名前の通り、アプリ(App)が、他社のアプリやWebサイトを横断してユーザーの行動(アクティビティ)を追跡をすることを制限する、アップルによるプライバシー保護のルールです。

 アップルは、アプリの開発者自身が所有していないアプリやWebサイトで、ターゲティング広告や広告目的のためにユーザー行動の追跡や、データブローカーと個人情報を共有する目的での追跡するを行う前に、必ず許可を求めることを「要求」し、開発者にはユーザーの選択を遵守することを補償する責任がある、としました。

 なお、アップルのアプリケーション開発ガイドラインでは、アプリが掲示した以外の方法でユーザー行動追跡を行っているのを発見した場合「App Store」からアプリを取り下げることもあるとしています。非常に厳しいルールであると言えるでしょう。

 アップルが2021年4月にリリースしたスマートフォン「iPhone」シリーズの「iOS 14.5」、とタブレット「iPad」シリーズの「iPad OS 14.5」、および、セットトップボックス「Apple TV」シリーズより「tvOS 14.5」より有効になりました。

実際のユーザーインターフェイス例

 Webの閲覧に関しては、CookieやURL内への情報の埋め込みというような情報・技術を使って、(設定で許可していれば)ある程度ユーザーの閲覧傾向をある程度追跡できます。

 Web閲覧をしているときに閲覧している人によって異なる、ユーザー属性ターゲット広告の内容などはこのような情報をもとに選択されます。これをプライバシーの侵害と感じてか、アップルでは対抗してSafariにITP(Intelligent Tracking Prevention、インテリジェント追跡防止)を搭載するなどの手段で無断でのユーザー追跡を防ぐ手段を技術的に講じてきました。

 アプリ中ではIDFA(Identifier for Advertisers、広告用識別子)という、Webでのcookieに似た役割を果たせる端末識別子を利用すれば同様に、ユーザーの行動をある程度把握することができます。

 そこでアップルは、ATTはアプリケーションがこのIDFAを利用したユーザー追跡を行うには明示的にユーザーにその旨を表示し許可を得るということを、アプリケーション開発者に義務づけたのです。

 ATTの具体的なUIですが、下図のように「“アプリ名”が他社のAppやWebサイトを横断してあなたのアクティビティの追跡することを許可しますか?」とたずねるダイアログが表示され、「ユーザーにトラッキングしないように要求」(不許可のこと)、「許可」の入力を促します。なお、定形句に続く説明は、各社がカスタマイズしてよいことになっているので、各社各アプリによって内容が異ります。

 この追跡の許可・不許可は、Webの場合のブラウザーの設定一括とは異なり、一つひとつのアプリごとに求められます。

 なお、一度許可・不許可にした場合でも、「設定」アプリの「トラッキング」画面内からこの設定は修正可能です。また、この画面の一番上にある「Appからのトラッキング要求を許可」スイッチをOFFにすることで、これまで許可したアプリも含めて全ての追跡を不許可に直すこともできます。

 また、このダイアログはIFDAを使用するアプリでのみ表示されるものですので、アプリによっては表示されないものもあり、アップル標準アプリなどでは表示されません。

広告頼みのサービスには致命的

 ATTのようなオプトイン型の規制では、ユーザーが自ら「許可」を選ぶことは多くないことが予想されます。

 アップルは公式の説明でも「ユーザーの行動が追跡されることを許可すると、AppはAppを通じて収集したあなた個人やあなた個人のデバイスに関する情報(たとえばユーザーID、デバイスID、あなたのデバイスの現在の広告識別子、あなたの名前、メールアドレス、またはあなたが提供したその他の識別データ)を第三者が収集したあなた個人やあなたのデバイスに関する情報、または第三者のApp,Webサイト、プロパティなどで収集された情報と組み合わせることができるようになります。組み合わせされた情報はターゲティング広告、または広告測定の目的で使用できるようになります。また、Appデベロッパーはデータブロガーと情報を共有することを選択する場合があり、その結果、あなた個人やあなたのデバイスに関する一般に公開されている情報およびその他の情報が関連付けられる可能性があります。」

 と、事実ではありますが半ばユーザーを脅かすようなことを書いており、その傾向はなおさら増すでしょう。そのため、広告による効果の低下や、最適化が不可能になるのではないかという懸念するiOSアプリのデベロッパーなどもあります。

 具体的にはFacebookのように「Facebookのサービスを今後も無料で提供する」ためにほかのアプリやWebサイトから受信したアクティビティ情報を利用させてほしい、とユーザーに画面で訴えるサイトもでてきています。

無料でサービスを受けるために、ユーザーにトラッキングを許可するよう訴えるFacebookのページ。

 広告収入に頼っているアプリケーションやWebサービスからすれば、これら広告の最適な表示、効果分析などはその命綱とも言えるからです。

 これに対しアップルは「SKAdNetwork」という、アップルが提供する、IFDAを使用せずにどのアプリからどれだけインストールが発生したのかを計測可能にしたツールの提供などで応えるとしています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)