ケータイ用語の基礎知識

第954回:VMNOとは

MVNOより、高付加価値サービスなど多様で高度なサービス提供を目指す「VMNO」

 VMNOとは、携帯電話事業者の5GのコアネットワークAPIやコアネットワークそのものの開放によって実現する、新しい形態の「仮想・移動通信事業者」コンセプトです。英語にするとVirtual MNO(MNOは移動体通信事業者Mobile Network Operator)の略ということになります。

 仮想通信事業者ということでは、現在も「MVNO」という事業者が存在します。MVNOは主に「低価格サービス(格安スマホ・格安SIM)」といった形でユーザーに価値を提供してきました。

 VMNOは、これに加えてeSIMやIoT、高付加価値ソリューションなど多様で高度なサービスを提供しMNOと競争することを目指すものです。つまり携帯電話事業者の設備、具体的には基地局などを借りて事業を行うことを前提としながら、仮想的にこれまでMNOにしかできなかった高付加価値サービスを行う事業者になることを目指そうというわけです。

 このVMNOに関しては、2017年に欧州のシンクタンク、CEREE(Centre on Reguration in Europe)が“Towards the successful deployment of 5G in Europe:(欧州での5G展開の成功に向けて)”というレポートの中で言及しています。

 レポートでは、5G MNOのコアネットワークAPIをオープン、共通化させることは、特定の産業分野や経済分野に特化したサービスを提供する多数の「VMNO」の市場参入を可能し、非常に大きな市場の拡大を生むだろう、としています。

 日本では、2019年の、総務省の研究会において、TELESA(テレコムサービス協会)MVNO委員会が、さらにこのレポートの内容を参照・下敷きとし、「5G時代の仮想通信事業者のあり方」として「VMNO構想」を提案しています。

 このVMNO構想では、CEREEのVMNO同様APIを利用する「ライトVMNO」と、MNOや他の無線網を活用しつつ全てのレイヤーでMNOに依存しない独自の付加価値を可能とするタイプの仮想通信事業者「フルVMNO」に言及しています。

NFV(ネットワーク機能仮想化)・API標準化などで開かれる「仮想MNO」への道

 従来の携帯電話ネットワークは、そのほとんどが専用のハードウエアとして用意されていました。たとえば、無線網・コアネットワーク(内部には、無線NWコントローラー、メッセージルーター、WAN高速装置)といったようにです。そのため、これらは不可分性が高くMNOが一体的に運用し、MVNOには「接続点(POI)」から先の接続のみ提供されてきました。

 しかし、コアネットワークに関しては、現在徐々に、汎用機器をソフトウェアを通じて機能ごとに仮想化して専用機器と同様に運用可能としたうえで、プラットフォーム上で統一的に制御を行う、NFV(ネットワーク機能仮想化・Network Function Virtualization)に置き換えられつつあり、今後はこれが主流となっていくと考えられています。特に、次世代の5G SA(Stand Alone)構成のネットワークでは、コアネットワークから5G向けのそれへとリプレイスする必要があるため、その際には、NFVへの本格的な移行が進むと考えられています。

 ネットワーク機能が、仮想基盤上で展開されるようになれば、物理的な設備が必要な基地局などの無線設備と、そのほかのネットワーク部分は必ずしも一体で運用する必要はなくなってきます。また、5G、5G Evolutionでは、高速大容量通信のほか、低遅延、多数同時接続といった特徴を生かすため、用途によってネットワークを仮想的に分割する「ネットワークスライシング」の導入が進み、柔軟なQoS(サービス品質)の確保が可能となると考えられています。

 そうなれば、従来、接続点でしかつながることしかできなかった仮想通信業者が、キャリアの無線設備から先のコアネットワークをスライスして使わせることや、コアネットワークを直接接続することなども可能になり、MNOの制約をあまり受けることなく独自のサービスを提供できるようになるはずです。

ライトVMNOとフルVMNO

 日本ではTELESAのMVNO委員会が総務省に提言したVMNO構想ですが、VMNOとして「ライトVMNO」「フルVMNO」の2形態を提案しています。これはもともとのCEREEのコンセプトにはなかった話で、日本独自の構想です。

「ライトVMNO」とは、 MNOから提供される標準化されたAPIを通じ、MNOの仮想基盤に置かれるスライスを活用して利用者のニーズに応じた付加価値を備えた通信サービスを実現するVMNOのことです。事業者の提供するAPIを利用するという意味で、これはCEREEのレポートの「VMNO」に近いものだといえるでしょう。

 一方、「フルVMNO」は、コアネットワークを仮想基盤ごと有し、自らスライスを運用しMNOの無線網と接続するVMNOとしています。つまり、NFV上に、MNOが持っているのと同様に仮想基盤を展開し、コアネットワークを制御するわけです。

 これであれば非常に高い自由度が実現でき、MNOができたことはもちろん、MNOができなかったことさえできるようになるかもしれません。たとえば、仮想基盤の作り次第ではMNOの無線網やほかの無線網(例えばLPWAなど)も活用しつつ、携帯電話の物理層以外ではすべてのレイヤーでMNOに依存せず、独自の付加価値を可能とできるでしょう。

2019年10月21日 総務省 ~5G時代におけるネットワーク提供に係る課題についての検討~検討の方向性について 資料 21ページより ライトVMNO・フルVMNOについて のイメージ

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)